月の兎は何を見て跳ねる   作:よっしゅん

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あと数話ほど本編を投稿したら、番外編の方も投稿したいと思ってます。
せっかくリクエストをしてくれた方がいたので……


第13話

 

 

 

 

 

「ゆ、幽々子様、流されるままここまで来ちゃったんですけど、結局私は何をすれば……?」

 

「もう、まだ気が付いてなかったの? これは修行よ修行、いつまでも半人前のあなたのために、こうして異変を解決させて成長させようという私の粋な計らいなのよ?」

 

「そ、そうだったのですか! ではこの魂魄妖夢、全身全霊を持って敵を斬り伏せます! ……して、結局私は誰を斬れば……?」

 

「んーそうねー……じゃあ妖夢と同じ白髪のあのお姉さんにしましょうか。強そうだし……間違って妖夢が本気で斬り捨てても『死ななそう』だし」

 

 そういって亡霊らしきピンク髪の女が私を扇子の先で指した。

 

「ん、もしかしてなくても私のことか? いやはや、別に私は異変とやらには全く関係ないんだが……」

 

 ……でもまぁ、別に構わないか。

 元より今日は少し暴れたくて輝夜を訪ねに来たのだ。

 その相手が変わっただけの単純な話だ。

 

「せっかくのご指名だ、やるからには互いに手加減はなしだぜ?」

 

「えぇ、あなたには何の恨みもありませんが私の成長のため、ここで斬らせていただきます」

 

「ふーん、斬殺かぁ。良いね、それで私を『殺せたら』死んでも感謝し続けるよ……あぁ、でも殺しはダメなんだっけかこのルール」

 

「……? よくわかりませんが、参りますっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、幽霊どもが始めたようだな。では私たちはこの銀髪女を頂くとするか、咲夜よ」

 

「はぁ、何か理由があるのですか?」

 

「ほら、お前と同じ髪色じゃないか」

 

「別に同じ髪色の相手と戦えなんてルールはないですよお嬢様」

 

 ……どうやら私の相手は吸血鬼と呼ばれる妖怪と、その従者になるらしい。

 

「……博麗の巫女と妖怪の賢者が来るのはまぁ予測できたわ。けど、何故あなたみたいな何の関係もない妖怪がここに来たのかしら? 観光なら他所を当たって頂戴」

 

「くく……なに、最初は不快な月を堂々と空へ打ち上げた犯人にお灸を据えてやらうと思ったんだが……まぁあれだ、気が変わった」

 

「何がどう変わったのかしら?」

 

「あぁ、どんな手を使ったかは正直専門外で分からないが、その方法を知りに来た。月を自在に操れるその力……夜の王であるこのレミリア様が持つに相応しいと思わないか?」

 

「思わないわね、さっさと帰って頂戴」

 

 目的は割と合点がいっている……が、言葉の節々に強さが感じられない。

 つまりこの吸血鬼は、単なる『暇つぶし』に来ただけの可能性が高いようだ。

 そんな奴に付き合っている暇は私にはない。

 

 私はもう迷わない、迷うわけにはいかない。

 だから迷わず自分の意思を信じて、この異変を起こした。

 全ては『彼女』のために……

 

「そうか……なら力づくというやつだな。行くぞ咲夜」

 

「はい、お嬢様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、余った私達はこの兎が相手ね。私はさっさと贋作の月の魔力を解明したいだけだから手早く……魔理沙?」

 

 何故か人形のようなものを周りに浮かせている金髪でショートヘアーの魔法使いらしき妖怪が、様子が少し変な相方の魔法使いを気にかける。

 

「……なぁ、私とお前、どっかで会った……よな?」

 

 当の本人はそれを全く気にせず、自分を真っ直ぐに見つめてそう聞いてきた。

 うーん、まぁ会ったことは何度もあるのだが……主に人里で。

 それと迷子になったとき、大きな筍を一緒に探したり出口に連れてってあげたり。

 とはいえ、人里に行くときはいつも変装してるし、唯一変装なしで会った時も、彼女はだいぶ幼かったので覚えてなくて当然だが。

 

「知り合い?」

 

「……いや、やっぱ気の所為だったぜ。気を取り直して妖怪退治再開といくか」

 

 そして持っていた箒に跨り宙を飛ぶ魔理沙。

 成る程、頭の上にある黒のとんがり帽子も含めて、彼女は形から入るタイプなのかと察する。

 何故なら、その姿は絵本に出てくる魔法使いの様な格好だったから。

 

