人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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「この方を追い回せば宜しいのですか?」

ニャル【そうそう。衰弱させるのもいいし、狂気をもたらすのもいい。命は奪わずに最初の一週間は毎日五度は追い回してくれ。精神的に参り始めたら、後は1、2回で構わんよ】

「了解しました。追い込みの狩りと言うことですね。社会に潜伏したグールを駆除するプランがそのまま使えるでしょう」

【そしてカルデアに向こうから保護を願ったら狩りは終わりだ。あ、お前が使う武器やお前である痕跡は全部隠してね】

「カルデアに来た際、ばれないようにですね」

【そういう事。あくまでアイツが狙われ、カルデアに保護を願う形に持っていく。まぁその過程で・・・】

(準備中)

【人殺しなんてお痛な悪癖をしなくなるくらいには調教しておくか。私や王様の許可なく殺されては困るんだよ、狡からい狼くん?】

・・・そして、夜──


夜闇より、理解及ばぬ狩人来る。

【やぁ、野をさ迷う狼くん。ようやく連絡が繋がった。元Aチーム、ベリル・ガット・・・個体名はそれで合っているかな?】

 

満月の夜。不気味なほどに月が綺麗に見える夜の日に。ベリルの端末に一つの報せが届いていた。その言葉、その伝達の主を特定できるものは何も無い。男性か女性か、或いはどうやってこの連絡先を突き止めたのか。Aチームの連中からは距離をおいて、自分のやりたいことを優先していたが故に音信不通を貫いていたと言うのに。

 

「個体名とは随分じゃないか?それに名乗る時はまず自分から・・・」

 

【急を要する事態でね。早く本題に入った方が君の為だ。Aチームの君に危機が迫っているとして、いてもたってもいられないと私に連絡してくれた者の厚意を無駄にはしたくない】

 

その言葉は尋常ではない事態が起きている事をベリルに告げていた。遊びの無い、何の飾りもない警告。流石のベリルも神妙に聞き直さざるを得なかった。

 

「・・・了解だ、親切なミスターX。それで、本題は何だい?いたいけで清く正しいオレの身に一体何が起ころうとしているのかな?」

 

【君はやりすぎた。やりすぎたのだ。君の事を排除せんと、遥か彼方から『狩人』が来る。その狩人は恐ろしく、君達の理解の外に在る。その狩人が、君に狙いを定めた。君の生命はもう長くは無いだろう。今のままではね】

 

「狩人・・・?」

 

代行者か何かのくずれが自分を狙っている、と言うことなのだろうか。それならばおかしい話だ。脚がつくようなヘマはやらかしていないし、そもそも鼻がつかないようにカルデア連中とは連絡を切っていた。一匹狼、は気取りすぎだが・・・気ままに振る舞う楽しいライフを送っていたのだ。そんなそれなりの苦労があっさり嗅ぎ分けられるなど・・・

 

「なんだってそん────」

 

・・・瞬間、突き抜けるような悪寒が走った。全身に鳥肌が立つ。尻に鋭利なツララを突き刺されたような衝撃が襲う。喉は一瞬で渇ききり、口は無様に開閉を繰り返す。それはベリルが、今まで味わった事の無いような恐怖。魂の根源から沸き上がるような本能的にして原初の感情だった。

 

【空を見よ、今宵は星辰の集う夜。終焉の時来る。戻り来た神々に、恐怖知る、時来る】

 

声──と呼ぶにもおぞましい音の反響を響かせながら、闇の中より【ソレ】は現れた。右手には、鎖で引き摺り回す形の形容し難き物体。左手には、血塗れに染まった逆さ十字架をあしらった刃物。そしてその所持者の実体は──

 

「・・・なぁ、それ今心当たりがあるんだけどな。それって、良くわからない武器を持って三つ目だったりしないか?」

 

【良く知っているな。──いや、まさか。『出逢った』のか】

 

「今目の前に──ッ!!」

 

言い切る前にベリルは駆け出していた。虚空より現れし【ソレ】をこれ以上直視してはいけない。【ソレ】に捕まってはいけない。それなりの修羅場を潜った経験と生まれながらに備わる動物的本能が、本能的危険を感じ一目散に駆け出していたのだ。

 

【希望消え、絶望が、支配する。戻り来た神々に、恐怖知る、時がくる。長の地位、神々に、明け渡す、時が来る】

 

「・・・歌・・・?」

 

その存在の言葉・・・らしき発音の音声は、そう聞き取れるような音階が存在しているように聞き受けられた。美声なのかだみ声なのか、男や女なのかも解らないがこれだけは、これだけは理解が叶う。此処までされて至らぬならば、此処まで生きては来られまい。

 

「アイツ、もしかしなくても人間じゃあないよな・・・!いや、もしかしたらこの世界のモンですらないはずだぜ・・・!」

 

【解らない。何もアレについては解らないのだ。ただ一つ解っているということは・・・『君を狩ろうとやって来ている』という事だ】

 

「おいおいおいおい・・・!冗談じゃねぇぞ、オレがいつ裏側や幻想種の怒りを買ったよ・・・!?殺す価値のあるやつか、つまらない奴か、殺したら泣かれる様な奴しか殺した覚えは無いんだがな!ッ!」

 

【星々は、天に満ち。終焉が今来る】

 

「うぉお・・・ッ!?」

 

離れていた。離れていた筈だというのに。【ソレ】が目の前の闇から現れる。何かを称えているのか、なにかに祈りを捧げているのか。ジャリジャリと鎖が音を鳴らし、ガリガリと形容し難い固形物が地面と擦れ火花が散る。無機質で希薄な存在感に反し・・・顔と思わしき場所に浮かぶ紅蓮の三つの光が刺すようにこちらを見据えている。

