月の兎は何を見て跳ねる   作:よっしゅん

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作者の独断と偏見でキャラ設定が行われているため、読者様の中の東方キャラとは性格とかが違う可能性がありますので、ご注意ください。


プロローグ
第1話


 

 

 

 

 ———刃物は光に当てるとまるで宝石のように輝く。

 手入れを怠らなければだが……

 毎日のように刃物を手にし、毎日のように刃物で物体を切り刻む。

 そんな生活をし続けていると、他人にとっては些細でどうでもいい事かもしれないことが自ずとみえてきてしまう。

 ……ほら、みえた。

 

 それを窓から差し込む陽の光に当てると、わずかだが刀身に綻びがあった。

 これはいけない、すぐになおさなくては奴等を切り刻む事が出来ない。

 このままでも切れなくはないだろうが、この状態では完全に切ることはできず、余計な苦しみを与えてしまうだろう。

 苦しみを与えてしまえば、その後で後悔をする事になる。

 それに可能なら、一回で綺麗に切った方が気持ちが良いだろう。

 

 シャリ、シャリと、刀身を研ぎ石を使って磨き上げていく。

 既に手慣れた作業だ。

 数分でそれを終わらせ、再度陽の光に当てる。

 ……完璧だ、これでようやく始められる。

 何を始めるのかだって?

 そんなものは決まってるし、こうして刃物を持ってるんだから誰でも察しはつくであろう。

 

「…………」

 

 実はこれで切る相手はもう目の前にある。

 それは抵抗もせずに、台の上で大人しく切られるのを待っている……

 良い覚悟だ、それに応えて出来るだけ綺麗に切り揃えてあげよう。

 手にした刃物の柄を、少しだけ強く握り直しそれを振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トントン、とリズミカルな音が辺りに反響する。

 手にした刃物……一般的に、料理に使う包丁と呼ばれる調理器具でまな板の上に置かれた長ネギを切っているからだ。

 研ぎたての包丁は本当によく切れる。

 均等にネギを小口切りにし、切り終えたそれを小皿に移してから、今度は豆腐をさいの目に切っていく。

 次に乾燥させたワカメを水に浸して、元の状態に戻してから余分な水気をきっておく。

 それらを、かつお節と昆布で作った出汁が入っている鍋へと投入していき、火をつけ煮立たせていく。

 

 その後もいくつかの行程を終え出来上がったもの……味噌汁と呼ばれるそれが入った鍋におたまで汁をすくい上げ、小さい小皿に移す。

 それを唇に押し付け、口の中へと移動させる。

 ……いつも通りの味だ。

 これで今日の朝食作りは完成だ。

 

 身につけていたエプロンで軽く水気を浴びていた手を吹き、調理中は邪魔になるからと、纏め上げていた自らの薄紫色の長髪をおろすため、ヘアゴムを取る。

 すると重力に従って髪の毛が下へと落下していく。

 

(さて、みんなを起こさなくちゃ)

 

 口に出せず心でそう思いながらこの後の予定を確認する。

 ギシギシと少しだけ軋む木造の床を進みながら、今までいた部屋……台所から出て、廊下を歩いていく。

 

 やがて一つの襖の前へとたどり着いた。

 それを静かに速すぎず遅すぎずの速度で横にスライドさせると、襖の奥の景色が露わになった。

 

「あら、おはよう。ノック代わりの掛け声一つもないからちょっと驚いちゃったわ……ってそうよね、貴女は掛け声すら掛けれなかったわね。ごめんなさい」

 

 そこにはくすくすと小さい笑みをこぼす美しい黒髪長髪の少女がいた。

 詫びを入れているが、本人はからかっているつもりなのだろうと理解しているので、特に気にはしない。

 

「ん? どうしたのそんな呆気をとられたような雰囲気だして……あぁ、私が珍しく早起きしてるから驚いてるのかしら? たまには私だって早起きするわよ」

 

 そう言ってニッコリと微笑む少女はまさにこの世のものとは思えないほどの美しさだった。

 そんな少女の、まるで人形のように白くて細い手には、一冊の本が収められていた。

 ページを開いたままなので、先程まではそれを読んでいたのだろう。

 