「さて、こういう時は名乗りをあげるのが常識だったか? 私は見ての通り普通の魔法使いだぜ。性は霧雨、名は魔理沙、お前を撃ち倒す者だ。別に覚えなくて良いぜ」

 

「それ、何の常識なのかしら……」

 

 と、辛気臭い空気を吹っ飛ばし、高らかに自己紹介をする普通の魔法使いさん。

 

「……あー、無反応はそれなりにきついんだが?」

 

「呆れてるんじゃない?」

 

「うるさいぜアリス」

 

 あの人見知りで臆病だった子供が、何故こんな風に成長したのか疑問に思っていた所為で、反応が遅れてしまった。

 とは言うものの、声は出せないし……とりあえず拍手でもしておこう。

 

「良かったわね魔理沙、哀れみの拍手よ」

 

「だからうるさいのぜ、お前もお前でちゃんと声を出せ、勿論日本語でな」

 

 無茶を仰る。

 出来るのならとうの昔にやっているというもの。

 

「あー? 急に首を横に振ってどうした?」

 

「……ねぇ魔理沙、もしかしてあの兎、喋れないんじゃないかしら」

 

 すると、必死の素振りが通じたのか、妖怪の方の魔法使いが推測を口にしてくれた。

 それに対し、首を何度か縦に振る。

 

「な、なんだよ……! それならそうと早く言えって、一人で喋ってて馬鹿みたいだったぜ」

 

 少し恥ずかしそうにそっぽを向き膨れる彼女は、まだまだ年頃の少女を思わせた。

 申し訳ない、この距離だと筆談しても字が見えないだろうし、近くに寄るわけにもいかないものなんで。

 

「ふん、なら力づくで喋らせてやるぜ。負け犬の遠吠えってやつでな!」

 

「あいも変わらずパワー馬鹿な発想ね、魔法も弾幕もスマートじゃなきゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたわね、黒幕」

 

「あら酷い、目を合わせるなり黒幕と断定するなんて」

 

「違うの?」

 

「いえ、合ってるわよ。異変を起こすと考え付いたのは私ではないけど、一応立ち位置的には黒幕だからね。私を倒したら月は元に戻っちゃうし」

 

「そう、じゃあ退治しなきゃね」

 

 ぶんっと風を切る音がした。

 巫女がその手に持つお祓い棒に喝を入れるかの様に振ったからだ。

 

「それよりここに来たということは、他のみんなはもうやられちゃったのかしら?」

 

「さぁ、遊びに来てた他の連中に押し付けて来たから、今頃派手にやってるんじゃない?」

 

 それにしては来るのが速すぎる。

 永遠亭内部は鈴仙の能力により迷宮化されてるし、罠だって沢山あったはずだ。

 

「別に、適当に進んでたらあっという間にここに着いただけよ」

 

 ……成る程、今代の博麗の巫女はどこかおかしいらしい。

 もしくは博麗の巫女は全員おかしいのか。

 

「……月のお姫様、あなたを倒す前に聞きたいことがあります。何故こんなことを?」

 

 と、今まで静寂を決め込んでいた八雲紫が口を開いた。

 

「あら、私たちが異変を起こすのは予想外だった? でもそうね……確かに異変を起こす必要がない選択肢もあったわ。けど私達はそうしなかった……なんでかあなたにはわかるかしら?」

 

「…………」

 

 当然わかるわけがないだろう。

 スキマ妖怪は確かに鈴仙のことを気に入っている節がある。

 しかしそれはあくまで幻想郷というものにどんな影響を与えてくれるのかという面においてだ。

 

 対して私達……特に永琳は、鈴仙という存在を『愛している』。

 月にいた頃も、鈴仙に会うまでの間も、八意永琳は心から笑った事がなかった。

 心にぽっかりと大穴が空いて、それを埋める事すらできなかった。

 そんな彼女の心の隙間に入り込み、塞いでくれたのが他でもない、鈴仙という兎なのだ。

 

 鈴仙が来てから永琳はよく笑うようになった。

 

 たとえ鈴仙が言葉を話せなくても、それに構わず鈴仙に話しかけ続ける彼女を見た。

 時々、どこか嬉しそうに、またはどこか悲しそうに鈴仙を見つめる彼女を見た。

 苦手だというのに、たまにはお返しがしたいと言って一生懸命鈴仙のために料理を作ろうと努力する彼女を見た。

 いつも鈴仙が出掛けると、ソワソワと玄関近くで帰りを待つ彼女を見た。

 

