人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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イザナミ【・・・】

天逆毎「・・・」

『おいでませ、天逆毎様イザナミ様!桃源郷歓迎祭り!』

((気まずい・・・))

【だ、大丈夫であろうか。妾黄泉から出てくるのは大分久しぶりで・・・世間知らず扱いされないかしら・・・】

「案ずるな、私なんか一気に焼き払おうとした戦犯だ。村八分にされてもおかしくないと言うのに」

【ムラハチ・・・!?なんと、なんと恐ろしい・・・しかし償いの旅路、歩むと決めたのだ!いざぁ!】

なつき「ひゃーい」

【「!!!」】

はなよ「お二方が、温羅のお母さんとおばあさんですね!我等桃源郷、心より歓迎致します!」

「君が・・・はなよか。温羅の真なる姉。そちらが温羅が取り上げた子、なつき・・・」

イザナミ【あ、その、あの、我等は・・・】

村長「わかっておりまする、二方が我等を滅ぼさんとやってきた方々である事は」

「・・・!」

【・・・では、何故歓迎を・・・?】

村長「ふふっ、本当なら石でも投げるべきなのでしょうかな?しかし我等、そういったものにはもううんざりなのですとも」

「・・・なに?」

「此処にいるもの達は騙され、欺かれ、流れ着いたもの達ばかり。しかしそれでも誰かへの善意をよるべに立ち上がったもの。理由なき悪意が満ちているのが世ならば、せめて我等は理由要らぬ善意であろうと誓ったのです。・・・お二方は、此処で過ごすと決めたのでしょう?」

「・・・あぁ」

「ならばそれで結構。存分に滞在なさるがよろしい。・・・祭りもやりますからな」

【祭り・・・】

「はい!温羅を称え、そして労うお祭りです!」

「・・・そうか。温羅は、そこまで・・・」

【・・・これが、妾達が滅ぼさんとしていた民達か・・・】

「長い、長い償いの旅路になりそうだな。母よ・・・」


勝利と痛快の大宴会!~桃源郷編、そして~

「───」 

 

鬼神は、桃源郷にて下界を見つめていた。其処は桃源郷にて一番高き山。桃と桜の木が華を咲かせ、色とりどりの様子と顔を見せる。温羅のもつ杯に注がれた酒に、ひらりと花弁が落ちる。・・・温羅に管理を任された聖なる山として、頂上には社と、四つ角の鬼神を祀る祭壇と祠があり、生きし鬼神に感謝と信仰を捧げる社がある。そこは桃源郷を一望できる、温羅がお気に入りとする場所だ。

 

そして、下界の村では祭りが執り行われている。温羅が赴き、戦い、無事に帰還を行った事を祝う祭り。手作りの四本角の飾りを皆が身に付け、感謝と共に舞踊と謝肉をおこなうのだ。笑顔と喜びが満ち、そこには数多の輝かしき人々の営みの総てがある。──自身が望み、願い、そして護った総てがある。その光景を肴に酒を飲む。これほど痛快で愉快な事は有り得ない。桜の雨に包まれながら、はなよ達と桃源郷の変わらぬ善を見つめ続ける。

 

「良かったよ。皆が、変わらぬままの歴史を守れて」

 

自分が参加すると、祭り上げられてるようでこっぱずかしい。だから敢えて一線を引いて・・・などと、奥ゆかしい真似をしてみてもあっという間に看破されるが温羅の無情な定め。

 

「鬼は強く、そして遠い。・・・あなたに当てはまるものではないと思っているけれど?」

 

空間が裂け、追加の酒を差し入れにやってくる者が現れる。境界を従え、管理する賢者。紫が温羅の隣に狭間より顔を出し問いかける。温羅はその言葉に、照れ臭そうに笑う。

 

「今回はアタシ様だけの手柄じゃないからな。皆が楽しむのはいいが、アタシが最功労者みたいに振る舞うのは違うだろうよ」

 

「奥ゆかしいのね。あなたが神を下した故の勝利であるのは変わらないでしょう?」

 

「へへっ──皆の力でな。本当に、アタシを支えてくれたもんはでっかかった。アタシなんかより、ずっとな。──見ろ、紫」

 

