今回は新しい子登場です。こいつら、全然冒険しない。
しなくてもいいよね。別に。
たのしんでいってね。
「おはよーございまーす!」
「おはようございます、スウさん。」
「ん、おはよう。」
朝になった。あまり眠れてはいないが、みんな回復魔法で元気なので、あまり問題はない。
「さて、さっそくギルドにむかうか。」
ちなみに、宿の代金は冒険者手当で一人20カッパーだ。ランは宿屋のご厚意でタダにしてもらった。
「はい!いきましょう!」
「うん!」
足取りも軽やかに、街へと繰り出す。
「今日もいい天気だなあ。」
ここにきてから、雨をあまり見ない気がする。運がいいのか。
ジャララ...
「ん?」
何か金属を引きずるような音がする。音のする方へと目をやる。
そこには、鎖に繋がれてうつむき、汚い布切れを着た女の子が、裕福そうなオッサンに引っ張られていた。
「なっ!?」
僕にもこれくらいなら知識がある。あれは...
「...奴隷ですね。」
奴隷。ファンタジーではお決まりである。主人の所有物として使役される者の総称だ。
「胸糞悪いわね...でも、わたしたちにはどうすることも...ってスウ?」
僕は、体が勝手に動いていた。奴隷など、この世界では普通に存在し、誰もその存在を否定はしないだろう。
後から知ることになるが、事実、この街は奴隷によって支えられている節がある。
だが、僕には関係ない。許せない。なぜならその子は...
「美少女!!!」
美少女なのである。美少女は自由でなければならない。今決めた。
助けなければ。
「待って!」
ルナがスウの手を握り、止める。
「あの男の胸にある勲章、見えますか?あれはこのオリンポスでも有名な貴族のものです。そんな男に手を出したら、簡単に首が飛んでしまいます!」
「だからって見過ごす訳には...!」
そうだ。見過ごす訳にはいかない。美少女の顔は今にも泣き崩れそうだ。絶望し、諦めきっている顔。だが、泣くことは許されない。
奴隷だから。
誰もがそう思っている。あの美少女すら。
「スウ、あの人を助けたい?」
「当たり前だ!」
ランが冷たい声で聞く。
「...わかった。私ならできる。この状況を覆せる。でも、確実じゃないかもしれない。それでもやる?」
「......当たり前だっ!!」
あの子を助けなければ。あんな顔は見ていられない。
「スウ、昨日言っていた貴方の能力...それを使って、私に魔力を送ることはできる?」
「多分出来る。いや、やる。」
「そんな、無茶です!バレたら終わりなんですよ!?わたしたちだけじゃない、ここにいる人たちみんなが殺されてしまいます!」
ルナがこれだけ取り乱しているのだ。本当にそうなるのだろう。
「わかってる...でも、やらなきゃ...。あの子は一生不幸なままだ!」
覚悟を決める。元いた世界でも持ったことのないような感情の昂りを感じる。
ランの雰囲気が、重く、冷たく沈んでいくのがわかる。
「........わかりました。なら、わたしにも協力させてください。」
ルナが優しく微笑む。この子は本当に優しい子なのだろう。
「パーティ、ですから。」
「ありがとう...」
身勝手に付き合わせてしまう申し訳なさに、ごめん、と心でつぶやく。だが、いまのルナに言ってしまえば、それはもう侮辱に当たるだろう。
「わたしの魔法にスウの能力があれば、きっとできる。いい?チャンスは一回だからね。」
ランは準備ができたようだ。
「ああ。やろう。」
「トゥルーラック。ハードポテンシャリー。ゴットノウズ。マジックエンチャント。マナポーション。エンシェントラバー。」
ルナが唱える。
「これが私にできる全てです。スウさんとランさんをできる限り強化しました。どうか、あの子を救ってあげてください。」
強化魔法。ルナは、自分で魔法が苦手だと言っていたはずだが、知識は本物のようだ。ルナは一気に魔法を唱えたせいで魔法欠乏症でふらりと座り込む。
「ありがとう。ラン、いくぞ。」