 そんな私の恩人でもある永琳……彼女の幸せの為に私は異変を完遂させる。

 邪魔者(月の連中)を寄せ付けない為に月を永遠に閉ざす。

 それが唯一、彼女に私からあげる事ができる恩返しだ。

 

「……わかるわよ」

 

「え……?」

 

 スキマ妖怪の代わりを務めるかのように、博麗の巫女が言葉を発した。

 

「なんとなくだけど……あんたらが何か大切な事の為に異変を起こしたのと、危害を加える気はないんだなって」

 

「霊夢……」

 

 巫女の口は閉じない。

 

「でもね、これは異変なのよ。異変だというのなら、例えどんな理由があろうと、誰が起こそうと関係ない……博麗の巫女として、私はそれを解決しなくちゃならない」

 

「…………」

 

「単なる暇つぶしに異変を起こした奴がいた、桜を咲かせたいからと異変を起こした奴もいた。そして今大切な事の為に異変を起こした奴等がいる……理由はそれぞれだけど、私のやる事は変わらない」

 

 ……嗚呼、成る程。

 

「悲しい運命を自ら背負うのね……博麗の巫女というのは」

 

 なんと愚かで、なんて人間らしいのだろうか。

 

「そんなの当たり前よ、だって私は『博麗霊夢』なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貰った!」

 

 ズンっと、身体に『弾幕』と呼ばれる弾が当たる。

 対したダメージではないが、少し痛い。

 成る程、これが公平な決闘ルール、誰も死ぬ事がないスペルカードルールによる非殺傷の痛みか。

 

「へへっ、ようやく一発だな。素直に褒めてやるぜ、私の弾幕を初見であそこまで避けるなんて」

 

 それはどうも、自分攻撃を避けるのは割と得意なもので……

 それにしても、まさか依姫様との強制特訓の成果が、ここまで役立つとは思わなかった。

 ありがとう依姫様、可能なら二度とあなたとは特訓したくないです。

 

「余所見は禁物よ」

 

 そして側面から追撃が入る。

 何とか避けるが、これは思っていたよりも中々キツい。

 

 片方が人形を駆使し、精密な弾幕で動きを制限してきて、その隙をもう片方が高火力の弾幕で的確に狙い撃ってくる。

 なんとコンビネーションに優れたペアなのだろうか。

 まぁ普通に二対一というのが辛いというのもあるが。

 

「よっしゃ、そろそろ決めるぜ!」

 

 その元気な声が自分の上空から聞こえてくる。

 声の主の魔理沙が、その右手に持ったお札状のものを高らかに掲げる。

 そう、あれがこの決闘ルールの醍醐味でもある『スペルカード』だ。

 

「恋符……『マスタースパーク』!」

 

 そして放たれる閃光。

 比喩ではなく、本当に極太の閃光が上から迫ってきている。

 というかもはや弾幕ではなく単なるレーザーではないのだろうかそれ。

 

「ちっ、かすっただけか」

 

 緊急回避はできたが、少しかすれた。

 直撃したら一発でノックダウンしてしまいそうだ。

 そして残念なことに、完全に避けきることができなかったためスペルカードの攻略ができなかったのが痛い。

 

 スペルカードルールの勝敗を決める要因は主に二つある。

 一つは、弾幕やスペルカードの技などで、どちらかが気絶などの要因で戦闘不能になること。

 もう一つは、スペルカードを全て攻略されてしまうことだ。

 

 スペルカードとは要は必殺技みたいなものだ。

 決闘をする前に予めスペルカードをいくつか用意し、それらを駆使して相手をより確実に戦闘不能に追い込む必殺技……それがスペルカード。

 しかしこのスペルカード、そうポンポンと容易に出しまくれば良いというものではない。

 スペルカードを出し、相手がそれを完全に避けきるか、攻撃を加えたりなどして発動を中止させられると、そのスペルカードは『攻略』された状態になってしまうのだ。

 攻略されたスペルカードは、その決闘では再び使う事が出来なくなる。

 加えて先程言った通り、手持ちのスペルカードが全て攻略されると、例え余力が残っていたとしても敗北となるのだ。

 なので、使うタイミングを見計らって、気を付けて使うのが普通だと思っていたのだが……

 

「ならこいつはどうだ!」

 

 そして放たれる新たなスペルカード。

 ……うん、どうやら自分の認識は違っていたのかもしれない。

 もしくは彼女、霧雨魔理沙が少し変なのか、そんなの御構い無しと言わんばかりにスペルカードの連発をしている。

 怖いもの無しというべきか、好戦的というべきなのか……どちらにせよ厄介な事この上ない。

 