「朝食の時間でしょ? 実は今ちょっと良いところだから、キリが良いところまで読みたいのよ。だから先に食べてて良いわよ……って、はいはいわかってるわよ。みんなで食べなきゃダメって言うんでしょ? わかったからその不満そうな無表情をやめて早く他のみんなを呼んできなさい」

 

 少女はそう言うと、読みかけの本に栞を挟み部屋を出た。

 しかし本当に珍しい、彼女が自分が起こしにくる前に起きているなんて。

 いつもなら可愛らしい寝息をたてながら布団に包まっているというのに。

 毎日の密かな楽しみがなくなったことに少し寂しさを感じながらも再び歩みを進める。

 数分も経たずに別の襖の前へとたどり着くと、また静かに襖を開けた。

 

 そしてまた珍しいものをそこでみてしまった。

 部屋の中心には、布団の上ですぅすぅと寝息を立てている女性が一人いた。

 何が珍しいのかというと、この女性は普段なら自分が起こしにくる前に起きているのだ。

 それがどうだ、この銀髪の女性は自分が襖を開けたことにすら気付かず未だに寝息を立てている。

 何年ぶりだろうか、この女性が寝坊なんて。

 そう昔の記憶を少し掘り下げながら、部屋の中へと入っていく。

 

(朝ですよ、起きてください師匠)

 

 心の中でこの女性……自分にとっては師匠な人を呼びながら、その身体を両手で軽く揺さぶる。

 しばらくは唸り声をあげていた師匠も、やがて観念したかのように上半身だけ起き上がらせた。

 

「……あぁ、もうおはようの時間なのね。ウドンゲ」

 

 そしてまだ眠たそうにうつらうつらとしている師匠をみて一つの仮説が浮かび上がってきた。

 

「……えぇ、昨夜はちょっと夜更かししちゃってね。久し振りに良い感じの薬が出来そうだったからつい熱が入っちゃたのよ……」

 

 こちらの考えていることを察したのか、師匠はその答えを示してくれた。

 しかしその答えが納得できるかどうかは別だ。

 

「ウドンゲ、別に私は一日や二日程度寝なくても平気だし、死にはしないんだからそんなに心配しなくていいのよ? だから就寝時間なんて取り決めは白紙にしないかしら……もう、冗談よ。冗談だからその無言の圧力はやめてほしいわ。次からは気をつけるから」

 

 師匠はそう言って布団から這い出る。

 確かに師匠は殺しても死なない蓬莱人という不死ではあるが、何日も不眠の状態でいたりすると普通に体調を崩してしまうのだ。

 だから就寝時間はきっちりと守ってもらわなくては困る。

 いくら不死とはいえ、健康管理はしっかりと行うべきだ。

 

 師匠が完全に起き上がって、着替えを始めるところまで見届けてから次の目的地に向かう。

 

 やがてたどり着いた、世間一般的に玄関と呼ばれる場所の引き戸を開けると、竹やぶで埋め尽くされた竹林の景色が広がっていた。

 そんな竹林の人工的に整備されたであろう道を進んでいくと、すぐに小さな小屋が見えてきた。

 そして小屋の前にはたくさんの兎が、竹やぶから僅かに差し込む太陽の光を使って日向ぼっこをしてたり、あたりを駆け回ったりしている。

 ちなみに兎というが、普通の兎ではない。

 それは人間の小さい女の子に、兎の耳と尻尾をつけただけのように見える……が、彼女たちは人間でも普通の兎でもない。

 その正体は長い年月を生きて、妖怪と呼ばれる種族になった妖怪兎達だ。

 

「あ! れーせんだ!」

 

 妖怪兎達の内の一匹がこちらの存在に気づくなり声を上げる。

 ちなみに彼女達をあえて呼称するとするなら、イナバの兎達である。

 そんな一匹のイナバの声に他のイナバ達も反応する。

 おはよーれーせん。

 ご飯の時間?

