私の住んでいるところは割と普通ですが、ニュースではとんでもない積雪を目にします。
亜熱帯とはいったいなんなのか。
ではどうぞ。
「魔力適正...全て適合無しですね。これでは魔法を使えるはずがないんですが...」
ルナが少し不思議そうに言う。
「なっ、なによ!別にいいじゃないそんなのなくても!!」
「なあ、ラン?魔法適正がなくても魔法って使えるもんなのか?」
これは前々から思っていた。魔力は誰にでもある。だが、その魔力を出力するための魔法が使えないなら無意味なのだろうか?
「そんなことないよ?例えばシルバの使ったハウルなんかは無属性の魔法だし。フォースって言う魔法は魔力をそのまま出したりする魔法だしね」
「へぇー?んで、アヅサの魔法はそう言う奴なのか」
なんかよくはわからないが、使えている以上は納得するしかないだろう。
「アヅサ。もっかい見せてくれよ。あの魔法。名前なんだっけビコーンビーコンみたいな」
「ビートルビート!あんたわざとでしょ今の!見せてやんないわよ!」
アヅサはどうやらこの魔法にプライドを持っているようで、憤慨している。
「悪かった悪かった。なんか好きな生物になってみてくれよ。」
「ふん...好きな...ねぇ。やっぱり鳥かしら。私、フクロウが大好きなのよ。ふわふわだしかっこいいじゃない?」
フクロウの可愛さはちょっとよくわからないが、黙っておこう。
「メンフクロウ」
アヅサがそう唱えると、黒ずくめだった服は一転して真っ白の色調に変わり、もっこもこの羽に包まれていた。
「どうよ?可愛いでしょ。なによりこの爪!猛禽類はほんと最高よね...」
恍惚、と言った表情をみせるアヅサは、確かに猛禽類特有の高貴さを滲ませており、なかなか幻想的な立ち姿であった
「すごいな。それになると、なにができるんだ?」
「なにがって、メンフクロウ的なことは大体できるわね。こんな感じに」
アヅサは首をグリッ!と180度後ろへと向ける。
「えっぐ!!こわいこわい!今すぐやめて!」
急なグロ映像を目の当たりにしてしまいうろたえる。今日夢に出てきたらどうする。
「なによ失礼ね...じゃあこんなのはどう?...ほっ!」
ばさっと両手を広げ羽ばたくと、アヅサの体は宙へと運ばれる。
「おおー!すごいな!楽しそうだ!暗くてよく見えんけど!」
白なのでまだ見えているが、真夜中の草原は月明かり程しか光源がなく夜目の効かないスウにはうっすらとしか認識できない。
「私からは丸見えよ。メンフクロウはとにかく目がいいわ。夜でも昼間かそれ以上に見えるのよ」
得意げに空を自由に飛び回って見せるアヅサを見て、ランが口を開く。
「なんなのこれ...一体どんな魔法制御をすればあれだけ滑らかに飛べるのよ...緻密どころの騒ぎじゃないわ。」
「え...魔法制御って何?メンフクロウよ?メンフクロウ。飛ぶに決まってるじゃない。」
僕はもちろん同意だ。メンフクロウなら飛ぶ。当たり前だ。が、他のみんなはそう思っていないようだ。
「飛ぶ魔法なんて私全然知らないです!楽しそうですねスウ様!」
楽しそうなのはお前だシルバ。可愛い奴め
「他にはこんなのもあるわよ!フグ!」
空から降り立ったアヅサは立て続けに魔法を使う。今度は容姿は元のままだが、耳のあたりからヒレのようなものが生えている。
「ふぐ...ですか?それも生き物なんですね?一体どんな能力が...」
ルナが不思議そうにアヅサの顔を覗き込む
「フグには攻撃的な能力はないわ。でもね、これに関しては超がつくほど一流よ!」
まあ僕には察しがつくが。アヅサは人差し指を立て、それをゆっくりと地面の草に近づけ、指先から黒に近い紫色の液体を一滴垂らす。
ぽたり、と落ちたそれは一瞬にして触れた草を枯らしてしまった。
「なっ!?なんなのこれ、どんな魔法を使えばこんなことが...?」
パールがとても驚いている。
「ふふ...これはフグの能力の応用ね。ちょっと疲れるけど、慣れれば大したことはなかったわ」
「これは...毒?こんな強力な毒、聞いたこともない...人なんかさっきの一滴だけで100人は簡単に殺せるレベルよ?なんなのあんた...」
ランが呆れたテンションでアヅサに問う。
「テトロドトキシン。通称フグ毒ね。300度に熱してもその毒性を失わず、その毒性は青酸カリの約800から900倍!しかも魔法で強化されたこの毒は、その効力のピークを保ち続けるわ。通常なら摂取してから24時間程で死に至るところを私の毒なら即死させられるレベルよ」
「ふぐって怖いですね...スウさんの世界も魔物だらけじゃないですか」
まあ、話だけ聞けば誰だってその反応をするだろう。だが、知っている者からすればそれはフグというよりはフグ毒の話で、一般人からしたフグのイメージは高級魚の域を超えはしない。
「ま、こんなもんね。少しは私のすごさが伝わったかしら?」
得意げなアヅサは、ふふんとスウ達を見てふんぞりかえる。
「ていうかフグ毒の話もそうだけど、この世界って科学は発展していないのか?」
