チート能力持ちのありきたりな冒険   作:ぎが

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こんばんは。ぎがです。
今回は新しい子登場です。こいつら、全然冒険しない。
しなくてもいいよね。別に。
たのしんでいってね。


13話 世界とは

「おはよーございまーす!」

 

「おはようございます、スウさん。」

 

「ん、おはよう。」

 

朝になった。あまり眠れてはいないが、みんな回復魔法で元気なので、あまり問題はない。

 

「さて、さっそくギルドにむかうか。」

 

ちなみに、宿の代金は冒険者手当で一人20カッパーだ。ランは宿屋のご厚意でタダにしてもらった。

 

「はい!いきましょう!」

 

「うん!」

 

足取りも軽やかに、街へと繰り出す。

 

「今日もいい天気だなあ。」

 

ここにきてから、雨をあまり見ない気がする。運がいいのか。

 

ジャララ...

 

「ん?」

 

何か金属を引きずるような音がする。音のする方へと目をやる。

 

そこには、鎖に繋がれてうつむき、汚い布切れを着た女の子が、裕福そうなオッサンに引っ張られていた。

 

「なっ!?」

 

僕にもこれくらいなら知識がある。あれは...

 

「...奴隷ですね。」

 

奴隷。ファンタジーではお決まりである。主人の所有物として使役される者の総称だ。

 

「胸糞悪いわね...でも、わたしたちにはどうすることも...ってスウ?」

 

僕は、体が勝手に動いていた。奴隷など、この世界では普通に存在し、誰もその存在を否定はしないだろう。

 

後から知ることになるが、事実、この街は奴隷によって支えられている節がある。

 

だが、僕には関係ない。許せない。なぜならその子は...

 

「美少女!!!」

 

美少女なのである。美少女は自由でなければならない。今決めた。

 

助けなければ。

 

「待って!」

 

ルナがスウの手を握り、止める。

 

「あの男の胸にある勲章、見えますか?あれはこのオリンポスでも有名な貴族のものです。そんな男に手を出したら、簡単に首が飛んでしまいます!」

 

「だからって見過ごす訳には...!」

 

そうだ。見過ごす訳にはいかない。美少女の顔は今にも泣き崩れそうだ。絶望し、諦めきっている顔。だが、泣くことは許されない。

 

奴隷だから。

 

誰もがそう思っている。あの美少女すら。

 

「スウ、あの人を助けたい?」

 

「当たり前だ!」

 

ランが冷たい声で聞く。

 

「...わかった。私ならできる。この状況を覆せる。でも、確実じゃないかもしれない。それでもやる?」

 

「......当たり前だっ!!」

 

あの子を助けなければ。あんな顔は見ていられない。

 

「スウ、昨日言っていた貴方の能力...それを使って、私に魔力を送ることはできる?」

 

「多分出来る。いや、やる。」

 

「そんな、無茶です!バレたら終わりなんですよ!?わたしたちだけじゃない、ここにいる人たちみんなが殺されてしまいます!」

 

ルナがこれだけ取り乱しているのだ。本当にそうなるのだろう。

 

「わかってる...でも、やらなきゃ...。あの子は一生不幸なままだ!」

 

覚悟を決める。元いた世界でも持ったことのないような感情の昂りを感じる。

 

ランの雰囲気が、重く、冷たく沈んでいくのがわかる。

 

「........わかりました。なら、わたしにも協力させてください。」

 

ルナが優しく微笑む。この子は本当に優しい子なのだろう。

 

「パーティ、ですから。」

 

「ありがとう...」

 

身勝手に付き合わせてしまう申し訳なさに、ごめん、と心でつぶやく。だが、いまのルナに言ってしまえば、それはもう侮辱に当たるだろう。

 

「わたしの魔法にスウの能力があれば、きっとできる。いい?チャンスは一回だからね。」

 

ランは準備ができたようだ。

 

「ああ。やろう。」

 

「トゥルーラック。ハードポテンシャリー。ゴットノウズ。マジックエンチャント。マナポーション。エンシェントラバー。」

 

ルナが唱える。

 

「これが私にできる全てです。スウさんとランさんをできる限り強化しました。どうか、あの子を救ってあげてください。」

 

強化魔法。ルナは、自分で魔法が苦手だと言っていたはずだが、知識は本物のようだ。ルナは一気に魔法を唱えたせいで魔法欠乏症でふらりと座り込む。

 

