人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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先刻

ギルガメッシュ「ほう、ただ一人で待ち構えるか。その意気、褒めてやろう」

天逆毎【フットワークの軽い王だ。尻の重い母にも見習わせたいな】

──天逆毎さん・・・!

【母に会うのだな?ならば、下に降りていくといい】

「ほう?わざわざ通すとは豪気だな。良いのか?」

天逆毎【覇者が、勝者が誰になるかを思えば道理だ。先んじて待っているがいい。・・・それと】

「ん?」

【あの獅子姫に伝えてくれ。──心から、感謝すると】

──天逆毎さん・・・!

「確かに伝えよう。──ではな」

【あぁ。歴史の勝敗は、お前に委ねよう。・・・私は、成すべき事がある】


比良坂

リッカ「ううっ、空気が重いなぁ・・・凄く寒いし・・・」

温羅「日本の冥界は根の国とも言うしなぁ。とにかく陰気臭いイメージだよな。──それをなんとかしたのが、イザナミって話だったんだが・・・」

【恨み辛みは、姿や環境を醜く変えると言うことだ。神であろうとも、な】

リッカ「!」

天逆毎【──私が母を省みなかったが故に、我等の黄泉はおぞましい吹き溜まりへと姿を変えた】

温羅「・・・ババァ・・・」

天逆毎【よくぞ此処までやって来た。・・・待っていたぞ、お前達を】

リッカ「天逆毎!・・・一人?」

【一人だ。・・・もとよりあの世界は私と母しかいない。我等の世界の妖怪は、そやつの腹の中。招く事すら出来ぬゆえ、神器からの情報を元に再現し、記憶を持たせたのだ。都も、四凶もな】

リッカ「!だから中国出身の四凶達が都を護ってたんだ・・・!」

【私としては、雑兵がやられようと痛打にはならん。私と、母がいれば。抵抗は叶うのだからな】

「そうかよ。──じゃあ、此処でテメェを倒せば勝ちはすぐって事だよな」

【そうだ。お前の価値を、力を・・・傍らの少女に、お前の愛する世界に見せてみろ】

「おうよ。──リッちゃん。たぶん、ここがアタシの大一番だ。しっかり支えてくれよな!」

【うん!背中は任せて!】

天逆毎【──ふっ・・・】

温羅「おおっ、じゃあ行くぜ──ババァ!!」

天逆毎【来い・・・】



人類悪胎動

「おぉおぉおりゃあぁあぁあっ!!!」

「───」

 

黄泉比良坂──イザナギとイザナミが別たれた境の空間、待ち構えていた天逆毎と温羅の戦いが遂に始まった。渾身の拳と、それを迎え撃つ天逆毎の間に暴風と衝撃が、天地に向けて荒れ狂い揺るがす程に巻き起こる。

 

【くぅ──!】

 

リッカですら、膝を折らぬ様に衝撃に踏ん張ることに全力を尽くさねばならない程の力のぶつかり合い。鬼神、そして数多の神を喰らった女神の世界の明日を決める戦いを、見届ける。マスターとして、楽園最悪のグランドマスターとして。龍の鎧が軋む音にも怯まず、リッカは立ち続ける。

 

【頑張れ、ウラネキ・・・!】

 

その戦いは、まさに神に至りしものの戦いにして規模。それらがもたらす規模と迫力は、サーヴァント同士の戦いですらそうは起こらぬ程の大決戦の様相を呈する。個の極致の雌雄を決する戦いが、世界の命運を願う戦いが壮絶極まる攻防と共に巻き起こされる。

 

「ぜえぇあぁあっ!!」

【フッ──】

 

温羅の拳が、脚が天逆毎に叩き付けられ、叩き込まれる。一撃一撃が当然全身全霊。宝具クラスの必殺威力を誇る肉体と魂から放たれる鬼神の連撃。殴る、蹴るという原始的な戦いの頂点にまで到達したそれを、天逆毎は更に想定の外へと行ってみせた。

 

「うぉ、ッ──!がは─っ!!」

 

【力の配分が甘いな。錆び付いてはいないが、鈍っているようだな】

 

なんと、拳を掌で受け止め、いとも容易く片手で温羅の巨体を持ち上げ、叩き付けてみせたのだ。温羅の面影を残す若き妖怪の女神。その伝承には記されている。──『怪力無双』。自らの投げで、神々を地平の彼方へ投げ飛ばしたと。

 

「ッ、やるじゃねぇかババァ。あのババァとは二味も──っおっ!!?」

 

