ニャル【私の知る時空でも天逆毎がビーストに変わったという記憶は無いな。要するに、ざっくり言えば楽園のみに現れるレアエネミー、珍獣というものなんだろう】
オルガマリー「楽園のみにあてがわれた、完全無欠の結末を阻む獣・・・それらをただ滅ぼすと選択した瞬間、私達の負けは決まる」
【世界を滅ぼすのではなく、この旅路を潰えさせる獣。それらをビーストifと呼べば解りやすいんじゃないか?実際、今あの女神を滅ぼせばイザナミと和睦はほぼ不可能だろうしな】
ムニエル「エクストラミッションエネミーってことですか!?」
【そゆこと。こればかりは現地の判断しかあるまい。決着を阻めば死ぬのはこちら、倒すだけでもこちらは終わり。ならどうするかの判断を、な】
オルガマリー「なんだ、それなら簡単な事ね」
ロマン「マリー・・・?」
オルガマリー「この問題に直面しているのは、ただのマスターじゃない。──グランドマスター、藤丸龍華よ。・・・ふふっ、自称だけどね」
ニャル【そういう事だ。さぁ、高天ヶ原防衛作業に戻るとしようか──】
~
温羅「・・・・・・ッ」
【温羅ネキ!温羅ネキ!】
(お腹が抉れてる・・・!霊基が欠けてるのかなこれ・・・!ただの治癒じゃ治せないかも・・・!)
【・・・大丈夫だよ、温羅ネキ。こういう時のグランドマスターだから!──それに、しても・・・】
【──ビースト・if・・・】
【知らぬ名前では無いだろう、藤丸龍華。かつてお前が宿し、そして今そなたが力とせし龍の力・・・それと同じ。妖の力を宿せし、七つではなき人類が滅ぼす獣。その資格を私は目の前にしている】
莫大な魔力、風格、それに相応しい威厳の言霊を有し、天逆毎は告げる。ただの侵略者から、自身は愛を知り愛故に世界を滅ぼす獣へと変わると言う事実。その愛とは──
【裏切られ、捨てられた母がいた。辱しめられ、亡き者とされた母がいた。そちらの世界のビーストⅡ、ティアマト神と類する女神を私は母とした】
【・・・!】
【その殺意と怒りのままに、世界を滅ぼしあまつさえ汎人類史に侵攻・・・いや、最早道理など無かったのだろう。何も見えてはいなかったのだろうな】
語る天逆毎の影から、生命の影が姿を現す。それらは温羅が喰らった筈の、妖怪の似姿に他ならなかった。
【無様で愚かで、哀れな女にして母ではあったが、私はその女をどうしても見限り、見放すことはしなかった。何故か出来なかったのだ。初めは、自らの特権と優越の存在と高を括っていたが──】
それらが群れを為し、倒れ伏す温羅へと迫り来る。その使命は、最後の覚醒の要因たる温羅を滅ぼすこと。有り得ざる獣となる功績を手にする為に、息の根を止めようとしているのだ。
【ッ!『天照神楽』!】
縁壱から賜り、そして奥義に昇華された神楽を行い、温羅を魔の手から護り、阻み、戦い続ける。剣と弓、武術の数珠繋ぎは防御、防衛にも秀でている。
【そうでは無かった。美味にして鮮烈な汎人類史に触れ、私はこの感覚を理解した。──これは、『親愛』なのだと】
【親愛・・・ッ!】
【そうだ。裏切られ、捨てられ、黄泉の底で嘆き続ける母が産み落としたこの私。ならば私はその体と命に何をしてやれるか。──かの母にしてやれるものは何か。それを、私は把握した】
リッカに群がる魑魅魍魎、総てを討ち果たし押し返す。カルデアからのサポートも全開にし、自身が懸命に奮戦する。
【それは──母を否定した世界の総てを滅ぼし、母に新たなる創生の機を与える事。回帰ではない。滅亡は母に世界を託す手段だ。──私は今度こそ、母が望まれる世界を作らんとする】
【その為に人類を滅ぼす──じゃあ、貴女の理もそのまんま・・・!】
