バトル回です。みんなが均等に暴れてくれるのが一番楽しいのですが、なかなかそうもいきません。
楽しんでいただけると嬉しいです。
ではどうぞ。
「さて、暴れるわよ。あたしの可愛いベイビーちゃん!」
ゴワッ、と二つの影はパールの腕に従い、動き回る。
「あれはマリオネット・ワルツって言って、闇属性の魔法ね。かなり難易度が高くて、魔族以外には使えないの。遥か昔に人気のあった忍術?とかいうやつの魔法版って本には書いてあった気がする。」
ランが言う。忍術とは。それ、知ってる。
「忍術、か。魔法はなんでもありだなあ。身代わりとかもあるんじゃねぇの?」
某大作忍道アニメを思い出しながら言うスウ。
「へぇ、スウもなかなか博識ね。身代わり...魔法で言うと『シャドウ』。これも高等技術よ。他にも魔力を電気に変えたり水に変えたり...って、これは知ってるよね。」
ランは基礎知識であるところの魔法について色々話してくれている。
「そんなことよりパールさん戦ってますよ!」
そうルナが言う。そうだ。まだ戦闘中だった。
「ほらほら!!追いつけるかしら!!」
びゅんびゅんと頭上を飛び交う影はゴレイを完全に圧倒し、翻弄している。
「すごいスピードだな。あんなに早く操れるもんなの?」
「できるわけないでしょ。影を出すのに一年、動かすのに一年、思い通りに動かせるようになるのに三年、合わせて五年くらいは修行がいるね。二体同時ってなると更に倍はかかると思うけど...」
「あれは特別。とどのつまり魔族っていうのはそういう種族なの。」
ランは感心、と言ったようにパールの魔法を見ている。
「ノロマちゃん!そろそろパーティは終わりよ!!」
大きく降ったパールの腕により、影の動きは更にキレを増す。
「gggraaaaaa!!!」
ゴレイは影に目にも止まらない連続攻撃を受け、なすすべなく倒れた。
「ま、ざっとこんなもんね。」
1分もたたないうちに巨大なゴレイは倒されていた。
「す、すごいです...もう倒してしまいました...」
ルナも感心しているようだ。
「どうだった?なかなかのもんでしょ。」
「ああ。すごかったよ。本当に強いんだな。」
「そ、そうでしょ!当たり前よ!」
パールは顔を赤くして踏ん反り返っている。
ガサっ。ガサササッ!
「っ!?みなさん、危ないです!」
シルバが叫ぶと、森の中からもっと巨大で、更に三十体はいるだろうかというゴレイが姿をあらわす。
「なっ!?こんなにいるのか!?さすがに多いな...!」
森が動き出したのではないかと思うほど巨大なゴレイ達は、仲間を倒されたことに怒っているのか、既に戦闘態勢だ。
「パンドラ!」
ルナも大振りの剣を持ち、態勢を整える。
「じゃあ、そろそろ私達も頑張らなきゃね。」
「ああ。やろう。」
「スウ様、背中は任せてください!」
五人は円になり、それぞれに背中を預ける。
ゴレイの中の一体が、その巨大からは想像もつかないようなスピードで襲いかかる。
「パール。その魔法、借りるぞ。マリオネット・ワルツ!」
「そんな!?ただの人が使える魔法じゃ...な....い....?」
スウの周りには、3体の影が現れている。
「スウは特別製なの。大丈夫だよ。」
驚愕して口をパクパクしているパールにランが言う。
「てやあああ!!」
ルナがゴレイに向かって駆けていく。
その時、短いスカートが大きくまくれ、薄ピンクの可愛らしいリボンのついたパンツがしっかり見えた。
「スカートは目に毒だ...」
何度みたかわからないその布は、何回見てもドキドキしてしまう。
「goaaaa!!」
ゴレイはルナに手を切断され、大きな声をあげる。
それを見ていた他のゴレイも、一斉に襲いかかってくる。
「神の葉の一雫。祝福の雨となりて降り注げ。ラレイン!」
ルナの魔法は、前方のゴレイを二体まとめて吹き飛ばす。
「おおおりゃああああ!!!」
シルバは手に付けたガントレットでゴレイを殴る。ゴレイの腹には大きな穴が開いて向こうがしっかり見えてしまっている。
「さて、僕も。踊れ影達。」
スウの作り出した影は人型の風貌から死神のようなローブを被ったガイコツの様になり、ゴレイをその鎌で大きく切断する。
そのゴレイ達との戦いは、およそ15分程で終わった。
「ふうー、疲れたね!なかなか手強かったよ」
「はい、なんとかなりました。」
「むきゅー、もう駄目です、疲れましたああ...」
「私はまだまだいけるよ!」
皆それぞれの感想に述べ、終わった戦いの感傷に浸っていた。スウも同様である。
「ま、このレベルなら問題なく倒せるな。次はもっと強いやつにしよう。」
そう言い、ギルドに持ち帰るため、動かなくなったゴレイの枝を集めようとしていた次の瞬間。
ゴゴゴゴ....
