玲士がグリゴリへと来てから約10年が経つ、人間に対し好感情を持つアザゼルらに対し、人間を見下していたコカビエルですら改心し、戦争よりも玲士の成長を見守るほどに興味深い対象へとなっている。
場所はグリゴリ総督室、そこに玲士チームのメフメラとトスカ、アザゼルとシェムハザ、コカビエルが揃っていた。
アザゼル「よし…フリードのやつは今別件でいないが玲士に関係する奴は大体揃ったな?」
トスカ「うん!アザゼル総督さん、今回はどんな用事ですか?」
シェムハザ「それについては私から、実は半年前から進めていた玲士くん用の人間界拠点が完成しましたのでお披露目と言う事で皆さんで見に行ってもらおうと思いまして。」
メフメラ「…っ?なら玲士さんに話さなくてもいいの?」
アザゼル「サプライズってやつだ、建てた場所が建てた場所だからな。」
コカビエル「全く、あそこは悪魔の管理する土地だというのにめんどくさい事をしおって。」
トスカ「っ?悪魔の管理地に…?どうしてそんな危険な場所に?」
シェムハザ「実はですね―――
ということなのですよ。」
メフメラ「じゃあ、そこに玲士さんを連れて行って驚かせる、と言う事?」
コカビエル「そう言う事だ…それと着いていくのはメフメラ、お前だ。二人共行ったら聖剣計画の元メンバーが心配するからトスカはグリゴリに残れ。」
トスカ「むう、フリードも今駒王町にいるのに私だけお留守番なのー?まあ、みんなを纏めないといけないからね、分かったよ。」
メフメラ「で、でも私、この耳が…。」
普通の人とは違う獣の耳、メフメラは不安の表情になりながらその耳を触る。
アザゼル「それについては問題ないぜ、グリゴリの科学力は三界一ってな。」
そう言いながらブレスレットを取り出し、メフメラへと手渡す。
シェムハザ「幻覚の魔法を含んだブレスレットです、以前二人に取ってきてもらったクローバーを基に実験を繰り返しアンチマジックキャンセラーを搭載してありますから一部の魔法に適正のある人間にも耳を見られることはありませんよ。」
メフメラ「現地の悪魔の方にも…ですか?」
アザゼル「アルマロス印だからな、効果は折り紙付きだ。こんな寂しい所で暮らすだけじゃなく人間界での暮らしにも慣れておくこった。」
コカビエル「後はそうだな、現地の…む。」
玲士「近衛玲士、ただいま到着しました。」
話している最中、玲士が部屋の中へと入ってくる。
トスカ「お、特訓は終わったの?リーダー。」
玲士「ええ、先ほど終わり、こちらへ来るように言われたので汗を流してから来ました。」
アザゼル「そうか、玲士、来てなんだがお前に人間界での滞在を命じる。同行者はメフメラだ、人間界での生活をしながらフリードのサポートにまわれ。」
シェムハザ「拠点に関してはメフメラさんに教えておりますので別の拠点を経由してからそちらへ。」
コカビエル「『教会』の堕天使共については連れ戻してほしい所だが…既に事をやらかしていた場合はお前に任せるぞ。」
玲士「了解しました、フリードさんと連絡を取り合いながら対応しますね。それでメフメラさんなのですが耳の方は如何しますか?」
メフメラ「え、えっとそれならこのブレスレットを付ければ…どう、でしょうか?」
ブレスレットを付けると同時に獣の耳が消えて人の耳が見え始める。
トスカ「おおー!完全に元通りになったね!」
玲士「ええ、これなら人間界でも問題ないでしょう。」
メフメラ「良かった…これで玲士さんと一緒にいれる…。」
アザゼル「…んー、玲士、もっとこう、何か言う事は無いのか?綺麗になったとかよ。」
その言葉に玲士は首を傾げる。
玲士「っ?メフメラさんは獣の耳があろうと無かろうと綺麗で美しいですよね?」
堕天使勢「「「ごっぶぁ」」」
トスカ「流石リーダーだなぁ…。」
メフメラ「え、あ、あ…あう。」
玲士の言葉に堕天使の3人は思いっきり噴き出し、トスカは遠い目となりメフメラは顔を真っ赤にして俯く。
玲士「っ?では行ってきますね、魔方陣展開、メフメラさんこちらへ。」
メフメラ「は、はい…!」
状況が理解出来ぬまま玲士は魔方陣を展開し、メフメラを傍へと寄せる。
アザゼル「…あー、とりあえず頑張って来い、情報では朱乃の奴もいるらしいからちゃんと生活してるか一応は連絡してくれ。」
玲士「分かりました。では転移します。」
言い終わると同時に魔方陣が輝き、二人はその場を後にする。
アザゼル「…あいつある意味凄いよなぁ…俺の息子として育ちながら素であんな発言をしやがる…。」
コカビエル「反面教師だとか言う奴だな…ヴァーリの奴も似た感じだからな。」
シェムハザ「…と、とりあえず3人が無事作戦を終える事を願いましょう。」
トスカ「早く私も人間界に行きたいなぁ…。」
二人が転移した後、総督室は微妙な空気に包まれていた。
場所は人間界…転移した後に電車に乗り、駒王町へと降り立った二人はある場所へと徒歩で向かう。
玲士「駒王町ですか…懐かしいですね。」
メフメラ「玲士さんの故郷…なのよね?」
玲士「ええ、いつか落ち着いたら来ようと思っていましたが任務で来るとなるなんて。」
そう言いながら玲士は寂しげな目になる。
メフメラ「玲士さん…。」
玲士「…っと、少し湿っぽくなってしまいましたね。道はこちらで?」
メフメラ「あ、う、うん、こっちで合ってるわ。…あ、見えてきた、かな?」
玲士「…え?そんな、あの場所は…あの家は…。」
人間界における玲士たちの滞在拠点、そこに有ったのは懐かしき我が家と寸分の狂い無く建つ家であった。
メフメラ「実はシェムハザさん達からで…玲士さんにプレゼント…っ!玲士さん、涙が…。」
その顔を見ると、静かに涙が頬を流れていた。
玲士「…え、あ…本当ですね…。義父さん達は本当に…ああ、私は…帰ってきたのですね…。」
過去を思い出した悲しみ、そして…帰ってきたという喜びに流れた涙をぬぐう。
玲士「ただいま…父さん、母さん。そして…。」
そう言いながらドアの前まで移動し、メフメラの方へ向き直し。
玲士「駒王町へようこそ、メフメラさん。」
微笑みながらメフメラへと告げる。
さあ、舞台は整った。
此よりは二人の転生者によって狂った世界の物語。
本来所持すべきではない物までもを所持し、本来の主人公の立ち位置に立った己が欲望を叶えようとする男。
その男に家を、家族を、己が命を除く全てを奪われてなお、恨むことなく罪を認めさせようとする男。
二人の道はぶつかり合い、対立する。
次回、『聖なる双子。』
幕を上げよ、開演の刻は来た。