【そうだ。母を愛し、慈しみ、それを汚した生命と世界総てに滅んでもらう。世界をもう一度、母に贈り物として捧げる。その為に今の、他者の歴史には滅んでもらう。それが私が為すべき功績、私が懐く獣の理。──かつての未知の獣、君には告げておこう】
そう、女神は母の為・・・肉親の為に総てを滅ぼす。老いに血迷った天逆毎の頃には理解し得ず、汎人類史に触れるまで思い至りすらしなかった理。
【『親愛』。それが私が掲げる理だ。──君の前に此を掲げるにはあまりに残酷で、皮肉と言うものだがな】
【──肉親の、お母さんの為に・・・。・・・──困ったな、『ソレ』だけは、私はちょっと敵わないかも・・・!】
親愛。血の繋がった親子の情。それを理とした天逆毎の言葉に・・・劣勢、或いは窮地を確信するリッカ。自分の人生に、ついぞ無い『血』という絶対的な繋がり。自身の血の繋がった親からは・・・親子の関係を望まれなかったから。
【心から敬意を表するぞ、藤丸龍華。君は、血の繋がらぬ母や家族に恵まれて此処まで戦い抜いてきた。──だが、だからこそ】
【うん。──私は、あなたを否定できない。否定しちゃいけない。だって・・・親子の情って、子供が一番最初に触れる愛だもんね】
それを、知らなくとも。どれだけそれが尊いかを知っている。リッカはそれを護るために戦っている。夕暮れの土手、親子と手を繋いで幸せそうに笑う子供の笑顔の眩しさを何よりも知っている。憧れていた。
【そうだ。──かつての未知の獣よ。有り得ざる獣は、互いに致死の理を担う。懐く理を昇華した君なればこそ私に抗える。ならば──】
【でも、負けない──負けるもんか!!】
【ならばこそ、私を止めてみせろ。有り得ざる獣から羽ばたきし龍よ、世界を滅ぼす獣を討て!それが、完全無欠の結末の道筋とならん!】
【言われなくても──!!】
天逆毎の言葉に、決意の咆哮で応える。最初から負けるつもりはない。最初から、どんな理想や願いにも屈服するつもりはない。
汎人類史を、自身が生きたい世界を護る。そう決めた瞬間から迷いなど存在しない。滅亡に喘ぐ歴史だろうと、繁栄を極める歴史だろうと、自身に立ちはだかるなら蹴散らす。生きる為に誰かを滅ぼす業から逃げないと、ゲーティアに誓ったのだ。──だが。
【温羅ネキ!温羅ネキ聴こえる!ごめん、本当にごめんね!辛いときに、苦しいときにこんな事しか言えなくて、本当にごめんね!】
妖怪を切り伏せながら、叩き斬りながら、撃ち抜きながら、リッカは温羅に呼び掛ける。魂を抜かれ、虚脱し混濁している温羅は答えない。それでもリッカは問いかける。
【──立ち上がって!私と一緒に戦って!天逆毎さんを・・・あなたのお母さんを『護ろう』よ!一緒に!】
【・・・何?】
天逆毎は、言葉の意味を解するのに時間を擁した。護る?私を?何故だ?リッカは構わず、妖怪を切り伏せながら叫び続ける。
【このまま、天逆毎さんが獣になっちゃったら!もう倒すしか、滅ぼすしか無くなっちゃう!世界が、誰もが滅ぼすべき悪だって決めつけられちゃう!天逆毎さんの名前が偽りの名前だって、ビーストだなんてレッテルに塗り潰されちゃうんだよ!話し合うことも、解り合う事もずっとずっと難しくなっちゃう!止められるのは、今しか無いの!天逆毎さんが、天逆毎さんでいられる今しか!】
雷光の一閃が切り払われ、辺りの妖怪が総て寸断される。産み出したばかりとはいえ、天逆毎は驚愕と戦慄を隠せない。学を学び、まだ成人にすらなっていない少女。──あの書に書かれた死線を潜り抜けてきた少女は、これ程とは。
【私が言っても、全然説得力無いかもだけど!やっぱり、血の繋がった親子って本当に素敵だよ!産み出された方法とか関係無い!親が親として振る舞ってくれるって、スッゴく素敵な事なんだよ!素晴らしい事なんだよ!温羅ネキがババァってあの人を呼んで、あの人があなたを温羅って呼ぶ!それだけでスッゴく素敵な事なんだよ!私、両親だった人に愛情を込めて名前を呼んでもらった事、一回だって無いから!】