温羅は杯を紫に見せる。其処にはどんな銘菓か、七色に光る酒が並々と注がれている。一目みただけで解る、極上の美酒である事は明白だった。温羅はこれを、汎人類史が産み出した美酒だと言う。

 

「こいつは酒呑が拵えた酒でよ。なんともまぁ・・・禍肚に満ちる陰の気を酒に変えちまったんだと!飲んでみろ、紫。天上の味だぜ?」

 

「では、駆けつけ一杯。・・・!」

 

思わず目を見開き、白黒させてしまうほどの衝撃。爽やかで風味豊か。けして強くなく弱すぎもしない。突き抜けるような衝撃と喉越し。酒に求める全てを体現したその旨味に、紫は一瞬自身の立場すら忘れ一飲みに飲み干した。月の美酒など比べ物にならない、究極の味わい・・・。それは、長き生の中でも至高の味。それが、あの暗き闇の世界を元に産み出されたのだという事実に紫は驚き、温羅は誇らしげに手を広げる。そこには、広がる世界が其処にある。

 

「今回の戦いで、アタシは汎人類史と其処に生きる人間こそが繁栄している理由を知れたのさ。その理由の一つがこれでもあるんだ、紫。──その可能性と、懐の深さだよ。見ろよ。あの陰気臭い闇ですら、この世界は美酒に変えちまった。──それだけじゃない。この歴史に、アタシは二人の家族を助けてもらったよ」

 

アマノザコ、そしてイザナミ。倒してのけるだけだったその二人を救い、そして受け入れた。無軌道、或いは節操なし一歩手前の豪快な裁定に笑いながら、それこそが真なる強さにして人の美徳と温羅は笑う。

 

「アタシだけじゃあ、ただぶっ潰してぶっ倒すだけだっただろうな。負ける気は微塵もしないが、そこで終わりだ。残るのは相手の屍だけ。そして傷ついた自分だけ。・・・だがな、王様と、財・・・そんで、それを支える部員様は違ったよ」

 

「変化をきたした時から、細々と気にかけていたものね。それがなかったら、もっと結末は違うものになっていたでしょう」

 

目覚めた善性を応援し、後押しし、支えることを選んだ。そして寄り添い、共に歩むきっかけを作った。断言できる。かの部員や財の心なくば、自身に家族はけして増えなかったであろう事を。その優しさ、そして懐の深さこそ・・・人類が紡ぎあげた最高の美徳であり魅力である事を、彼女は心からの感動と共に歌い上げた。

 

「あぁ──本当に。本当に・・・アタシの歴史と戦ってくれたのが、汎人類史(おまえさま)らで良かったよ」

 

「ふふっ。それもやはり尋常なる勝負ならではの感情では無いかしら。侵略され、侵略し、滅ぼし滅ぼされる戦いでは生まれなかった感情よ、きっと」

 

負けた方が、勝った側になんの憂いなく後を託せる。それこそが、尋常なる勝負であった証。これから先に続くべき歴史の義務であり資格。汎人類史は、それを背負う楽園は、十分以上にその役割を果たしてくれたと温羅は笑う。戦ってくれたのが、お前様らで良かったと。

 

「これから立ち向かう歴史も、楽園は手にしていくでしょう。今度はあなたが、助ける側よ。温羅」

 

施されてばかりではいられない。今度は自身がしてもらったように、行き止まりに陥った歴史に手を差し伸べ、そして行き止まりを粉砕していく。この鬼神の力を、世界に向けて振るうのだ。その宣誓に、力強く鬼神が応える

 

「おう!──にしても・・・。お前様、随分と親身になってくれたな。紫」

 

「あら、どういう意味かしら」

 

「ほら、こういうの・・・失礼な話だが、意味ありげに笑ってなんもしなかったり冬眠してるイメージがあったからさ。まさか夜なべまでしてあんなのまで用意してくれて・・・。無粋なアタシを許してくれ」

 

あら、本当に失礼な話ね。そう笑う紫ではあるが、其処に怒りはない。美酒を飲みながら、目を細め下界を見やる。

 

「まぁ、ね・・・今回は私の独断なの。幻想郷は関与していない、私のね。だからこれ、幻想郷自体は無干渉なの。そうね・・・なんで此処までやったのかと言われたら・・・」

 

