人理を照らす、開闢の星   作:札切 龍哦

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天逆毎【いただきます。知らなかったが、食料を頂く際にはこうやって祈る様だ。祈りを捧げる習慣、忘れて久しかろう】

【うむむ・・・まさかお前が料理を手掛ける日が来ようとは・・・】

【意外か?私も意外だ。だが、料理は美味い方が良かろう。最後の飯になるやも知れぬしな】

【・・・これ程長く在りながら、初めてやも知れぬな。互いに、らしくもない・・・】

【そうだな。だがまぁ、親孝行とはこういうものらしい。性に合わぬ事をすると、存外に愉快と言うものだ】

【・・・。赦せ、娘よ】

【何がだ?】

【私は・・・お前についぞ、親らしい事をしてやれなかったな。殺意と憎悪にまみれ、お前を道具の様に扱い続け、そして此処まで来てしまい──】

【皆まで言うな】

【!】

【夫に手酷く裏切られたのだ。母の嘆きを、哀しみを労れなかった私にも責はある。親は軽率に頭を下げぬものだぞ。私には──】

【・・・?】

【『産んでもらえた恩』というやつがあるのだ。そう気に病むな】

【──!!・・・・・・我が娘よ】

【何だ】

【・・・教えてくれ。そなたは誰から、何を学んだのだ・・・一体・・・何を・・・】

【・・・他愛ない、簡単な事だ。汎人類史は『美味い』。・・・それだけの事実をな。教わったのだ──】


最終決戦集会!天下分け目の高天ヶ原!

「高天ヶ原が侵攻されてるって!?」

 

本来の力と、何の切っ掛けを得たのか迷いを振り切ったと思われし天逆毎の反転攻勢の様を、高天ヶ原の境界を防護していた紫の報告により知らされる一同。境界付近にて召喚されたシユウの尖兵が先行して攻撃を始めているとの状況に、否応なく最終局面への移行を楽園は認識することとなる。

 

「妙な話だけれど、尖兵の指揮に殲滅の意志は感じられないわ。例えるなら、そうね・・・自分達の下へ来るのを待っている。そんな急かし方を感じたわ」

 

「自分達の下へ・・・?」

 

その指揮には攻撃の意志があれど、先の様な暴虐極まる側面はなくあくまでも侵攻、牽制・・・言うなれば催促、呼び掛けの様な緩慢さがあると紫は告げる。つくもっち部隊で渡り合えていることもそれを裏付け、シユウはあくまで中央に座し待ち構えている。──誰を待っているかの予測は、そう難しくはないものだ。

 

「そりゃ勿論、リッカや皆がイザナミの所に行く事と・・・ついでに、アタシの事を呼んでるんだろうな。あのババァは」

 

「温羅、安静になさらないと・・・!」

 

「ありがとさんよ、モモ。だが問題ねぇ、こんなもん食あたりみてーなもんさ・・・!」

 

寝台で眠っていた温羅が告げ、起き上がる。先の言葉の後、温羅の体には変化が訪れていた。温羅が喰らい力としていた妖怪達の魂達が活性化し、天逆毎へと共鳴し呼びあっているのだ。温羅はその反動を受け、腹痛を起こし不調となっているのである。ロマンやアスクレピオスの判断は共通して、『人為的に引き起こされた食あたり』であり、天逆毎が温羅の中に在る魂達を呼び集めんとしているのだと言う。治めるには、根源にして妖怪の祖である天逆毎を倒す他に道は無いとも、見解が一致しているのだ。

 

「なんと痛わしいお姿・・・。皆様、此処が天下の関ヶ原!あのシユウを突破し、天逆毎を突破し、イザナミを倒し勝利する他ありませぬ!此処が最早勝つかどうかの瀬戸際と見ました!──高天ヶ原の位置も見破られてしまった以上、土台の構築も安定は出来ないでしょう。今ある力にて、決着をつける時が来たのです!」

 

『その様だね・・・!向こうももう隠し球は残していない筈だ。後はこの三柱さえ倒せればこの戦いの勝者は決まる。此処は打って出るしか無い。防衛は今まで召喚した神様達に任せて、僕達は戦力の中枢を討ち果たすのがベストな筈だよ!』

 

ロマンの言に、皆が頷く。今こそ決着の時であり、一直線に相手の運命を定めるその時であるとの認識に誰も異を唱える事は無かった。

 

『ならば当然、主力は我等が龍しか有り得まい。我がマスターよ、存分に鋭気は養ったな!お前に、かの冥界の最深部までの到達の命を授ける!如何なる結末であろうと構わぬ、我等に相応しき引導を渡してやれ!』

 

「うんっ!任せ──あれ!?ギル!?」

 

『お戻りになられましたか、ギル・・・!姿が見えず気掛かりでしたが、何処へ・・・?』

 

「なぁに、我等は我等で愉悦を追い求めていただけの事よ。迷える者を愉快に導くも、無二の結末への必要な行事であるからな」

 

ふはは、といつものごとくに笑う王に一同は安堵し、普段通りの調子を取り戻す。在るべき所に在るべき王がいる。本当の意味での本調子は、まさにこう言った事であると理解する一同。

 

「なら、僕達はこの高天ヶ原を防衛しよう。あの狡猾な女神の事だ、手薄になった所のヒルコ様を・・・なんてやりかねない」

 