距離を取ろうとした温羅であったが、不可解な動きを取る。軽く手を振るった天逆毎に、まるでそのまま投げられた様に離れたままに地面に叩き付けられたのだ。触れることなく相手を投げる。そんな神業を披露し、温羅が地面に叩き伏せられ続ける。

 

【真・呼吸投げ・・・!ケンイチで秋雨先生やジュナサードがやってたヤツだ・・・!】

 

気の読み合いにて究極の位置に達する達人に、気当たりにて総ての場所を死地とする。するとそれを受けた相手は反射神経が刺激され、ただ一ヶ所に活路を見出だし、体勢を崩そうと受け身を取らざるを得なくなる。それが高じて、『触れずに投げる』という事象に繋がる。真の達人にしか発せられない究極奥義。それが今、現実に巻き起こっている。

 

「~~~ッッッ・・・!!」

 

【どうした、凧かメンコの様に舞うだけか?】

 

「ッッッ──がぁっ!!!」

 

それを、温羅は力強くで打ち破る。全身に気合いを込め、巻き起こる気当たりを迅速に吹き飛ばした。素早く立ち上がり、フロントタックルの要領で天逆毎にマウントを取る。そのまま拳を振るわんとする温羅。

 

「うぉらぁっ!!!!」

【──!】

 

顔面に叩き込んだ拳、衝撃が大地を余さず叩き割った。只の一撃で地面が崩落し、地割れに呑まれながらも温羅は天逆毎を殴り続ける。女神でなければ顔面どころが頭蓋骨が粉々に成る程の威力の拳を、静かに受け続ける天逆毎。

 

【成る、程・・・、確かに、重く強い。やはり、お前は・・・我等の歴史が、産んだ・・・奇跡だよ、温羅・・・!】

「応とも!丈夫な身体に産んでくれた事だけは感謝してるぜ・・・ババァ様よぉ!!」

【感謝・・・今なら解る。貴様がそれを口にする事の意味を・・・!】

 

「そうかよ──ぐあっ!?」

 

そのまま、圧倒的な武力でイニシアチブを握れるかと感じた矢先、温羅の腹部が激痛と共に胎動する。熱を持つ虫が這い回り蠢くような不快感と激痛に、温羅の勢いがやや緩む。リッカとのパスを繋げていて緩和されている筈の激痛に、隙を晒してしまう。

 

【取り込んだ妖怪が共鳴している様だ。イザナミ、並びにそれより産まれたこの私に】

 

「なんだ、と──うぁあっ!?」

 

素早くマウントから脱しふわりと宙に浮く天逆毎。右手を翳し、地上に在りし温羅目掛け【星を落とす】。イシュタルの金星、マルドゥークの木星と同じ、概念惑星を召喚する。喰らい尽くしたツクヨミの力を解き放ったのだ。

 

禍津星詠之穹(まがつほしよみのそら)

 

「ッッッ、ぬぉおぁあぁっ!!」

 

飛来する星々から、素早くリッカの下に戻り金棒を召喚し手にする。漆黒の穹より飛来する血染めの流星群を、金棒の一薙ぎで叩き砕く。常軌を逸した攻防のスケールであり、星を武器とし金棒で砕くそれは、ただひたすらに力と混沌を求めた歴史の縮図にて果ての光景であった。

 

禍津天獄之焔(まがつてんごくのほむら)

 

次に振るいし、天照の権能。黒き太陽から漆黒の焔が降り注ぎ、呪詛の込められし炎で辺りが満たされる。並の生物、いや低級の神霊ですら瞬時に塵となる程の熱線と熱量が降り注ぐ。

 

「リッちゃん、アタシから絶対に離れるなよ!」

 

【うん!瞬間強化、瞬間回復!】

 

リッカの支援を受け、温羅は金棒を力の限りに投げ黒き太陽を粉々に粉砕する。そして辺りに振る舞われた焔を総て吐息で吹き消し、素早く延焼と焼死を防ぎ呪詛に魂が浸されるを防ぎ抜く。余りにも破天荒な対処だが、それを省みている余裕は与えられない。

 

禍津須佐之男牛投(まがつすさのおうしなげ)

 

「ッ!うぉあぁあぁあぁあっ!?」

 

スサノオの権能、蛮力にして剛力の力を発揮し、温羅の片足を握り叩き付け振り回し続ける。かつて高天ヶ原にて暴虐と狼藉を働き続けたスサノオの邪悪な側面の力を振るい温羅を打ち付ける。

 

【温羅ネキ!このおっ──!!】

 

刀を振り抜かんとしたリッカに、天逆毎は抜かりなき行動を取る。手にしていたもの・・・即ち、 温羅がリッカに目掛け放り投げられたのだ。

 

