(かのイザナギ、アマテラス、ツクヨミ、スサノオを屠りし時、私は力と共に最後の力を振り絞りし呪いを受けた。・・・)
【・・・子を為せず、老いし呪い、天に光無き呪い。月の狂気に囚われし呪い、非力なる呪い・・・】
(故に私は気狂い、鬼の一匹と成り下がり世界の在り方を定めた。イザナミの支配する黄泉へと世界を満たし、妖怪どもの楽園とした。そして・・・老いた私は愛した世界が消え去るを嘆き、世界の総てを生け贄に温羅を生み出した・・・)
【・・・狂っていようといまいと、私が成すことは変わらなかっただろう。ただ、言動が見苦しく無様になったのみ。例え若かろうと選択と行動に微塵も差異は無かっただろう】
(力を取り戻す為、若さを求めたが故に食らった桃。・・・誤算だったのは、あの桃に呪いを解く程の効力があったこと。・・・あれは・・・)
【・・・旨かったな】
天逆毎は、黄泉の飯以外を口にしたことがない。腐りきった飯に慣れきった天逆毎にとって、あの桃は初めての果実だったのだ。その味と共に・・・何の感慨も湧かなかった天逆毎に、興味が産まれたのだ。
【・・・あの温羅を変えたものはこの旨さなのか。この旨い果実を産み出すものはなんなのだ?】
天逆毎はその苛烈さと同時に思案し始める。自らが戦いし歴史の形を。
・・・その思考を無為と打ち切ろうとも、拭いされぬ果実の味わいと共に。天逆毎は思案し続ける。──知ろうとしながらも、母の意のままに振る舞うことをよしとする矛盾を孕みながら。
「あぁ、アマや・・・輝かしきアマや。あれ?なんだか知ってる大本と違う様な?もっと酷薄で性悪そうな太陽九尾だったような・・・」
『ワフ、ワン、ワゥン』
「あぁ、太陽の輝きとイメージ、そして大神信仰が結び付き形になったと!あな驚き!でもそうかぁ。どちらにせよ可愛らしいから無問題!そちらは日ノ本の守護神将門くん!タケちゃんから話は聞いておりまする!人に最も解りやすく神威を伝えしあなたも来てくださっていたのは誠心強き!まずは二柱から参りましょう!」
『愉快なりし女神なれば。助力、迷い無し』
『ワゥン!』
一人ずつ、一人ずつ丁寧に挨拶を行い交流を深めていく、幸せそうな様子のヒルコ。国造りとして高天ヶ原を整える業務すらも苦では無いらしく、満面の笑みでアマテラスをモフり、将門公の偉容に頭を下げる。その様子には、些かの邪気も介在する余地は無いと周囲に判断するには相応しいものだ。
『あの御方がヒルコ様。ナミとナギの子成しが上手くいかないが故に生まれた不出来の子・・・なーんだかイメージと違い拍子抜けですねぇ』
「全然醜く無いよねー。何がナミ様とナギ様気に入らなかったんだろ」
『神の美徳センスに期待するな御主人。美しいものが美しいのではなく神が美しいと言ったら美しいのだワン。それが万人に美徳であろうとネコに醜悪なものだろうと。哀しい神の価値観なのだな』
そういうものなのかぁ・・・。リッカはヒルコを静かに見やる。会話から察するに、彼女の姿は玉藻やアマテラスすらも見たことが無いらしい。イザナギとイザナミが共に在った太古の昔と言うのなら、無理は無いのかも知れないが・・・
「・・・あの女神は人と、神と触れ合う事を好む。生い立ちが生い立ちだからな。無礼と感じたなら吾が謝る。どうか良くしてやってほしい」
『武神、貴様があの女神を護っていたか。まるで親の御守りよな。かの怨念と怨嗟の地、生き残るに難儀したであろう』
「──日ノ本の総ては吾の地にて庇護の土地。忌み子なれど護るは当然。それが先達の務めだ」
曇天の中に響く笛を吹き、清廉の空気を高め浄めるタケル。彼は国造りの際、気流を纏める役割を担うという。戦準備の片手間に行うらしい、精神集中の所作でもある様だ。
「ヒルコ。事態に余裕はそれほどあるまい。子孫の愛しさは理解できるが、始められよ」
「タケちゃんは真面目・・・有り難し、有り難し。ならば早速始めましょう。ヒルコと皆の!八百万の神の豊葦原の神招きの儀式の」
「長い」
「それでは始めますれば!──イザナギよ。あなた様の世界をお救いください。あなた様の子孫にどうか道をお示しください。恨みつらみの黄泉のイザナミに囚われぬ、神州を駆ける風の如くにいざ奉らん──」
