人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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【・・・・・・】

リッカ【くっ・・・!サーヴァントの皆が、喚べない・・・!】

マシュ「ドクター!これは・・・!?」

ロマン『そうなんだ、ボクもさっきから指環を使っているけどうんともすんとも言わない!これも、イザナミの力なのか!』

【賢いな。流石は魔術王だ。・・・イザナミはそちらのティアマト神とは真逆。全ての死の根源。一度死んだもの、これから死ぬもの、死の運命にあるもの。それらを召喚する事は出来ん。来たければ、比良坂を一から下らなければならんのだ】

『!そうか、だからマシュだけは・・・!』

【そうだ。──さぁ、終わりにするか】

【ッ!!はぁあぁあぁッ!!】

「先輩!?」

瞬間、猛烈な速さ、迅雷の速度で天逆毎に肉薄し、リッカは遂に刃を突き立てた。

【ロマン!!あまこー、スサノオ、ツクヨミ、イザナギ様の力を形にして!!】

ロマン『!?解った!──出来たよ!』

マリー『リッカ、何を!?』

【ぜりゃあぁあぁあぁあっ!!!】

ロマンの手を借り、リッカは刃を引っこ抜きぶち抜いた。紫に言われ、抜き取れと言われた──四柱の勾玉を。

【・・・!──驚きだ。それを狙っていたとはな】

瞬間、リッカは投げ飛ばされる。マシュが盾で受け止めねば、また天空に投げ出される強さで。叩き付けられ、リッカは肺から空気を全て絞り出した。

「がはっ・・・!!やっ、た・・・!」

【──では、名残惜しいが止めを・・・、!?】

『──わりぃ、二人とも!待たせたか!!』

瞬間、希望に満ちた声が響く。その声、その姿こそは──

リッカ「ウラネキ・・・!!」

マシュ「待っていました!温羅さんっ!」

鬼神、大明鬼神温羅。窮地にて、その姿を遂に顕す──!


鬼神(むすめ)女神(おや)

『よう。待たせたな・・・大一番はこっからだ!!』

 

【戻ってきたか。より完全に、より磐石となって・・・!】

 

空間を引き裂き、抉じ開け、遂に帰還した温羅。先の瀕死、脆弱だった気配とは何もかも違う。風格も、威厳も、たった先程とは比べ物にすらならない程に高まっている。放つ気迫で、何倍にも大きく見える程に。

 

【何が起きたかは解らんが、それでいい──私とお前、世界の行く末を決める最後の戦いを始めよう・・・!!】

 

決戦の気運のままに、天逆毎は動く。取り込み、力と化した妖怪、百鬼夜行の魂を振るい、その場に千、万を越える妖怪を召喚し、温羅に差し向ける。それらは温羅の腹の中でなお、力を発揮していた妖怪達。その実力は雑兵でさえ、サーヴァントですら手こずる程に研ぎ澄まされた妖怪達。それらが一斉に、温羅に襲い来る。

 

「ウラネキ!くっ・・・!」

「先輩!無茶はダメです!」

 

『大丈夫さ。信じて見てろよ』

 

豪気な笑みと共に、温羅は高々と脚を上げる。頭より上に来る踵、ほぼ180度まで上げられた脚部を──

 

『ふんっ!』

 

地面に向けて叩き落とす。──たったそれだけ。たったそれだけの動作で大地が、空間ごとひしゃげ、ひび割れ、砕け散り、自身と二人を除き全てを飲み込んだ。崩落と共に、異次元へと廃棄されていく妖怪達。その様を見た天逆毎は、一瞬にて近付き、鎌鼬の刃にて温羅の首を斬り飛ばす。

 

【今の力・・・私の目論見通りに──!?】

 

だが、温羅の首は跳ぶことは無かった。信じがたい事に、温羅の霊基は『傷付いた数倍の速さで再生』している。斬られた瞬間から傷が快癒したのだ。首を斬られながらも、それは僅かなダメージにすらならない。

 

『そんなもんじゃ、イブキの真似事すらしてやれねぇぞ!』

 

【がはっ──!】

 

カウンターとして、ただの頭突きをぶちかます。単純にして原始的な攻撃の極みではあるが、温羅の今の状態で行うこと・・・それは即ち全ての所作が必殺となる。ぶちかましの瞬間、霊核が軋み歪みかける程の衝撃が天逆毎を襲う。そして、確信に至る。

 

(間違いない。これが温羅の本来の力、本来の姿・・・!妖怪の魂と言う不純物を抜き去った事により、温羅が持つ完全無欠の強さが表層に現れている・・・!)