あなたの為かしら。そうあっけらかんと告げる紫に、目を白黒させる温羅。其ほど不思議では無いでしょうと紫は愉快げに告げる。

 

「もしあなたの生まれた歴史をただ切除されてしまったら、あなたの存在自体が消えてしまう可能性があったでしょう?それは避けたかったのよ。あなたが消えてしまっては、妖怪達や裏側の世界に混乱と波乱が産まれるだろうし・・・それに」

 

「それに・・・?」

 

「──せっかく手にした、大切な友人よ?それが切除されては、いた痕跡すらも記憶そのものからも消え去ってしまう。・・・どれだけ大事でも、大切でも一方的に消えてしまう。そんなの、なんとしてでも避けるべきだと思わない?」

 

彼女は珍しく・・・極めて珍しく損得を抜きで動いていた。妖怪の生は果てしなく長い。紫程の妖怪であれば尚更だ。先に語り合っていた人間が、瞬く間に寿命を迎えて死んでしまう。美しい景色が、瞬く間に荒廃し果ててしまう。どれだけ美しいものも、すぐに消え去り無くなってしまう。だから──だからこそ。知っているのだ。

 

「忘れる方も、置き去りにされる方も辛いのよ。・・・世界に奪われて、人に置いていかれてばかりだもの。自分の愚痴に付き合ってくれる友人の一人くらいは。それくらいは・・・」

 

それくらいは、柄にもなく執着しても構わない筈。紫はそう考え、手を貸してきたのだ。閉じた、閉塞した種族だと思っていた妖怪の常識に風穴を開けた鬼神を。嘘と偽りだらけだった言葉と世界に、輝かんばかりの真実と誠実をもたらした隣人を護るために。

 

何より──

 

 

『いい場所だな、幻想郷!お前様の箱庭は随分と趣味がいい!アタシには出来ない運営だなぁ・・・』

 

『よし!なら、お前様の幻想郷が廃れないよう客引きでもさせてくれ!妖怪の皆が、きっちり自分の生きざまを見つけられる様にアタシも手伝うからな!』

 

 

「──いい場所と、言ってくれたものね。それだけで充分よ」

 

「?」

 

「なんでもないわ。・・・ほら、道草を食っていないで、あるべき場所に戻りなさい」

 

「うわっと!」

 

とん、と背中を押される温羅。振り返ると其処には、閉じ行く境界と・・・

 

「お見事だったわ、温羅。今度は皆で、今度は家族で。私の庭にいらっしゃい」

 

「紫!」

 

「これからも、良き関係でありましょう?強く優しい、──鬼の神様」

 

優雅に扇子を開き、手を振る妖怪の賢者。その笑顔は、微塵も裏表ない、無垢なるものであり──

 

「・・・ったく。ありがとうな。今度家族連れて、一緒に行くよ」

 

自身を助け、導いてくれた家族達と・・・新たに増えた家族。その二人を連れて必ず。

 

「よーっし!じゃ、アタシも帰るとするかなぁ!」

 

桜が舞う桃源郷の道をら誇らしげに歩き、鬼神は軽快に帰路へ就く。

 

・・・彼女には、帰る場所があり待つ者がいる。その事実こそ、彼女にもたらされた最高の祝福と信じ──




───これは、辿り着いた希望の結末の輝き。

茨木「ふぅ、食べた食べた!どうだ、楽しかったであろう?」

カグツチ『うん。凄く・・・美味しかった。・・・日が暮れるね』

茨木「うむ・・・。逢魔が時は危ない。早々に帰るのだな」

『・・・私には・・・』

伊邪那美『カグツチ!』

酒呑「ほぉら、よい子は帰るお時間やねぇ?帰ろか、茨木?」

「『・・・!!』」

誰もが夢想と笑い、誰もが荒唐無稽と笑った結末。──その夢想を現実にせし楽園は紡ぎ上げる。



温羅「・・・──ただいま、『母ちゃん』、『ばあちゃん』」

世界を越えて、再び一つになった親子の絆を。

イザナミ「──うむ、うむ・・・。さぁ、天逆毎」

天逆毎「あぁ。──おかえり。温羅」

──笑顔で交わす、未来を世界より奪い返した結末を──



空 想 昇 華~Fancy sublimation~



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