その男、グリゴリの戦士なり   作:雪原野兎

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第4話 ヒト。

…恐らくは森の中だろうか、走っているのだろうか景色が過ぎていく。

 

私の目ではない、誰かの目から見た景色なのだろうか。

 

走る、走る、走る。

 

後ろから声が聞こえてくる、追われているのだろうか、怒声が含まれているのが分かる。

 

捕まれば全てが終わると分かる声、故にこの者は逃げ続けているのだろう。

 

しかし…唐突に他の声も聞こえてくる。

 

    化物

                    近寄るな

 

        あっちに行け

 

人外が

 

     死ね

                         死ね

            死ね               

                 死ね

死ね

 

その声とは別に、中より聞こえるような声が聞こえてくる。

 

私はただ、みんなの役に立ちたかっただけなのに…。

 

聖剣を使えればみんなの為に悪いものと戦えると思ってたのに…。

 

選ばれたと言われてみんなと別れて連れてこられた場所は地獄で…。

 

体はいじられ、埋め込まれ、人間では無くなり、バケモノにされて…。

 

逃げ出すチャンスがあった、こんな生活は嫌だと逃げ出した、しかし逃げた先で私は現実を知った…。

 

行く先々で出会う人々はみんな、化け物と、人外と、私も人間だったのに…。

 

もう、嫌だ…誰か、お願い…誰か…。

 

              助けて…

 

その言葉と共に夢は覚め、目が覚める…。

 

玲士「んん…今の夢は…?」

 

白髪「おやぁ?ういっすういっす、玲士の兄貴おはっすよ。」

 

目を覚まし声がした方へ顔を向けると白い髪の青年が掃除をしていた。

 

玲士「う、んん。おはよう、フリード。」

 

フリード「なんかうなされてたみたいっすけどどうしたんすか?」

 

玲士「ん~…なんか変な夢を見たんですよね、誰かの視点みたいでたすけを求めていたんですよね。」

 

フリード「まじっすか、玲士の兄貴ってどこか変わった所もあるっすからもしかしたら本当に助けを求めてきてたりしてなかったり。」

 

玲士「もう、どっちですか…ですが、どことなく場所が分かる気がするのですよね。」

 

フリード「なら急いだほうが良いかもしれねぇっすな、俺の時もそんな感じだったんでしょう?」

 

玲士「そうですね…すみません、少々行ってきますので義父さんかシェムハザさんに連絡しておいてください。」

 

そう言いながら魔方陣を展開し、その上へ乗る。

 

フリード「うっすういっす、任されましてー。」

 

その言葉を聞くと共にどこかへと転移する。

 

 

 

場所は森の中、魔方陣が展開され玲士が降り立つ。

 

玲士「さて、砂漠で小さなものを探すレベルですが助けを求める方がいるのであれば探しませんとね、『夢幻召喚』。」

 

槍を持った男が描かれた金色のカードを取り出し、叫ぶと脛までの長さを持つ貫頭衣を纏う。

 

玲士「…様々な生物の反応…走る方の反応は…こちらですね。」

 

地面から伝わる気配を感知し、した方へと滑り始める。

 

滑り始めること数分後、視線の先に木の陰に隠れる白銀の髪が目に映る。

 

玲士「いました…あの。」

 

女性「ッ!?」

 

近づいて声を掛けるがその瞬間、女性はびくっと反応して即座に後ずさる。

 

女性「だ、誰…?追手、ではない…?」

 

玲士「私は近衛玲士と申します、あなたはここで何を?」

 

女性「私は…い、いえなんでも、無いです…。気にしないで…。」

 

玲士「ですが――」

 

男A「見つけたぞ!」

 

女性「あっ…。」

 

いきなり男の声が聞こえ、した方へと向くと銃を構えた白衣の男達が居た。

 

男A「ん?なんだ女が一緒にいるのか?」

 

男B「見られたからにはそのまま返すわけにはいかねぇなぁ?」

 