 

自身の叡知と、世界と言う材料を掛け合わせ作られた究極の生物。その理念に従い、天逆毎は世界の全て、妖怪の全てを喰らわせ温羅の力と、部品と化した。それにより世界を喰らう鬼神としての完成を見たのだと確信していた。・・・それは、大きな誤りだったのだ。

 

(星の嘆願か、抑止の介入か──温羅の身体は産まれたその瞬間から『完成』していた・・・!私が手掛ける必要など、誰かを喰らわせる必要など何処にも無かった!私の行った儀式は、温羅という究極の生命体に不純物を混ぜ、枷をつけていたのだ・・・!)

 

子は、親を見て完成し成長する。当然、温羅もそう作られた。だがそれは奇跡か、或いは星が狼藉を働く生命に憤った結果か。何丁、那由多の確率を結実させ産み出された温羅の肉体は──『手の付ける箇所など無いほどに完成していた』のだ。馬がより速く走るために、鳥が強く羽ばたくために定向進化をするのと原理は同じ。

 

【世界に蔓延る悪鬼羅刹を滅ぼす為に──お前は産まれながら、神すらも越える力を有した生命体だったのだ・・・!】

 

『何を感嘆してやがる。この状態を望んだのはお前様だろ、天逆毎』

 

【──!!】

 

・・・呼んだ。今。娘が自身の名前を呼んだのだ。その事実に、天逆毎は衝撃を受ける。だがその反動を御する術を知らぬ女神は、残る妖怪と荒神の力を全て叩き付ける。

 

『無駄だ。はるえの母上様の拳骨に比べりゃヌル過ぎる』

 

それらをがっしりと腕を組み、防ぐまでもなく受けきる温羅。防御すら無用。僅かに焦げた肌が、一瞬の内に再生する。最早この温羅を殺す事は、世界を一つ滅ぼすより難儀であるとまで確信させながら、温羅は言葉を紡ぐ。

 

『お前様は愛を知った。親御様に何かをしてやりたい、してあげたい。──立派で。綺麗な想いだ。七つの人類悪連中が掲げるモンにも、きっと負けないくらいにな』

 

【・・・】

 

『だが、だからこそお前様を獣にする訳にはいかねぇ。アタシの背中にあるものを消す訳にはいかねぇ。──お前様の想いも願いも正しい。だがな、手段が有り得ないくらいに間違ってんだ』

 

【手段──親孝行の手段が、間違っている・・・だと?】

 

『あぁ。──今からアタシたちが、そいつを教えてやる。子が親を思い遣るのに・・・世界を滅ぼす必要なんて無いって事をな!!』

 

【──そうか。面白い】

 

その言葉を受け、天逆毎は全てを静止した。無限に産み出す妖怪も、創生の神々の残滓も、全て。──使うのは、五体四肢のみ。

 

【ならこの愚かな女神に説くがいい。私が懐いた理の相違を。そして討ち果たせ、温羅!世界を救う英霊として、世界を滅ぼした邪悪極まる女神を!!】

 

『言われなくても──こっちは最初っからそのつもりなんだよぉ!!!』

 

・・・其処から行われた戦いは、極めて単純で原始的な帰結だった。世界を背負う戦いでありながら、格式も、風靡も何もない。ただ純粋無垢で、雑じり気の無い単純明快な戦いの根源。

 

『【おぉおおぉおおぉおおぉお!!】』

 

脚を止めた、真っ向からの殴り合い。拳が頬を捉え、脚が相手の鳩尾を貫く。奇しくも鬼と妖怪、それぞれの頂点に立つ二人が行う、地上最凶の親御喧嘩に世界は委ねられた。

 

『ちぃ──!』

 

殴り飛ばせど殴り飛ばせど、天逆毎が潰える気配は無い。妖怪達の魂が代わりに潰え、瞬時に天逆毎を保護しているのだ。奇しくも温羅は、また幼少と同じ事業に挑まねばならない。その拳で今一度、世界の妖怪を殴り飛ばし滅ぼす。そうしなければ天逆毎には届かない。

