伝説になんてなれないけれど。   作:puc119

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女王の領域
始まりの村


 

 

 

「おーし、そんじゃ大剣の使い方についてまた教えていくぞ」

 

 あのアイルーの里から離れて少し。シャルの前には3匹ほどのアイルーが道案内ってことで歩いている。

 そんなアイルーに先導してもらい歩いている道は、今まで俺たちが歩いてきたものよりもずっと道っぽくない道だった。多分、大丈夫だとは思うが、本当に人間の住む里へたどり着けるのか不安だ。

 まぁ、この道を使っているのもアイルーくらいなのだろうし、ちゃんとした道を歩かせてもらえるとは思っていなかったが。

 

「あー……お勉強かぁ、お勉強はなー、ちょっとなー」

 

 そして、俺の言葉を受け、随分と渋い表情となったシャルルリエ。勉学を好みそうな性格でもないし、何かを考えるっていうことが苦手な性格。ただ、それじゃあちょいとマズい。いくらシャルの腕が良いとしても必要最低限の知識が必要なんだ。

 

「ハンターとして必要なことだぞ?」

「うむ、聞きましょう」

 

 異常なほど素直な性格ってこともあり、理解さえできれば大きな力となってくれるはず。

 ただ、コイツはアホだからなぁ……頭が悪いわけじゃないんだろうが、アホなんだよなぁ……

 

 まぁ、とりあえず今分かっていることを教えていくとしよう。

 

「まずだな、シャルが使っている武器……まぁ、俺のことなんだが、大剣っていうんだ」

 

 シャルは俺のことを剣と呼んでいたが、ハンターが使う剣にだっていくつかの種類がある。片手剣、双剣、太刀、剣斧、盾斧、そして大剣といった感じ。

 今、その全部を理解する必要はないが、自分の使っている武器の特徴くらいは覚えておいた方が良いだろう。

 

「んで、その大剣なんだが、一発一発の攻撃がかなり強い代わりに、動作が遅いっていう特徴を持っている」

 

 大剣は手数で攻撃する武器じゃない。数打ちゃ当たるの理屈が通らず、ただ一発に全てをかける武器。そして、その一発はどんな武器にだって負けないだろう。大剣はそういう武器だ。

 

「ただな、その攻撃ってのも当てりゃ良いってもんじゃないんだ。今まで何度も言ってきたが、溜め斬りをすることでやっと火力を出すことができる」

 

 何度も言うが、大剣なんて溜め斬りさえできればもう後は何だって良いくらいだ。大剣はそんな武器なのだし、何かを考えることが苦手なシャルには合っているかもしれない。

 ま、その溜め斬りがなかなか上手く当てられないんだけどさ。

 

「うーん、それは私もなんとなく分かってるんだけど、なんか上手く溜められない」

 

 それは俺も一番悩んでいることだよ。

 前回、大剣について教えた時は、まだシャルがブレイヴスタイルということをまだ知らなかった。そのせいでやたらと遅い納刀のことばかりが気になってしまっていたが、納刀の方はどう仕様も無い。今、考えなければいけないのはどうやったら溜め斬りをできるかってこと。

 

「そのことだが、お前はちょいと特殊でな。ある程度の時間が経過しないと溜め斬りができない体質なんだ」

 

 もしかしたら、ブレイヴ状態となる前から溜め斬りができるかもしれんが、俺はその方法を知らない。ホント、他のスタイルだったら色々と教えられたんだが、ブレイヴスタイルだけはなぁ……

 

「なんと、それは知らなかった。……あれ? じゃあ、私ダメじゃん」

 

 今のままじゃな。

 ただ、きっと何か良い方法があるはずなんだ。どうにかしてその方法を知りたい。

 

「確かに初速……あー、戦い始めたばかりはあまり強くない。けれども、溜められるようになった時――ブレイヴ状態となれば一気にお前は輝く。それに、イナシができるのもかなりでかい」

「んー……イナシってのはあのバシュンってなるやつのこと?」

「そうバシュンってなるやつのことだ」

 

 大剣は他の近接武器と比べ、モンスターに張り付くことが少なく、被弾することも多くない。それでも、イナシができることで溜め斬りを当てるタイミングはずっと増えるだろう。ギルドスタイルだった俺からすると正直、かなり羨ましい。

 

「アレのやり方は分かってるか?」

「うん。ししょーを背中に担ごうとする時にできるよ」

 

 よしよし、それは良かった。イナシができるってだけで、被弾はかなり減るはず。

 

「それで、溜められる状態になるにはどうしたらいいの?」

「あー、それが俺にも分からないんだよなぁ。ある程度攻撃をすれば良いってのは分かるんだが」

「えー……ししょーってわりとポンコツだよね」

 

 こら、傷つくからそういうこと言うのやめなさい。これでも傷つきやすい性格なんだ。

 いや、だって仕様が無いじゃん。ブレイヴスタイルだけは本当に分からないのだから。

 

 