【・・・龍華・・・】
【だから!だから獣だとか、世界だとか、ビーストとか剪定とかロストベルトだとかどうでもいい!あの人があの人でいられるかどうかは、私達にかかってる!護ろうよ!あの人が今、捨ててしまいそうな名前を!存在を!ビーストになんて渡すのは勿体無い、あの人の存在そのものを!あの人は──あの人は!温羅ネキのお母さんなんだから!】
瞬間、隙を衝かれ兜に直撃を受け、面の一部が砕け散る。金色に輝くリッカの瞳からは、親子の情すら喰らわんとする世界の摂理への怒りによる血涙が流れていた。
【私じゃ、あの神様を倒せない・・・!私、どうしても・・・!親子の絆の断ち切り方なんて知らない!肉親の情なんて何処にも無くて、私、繋がれてばっかりだったから!だから温羅ネキ!力を貸して!一緒に戦おう!護るために!あの人の名前を、あの人が懐いたものを!あの人の──!】
群がる魑魅魍魎が勢いを増す。だがリッカは群がった魑魅魍魎を、龍の泥にて呑み喰らった。そして、温羅に問い掛け、叫ぶ。
【あの人の尊厳と心を護ろうよ、温羅ネキ!──もっとちゃんとした形で、親孝行をしてもらうために!!】
【───】
その叫びと、その気迫に、天逆毎は目を見張る。──本来、あの位置にいた筈の者が決して口にすることは出来ぬ慟哭、そしてそれを受け入れたが故の心震える激励。
まだ起きぬのか、とすら思った。これ程問われて尚。不甲斐なし、我が娘よ。──思わず思い示した瞬間・・・──
「・・・・・・──よーく、聴こえたよ。リッちゃん。世界を救うヒーローにしては、辛気臭すぎるぞ、ばかやろが・・・」
【!!温羅ネキ!】
「腹の贅肉が取れてダイエット出来たんで、嬉しくてうたた寝しちまった・・・。そうか、そうだよな・・・ババァって呼べる事、贅沢だったわけだ・・・」
立ち上がる、鬼神。血をブッと吐き出し、風穴が空いた腹など気にもせず啖呵を切る。
「リッちゃんの言った通りだ。テメェを獣になんかさせねぇよ。──滅ぼすのが親愛だぁ?笑わせんな!」
【──】
「今からテメェと、イザナミお母様を叩きのめして!汎人類史の親孝行の仕方を教えてやる!覚悟しやがれ!テメェを──ビーストになんぞさせるかよ!」
世界を滅ぼす獣、滅ぼされる世界の軛から護るため、龍と鬼神が立ち上がる──!
紫「ふふっ、それでこそね。リッカちゃん、温羅。まだ戦えるわね?」
温羅「当たり前だ。鬼は一際丈夫なんだよ。ちょっと張り切りすぎただけだって」
リッカ「紫さん!どったの!?」
紫「逆転の布石を打ちに来たの。リッカちゃん、悪いけど温羅を貸してもらえるかしら」
温羅「はぁ!?ここで戦線離脱させるとか嘘だろお前!?」
紫「必要な事なの。そしてリッカちゃん。彼女から、奪い返してほしいものがあるの」
リッカ「──もしかして・・・」
紫「そういう事。──じゃあ行くわよ、温羅。急ぎなさい」
「お、おぉ・・・?必ず戻る!頼むから、無茶はしないでくれよ!」
リッカ「解った!──行くよ、マシュ!今まで暇してたんだから頑張ってよ~!」
マシュ「暇ではありません!呼ばれる事を待っていたのですよ!」
【──私の、尊厳と心を護る・・・か。ふふ、はははははははははははははは!!!】
リッカ「──!?」
【やはり、お前達は素晴らしい。──敬服しよう!君達こそ、我等の運命を委ねるに相応しき者達だ──!!】
女神との戦い、混沌の攻防は最終局面に移行する。紫に導かれし温羅の顛末とは──
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