 

【ぬぅう・・・ッ!】

 

殴った拳が砕け、蹴った脚がひしゃげる。純粋に、完膚なきまでに鍛え抜かれ、更に冠位と神気、善意により編まれた温羅の肉体は最早概念ですら遮断するほどに強靭さを増していた。ダイヤモンドすら越える固さに手を掛けた悪魔達の将軍が如く、殴った相手すらも破壊する程の強度の極致に至っていたのだ。互いに、原始的な方法でしか互いを見通せぬ。意志を通せぬ領域にて殴り合う。

 

『気付いてんのか、天逆毎!お前様が懐いた気持ちは、今お前様が滅ぼそうとしてる皆が懐く気持ちだ!それを殺して、滅ぼしても我を通したいのか!!』

 

天逆毎の内臓を拳が余さず砕き破裂させた。即座に快復し、反撃を行う。

 

【そうだ・・・!母を否定し、母を亡きものとしたイザナギとその子らを滅ぼす!そうしなくては、母の哀しみは永劫癒えぬ!!】

 

殴り返し、温羅の脳が揺さぶられる。たたらを踏む温羅に、回復の魔術が飛ぶ。カルデア、並びにリッカが与えた魔術・・・。温羅はもう、一人ではない。

 

【滅ぼすことは悪であろう。自己を通すは我が儘だろう!では母の哀しみは何処へいく!愛した夫に、子に存在を抹消された母の嘆きはどう癒されると言うのだ!】

 

『んなモン、決まってんだろうが!!お前様が傍にいて、慰めて励ましてずっと一緒にいてやるんだよっ!!』

 

脚が女神の胴体を真っ二つに引き裂いた。即座に繋がるが、一撃一撃が余りにも重い。世界全てだった筈の魂が、あっという間に二割を切っていた。

 

『悩みを聞いてやれ!一緒に美味いもん食いにいったり、温泉いったり、一緒に家事手伝いしたり一緒に寝たり!世界を滅ぼす前に親にしてやれること、こんだけあんだろうがッ!!世界を滅ぼすなんて楽な方に逃げてんじゃねぇ!!』

 

【!!がふぁ──!!】

 

『世界を滅ぼすよりなぁ──絆を育む方が何倍も難しくて偉い事なんだよッ!破壊と創造がそんなにやりたきゃ!母上と積み木でもやってろッ!!!

 

【が、はっ・・・!!】

 

遂に、温羅の再生と武力、気迫が天逆毎を押しきった。よろめき、脚が笑う妖怪の女神。何処までも、何処までも真っ直ぐな想いに、天逆毎は目を見張る。

 

『何故、アタシがこんなにも真っ直ぐ育ったか解るか。──見えるだろ。アタシが真っ直ぐいられる様に支えてるものが』

 

その言葉と共に──女神は見やる。温羅の後ろにあるは、彼女を信じるマスター・・・いや、それだけではない。

 

【・・・──おぉ・・・】

 

温羅の背中に寄り添い、支える無数の魂達。彼女に力を与える者達。それらが決して倒れぬよう、温羅の力となりて支えている。それこそが、温羅が汎人類史にて手に入れた輝き──

 

【・・・・・・だからこそ、私は負けぬ・・・。証明するのだ。母も、同じように・・・】

 

『・・・・・・』

 

【母も、汎人類史(おまえたち)のように・・・正しき世を作れるのだと・・・!】

 

最早、魂は消し飛んだ。天逆毎を支える魂は、たった一つ。そのたった一つが・・・強く、気高い。

 

【世界を滅ぼした罪悪は、私が全て連れていく・・・!今度こそ、今度こそ母が子と笑い合える未来を!お前たちのように、お前達の美味極まる歴史の様に・・・!さぁ、決着だ──我が娘よ・・・!!】

 

『──』

 

「ウラネキ!!」

 

リッカが声を掛ける。全く同じタイミングで同じことを考えるとは。相性がますます良くなってきたことを喜びながら、温羅は告げる。

 

『決着だってんなら、最後に一度だけ言っとく。──いいか。よーく聴いとけよ。お前様に告げる最後の手向けだ』

 

【・・・・・・?】

 

この期に及んで、何を言うのか。産まれた事への非難か?愚かな女への侮蔑か?離別か?どの様な言葉であろうと───

 

『・・・・・・・・・───丈夫な身体に、産んでくれて。ありがとうな。・・・・・・・───『母ちゃん』』

 

【─────────】

 

・・・瞬間、天逆毎の思考が全て途絶え、思考が一瞬空白になった。言うことを言い、即座に切り替え走る温羅への反応が、致命的に遅れた。

 

『アタシからのプレゼントだ、冠を受け取りやがれ!これで最後だぁあぁあぁあぁっ!!!!