 おなかすいたー。

 あそぼーあそぼー

 

 などと、見た目は完全に人間の幼女にしか見えない彼女達の甘い声を聞いていると無性に抱き締めて頭を撫でくりまわしたくなる衝動に駆られる。

 可愛いは正義である。

 もはや我慢ができずに、近くに寄ってきたイナバの一人を抱きかかえて思いっきりハグしようとした矢先、それは起きた。

 

 突如頭上から何かが降ってきたのだ。

 もはや条件反射に近い動きで、近くにいたイナバを抱き抱えその場から少しだけ距離を取る。

 するとさっきまで自分が立っていた場所に、水が入ったバケツが音を立てて地面に激突した。

 もしあの場にいたら、間違いなくびしょ濡れになっていただろう。

 そしてこれは明らかに人為的な者の仕業だ。

 

(まぁ犯人は知ってるけどね)

 

 抱き抱えたイナバを降ろし、近くの竹やぶの中に生い茂っている茂みへと近づく。

 そして茂みの中に無造作に手を突っ込むと、何か柔らかい感触があった。

 それを握り、勢いよく腕を上げるとそれは姿を現した。

 

「いたたたた! 耳は、耳はやめてってば鈴仙! あたしが悪かったウサ!」

 

 その手には、やけに触り心地の良い大きな兎の耳が握られていて、その下には耳を引っ張られて痛がる妖怪兎が一匹。

 ただその妖怪兎は他のイナバとは違い、幼い外見はしているものの言動に幼子のような感じはせず、むしろ知的な印象がある。

 

 あーまた失敗したねー。

 リーダーも懲りないよねー。

 ほんとほんとー。

 そんなことよりおなかすいたー。

 

 そんな自分とショートヘアーの黒髪妖怪兎のやり取りをみながらイナバ達は各々口を開く。

 そう、先ほどの水バケツの犯人の正体は、この場の誰もが知っているこの黒髪妖怪兎なのだ。

 

「うさぁ……」

 

 いくら暴れても逃げられないのを悟ったのか、もはや抵抗をやめたようだ。

 ちょうど良い、このまま連れていくとしよう。

 空いている左手の人差し指と親指で輪っかをつくり、それを口に当て息を吹き込むと口笛がなった。

 そしてそれを聞いたイナバ達は自分の近くへと寄ってくる。

 そのまま歩き出すと、後ろをちょこちょことついてくる彼女達をみると心が癒されていくのを感じた。

 

 ねぇねぇリーダー、今どんな気持ち?

 悔しい? 悔しいの?

 ぷぎゃー。

 

「ぐぬぅ……まさか自分が教えた煽り方で部下達に煽られるとは……本末転倒とはこのことか」

 

 耳を掴まれたまま宙ぶらりんの体勢で悔しそうに言う。

 というか可愛くて純粋なイナバ達になんてことを教えているのだこの悪戯兎め。

 

「うさぁ!? れ、鈴仙? なんで耳を掴んでいる手に力をさらに込めるの!? いたい、まじで痛い! 耳が千切れるぅぅぅぅぅ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然だが前世の記憶というものを信じているだろうか?

 少なくとも自分は信じている。

 何故かって?

 なぜなら実際に自分は前世の記憶とやらを持っているからだ。

 ……まぁ、実際に前世の記憶として覚えていることは少ないのだが。

 限りなく少ない記憶通りなら、自分は前世ではごく普通の平凡な人間だった。

 普通の小中高生活を送り、特に将来やりたいことなんてないまま、とりあえず大学に入った。

 そしてある日、大学の帰りに不幸な交通事故でその生涯を終えてしまった……。

 それくらいしか覚えていないが、多分この記憶は前世のもので間違いないだろう。

 

 そして気がつけば、自分は月の兎……玉兎と呼ばれる妖怪兎として、月の都と呼ばれる場所で生を受けていた。

 最初は本当に驚いた、むしろ驚きしかなかった。

 その時の心情を語るとなるとだいぶ長くなってしまうので省くが。

 しかし慣れというのは怖いもので、気がつけば月での玉兎としての生活に順応できていたのだ。

 ……まぁ順応するしかなかったのだが。

 

 ともかく玉兎として日々餅を搗く仕事……なんで餅を搗くのか理由はよくわからなかったというか興味はなかったが、その仕事にそれなりのやり甲斐を覚えながらも、日々の生活を過ごしていた。

 しかしある時、ちょっとした事件があったというか起こしたというか……ともかくそのある事件をキッカケに自分は餅つきの仕事から月の使者という仕事に転職したのだが、その後も色々で様々な理由と事情があり、今では月ではなく地上の『幻想郷』と呼ばれる場所で、ここ『永遠亭』の住人達と平和に毎日を過ごしている。

