チート能力持ちのありきたりな冒険   作:ぎが

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はい、ぎがです。
今回はほんとにバトルです。
毎回バトルまでが遠くて困ります。
さて、ではお楽しみください



25話 決戦

「く、暗いな...」

 

扉に足を踏み入れたはいいものの、光源と思われるものは一切なく、まだ扉の外から覗く青空が嘘のような闇であった。

 

「はい...こう暗いと戦いどころではありませんね...」

 

ルナは少し怯えているようだ。シルバは既に臨戦態勢に入っているようで、妙に落ち着いている。

 

「まあ、こう言う場合は恐らく、僕らが入って間もなく...」

 

バタァン!!

 

「ひあああああ!!」

 

五人が城へ足を踏み入れて少しすると、大きな扉は一人でに豪快な音を響かせて閉じた。

 

「うん、予想通りだ。そしてこの扉は開かなくなっている...っと。」

 

スウが扉を押したら引いたりしてみるが、ビクともしない。

 

ぼっ、ぼっ、ぼっ。

 

「ひいいいい!!」

 

扉が閉まって間もなく、畳み掛けるように城内のろうそくに火が灯る。

 

「ううーん、古風だなあ。家主は相当のボス気質とみた」

 

よくある演出のオンパレードであったため、スウは逆に落ち着いていたが、それはスウだけである。

 

「不気味ね...精神攻撃の一種かしら。」

 

パールも魔族だけあってある程度の耐性はあるようだ。

 

「しかし、外からは想像もできないくらい綺麗なロビーだな」

 

ろうそくで明るくなった城内は、とても管理の行き届いた印象を受ける美しさであった。

 

「...っ!スウ様、下がってください。」

 

シルバが、ロビー中央のどデカイ階段を見て、殺気を露わにする。その目線の先には。

 

「ふふ、遅かったじゃない。ようこそ私の城へ。歓迎するわ。」

 

そこには、スウとあまり変わらない年くらいの少女が一人、立っていた。

 

「お前がこの城の主か?出迎えとは、気が利いてるじゃないか。」

 

少女はふわりと高みから飛ぶと、スウたちの目の前へと着地する。

 

着ている高級そうなスカートから何か素敵なものが見えた気がするが、それどころではない。

 

「ええ。ここは私の城。そして、名乗らせていただこうかしら?私はアヅサ。以後、お見知りおきを。まあ、あなたたちは私に殺されちゃうんだし、覚えなくてもいいけどね」

 

アヅサ、と名乗った少女は、わざとらしくスカートをつまんでお辞儀をする。

 

「あなたがスウね?ここにやってきた騎士たちから話は聞いてるわ。あなたも地球からきたんでしょう?」

 

「ああ。僕も話は聞いてるよ。自己紹介は必要なさそうだな。」

 

「ええ。あなたが来るのを待ってたわ。とりあえず聞くことにしてるんだけど、あなた、私と世界征服とかしてみない?」

 

いきなり突拍子もないことを言うアヅサ。

 

「世界の半分くれるってか?お断りだ。人からもらう自由ほと疲れるものはない」

 

「あらそう。じゃ、さっそくだけど死んでもらうわ。」

 

「僕としてはもう少し話がしたいんだが。」

 

「話っていうのはお互いの同意あってこそよ。諦めなさい」

 

そういうとアヅサは臨戦態勢に入る。

 

「四つん這い...というかクラウチングスタート?突進でもするつもりか?」

 

「ええ、そうよ。私はこれからあなたに突っ込んで吹き飛ばすわ。」

 

「何で言っちゃうのよ?来るのがわかっていればどうとでも対処できるわ」

 

パールが鼻で笑う。

 

「それはどうかしらね。」

 

「じゃ、いくわよ。チーター。」

 

ボッ。

 

スウの目の前にいたはずのアヅサは一瞬消え、10Mはあったはずの間合いを食い破りスウを壁へと吹き飛ばす。

 

「「「「!?」」」」

 

四人は驚きで声も出ない。四人からしてみれば、スウがいた場所にいきなりアヅサが現れたようにしか見えなかったのである。

 