 

右手に、冠位の全てを込めた拳を握る。全身全霊の体重と魔力を込めた、対人極致にして天地豪鳴の一撃を振りかぶり温羅が駆ける──!

 

【ッ、はっ──!!】

 

慌てて、無造作に突き出した左腕。──だが、それは拳にはなっていなかった。ただ、手は開かれ──

 

『だぁあぁあぁあぁあぁぁあぁぁーーーーっ!!!!

 

壮絶窮まる、クロスカウンター。──全身全霊の一撃が、天逆毎の頬を貫いた。

 

【・・・──温、羅・・・】

 

『・・・・・・・・・』

 

その手は、確かに。天逆毎の手は確かに、そっと温羅の頬を撫で──

 

深々と、地面に倒れ伏す。──獣の気配は何処にもない。冠位もろとも、悪は滅んだ。天逆毎の愛は、確かな愛として──

 

「アタシの・・・アタシ達の勝ちだ・・・!」

 

確かに、此処に護られたのだ。




天逆毎「・・・ふふ、ははははは・・・・・・」

温羅「なんだ気持ち悪ぃ。頭でもやったか」

天逆毎「まさか・・・まさかお前が、母と呼んでくれるなんてな・・・負けるものか、母の為にと張っていた心が・・・その言葉で、満たされてしまったよ」

温羅「・・・正直、さっきのさっきまで呼ぶつもり何ざ無かったよ。──ただな、母上様に言われたんだ。仮にも母に、ババァなんて止めろってな。だから・・・お前様に勝ったのはアタシじゃねぇ。汎人類史に生きる、全ての母上様方だ」

天逆毎「──そうか。・・・やっぱり」

「あ?」

「やっぱり・・・汎人類史は美味しいなぁ・・・」

温羅「・・・気付くのがおせぇんだよ。──リッちゃん!」

リッカ「ウラネキ~!ウラネキぃ~!!」

「泣かない泣かない。さ、〆をするぜ。お前様はそっちだ。マシュちゃんよ、合図頼む!口んなか切っててさ」

マシュ「了解です!では、せーの!」

・・・断頭か。すまない、母よ。そう目を閉じた筈の天逆毎の身体が、持ち上がる

天逆毎「な・・・」

抱き上げたのだ。リッカをだっこ、天逆毎はおんぶで。そのままマシュを肩車し、下へと降りていく。

「な、何のつもりだ温羅。くっ、殺せ!」

リッカ「!!?」

「うるせぇ、そのままくたばってろ。母ちゃんの下へ送ってやっから」

「馬鹿な・・・何故だ・・・何故私を・・・」

「アタシが殺したのは、獣だけだ。お前様の命はいらねぇ。そいつはお前様と、母ちゃんのもんだろ。──戦い抜いたんだ。胸張ってただいまって言え、バカ」

「・・・・・・」

「いいか、子が親より速く死ぬのは親不孝の極みなんだよ。親孝行したいんなら石にかじりついても生きてやれ。──何も、死ぬこたねーんだよ。相手を活かす為に戦う。そいつが真の強さだ。・・・な?二人とも」

「うんっ!」
「はいっ!」

「・・・。・・・・・・」

温羅「罪も、恩も。生きて償え、生きて返せ。死んで満たされんのは、自分だけだ。貰った命だろうが。テメェも、アタシもな」

「・・・。・・・解った。・・・温羅」

「なんだよ」

「・・・ありがとう」

「──・・・どういたしまして」

リッカ「~~。・・・温羅ネキがいてくれてよかった。今回は・・・」

今回は、自分は絶対に倒せない相手だったなぁ・・・。笑い合う二人を見ながら、リッカは寂しげに、誇らしげに笑うのだった。

マシュ「ふぁー!高いです!高い!私は今、天に立っています!」

なすびの発情にも笑うリッカであった。

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