 

「・・・ッ・・・おいおい・・・オレが何か気に障る様な真似したかい?」

 

【狂気呼び、狂気満ちる恐怖が始まった】

 

「命を狙うにしても何でもさ、ほら、何かしらあるだろ?美学とか理由とか何でもいい。『解らない』ってのが一番厄介で面倒臭いんだ。だから殺すか殺される前に、せめて名前くらいは教えてくれても良くないか?」

 

【海から来る。地下から来る。空から来る。世に満ちる】

 

「・・・・・・・・・」

 

【空を見よ、今宵は星辰の集う夜。終焉の時が来る。戻り来た神々に、恐怖知る、時が来る】

 

絶えず紡がれる旋律。その意味はまるで理解は叶わないが・・・だが、理屈や理性ではなく、天啓、或いはアイディアと言っていい領域でベリルはその意味を理解した。その音の意味を理解した。

 

(コイツ、懸命に──神サマを称えてやがる・・・)

 

そう理解した瞬間、あらゆる説得も抵抗も意味を介さないと理解した。何かに殉じ、何かを信じている輩はこの世で最も意味不明な輩だからだ。それに気付いた事で、ベリルは自身の課された状況に納得がいったのだ。

 

自身が狙われる事に、追われる事に意味は無い。自身が殺される事に、狩られる事に意味は無い。

 

ただ、何の理由もなしに。或いは、生け贄か何かの概念か風習か何かで無作為に。自身がただ『選ばれた』というだけなのだ。クズで気紛れで、何処までも弱い自分という存在が。

 

「うぉおぉお、ッ!!」

 

瞬間、その狩人が振るった鉄の塊を寸での所で回避する。その軌道にあった全てが砕け散る。無理な体勢でかわした弊害、無様に転げ回るベリル。

 

「へへっ、へへへへ・・・これってアレだろ・・・絶対絶命ってヤツ・・・」

 

【空を見よ、今宵は星辰の集う夜。終焉の時、来る】

 

「ぬぐぁあぁあぁっ!?」

 

一息つく間も無く、刃を狩人は地面に突き刺した。無数の刃が闇より現れ、まるで死出の葬列のように此方を手招いている。

 

「ッ───」

 

それらを必死で避ける中、ふと、上に輝く月が目に入った。先程の、不気味な迄に白く輝く月の姿は何処にもない。紫と黒に染まりきる、不気味極まるおぞましい何かに変貌していた。

 

(参った・・・コイツは本当に参った!お手上げってヤツだ・・・!)

 

何一つとして、自身の知恵や経験が何かをなし得る状況に無い。目の前の全てが非日常にして不理解、理不尽、まさに混沌の極みと化している。人間相手ならば如何なる恐怖など味わう事などあり得ない。其処には、何かしらの意思や思惑があり、それは理解できるものだからだ。だが──

 

(チクショウ、神を讚美しながら命を狙いに来るゴーストやらスライムやらなんぞ理解できるか!ともかく──)

 

再び振り下ろされる鉄塊、突き刺さり迫り来る十字架刃。必死に逃げ惑いながら、ベリルは一つの事実を理解する。

 

──このままでは、自分は間違いなく死ぬ。最早連絡を切るなどとやっている場合ではない・・・!

 

「解った降参だ!俺は何をすればいい?どうすれば生き残れる!」

 

連絡してきた何者かにコンタクトを取り直す。その言葉を聞いた存在は確かに──

 

【簡単な事だ。これからそちらに遣いを送る。『それまで、なんとしても生き延びてくれ』】

 

「・・・は?」

 

──不明なる助け船を、ベリルへと発するのだった。

 

 




ベリル「おいおい冗談キツいぜ、今まさに殺されそうなんだぞ!?遣いってなんだ!?いつ来るんだ!?」

【何もかもが不明瞭な点が多すぎる。君の居場所も解らないし交友関係も不明でな。誰に助けを求めていいか・・・】

「カルデアだよ!カルデアのAチーム!そいつらに連絡送れば来るだろ多分!んでここはロンドンの住宅街の路地裏だ!さっさと保護してくれ!」

【そうか、解った。では此方から手を送る。保護さえできれば君は助かるが、それまで生きていられるかは君次第だ。一日、一週間、或いは一年。かの狩人は君を昼夜問わず狙い続けるだろうが】

「────」

【頑張って逃げ仰せてほしい。君は人狼と聞く。狩りをするならば当然狩られる覚悟はあるだろう。──では、御武運を】

無慈悲に切られ、連絡先も途絶える。通話記録が霧散したのだ。

【空を見よ、今宵は星辰の集う夜。終焉の時来る。戻り来た神々に、恐怖知る、時来る】

此より、ベリルは全身全霊で逃げ続けなくてはならない。何の理由も、何の理屈も理解できない謎の存在から、あの声が言う、遣いがもたらされるまで。彼の気儘な自由は、終わりを告げた。

【空を見よ、今宵は星辰の集う夜。終焉の時来る。戻り来た神々に、恐怖知る、時来る】

彼がカルデアに招かれるその日まで──

【よみがえる】

彼は、迫り来る恐怖と這い寄る狂気から逃げ続けなくてはならないのだ。

「──ふふ、はははははは・・・!」

その、いつ終わるとも知れぬ絶望の逃避行の幕開けに。ベリルは壊れた様に哄笑を上げた。

──ベリル・ガットがカルデアに招かれるまで、あと◼️◼️◼️日──

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