祈りの言葉と共に、手にした矛を厳かに振るい、優雅に静かに舞い踊るヒルコ。そしてそのまま、タケルが言葉を紡ぐ。それはかつての下総の折に、将門公とアマテラスに捧げられた祝辞の言葉を静かに紡ぐ。
「高天原に神留かむづまり坐ます。
美しく、そして麗しき言霊が駆け抜け、吹き抜け、辺りを厳かに満たしていく。そして、アマテラスと将門公との神威に応え──高天ヶ原に、変化が起きる。
「わ、わ!空が──!?」
空を覆う暗雲が、槍より放たれた光の束により切り裂かれ、撃ち抜かれ、霧散し吹き飛んでいく。姿を現すは、何処までも清らかにして爽やかな晴天。高天ヶ原を蝕んでいた邪気と障気を、一息に吹き飛ばしたのだ。
「ワゥン!ワォーーーン!!」
そしてアマテラスの傍に現れた『桜の木の芽』。この桜の木の芽に、ヒルコの矛より溢れた清らかな神水がなみなみと注がれ、幹を育て葉を生やし、満開の華を咲かせる。桜が満開すると同時に、更なる祝福が高天ヶ原へと満ち溢れていく。
『た、高天ヶ原各地の霊脈と地脈が猛烈な速度で舗装されていく!なんだこのインフラ速度は!?あっという間に浄化が進んでいく!すごい速さだよ!』
「大神降ろし・・・!大神降ろしだーっ!!」
リッカのテンションが最高潮になるも致し方無き事。これはアマテラスが得意とする神業の一つ。地を汚す邪気を祓い、美しき景観を取り戻せし『大神降ろし』。今、ヒルコと矛の効果によりかつての大神の権能が行使されていく。
呪詛に穢れた大地を、空を、花と草木が津波のように包み込み満ち溢れていく。平坦な丘と平原には湖が、山が、河が戻り、曇天は完全に快晴へと変わる。──天空に今、天照の権能が戻ったのだ。そして、此度には守護神の権能が平定される。
地響きを上げて打ち立てられるは、将門公に天照が祭られし神田明神。真紅にして大いなる神の社。それが地に荘厳なる威風と共に一瞬で奉られる。その瞬間、その地に在りし命が抱える穢れを総て打ち払った。そして同時に、反攻の要となる現象が立ち起こる。
『召喚ゲート、結実!霊脈掌握、完了!行ける、これならきっと神霊クラスの召喚に対応出来る筈だよ!』
『それだけじゃないわ。穢れを、汚染を弾く魔力が皆に還元されている・・・。これなら、あちらの障気に取り込まれる事なく活動が可能よ。将門公の固有結界・・・その御力かしら』
神の使用する権能を把握し、共に束ね、一つにし高天ヶ原に組み込む。それらの大魔術を矛に束ね自在に使役する。その驚愕的な手腕をヒルコは滞りなく行い、高天ヶ原に光明を射す。ヘッポコと言うにはあまりにも壮大かつ緻密な、ロストベルトであればこそ赦される法外な魔力の行使である。
「おぉお・・・!何てこった、一瞬きの間に富が豊かに満ち溢れるとは・・・!」
『最早聖杯など意義を為さぬ奇蹟の行使よな。それが日本の原初の国産みの矛というわけか』
「そのとーり!この矛こそは世界をかきまぜ作り上げた原初の矛!あなた様の乖離剣と起源を近しく同じくせし国産みの矛!宝具名は内緒ですが、とにかくすっごいすっごーい!矛なのです!そしてそれを思うままに振るうヒルコもまたしかーり!皆様、エビスたるヒルコをどうぞよろし(バタ)」
「ヒルコ様ぁ!?」
「神の力、権能を『混ぜる』矛の力を振るうには膨大な魔力を要する。矛が無ければ即座に消滅する程にな。・・・今は一度が限度だが、吾らの奮闘如何で推移するだろう。奮起の見せ所だ、楽園の徒ら」
「ワフン!?ワッフ、ワゥン!」
『気を確かに興す也。半ばで力尽きる事相成らん』
「皆様に・・・出来ることは・・・これくらい・・・。皆様、日ノ本の未来を・・・」
「ありがとう・・・ヒルコ様。必ず、その頑張りを繋げてみせるからね・・・!」
光を取り戻し、始まりの拠点としての力を再び備えさせ目を回すヒルコ。その極限の献身に報いることを、リッカは深く深く誓う──。
ヒルコの 八百万 建築目録!
神木桜 ←きれい!景色が美しい!ありがとう、アマや!
神田明神 ←すごい!神様の社!本当に嬉しい!
楽園の皆様のお役に立てるように頑張らなくちゃ!私は、その為に招かれたのだから!
・・・見ていてくださいませ、イザナギ。あなた様の子らは、なんとしても妾とタケちゃんが護りますれば──
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