バトルもなかなか難しいです。少しずつ上手くなっていたら嬉しいです。
では、どうぞ。
巨大なゴレイ、キリンは神聖な雰囲気を放ち、佇んでいる。
力強いその風貌からは想像もつかないほど静かな足音は、確かにスウ達の方へと近づいている。
「みんな、力を貸してくれ!」
「ですが、私はもう魔力はほぼないです...。」
「私も。多分もう大きな魔法は発動できない。」
「私もです...魔力どころか戦うこともできそうにないです...。」
「あたしは多分あと一発くらいなら発動はできる...と思う。」
皆、それぞれ口にする。
ルナ、ラン、シルバは疲弊し、芳しくない状況を報告している。
パールも強がってはいるが恐らくこれ以上の魔法の発動は命に関わるだろう。
「大丈夫。借りるのは魔力じゃないんだ。」
「じゃあ何を...?」
ルナが不安そうに聞く。
「みんなの経験を、貸して欲しい。」
経験。それは皆がそれぞれ歩んできた人生で培った全てだ。
知識であったり、魔法の使い方、思考に至るまでを借りる。それはどこまでできるかわからないが、やってできないことではない、と心の中の自分がそう告げている。
「私、キリンについては知ってる。昔本で読んだことがあるの。」
「倒し方は?」
ランはこういう時本当に頼りになる。
「キリンは常に外界から魔力を吸い取ってる。だから少しくらいのダメージなら一瞬で完治する。もし倒せるとしたら、あのでっかい体をまとめて吹き飛ばすくらいじゃないと...」
「つまりどうしたらいいんだ?」
聞かなくてもわかっている。だが、ランの口から聞きたい。そう思った。
「一撃。一撃であれを消し去るくらいの威力があれば倒せる。多分。」
一撃で倒せる威力、とはどの程度なのか。
「この木々ごと...いや、山ごと吹き飛ばすくらいの力がいる。それは、ほぼ不可能だと思う。そんな魔法は存在しないもの...。」
ランが力なく言う。
「いややってみなくちゃわからない。僕はみんなの力を信じてる。」
信じて、委ねる。何より大事な信頼、と言う力が僕を強くしてくれる。
「みんな、僕を信じてくれ。」
信じて、委ねてくれ。
「私は、スウさんを、信じます。」
「何言ってんの、最初からそのつもりだよ。」
「はい!スウ様のため、全てを捧げます!」
「あたしも協力するよ!頑張ってスウ!」
「ああ。一緒に倒そう。きっとできる。」
みんなと心が繋がった気がした。そして、スウは深呼吸すると、その逆転の一手をかけた能力を口にする。
「コレクト」
ふわっ、と五人のまわりに白い光が浮かび上がる。
「くっ、さすがにキツイな...」
スウは4人の経験がなだれ込む感覚にすこし酔いながらも、勝つための方法を探る。
「きゃあっ!?」
ルナはなにかを吸い取られた、と言う感覚に襲われヘナヘナと膝をつく。
スウの能力であるコレクトは受け渡しをする相手との友好度によってその量が大きく変動する能力だ。そして今、その量、つまり友好度は...
「コレクト・パーフェクト。すごいな。みんなのことが手に取るようにわかる。」
四人の感覚はスウの元に集結し、スウは覚醒した能力によって完璧にそれを手中に収めている。
「よし。まずはルナ。借りるぞ。」
「はい!どうか倒してください!」
ルナから受け取ったそれは、とても大きく、そして穏やかで優しい勇気。ルナの心の支えになっている暖かい感情は、強大な敵に立ち向かう勇気となってスウの背中を押してくれる。
「ラン。頼むぞ。」
「うん!任せて!」
ランからはその豊富な知識と冷静な分析力。魔力の流れが自然に体に伝わり、スウを落ち着かせてくれる。
「つぎはシルバ。」
「はい!スウ様の為ならば!!」
シルバからはその圧倒的な信頼。主張し合う5つの感情を確かに束ね、一つにしてくれている。
「最後に、パール。力を貸してくれ。」
「ええ、どーんと任せちゃって!」
パールからはその自信と魔族の特性。パールはまだ出会って日が浅いため全てとはいかないが、その特殊な力はスウの力を大きく底上げしてくれる。
「そして、最後に僕だ。」
スウの全て。五人の全て。借り受けた全てを使って、キリンを倒すため全力で準備する。
「さあ、最初で最後だ。多分、もうこれしかない。いくぞ!!」
「grrrraaaaa!!!」
大きく吠えるキリンを前に、スウは同じように呪文を唱える。
「この世の始まり、この世の終わり。」
ドクン。五人の鼓動がスウの内側から強く聴こえてくる。
「命の始まり、命の終わり。」
ドクン。その鼓動は次第に大きく、バラバラだった鼓動が少しずつ一つになっていく。
「集まり解け、全ては一つに。」
ドクン。音は一つに。スウの中に確かに束ねられていく。
「夢は今この掌に。」
ドクン。そして、完全に一つになり、スウの掌に光が灯る。
「ゼウス。」
ドッ、とその場が真っ白になり光に包まれる。なにもかもが等しくその光に飲み込まれる。
ゼウス。神の名を冠するその魔法は、スウにしか使えない神属性の魔法。かつて世界を統治した絶対神のみ使用を許されたその絶対魔法は、巨大なゴレイをたやすく包み込み、そして優しく。
そう、優しく。
消し去った。
「gaaaaaaaaa........」
そこには、山どころか草の一つも残っていない。
「勝った...?」
ルナはそう言うとふっと倒れこみ、意識を失う。
「ああ、みんなのお陰だ。」
仲良く気絶した五人をたまたま通りかかった兵士がみつけ、ギルドに連れて帰ったのは、それから2時間が経過した頃だった。
はい、お疲れ様でした。最近他のお話も書きたいと思い出しました。
たのしんでいただけると幸いです。
さて、今回のあとがきですが、ゴレイ、神獣編です。
神獣とは、この世界における最強と名高いゴレイの一つです。
彼らは他のゴレイと違い、神の手によって直接つくられた謂わば神造兵器です。
人々への試練として作り出されたそれはそれぞれ縄張りを持っています。
巨大ではありますが神獣の中でもキリンは特に小さいほうです。
神獣は魔力を常に食って生活する必要があり、他のゴレイ達を食べています。
神獣が現れるときは決まって沢山のゴレイが現れますが、ゴレイ達はこの神獣から逃げてきたという説がまことしやかに囁かれています。
神獣には神属性の魔法しか通用せず、倒す方法は物理攻撃か神属性の魔法のみです。
ギルド最強である人間はかつて他の神獣を槍の物理攻撃のみで屠り、伝説となりました。
あとからわかることですが、神獣には核となる通称「神核」が存在し、唯一の弱点となっています。ランの知識にそれがなかったのは、神獣と戦ったものはほぼ殺されていて、遠くから見た情報しか書物に残されていないからです。
またどうぞ。