伝説になんてなれないけれど。   作:puc119

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跳べ

 

 

「あーもう! それずるいぞ!」

 

 再びその姿を消してしまったケチャワチャに対してシャルルリエが叫んだ。

 

 少しでもダメージを受ければ周りにいるネコたちが回復笛を演奏してくれる。また、応援ダンスや、鬼人笛の演奏などのサポートはばっちし。

 とはいえ、今回は長く厳しい戦いになるだろうと思っていた。

 

 ただ、この状況はちょっとなぁ……

 いくら長く厳しい戦いになると思っていてもこういうことじゃないんだ。

 

「おっ、やっと出てき……冷たっ!」

 

 太陽光すら遮るほど鬱蒼とした森。そんな中、ケチャワチャが其処ら中に生えている木の上を飛び回るせいで、その姿をまともに見ることもできない。

 そして、やっと出てきたと思ったら、今、シャルが喰らったような水弾を飛ばしてくる。

 ……俺があの水弾を喰らった時は結構痛かったと思うんだが、どうやらシャルに対してはそこまでのダメージがないらしい。それは優秀な防具を身に付けていることだけが要因ではないだろう。この少女、色々とおかしいんだ。

 

 まぁ、それは良いとして、それにしても、本当にこのケチャは鬱陶しいな。これだけ木が生えているのだし、相手のホームグラウンドではあるが、こっちからほとんど攻撃できないこの状況はかなりキツい。

 ようやっと姿を現したかと思えば、先程のような水弾を飛ばすか、その大きな尻尾で木にぶら下がったまま引っかき攻撃をしてくるくらい。攻撃チャンスが本当に少ないんだ。

 さらに、何が鬱陶しいかって、コイツ攻撃が当てた後、俺たちへ見せつけるかのように手を叩いて喜びやがる。その姿は腹立たしいったらありゃしない。あと、個人的にその長い鼻も嫌いだ。

 

 木にぶら下がっている状態のコイツへの対処法は、操虫棍やガンナーで直接攻撃、閃光玉で目を眩ませる、あとは音爆弾などを使い大きな音を出すこと。そうすれば直ぐに叩き落すことができる。

 閃光玉はなく、ガンナーもいない。しかし、今一緒に戦っているアイルーたちの中にはボマーがいた。だから、そのアイルーに頑張ってもらいたいところなんだが……

 

『この爆弾はボクたちの持つ技術の結晶ニャ。いくら雨が降ろうと爆発でき、水の中でも大丈夫なのニャ! さらに! 超消音効果も持っているニャ!』

 

 とのことだそうだ。ボマーネコがいるってのに、やたらと静かだと思っていたが、そういうことらしい。いつか、その技術力が実を結ぶ日の来ることを願っているよ。

 雨や水中でも使える爆弾は良いと思うが、音のしない爆弾って需要はあるのだろうか……

 

「うー……怒った!」

 

 この戦いを始めてからどのくらいの時間が経ったのかは分からない。けれども此処でシャルのスキル、本気が発動。シャルルリエの右腕から青い光が弾けた。

 ここで力の解放が発動したのは美味しいが、如何せん攻撃を当てられないからなぁ。一度でも良いから叩き落すことができればかなりのダメージを稼げるとは思う。さて、どうしたものか。

 

「ねぇ、ししょー。こういう時はどうすればいいの?」

 

 ちょい待って。俺も一生懸命考えているから。

 アイテムによる叩き落としは無理。相手はリーチの長い大剣でも届かない位置。ホント、困ったものだよ。

 

「むぅ。こうなったら、ししょーをぶん投げて……」

「待て、シャル。それはダメだ」

 

 ギリギリで保っている世界観が崩壊するからそれだけはやめてくれ。ハンターは武器を投げちゃいけないのだ。そういう決まりなのだ。

 

 うーん、シャルがエリアルスタイルだったり、段差でもあれば飛んで攻撃できるのだがそれも……ああ、なるほど。段差、か。それならいける可能性があるじゃないか。

 

「おい、誰でも良いからトランポリンをおける奴はいないか?」

 

 確か、ネコの技の中にそういうものがあったはず。実際に使ったことはないが、どんな武器だろうと、その場で飛び上がることのできるトランポリンを設置できる技が。

 

 そして、そんな俺の声を聞いてから、アイルーたちが動き出し、ニャーニャー言いながら直ぐにトランポリンを設置してくれた。てか、3匹全員が設置できた。あらやだ、トランポリン大人気だ。

 

「おおー! なにこれ、なにこれ!」

「シャル、それを使って飛び上がれ! んで、あのケチャワチャに攻撃を叩き込め!」

 

 これで攻撃自体は届くようになったはず。ぶら下がっている状態のケチャは直ぐに落ちてくるし、あとは攻撃を当てるだけだ。

 

「これすごい! めっちゃ飛べる!」

 

 そして、設置されたトランポリンを使いピョンピョンと跳び、楽しそうな声を出すシャルルリエ。

 