「ちぇ、このスペカは避けられちまったか。やっぱりもう少し火力を……」

 

「魔理沙、危ないわよ」

 

「へ? ……うおっ!?」

 

 くっ、一瞬の油断を突いた弾幕だったのだが、直撃とまではいかなかった。

 出来ればここで一人脱落させたかったのだが……仕方ない、もう二人まとめてやるしかないようだ。

 

 自分の今の手持ちのスペルカードは全部で五枚。

 その内の四つは既に攻略されてしまっているため、残り一枚。

 つまりこの一枚で、二人を同時に倒さなくては勝機はないのだ。

 

「くるわよ魔理沙、気を抜かないで」

 

「そんな事言われるまでもないぜ!」

 

 最後のスペルカードを構える。

 口では技名を言えないので、心でその名を叫ぶ。

 これが自分の最後のスペル……ラストワードだ。

 

(『現実と幻影の波長』……!)

 

 その名を解放すると、実体のある弾幕と、実体のない幻の弾幕が入り混じって辺りにばら撒かれる。

 その名の通り、現実と幻影……本物と偽物の弾幕を同時にばら撒くのがこのスペルカードだ。

 密度も頑張れば避けれなくはないけど、結構キツいと感じるくらいの難しさはある……と思う。

 叶うなら、これで二人とも倒れてほしい。

 

「ぬぉ! なんだなんだ、当たったと思ったらすり抜けたり、またすり抜けるかと思ったら普通に被弾したぜ!」

 

「幻の弾幕が混ざってるだけよ! 落ち着きなさい魔理沙」

 

 よし、思っていたよりも苦戦してくれている。

 この調子ならなんとか……!

 

「えぇいめんどくさい、こいつで吹っ飛ばしてやる!」

 

 すると魔理沙が先程の極太レーザーを撃ってきた。

 射線上の自分の弾幕がかき消され、自分もそれに飲み込まれた……

 

「お、やったか?」

 

「……いえ、まだみたいよ」

 

 しかし、飲み込まれたのは『幻の自分』だ。

 実はこのスペルカード、弾幕だけじゃなく自分の幻もちゃっかり出したりしてるのだ。

 

「……おいおい、冗談だろ。いつのまにか五体になってるじゃないか、あの兎」

 

「本体は一つなはずだけど……一体どれなのかしらね?」

 

 ふふふ、どうやら手も足もでない様子。

 さぁ、休む暇もなく、弾幕の波に飲まれるが良い!

 

「ぐっ……! これは中々キツいな」

 

「どうする? 無闇にスペルカード発動させても、さっきみたいに無駄撃ちになる可能性が高いし、かといってこのまま避け続けても勝率は低いわよ」

 

「はっ、なら答えは簡単だ。『纏めて吹っ飛ばせ』ってな! アリス、盾役よろしくだぜ」

 

「はいはい」

 

 と、魔法使い二人の動きに変化が起きた。

 人形遣いの方が、どこから取り出したのか何十体もの人形を周りに展開させ、弾幕の弾除けに使い始めた。

 

「本当は霊夢用に考えた新技なんだがな、特別にお前から味わわせてやるぜ」

 

 むっ、くるか……!?

 

「いくぜいくぜいくぜ! 魔砲『ファイナルマスタースパーク』!」

 

(な、なにそれ!?)

 

 彼女がスペル宣言をし、手に持った八角系の物体に魔力らしき力が溜まり始めたかと思えば、次の瞬間とてつもない魔力の塊が自分と幻影達目掛けて飛び出してきた。

 名前と見た目からして、先程の極太レーザーの強化版みたいなものかと考えられるが、もはや強化の域を超えてる。

 というか人間が出せる力を過ぎてるのではないかそれ。

 

(ぐっ、しまった……幻影が)

 

 一先ず避ける事には成功したが、驚きのあまり幻影を消してしまった。

 しかし慌てる必要はない、新技という切り札を被弾なしで避けたことにより攻略できたのだ。

 落ち着いて幻影を作り直して仕切り直せばまだ……

 

「おいおい、余所見は禁物だってアリスに言われなかったか? 新技が一つだけだなんて誰もいってないぜ」

 

 え?

 

「こっちが本命ってな! 『ブレイジングスター』ァァァァ!!」

 

(は、速……!?)

 

 それはまるで、流星の如く迫ってきた。

 

 

 

 

 




戦闘シーンは無理だなと感じた今日この頃。

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