「らぁぁ!!」

 

シルバが反射的にアヅサへと殴りかかる。しかし。

 

「あら、ハエがとまりそうね」

 

アヅサは難なくかわし、握りしめたシルバの拳をツンツンと指で弄ぶ。

 

「雷神の加護を!スパーギネル!!」

 

ランの放った雷の超級魔法は、城内全体を明るく照らす。

 

「ふふ。デンキナマズ。」

 

「なっ!?きいてない!?」

 

渾身の魔力をつぎ込んだ一撃は、アヅサに間違いなく直撃したが、服が焦げている程度で、ダメージは皆無のようだった。

 

「あら、すごい威力。この服お気に入りなのに」

 

「ラン!あなたはスウを!!ナイトメアフォールダウン!」

 

パールは鎌の形をした杖を床に突き刺し、無詠唱で魔法を発動させる。アヅサがすこし地面にめり込み、足元には黒い骨の手が伸びている。

 

「私が足止めするわ!はやく!」

 

ランは返事もせずにスウの元へと走る。

 

「あらら。重力倍加系とアンデッド系の複合魔法?こんな魔法知らないわ。でも、わたしには効かない。アリ。」

 

アヅサの体が一瞬ふわりと浮き、易々と呪縛から抜け出す。

 

「こんなのどうかしら。ハリネズミ。」

 

スウを助けに行ったランを除く3人の足元から、無数の針が飛び出す。

 

「きゃああっ!」

 

「イルカ。」

 

キイイイイ!!と、音かどうかも分からなくなるほどの高音が、3人の頭に響き渡る。

 

「うううっ!!」

 

頭をかかえ、膝をつくパール。魔力が込められているようで、魔力で構成された体を持つパールには効果絶大なようだ。

 

「...っ!ハウル!!」

 

ガアアアアアアアッッ!!と暴れ狂う猛獣を思わせる鳴き声が、アヅサの声をかき消す。

 

「覚えておいて良かったです...!」

 

まだ頭が痛そうにしているシルバの放ったハウルの魔法は魔力を空気振動にかえ、大きな声で吠える魔法である。主に威嚇として使われる。

 

「あら、声では部が悪いかしら。では、テッポウウオ。」

 

アヅサは手を銃の形にして、打つ真似をする。すると。

 

ドンッ!と、人差し指の先から高密度の水が弾ける。

 

「きゃあっ!?」

 

水の銃弾はシルバの頰をかすめ、壁まで飛んでいく。

 

「水だからって舐めちゃダメよ。金属だって貫通するんだから。」

 

「でも、一撃で終わるのもつまらないわね...そうだ、あなたたち、攻撃してきなさいよ。チャンスをあげるわ。」

 

アヅサは攻撃の手を止め、ブラブラと手を振ってみせる。余裕の表れらしい。

 

「言われなくても...!」

 

ルナが剣を取り出し、斬りかかる。

 

「なかなか速いのね。これは真面目に避けないと。ジャッカル。」

 

アヅサの避けるステップが加速する。剣が当たるどころか完全に翻弄されてしまっている。

 

「お腹がお留守よ!」

 

ドゴ、と蹴られルナが少し押し戻される。

 

「ジャッカルじゃ威力不足ね。じゃ、ゾウ。」

 

先ほどよりはゆったりとした動きでルナに素手で殴りかかるアヅサ。避けられるほどの間合いのないルナは、とっさにパンドラから盾を取り出し、構える。

 

ズドゴッ!!