「四霊の皆様、そして私達が帰る場所を護っておくわ。だから必ず帰ってきなさいよ、リッカ」

 

サブマスター達が高天ヶ原に残り、本拠地を防衛する。最早一人では無いことを痛感する心強い申し出に、リッカは力強く頷いた。必ず帰る。帰る場所を護る戦友達がいる。その事実の頼もしさと素晴らしさを実感しながら。

 

『そして、今回において当てはまるかはまだ見えぬが──。一つ取り決めを告げておくぞ。『異聞帯の王と雌雄を決する際、必ず我が打って出る』。強制出撃枠という奴だ。把握しておくがいい』

 

「──。ギルが必ず、世界の命運を背負った決戦に挑むって言うこと?」

 

『然り。道中の奮闘と所感は貴様等のものだが、汎人類史の命運を決める大一番は必ず我が決着を付ける。これは世界の行く末を見定める我の責務にして王たる義務だ。ま、我が負ければその瞬間貴様等の歴史は敗北となるが心しておけよ?アレだ、クイズ番組におけるラスト一万ポイントというヤツだ!』

 

それは今回だけでなく、全てのロストベルトに挑む際に行われる儀であるとも王は告げる。道中の研鑽は財のものであり、世界を背負う決戦は紛れもなく自身の責務であると。敗北した瞬間に全てが消え去る戦いを自ら担い、笑って見せるその圧倒的な自負と器の巨大さに、笑いや呆れは浮かべど異を唱えるものはいなかった。

 

──責任重大ですね・・・!傍らにて支えるワタシも緊張と高揚が止まりません!見てフォウ。武者震い(カタカタカタ)

 

(大丈夫さ、キミの傍にはボクもギルもいるか──鳥肌凄いよエア!?)

 

「なら、その前にいるババァは当然、アタシだよな・・・!任せとけ、道はしっかり拓いてみせるからな!」

 

「温羅ネキ・・・!大丈──」

 

大丈夫、と言いかけた言葉を飲み込み、リッカは温羅をじっと見つめ目を見据えた。彼女は、自身の身体の不調を理解した上でそう告げた。鬼の頂点、鬼神たる彼女の言葉と決心を疑う無粋な言葉をグッと飲み込み、マスターとして信頼を告げる。

 

「──うん。天逆毎お婆ちゃんの相手は、温羅ネキに任せるね!」

 

「あぁ。──ありがとさん、リッカ。モモといい、アタシのマスターがお前様で本当に良かったぜ!」

 

「・・・マスターの、リッちゃんの決断ならば仕方ありません。必要ならば吉備団子漬けにして治癒するつもりでしたが」

 

「なんだよ吉備団子漬けって!?」

 

「必ず勝利し、凱旋してくださいね。──この期に及んで別世界の存在だからと無粋な選択をするのは、許しませんから!」

 

好敵手にして、巡り会えたかけがえの無い戦友の言葉に強く頷く温羅。鬼は決して嘘をつかない。ならば、口にした事は絶対に本当にしなければならないのだ。その信頼の強さに、鬼神の名に懸けて応えることを強く誓う。

 

「──ならば、あの魔王は吾が受け持とう。恐らくそれが、吾のこの特異点に招かれた意味だ」

 

タケルが静かに告げ、風に目を細める。──四凶を対処するために招かれたと言うならば、当然元締めであるあの魔王の対処は自身の役割と武神は告げる。今こそ、自身の本懐を告げる時が来たのだと。

 

「タケちゃん・・・」

 

「何も案ずるな、ヒルコ。──楽園の皆を信じよ。後の事は、そなたらに任せよう」

 

「・・・はい。どうか、武運長久を祈っております。誉れも高き、日ノ本の大英雄、タケちゃんや」

 

「ワフ・・・?」

 

「そんな顔をするな。必ず勝ち、必ず戻るとも。あぁ、必ずな」

 

タケルの生は猛々しく、そして儚い。彼のその言葉には、どんな意味が込められているのか。──それを慮りし優しい慈母らに、彼は静かに微笑みかける。

 

「それじゃあ皆、行こう!最後の戦い!!絶対に勝つ!!」

 

「「「「「おーっ!!!」」」」」

 

いよいよ、最後の戦いが幕を開ける。誰も欠けぬ、そして誰も哀しませぬ最良の結末を目指し楽園の財達は鬨の声を上げる。力強き号令が、高天ヶ原へと響き渡った──

 




ヒルコ「茨木様、茨木様や」

茨木「んん!?どうしたヒルコ、炊き出しの菓子なら歓迎しよう、雑談なら断る!防衛にてそれどころではないからな!」

ヒルコ「いいえ。──覚悟を決めたのです。今こそ、あなた様に託したいと思います」

「──即ち・・・!」

「はい。──かつては火具土、今は加具土と呼ばれし子を、高天ヶ原に招く事と致しますれば」

「・・・良かろう。ならば、その決意と覚悟に応える事を約束してやる。茨木童子、必ずや義理は果たすのだからな!」

「よろしくお願いいたします。・・・ですが・・・」

茨木童子「?」

「かなり・・・アンニュイかつダウナーな子なので。根気よく付き合ってあげてくださいね?」

「──にゃんと?」

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