玲士「貴方の、追手ですか?」

 

女性「ごめんなさい…ごめんなさい…巻き込むつもりは無かったのに…。」

 

玲士「大丈夫、私に任せてください。」

 

男C「あぁん?やる気か?きひひ、これが見えねぇのか?俺達は銃を――」

 

玲士「足元注意ですよ。」

 

男`s「「「へっ?」」」

 

男達が足元へ視線を向けた瞬間、即座に男達の間を縫うように滑り抜ける。

 

男A「ちぃっ!何もないじゃ――」

 

視線を戻し、銃を向けた瞬間、滑り抜けた地面より光の鎖が射出され、男達を縛り地面へと縫い付ける。

 

男D「がっ…な、なんだこれは…!?」

 

男B「くそ、動けねぇ!」

 

玲士「こちらです!」

 

女性「あっ…。」

 

動けないのを確認し、女性をお姫様抱っこして滑って逃げ始める。

 

女性「あ、あの…。」

 

玲士「大丈夫でした、か…おや?」

 

追手が来てないか確認をして女性の顔を見ると頭を隠していた帽子が飛ばされていた為に、人間にしては異様な頭部が見える。

 

玲士「…獣の、耳?」

 

女性「あっ…み、見ないで…。」

 

それを見られたことに女性は恥ずかしさではなく恐怖の表情で耳を隠す。

 

玲士「よい、しょっと。…その耳は、どうされたのですか?」

 

女性を降ろしながら聞くが女性は耳を隠すように抑え謝り続ける。

 

女性「…ごめんなさい、ごめんなさい…私、私…。」

 

玲士「っ…大丈夫、私はあなたを拒絶しませんよ。あなたが、助けを求めたのですね。」

 

女性「…えっ?」

 

その言葉に、女性は首を傾げる。

 

玲士「夢で、あなたの声が聞こえた気がするんです、『誰か、助けて』と。あはは…おかしな話ですよね。」

 

女性「…っ、で、でも私…人間ではなくなってしまって…。」

 

玲士「大丈夫ですよ、私の知り合いの方に人間ではない方もおりますから。」

 

女性「あなたは、一体…?」

 

玲士「改めて自己紹介を、私は堕天使陣営の近衛玲士と申します。あなたのお名前を教えていただけませんか?」

 

女性「…えっと、私の名前は…メフメラ、です…。」

 

玲士「メフメラさんですね、もう大丈夫、共に行きましょう。こちらであればあなたを否定する方はいませんよ。もしいたとしても、私があなたを守りましょう。『あなたは化物ではありません、ヒトなのですから』。」

 

その言葉を聞くと、メフメラは目より涙を流し始める。

 

メフメラ「私が、ヒト…うっ、あ、ああ…。」

 

泣き続ける彼女をゆっくり抱きしめ、頭を撫でて落ち着かせる。

 

彼女が泣き続けて十数分後、ようやく落ち着きを取り戻し、現在の状況を理解して顔が真っ赤に染まる。

 

メフメラ「あ、ご、ごめんなさい…私、泣き続けて…。」

 

玲士「構いませんよ、落ち着いたみたいですね。」

 

メフメラ「あ、うう…ありがとう、ございます…。」

 

玲士「では行きましょう、メフメラさん。」

 

メフメラ「は、はい…!」

 

魔方陣を展開し、共にその上へと乗ると同時に輝きだし、二人はその場を後にする…。




手を差し伸べてくれる人は誰もいなかった。

みんな私を化け物と呼ぶ中、『彼女』だけが私をヒトと呼んで手を差し伸べてくれた…。

もう、誰もいないと思っていた。

もう、私は死ぬと思っていた。

救われた命、救われた心、私は…貴女の為に尽くしましょう…。

次回、グリゴリのひと時。

今日は、一人で寝るのは少々心細いです…玲士さん、隣、お邪魔しますね。

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