 

「きゃあっ!」

 

ルナは盾を吹き飛ばされ、何Mも後方へと吹き飛ばされる。

 

「なんて威力!?それにさっきから言ってる謎の詠唱...。こいつの魔法って...?」

 

「スウ!スウ!しっかりして!!」

 

ようやくスウの元へとたどり着いたランは、スウを起こそうと回復魔法をかける。

 

「ぐぅ...ううん...いてて」

 

「よかった!みんなが時間を稼いでくれてる!」

 

「すまない...だけど、あいつの魔法...あれは...」

 

「あいつ、さっきからわけわかんない短詠唱を繰り返してるの。私の知らない魔法よ。おそらく自己強化系の。」

 

ランがわからないのも無理はないのだろう。だが、僕の世界に住むものなら、誰でも簡単に予想はつくだろう。

 

「とりあえず戻ろう。話はそれからだ。」

 

「てやああっ!」

 

シルバは拳をどうにか当てようと必死に振りかぶるが、一度も当たっていない。

 

「当たらなければ意味がないのよ?サイ。」

 

「ガハッッ!!」

 

アヅサのショートアッパーはシルバのみぞおちへと深々とめり込み、吹き飛ばす。

 

「シルバ!くっ...。ブラックテーブルクロス!!」

 

パールの唱えた呪文は、3人とアヅサの間に黒いモヤを発生させ、視界を完全に遮断する。

 

「目隠しのつもり?オオワシ。」

 

アヅサはゆっくりと両手を掲げると、そのまま大きく振りかざす。すると、とてつもない風が吹き荒れ、黒いモヤは一瞬にして消えてしまう。

 

「ルナ!シルバ!パール!」

 

スウが駆け寄る。シルバは倒れ、ルナは肩で息をしている。パールはダメージこそないが、精神的に疲れているようだ。

 

「この人、不思議な魔法を使います!気をつけて!」

 

「大丈夫?シルバ」

 

ランがシルバに回復魔法をかけている。

 

「そんなことで私を倒しにきたなんて笑わせるわね。もう、そろそろ飽きてきたわ。終わりにしましょう?」

 

「スウさん...!」

 

ルナが泣きそうな目でスウを見る。

 

「ああ、大丈夫だ。任せてくれ。」

 

「カッコつけちゃって。せめて一撃で終わらせてあげるわ。」

 

「クジラ!」

 

アヅサが手のひらをスウたちに向け、構える。

 

「雷神の加護を!スパーギネル!!」

 

スウは咄嗟に魔法を唱える。つぎの瞬間、アヅサの手からは大量の水が、スウの手からは電気が同時に放たれた。

 

水と電気が間も無く接触し、アヅサへととてつもない電力が流し込まれる。

 

「ああああああ!!!!」

 

アヅサ自体が発光しているのではないかと錯覚するほどの電気がアヅサを襲い、ぷすぷすと焦げてしまっている。

 

「なっ!?攻撃が当たった!?」

 

「す、すごいですスウ様!でもなぜ...?」

 

「いやクジラであのポーズって言ったら水噴射しかないし...それに海水は電気をよく通すんだぞ?」

 

「な、なんの話をしてるのよ...」

 

パールは困惑している。それもそのはず、この世界にクジラなんて存在しないし、化学はほぼ発達していない。

 

「まあ、基礎知識なんだよ、僕の世界では。とりあえず一件落着だな...」

 

ビュンッ!

 

「っ!?」

 

スウの目の前をなにかが通過し、城の壁へと突き刺さる。

 

「なにを勝った気でいるのよ...まだ負けてないわ!!」

 

髪はボサボサで服もところどころ焼き切れてしまっているアヅサは、鬼の形相で立ち上がり、怒りをあらわにしている。

 

「私に虫を使わせるなんてね...絶対に殺す...そして楽には死なせない....!!!」

 

戦いは佳境へと続く。

 




はい、おつかれさまでした。
今回はバトルです。描いてて楽しいです。
さて、今回の後書きは、色々あります。
まずはアヅサちゃんの容姿です。
身長は160cm前半、黒髪の二つ結びで、セーラー服を少し落ち着かせたような服を着ています。
アヅサちゃんの魔法はみなさんの想像通り「生物の力を自分に宿す」魔法で、その生物といえばこれ!といった概念を形にしています。例えばゾウは力がすごい!とかチーターは足がはやい!といった割とガバガバな概念も、魔法として自分に付与することができます。
哺乳類を好み、蟲の類は本気にならないと使おうとしません。
強いのですが、本人が蟲が苦手だからです。
またどうぞ。

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