「ありがとう。ラン、いくぞ。」

 

「コレクト。」

 

スウは、自分が持てる力の全てをランに渡す。全て、と言っても、スウの全部の半分程度であったが、今できる最高だ。

 

どわっ、とランの周りに魔力が満ちる。

 

「っ!?スウ、あなた本当に何者なの!?」

 

ランは今まで感じたこともないような魔力量に、驚きを隠せない。

 

「でも、これならいける。見せてあげるわ、天才の実力ってやつをね。」

 

ランはスウとルナの期待に応えるべく詠唱を開始する。

 

「其は人知の礎。世界の理を我が掌でもって覆さん。全ての真実を我がものとせよ。」

 

超超級魔法。それは誰も届きえないと言われた、「使えない魔法」として存在のみを世界に知らしめる禁断魔法である。

 

ランは、覚えてはいたが使い方がわからず、更に使用魔力量はランが100人いたとしても遠く及ばない魔法を、初めて口にする。

 

神の炎(ホムラ)。」

 

世界が一瞬、色を失う。

 

ランを中心に、灰色の世界が広がっていくようだ。

 

「「!?」」

 

止まった世界が動き出す。

 

そこは、紛れもなくさっきと同じ世界である。人々は、 いつもの生活を、思い出したかのように継続する。

 

「どうなった!?」

 

スウは、ランに問う。

 

「大丈夫、成功よ。」

 

成功。成功とは何を指すのだろう。

 

さっきの奴隷は...?

 

「っ...!」

 

奴隷のいたところを見る。

 

そこには、裕福そうなオッサンが一人、っているのみである。

 

「いない!?」

 

奴隷は忽然と姿を消している。

 

「あの子はどこに!?」

 

スウはバッ、とランの方を見ようと、振り返る。

 

バフッ。

 

「んぶぉっ!?」

 

柔らかい感触がする。

 

「スウ様ああああ!!!」

 

聞き覚えのない声がした。

 

「なっ!?」

 

そこには、先ほどまで絶望を顔を染めていた美少女が、泣きじゃくりながらスウに抱きつく姿があった。

 

「スウ様、スウ様ぁぁぁ!!」

 

なんだ、これは。名も知らぬ奴隷だった少女が、教えてもいない自分の名を口にしている。

 

「成功って、言ったでしょ?」

 

魔力欠乏症によって顔色の悪いランが、得意げにしている。

 

「わたしの魔法で、世界を変えたの。」

 

「その子はあの魔法を唱えた瞬間から、ただの普通の女の子。名前は私があの一瞬で教えたの。」

 

「世界を、変えた?」

 

何を言っているのか。

 

「あの、君の名前は...?」

 

スウは、混乱する頭で、自分の胸で泣く少女に問う。

 

「私は、あなたの奴隷ですっ!」

 

答えになっていない。

 

そして、僕の奴隷らしい。

 

世界は、それでもいつものようにうごいている。

 

 

 

 




はい、読んでいただきありがとうございます。

今回はいい感じでしたね。(誘導)
さて、今回のあとがきは魔法、応用編です。
魔法にはいくつかクラスのようなものがあります。
火の魔法の時におはなししましたが、初級にはじまり、魔法には等級が存在します。今回はちょこちょこ出ている超超級魔法について。
超超級魔法とは、はるか昔に存在していた、とされるド級の魔法です。
この世界に流通している魔法は、誰かが使うことを考え、できる限り簡略化された方程式のようなものが存在し、それが詠唱、ということになっています。
超超級魔法は、「理屈としてはできるんだけどなあ」といったことを魔法で表現したはいいものの、誰も使えない魔法です。
ランちゃんは一度見た魔法は忘れません。それは書物で見たものも例外ではなく、詠唱は覚えていたということになります。
他にもたくさんの超超級魔法がありますが、覚えてもあまり意味はないです。使えないので。
技術、魔力も足りないはずのランちゃんがつかえたのは、スウの圧倒的な魔力量と、適正によって技術が底上げされたためです。
ちなみに、底上げしてもランちゃんには使えるか微妙でしたが、ルナちゃんのトゥルーラックという魔法で上がった運によって、たまたま成功してます。みんなは気付いてませんが。
長くなってしまいました。あとがきはあくまで補助的なことを書いているので、面倒でしたら飛ばしていただいて大丈夫ですよ。(見てくれればもっと楽しいかも?)
またどうぞ。

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