前々から疑問に思っていた。魔法という技術が、科学の研究を阻害しているのだろうか。
「かがく...ってなに?それも魔法のひとつなの?」
ランが小首を傾げる。もともと知識欲の塊のような子だ。興味はありそうだ。
「えーっと、僕も詳しいわけじゃないんだが...例えば今僕らが吸ってる空気の中には酸素が含まれていてそれを使って生命維持を行なっている...とか?パールは別かもしれんが」
「ま、義務教育レベルね」
アヅサは当然、といった顔で頷く。
「酸素...?それがないと生きていけないんですか?」
シルバが問う。なんだか話が進まない
「そうだぞ。そしてその酸素は燃えるものを更に燃やす性質があってだな...こんな感じに」
スウはそう言うと、近くに落ちていた木の先に魔法で火をつけ、そこに向かって息を吹きかける。
「まあ当然こうなるわけだな」
火はスウの息によってよりメラメラと燃え、その明るさを増す。
「それが酸素ってやつのお陰なの?わけわかんない」
パールが元も子もないことを言う。
「ううーん、知らない人に教えるって難しい...」
「なんとなくだけど、わかったわ。この世界で起きる現象には理由があるってことね。で、今回はそれが酸素ってわけ」
ランは頭の回転が速いようで、少しは理解したようだ。
「そうそう。これを使えば...えーっと、空気から水素だけを抽出して...これをこうすれば...うん、できそうだな」
スウは魔法を駆使して大気から水素のみを抽出しようとする。
「詠唱は...うん。簡単だな。明日への別れを告げよ。スポイト。」
無音。まあ当然っちゃ当然なのだが、発動しているかを確かめられないので不安だ。成功はしているだろうが。
「??なにをしたんですか?なにもおこってないみたいですけど」
ルナはもっととてつもないことが起きると想像していたようで目を強くつむって耳を塞いでいたが、恐る恐る質問する。
「ああ。今、僕の目の前に水素だけがあるんだ。水素ってのは空気中に存在してて、これに火をつけると...」
「みんな、耳を塞いでた方がいいかもね」
アヅサが忠告する。知っていればなんてことない科学実験だが、僕が小学生の頃は驚いたものだ。
「火の加護を。ファイオ。」
ポンっ、とスウの手から小さな火の玉が放たれる。それはゆっくりと遠ざかり、5m程前進する。
「さて、そろそろだ。くるぞぉー」
シュッ、という音が聞こえた気がした次の瞬間、ズッパァァン!!という快音を立てて火の玉は辺りを一瞬火の海にし、そして掻き消えた。
「「「「きゃあああああ!!!」」」」
「結構でかい音でたわね。懐かしいわこの実験」
「だなー」
楽しそうに話すのは地球人二人のみである。残りの美少女たちは震えて怯えている。
「ななななななに!?なにがおこったの!?」
パールは完全に我を忘れて戸惑っている。まあ、知らなかったならこうなるのも仕方ない。
「水素に引火したんだよ。これは魔法でもなんでもなくて当たり前の現象なんだ。勉強すると結構面白いんだぞ。」
「スウさんの世界って一体どんな世界なんですか...あんな毒をもつ魔物がいてこんな現象を引き起こすのが普通って...」
「そうだなあ。取り扱いに気をつければ普通のものなんだ。その性質をしればこんなことくらいは簡単だぞ」
「それっ!それ私に教えて!!なんでもするわ!スウの知ってる科学?についてなんでも教えて!何かヒントが掴めそうな気がするの!」
「今なんでもって」
ゴン、とアヅサがスウを軽くどつく。お前、結構フレンドリーな奴だな
「わかったよ。帰ったらいくらでも教えてやる。代わりに、アヅサが街に帰っても大丈夫な案を一緒に考えてくれるか?」
「あ、ああ...そうね。でも、それなら多分大丈夫よ?一歩も城から出てないなら顔は割れてないわけだし、城の主は木っ端微塵になっちゃったっていえばいいわ」
たしかに。木っ端微塵はどうかと思うが、あれだけの事をしたのがこんな美少女一人だとは誰も思わないだろう。
「うん、じゃあ帰ろうか。すごい疲れたよ。アウッディ出してくれよルナ。翼つけるから。」
「ま、またアレで帰るんですか!?いやですぅー!!」
だだをこねるルナをなだめ、こんどはしっかりと屋根もつけて飛んで帰ったのはいうまでもない。
はいはいありがとうございます。
どうだったでしょうか今回。ちょっと寄り道も楽しいです。
ではあとがき。今回は...えーっと、この世界の科学について、ですかね。
科学といってもその概念はこの世界には無いと言っても良いです。
まあお察しではあると思いますが、魔法が発達したこの世界では、なぜ火が出るのか、なぜ息が必要なのか、なんて誰も考えません。火は魔法で出せますし、そんなに深く考えなくても良いことではあるのです。
質量保存の法則とかは普通にあるのですが、その質量が魔力で補えるこの世界は、なにもないところから何かが出てくる、なんて当たり前のことで、不思議なことほど当たり前なことなのです。
ちなみに、この世界は球体、というか普通に惑星なのですが、平面だと思っている人がほとんどで、ルナ達も例外ではありません。
またどうぞ。