森全体が大きく揺れる。
「!?地震か!?」
「待ってください!何か聞こえます...。」
ルナの耳が可愛か動く。
「シックスセンス。...なにかが遠くから迫って来ているような...?」
ダダン、ダダン、ダダン...。その揺れはだんだん大きく、リズミカルになっていく。
一瞬。急に夜になったかと錯覚するような暗転があり、ふと上を見上げる。
「こっ、これは!?」
ズガアアアアアン!!
大きな音を立てて目の前に降り立ったそれは、とてつもなく大きな...
「ご、ゴレイ...。しかもこのサイズ...」
ルナは怯えるように震えている。
「grrrr.....」
突然降って来て唸っているそれは、とてつもなく大きな、まるで、そう。昔本で見た神獣のような...
「キリン!!特定危険種のゴレイ!!なんでこんなところに!?」
ランが叫ぶ。
「おおき、すぎます...」
シルバも尻餅をついている。
「こ、こんなの倒せっこないわ...」
強気だったパールも、不安を隠せない。
「みんな戦いの後で疲弊してる...こんな状況でこんなやつ...」
ここに来て二度目に感じる絶望。前回よりも濃厚な死の予感。
ルナは魔法を使いながらの戦いで疲弊、ランは魔法の連続使用による軽い魔力欠乏症。シルバは元々体力が無いので疲れているし、パールは最初に飛ばしすぎたせいで大きく肩を揺らし息をしている。
「戦えるのは僕だけ...か。」
絶望的。果たして僕一人でどれだけ戦えるのか。
「goaaaa!!」
ゴレイはとてつもない威圧感を放ち、今にも飛びかかってきそうだ。
「スウ...。」
「スウさん...」
「スウ様っ!」
「スウ...っ!」
怯えた四人は泣き出しそうな顔をスウに向けている。
守らなくては。
どうすれば...どうすればいい...こいつに勝つためには...みんなを守るためにはっ!!
スウは自分の持てる力をどう使えば勝てるかを考えた。
「....これしか、ない。」
「スウさんっ!!」
ルナが叫ぶ。
「みんな、できるだけでいい。僕に力を貸してくれ!!」
スウがそう言い、みんなに言い放つ。
太陽はまだ照っているが、大きな影がそれを阻んで暗い雰囲気を醸し出していた。
はい、ありがとうございました。
今回はどうだったですか?なんか質問とか感想とかあれば聞きたいです。
では、今回のあとがき。今回は魔法の発動について。
魔法は生命力を魔力に変えて発動するもの、と言いました。
たしかに理屈はそうなのですが、本来はもう少しややこしいです。
生命力を魔力に変える作業は体内で行います。これのスピードや正確さで魔法の威力は大きく変わります。
魔法を使うには魔力を詠唱によって形を変えて放つ必要があります。
前回と矛盾するようですが、生命力を魔力に変える作業は燃料を掘り出す作業、詠唱は燃料を原油に変える作業、魔法発動はその魔法によってガソリンや重油、軽油と言った形に変える作業のイメージです。
火属性であれば作った魔力を詠唱によって火属性の形の魔力にかえ、放ちます。
そのため、無詠唱、超短詠唱の魔法はその人物がもつ元々の魔力の属性になりがちです。
ちなみに、魔力を魔法にせず、そのまま放つ「フォース」と呼ばれる技術もあり、威力は、弱いものの、すごい速さで発動できます。
魔法を使う人の基礎練習にも用いられ、魔力を図る測定方法としても有名な技術です。
では、またどうぞ。