 

 ———鈴仙・優曇華院・イナバ。

 それが今の自分の名前だ。

 長ったらしい名前と感じるだろうが、自分は案外この名前を気に入っている。

 

「み、耳が……大丈夫? 取れてないよねこれ?」

 

「いっそのこと本当に取ってあげましょうか? てゐ」

 

「や、やだなぁお師匠様。冗談きつい……冗談だよね?」

 

 そしてここ永遠亭のある一室では、永遠亭の主人の内一人で、赤と青を基調とした服を着た銀髪の女性……自分のお師匠様こと『八意永琳』と、これまた主人の内の一人、着物姿がよく似合う黒髪ロングの女性……通称姫様こと『蓬莱山輝夜』。

 そして悪戯が大好きな妖怪兎詐欺の『因幡てゐ』。

 最後に、薄紫色の長髪の上に、縦長の大きくてヨレヨレになっているウサ耳がついていて、どこか現代の日本の女子高生みたいなブレザー制服を着ているのが自分こと『鈴仙・優曇華院・イナバ』……この四名が一つの部屋に集まって食卓を共にしている。

 うん、見事に女性しかいないなこの空間。

 ちなみにイナバ達は永遠亭の庭で必死に新鮮な人参をかじっている。

 

「えーりん、魚の骨とって」

 

「そのくらい自分でやってください姫様」

 

「えー、だって面倒くさいじゃない魚の骨って。じゃあ鈴仙、お願いできるかしら?」

 

 そう言って可愛らしい笑顔で魚が乗った皿をこちらに渡してくる姫様。

 まったく、今回だけですよ。

 

「……貴女相変わらず輝夜に甘いのね」

 

「あら、ヤキモチかしら永琳」

 

「呆れてるのよ」

 

 そんな二人のやりとりを聴きながら、もくもくと魚の骨を取り除いていく。

 そして小骨まで完全に除去し終えた魚を姫様に返す。

 さて、それじゃあ自分もそろそろ魚をいただくとしよう。

 魚には醤油をかけて食べる主義なので、食卓の中央に置かれた『醤油』とラベルの貼られたビンを手に取り……そして気付いた。

 醤油のラベルが若干剥がれている……つまりこれは一度ラベルを剥がしてまたくっつけた跡だ。

 そして精一杯隠しているが、悪戯兎のてゐの口元が若干にやけているのが感じ取れた。

 ……なるほど。

 自分はそのまま手に持ったビンを、てゐの食べかけの魚に傾け、中身をぶっかけた。

 

「な、何をする鈴仙! あたしの魚がソース味になって……あ」

 

 しまったという表情をするてゐ。

 やはり彼女がソースのビンに醤油のラベルを張り替えた犯人だったようだ。

 因果応報、まさにその言葉が今の彼女によく似合うだろう。

 なに、ソースをかけた魚も案外美味しいから問題なく食えるだろう。

 仮にもし残そうとしたら口の中にねじ込んでやる。

 お残しは許しませんよ。

 

「くっ、けれどあたしは諦めない! あたしの生き甲斐は悪戯……たとえ何度も失敗しようが、何度でも挑戦するのが因幡てゐなのさ」

 

 そうか、では反省しない悪い子には後でお尻ペンペンの刑に処すとしよう。

 

 そんなこんなで、今日も平和な朝が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝食の時間が終わり、食器の後片付けをしてからてゐを捕まえてお尻ペンペンをしていると、師匠に呼ばれた。

 あと三十回は叩いておきたかったが、師匠の呼び出しに遅れるというのはあまりしたくないので、仕方なくてゐを解放する。

 お尻を押さえながら竹林の方へと向かうてゐを見届けてからある部屋へと向かう。

 そこは師匠の部屋の隣にあり、師匠の実験室的な部屋だ。

 そこにはたくさんの薬品や薬の材料らしきものがたくさん置かれている。

 

 師匠こと八意永琳はある特殊な能力を持っている、それは『あらゆる薬を作る程度の能力』。

 名前の通り材料さえあれば、基本的にどんな薬でも作れてしまう便利な能力だ。

 その能力があるのも理由の一つで、よく師匠はこの部屋に篭っては薬作りをしている。

 