「コレクト。」
スウは、自分が持てる力の全てをランに渡す。全て、と言っても、スウの全部の半分程度であったが、今できる最高だ。
どわっ、とランの周りに魔力が満ちる。
「っ!?スウ、あなた本当に何者なの!?」
ランは今まで感じたこともないような魔力量に、驚きを隠せない。
「でも、これならいける。見せてあげるわ、天才の実力ってやつをね。」
ランはスウとルナの期待に応えるべく詠唱を開始する。
「其は人知の礎。世界の理を我が掌でもって覆さん。全ての真実を我がものとせよ。」
超超級魔法。それは誰も届きえないと言われた、「使えない魔法」として存在のみを世界に知らしめる禁断魔法である。
ランは、覚えてはいたが使い方がわからず、更に使用魔力量はランが100人いたとしても遠く及ばない魔法を、初めて口にする。
「
世界が一瞬、色を失う。
ランを中心に、灰色の世界が広がっていくようだ。
「「!?」」
止まった世界が動き出す。
そこは、紛れもなくさっきと同じ世界である。人々は、 いつもの生活を、思い出したかのように継続する。
「どうなった!?」
スウは、ランに問う。
「大丈夫、成功よ。」
成功。成功とは何を指すのだろう。
さっきの奴隷は...?
「っ...!」
奴隷のいたところを見る。
そこには、裕福そうなオッサンが一人、っているのみである。
「いない!?」
奴隷は忽然と姿を消している。
「あの子はどこに!?」
スウはバッ、とランの方を見ようと、振り返る。
バフッ。
「んぶぉっ!?」
柔らかい感触がする。
「スウ様ああああ!!!」
聞き覚えのない声がした。
「なっ!?」
そこには、先ほどまで絶望を顔を染めていた美少女が、泣きじゃくりながらスウに抱きつく姿があった。
「スウ様、スウ様ぁぁぁ!!」
なんだ、これは。名も知らぬ奴隷だった少女が、教えてもいない自分の名を口にしている。
「成功って、言ったでしょ?」
魔力欠乏症によって顔色の悪いランが、得意げにしている。
「わたしの魔法で、世界を変えたの。」
「その子はあの魔法を唱えた瞬間から、ただの普通の女の子。名前は私があの一瞬で教えたの。」
「世界を、変えた?」
何を言っているのか。
「あの、君の名前は...?」
スウは、混乱する頭で、自分の胸で泣く少女に問う。
「私は、あなたの奴隷ですっ!」
答えになっていない。
そして、僕の奴隷らしい。
世界は、それでもいつものようにうごいている。
はい、読んでいただきありがとうございます。
今回はいい感じでしたね。(誘導)
さて、今回のあとがきは魔法、応用編です。
魔法にはいくつかクラスのようなものがあります。
火の魔法の時におはなししましたが、初級にはじまり、魔法には等級が存在します。今回はちょこちょこ出ている超超級魔法について。
超超級魔法とは、はるか昔に存在していた、とされるド級の魔法です。
この世界に流通している魔法は、誰かが使うことを考え、できる限り簡略化された方程式のようなものが存在し、それが詠唱、ということになっています。
超超級魔法は、「理屈としてはできるんだけどなあ」といったことを魔法で表現したはいいものの、誰も使えない魔法です。
ランちゃんは一度見た魔法は忘れません。それは書物で見たものも例外ではなく、詠唱は覚えていたということになります。
他にもたくさんの超超級魔法がありますが、覚えてもあまり意味はないです。使えないので。
技術、魔力も足りないはずのランちゃんがつかえたのは、スウの圧倒的な魔力量と、適正によって技術が底上げされたためです。
ちなみに、底上げしてもランちゃんには使えるか微妙でしたが、ルナちゃんのトゥルーラックという魔法で上がった運によって、たまたま成功してます。みんなは気付いてませんが。
長くなってしまいました。あとがきはあくまで補助的なことを書いているので、面倒でしたら飛ばしていただいて大丈夫ですよ。(見てくれればもっと楽しいかも?)
またどうぞ。