 その後も強溜め斬りからの薙ぎ払いや、斬り上げなんかも教えたが、やはり言葉で説明するだけでは難しい。ま、戦いの中でコツを掴んでいくのが一番なんだ。

 今回はそういうことにしておこう。

 

 それからはもう教えることも諦め、いつも通りシャルと雑談をしながら、アイルーの後を歩き続けた。

 そして、そろそろ太陽も沈み始めるんじゃないかって頃のことだった。

 

「おおっ? なんか見える!」

 

 俺にはまだ見えないが、シャルが何かを発見。多分だが、件の人間の住む里とやらが見えたってことだろう。

 そうやってシャルが騒ぎ出してから、少しばかり進むと、漸く俺にもそれが見えてきた。山の麓へ隠れるように存在しているため、少々見つけ難いが、確かに建物が見え、その建物の煙突からは煙が出ているのも見えた。つまりそれは人間が住んでいるという証拠。

 ただ、その里の規模は残念ながら大きくなさそうだ。まぁ、シャルのいた村と比べればかなり大きいのだろうけれど。

 

 そんな里が見えてきたところで、此処まで案内をしてくれたアイルーたちともお別れ。

 ほとんど丸一日かけての道案内ありがとな。多分、今後お前たちアイルーの力を借りる時がくるはず。その時はまたよろしく頼むよ。

 

 アイルーたちと別れてからシャルは走ってその里へ向かった。

 そんな里の入口には『エークノーム』と書かれた大きな看板が。そのエークノームってのがこの里の名前なんだろうが、残念ながら聞き覚えはない。そもそも俺のいた時代にこの村があったのも分からんが。

 

「人が……たくさんいるっ!」

 

 里の中へ入ると、シャルがこれまた大きな声をひとつ。

 

 シャルは人がたくさんいると騒いでいるが、実際はそんなことない。どちらかといえば人は少ない方だろう。町というよりも、村といった感じ。ただ、シャルの暮らしていた里と比べれば確かに人や建物の数は多かった。

 なんとものんびりとした空気が流れていそうな村ではあるが、それなりに活気はあるらしく、其処彼処から賑やかな声も聞こえてくる。これなら飯屋や宿くらいはあるだろう。せっかく人間の住む村まで来たんだ。色々な情報を集めつつ、ゆっくりするのも悪くない。

 

「ここがドンドルマかぁ。でっかいなぁ、人がいっぱいいるなぁ」

「いや待てシャル。此処はドンドルマじゃないぞ? てか、入口の所にでかでかと『エークノーム』って書いてあっただろうが」

 

 どう考えたら、此処がドンドルマになるというんだ。

 ドンドルマはこの村と比べ物にならないほどの大都市。俺もドンドルマで何年も生活をしていたが、それでもドンドルマの全てを知っているわけじゃないくらいだった。

 ……そんなドンドルマに着いたとき、シャルはどんな反応をしてくれるのだろうか。

 

「そうなの? でも、いっぱい人がいるよ?」

「まぁ、うん、そうなんだが……えっとな、お前のいた里がちょっと特殊なだけで、普通の村ならこれくらいの人は住んでいるものだぞ」

 

 現在のこの世界にいる人間の数は分からないが、多分俺のいた頃とそれほど変わってはいないだろう。モンスターと比べたら確かに人間は弱い存在だ。けれども、そう簡単に消えるような種族じゃない。

 俺はそう思っているよ。

 

「そんじゃ、この村を探索しつつ、とりあえず泊まれる場所は探そう」

 

 村の入口で騒いでいたせいか、村の住人の視線を感じる。別に悪いことをしているわけじゃないが、変に目立つのはあまり良いことじゃないだろう。

 まぁ、格好が格好だし、このシャルがそんなおとなしくしているとも思えんが……

 

「りょーかいです!」

 

 とりあえずは宿の確保。んで、それができたら飯を食べることのできる場所を探して情報収集って感じにいきたい。情報集めといったら酒場になるわけだが……まぁ、酒場くらいは流石にあるか。

 

「あっ、そうだ。シャル、お前ってお金を持ってるのか?」

 

 大事なことを忘れていた。宿に泊まるにも、飯を食うにしてもお金が必要。この時代の物価はどんなものなのやら。

 

「えっと……お金?」

 

 首を傾げられた。

 

 ……さて、これはどうしたものか。

 

 

 

 

 

★ ★ ★

 

 

・第1章

・エークノーム

 

 現在のエークノームはシャルルリエの像や大きな祭りの影響もあり、観光地として賑わいを見せている。しかし、彼女がそのエークノームへ訪れた時、大都市から大きく離れていることや特産物に恵まれていなかったことなどもあり、賑わいを見せていたとはいえない状況であった。そのエークノームが彼女の人生を大きく左右するほどの場所となる。

 現在も残っているシャルルリエに関する資料は少ない。しかしながら、このエークノームには彼女に関する最も古い資料が残っていた。つまり、シャルルリエの歴史はこのエークノームから始まったと考えても過言でないだろう。

 また、エークノームにてシャルルリエは唯一無二の親友となる竜人族の少女――ミリィ・スチュアートと出会うこととなった。

 

 


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