 ……あの、シャルちゃん? 楽しんでいるところ申し訳ないんだけど、一応ソレ、ケチャワチャに攻撃するための物だからね。それは忘れないでね。

 そんな調子でトランポリンを楽しむシャルの様子を見てか、アイルーたちまでトランポリンを使い意味もなく、ピョンピョン跳び始めた。すごい光景だった。ああ、うん。皆が楽しそうで何よりです……

 

 しかしながら、全く意味がなかったわけではなく、ピョンピョン跳んでいるアイルーへ水弾を当て、ケチャワチャが手を叩き喜んだ。

 それはトランポリンを使えば十分に届く距離。

 

「今だシャル! 跳べ!」

 

 そんな俺の声を聞く前に動き出していたシャル。そして、アイルーが設置してくれたトランポリンを使って跳躍。そして、未だ手を叩き喜んでいるケチャワチャへ攻撃をぶち込んだ。

 

 いくら溜め無しの攻撃とはいえ、やはり尻尾だけでぶら下がっている状態は不安定だったのか、そんなシャルの攻撃を喰らっただけで叩き落とされたケチャワチャ。

 

「チャンス! ラッシュかけろ!」

「がってん!」

 

 このケチャワチャには随分と遊ばれてしまったが、さて、反撃開始といこうか。

 

 

 叩き落され、バタバタともがくケチャワチャへシャルがひたすらに攻撃。まだ溜め斬りはできないが、アイルーたちの協力や爆発も重なりかなりのダメージを稼げたはず。

 そんな攻撃を受け続けたケチャワチャだが、自分の耳をまるで仮面でも被るかのように顔を覆った。つまり、これで相手は怒り状態。

 さらに、怒り状態となったから直ぐに、ケチャワチャが大きな咆哮を上げた。

 

「お? よーし、テンション上がってきたーっ!」

 

 クックやロアルと違い、小さいながらもケチャのバインドボイスは直接聞くだけで怯んでしまうほどのもの。しかしながら、シャルはそのバインドボイスを見事にイナた。

 

 多分、偶然だとは思う。丁度、納刀とのタイミングが重なっただけ。けれども、そんなイナシをしたところでシャルの身体から青白い光が。

 ここに来てやっとブレイヴ状態。

 相手は攻撃力が上がり、動作の速くなる怒り状態だが……この状態のシャルなら負ける要素がない。

 

 つまるところ、この勝負は俺たちに勝ちってこと。

 

 

 

 

 

 

 

「よしゃー、おらー! 倒したぞー!」

 

 両爪を使っての引っかき攻撃。それを上手くイナしてからの、最大まで力を込めた強溜め斬り。そんな攻撃をケチャの顔面へ叩き込んだところで相手は動かなくなった。

 その動きは俺が指示したわけじゃなく、見事としかいえないもの。

これまで、多くのハンターを見てきたが、この少女はハンターとしてのセンスが本当に飛び抜けている。時代が時代ならさぞ有名なハンターになっていたことだろう。

 

「ああ、お疲れ様シャル」

 

 とりあえず、無事ケチャワチャを倒したシャルへ労いの言葉を。一緒に戦ってくれたアイルーたちも、なんだかよく分からん踊りをして喜んでいる。

 

 とはいえ、また考えなければいけないことも増えてしまった。それは俺がブレイヴスタイルことについて詳しくないことが原因。

 確かに、ブレイヴ状態となったシャルは強い。危険度の高いモンスターやG級のモンスターが相手となれば厳しいだろうが、このケチャワチャくらいの相手なら無双できるくらいだ。また、まだ2回しか見ていないため何とも言えないが、ブレイヴ状態となったシャルの溜め速度はやたらと速い。このシャルに集中スキルは付いていないはずだし、多分、それがブレイヴスタイルの特徴なんだろう。

 

 しかし、如何せんそのブレイヴ状態となるのが遅すぎる。これまでのように、初っ端からラッシュをかけてこないような相手なら問題ないが、そうじゃないモンスターなぞいくらでもいる。そんな奴らを相手に今のシャルが戦うのはちょいと厳しいだろう。正直、シャルならブレイヴスタイルよりも俺と同じギルドスタイルの方が絶対に強い。ブレイヴ状態にならなければ溜めることができないってのは、それほどに大きいんだ。

 だから、できるだけ早くブレイヴ状態になれる方法を知りたいんだが……どうしたもんかねぇ。

 

 まぁ、そればっかりは戦いを繰り返し探していくしかないのだが。他にできることといえば、シャルへ現在分かっている情報を教えてやるくらいだろう。

 現在のシャルは知識などなく、ほとんど感覚だけで戦っているが、それはよろしくない。少なくとも、イナシやブレイヴ状態くらいは教えておいた方が良さそうだ。

 やらなきゃいけないことが多いねぇ。

 

 ま、“ししょー”なんて呼ばれている身なんだ。やれることはやるさ。

 

 


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