【うわわわわっ!!?】

 

当然、武器よりも温羅を優先し受け止めるリッカ。脚を地面にめり込ませながら遥か彼方へと吹き飛んでいく二人。やがて岩盤に背中から叩き付けられ、もろともに倒れ込む事により停止するという、凄まじい規模の攻撃が執り行われたのだ。

 

「ッ、へへ・・・なんだよ、ババァ・・・随分と強いじゃあねぇか・・・ッ」

 

【ウラネキ、しっかり・・・!】

 

自身の衝撃も気にかけず、温羅を慮るリッカ。その様子を満足気に見つめつつ、天逆毎は口を開く。

 

【お前の剛力、そしてその生体強度。その遺伝子設計図は老いた悪婆の私が、かつての私の姿を再現しようと試みたものだ。当然、個体や母体から産まれる実験体には至れなかったがな。世界の総てを費やして、漸く私以上の強靭さを手にしたのが、お前だよ。温羅】

 

「なん、だと・・・!」

 

【──だが私は、一つ設計の際にミスを犯した。蛇足と言ってもいい、致命的で、余計なモノをお前に付け足してしまった。──今のお前には不要なものだ。それを、お前という存在を、そちらの歴史に捧げた者として・・・責任を以て返してもらう】

 

「何の話だ、アタシは──ぐぅっ・・・!!!」

 

【ウラネキ!!っ、やらせない!!】

 

いよいよ以て温羅ですら苦悶を漏らす程に高まる激痛を配慮し、リッカが素早く立ちはだかる。歩み寄ってくる天逆毎に、天照神楽の構えを取る。

 

【──温羅のマスター、藤丸龍華だな。私はな、お前こそが最も素晴らしく、美味な人間と感じたよ】

 

【へっ?な、何を──わあっ!?】

 

【・・・温羅を頼む】

 

誰にも聞かれぬ様に呟き、ぽいっとリッカを放り投げ、無造作に温羅の頭を掴む天逆毎。そして──

 

「──がは──・・・ッ!!」

 

【温羅ネキーーーッッ!!!】

 

リッカの目の前で、温羅の腹に──深々と、天逆毎の腕が突き刺さった。




温羅「ババァ・・・テメェ・・・ッ・・・!」

天逆毎【いい機会だ。澱みを総て吐き出すんだな】

「ッ、ぐ──おぉおぉぁあぁああぁあぁあっ!!!

咆哮と共に、温羅の身体より無数の魂が溢れ出す。それは、今まで温羅が喰らってきた『妖怪』の魂であり、腹の中で封じ込んでいたロストベルトの魂達である。

【出るものが出たな。──いざ、貴様等の祖の下へと還るがいい──!】

リッカ【!?魂達が・・・!?】

百、千、万を越える魂に向け、天逆毎が息を吸う。──その無数の魂を、取り込み始めたのだ。

抵抗を示す数多の魂、だがその総ての祖たる天逆毎の権限に逆らう事は赦されない。余さず一つ残らず吸い喰らわれ──そして、リッカはその変化を読み取る。

【!?この感覚・・・!?】

【──そうだ。対話の龍、そして有り得ざる獣よ。まだ産まれ落ちる資格も功績も手にしてはおらぬ故、紛い物ではあるが・・・私は、かつてのお前と同じものに変生を成さんとする】

ロマン『リッカ君!?あぁ良かった繋がった!とんでもない事態だ!緊急事態と言っていい!』

リッカ【ロマン!?どったの!?】

オルガマリー『落ち着いて聞いて。其処に今、あくまで類似的だけれど・・・【ビースト】の反応があるわ。七つの人類悪に、極めて酷似した反応が発生しているの』

リッカ【・・・ビースト・・・!?】

【お前達の歴史に触れ、私は愛というものを知った。かつて私が世界を滅ぼしたのは、そうしたいと願ったのは、美しい歴史を残したいという『愛』だったのだ。──しかし、温羅に敗れた事で、獣たる資格は失われたがな。だが今──私は新たな愛の為にお前達に牙を剥く】

リッカ【新しい、愛!?】

【この新たな愛故に・・・今の安寧に牙を剥く。それが獣の定義であるならば、私は温羅を消し去る事により完全に世界を滅ぼす功績を成し、別世界より来る獣として汎人類史を喰らうモノとなる。──天逆毎とはかつての名。有り得ざる獣と成るならば新たな名を名乗らねばならんだろう】

リッカ【・・・ビースト・IF・・・!】

【そうだな。ビーストIF・・・空亡とでも名称を決めておこう。さぁ、孵化を止められるか否かは・・・お前達にかかっているぞ・・・】

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