 ちなみに、師匠の他にも能力を持っている者がここ永遠亭にはいる。

 というか永遠亭に限らず、ここ幻想郷に住む者達も大抵は何かしらの能力を持っていたりするのだが……

 外の知り合いにも何人か能力持ちの人がいるし。

 

「来たわね、じゃあ座って」

 

 言われた通りに用意されていた椅子に座ると、師匠と向かい合わせの形になる。

 

「今回のはかなりの自信作よ、錠剤タイプにしてみたから噛まないで水と一緒に飲み込んでね」

 

 そして机の上に置かれていた薬と水の入ったコップを渡される。

 それを躊躇せずに口に放り込むと、水で流し込んだ。

 

「…………そろそろね。どうかしら、何か変わった感じはする?」

 

 不意に師匠が口にした質問に、首を横に振って答える。

 やはりダメなようだ……今回も何か変わった感じはしなかった。

 

「そう……やっぱり薬程度じゃあそれ(・・)はどうしようもないのかしら」

 

 師匠はどこか悔しそうに呟き溜息を吐いた。

 

 実はこの一連の流れは今回が初めてではなく、既に何回も行っていたりする。

 もちろんこの行為には理由はある……それは自分が持っている能力に関係してくる。

 

 

 

 

 実を言うと自分もある能力を、玉兎として生まれてから持っている。

 『波長を操る程度の能力』、それが自分の能力だ。

 一言でこの能力について説明するのは難しいが、簡単に表すとしたら、あらゆる物事には全て波長というものがあり、その波長を感じ取ったり、波長の長さという概念を操ることで様々な現象を起こすことができるといった能力だ。

 

 例えば、自身の『存在という波長』を短くすれば、その存在は目立つ様になり、逆に長くすると極端に目立たなくなり、しまいには他人には認知できなくなる。

 もちろん自分だけでなく他人や物事の波長を操ったり感じたりもできたりする。

 結構色んなことに応用が利いたりして便利な能力ではある……あるのだが、それと同時にデメリットというか副作用もあったりするのだ。

 この能力、ある程度はコントロールできているのだが、実はコントロールできていない部分もあるのだ。

 その一つとして、自分の感情という波長がコントロールできなくなってしまっている。

 感情の抑制が出来ないとかではなく、むしろその逆で、感情の波長が常に一定値に固定されてしまっているのだ。

 要するに、感情の起伏が乏しいということだ。

 とはいえまったく感情が動かないというわけではなく、一応驚いたり悲しんだり楽しく感じたりはするのだが、すぐに一定値……平穏に戻されてしまうのだ。

 それだけならまだしも、感情を表面上に出す手段である表情の変化や、言葉を喋るといったことも出来ないみたいで、この能力に目覚めて以来無口で無表情なキャラになってしまった……実に悲しい。

 

 まぁぶっちゃけ元からお喋りをするタイプではないし、他人とのコミュニケーションも、方法として筆談という手があるから、これに関してはそこまで重要視していないのだが、心優しくて恩人である師匠は自分のこの体質を何とかしてあげようと日々能力を抑える新薬を作っては飲ませてくれるのだ。

 ……とはいえ未だに成果は出ていないが。

 

「精神剤を飲ませてもダメだったし、能力を抑えようとしてもダメとなると……やっぱりウドンゲ自身が制御できるようになるしかないのかしら」

 

 確かに師匠の言う通りかもしれない。

 ……しかしなんで師匠は手間をかけてまで自分の感情をどうにかしようとしてくれているのだろうか。

 この際だから前から気になっていたことを、持ち歩いている筆談用のメモ用紙に書いて師匠に聞いてみた。

 

「え? なんでそこまでして私のことを気にかけてくれるのかって? ……まぁそうね、らしくはないとは自覚してるわ」

 

 師匠は一呼吸置いて続けた。

 

「強いて言うならそうね、単純に貴女とお喋りをしてみたいから……かしらね」

 

 

 

 




しばらく東方とは離れていたので、設定とか忘れている可能性があります。
もし誤字脱字や、ここおかしいんじゃないのってとこがありましたら、報告していただけると幸いです。

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