英霊剣豪七番勝負 番外"天台の陰陽師" 作:ベータアルファΣ
剣豪面白かったからね、仕方ないね
「しゅ、主殿! この莫大な大蛇の量は僕達だけでは少しばかり……クッ!」
「……何のッ! この程度! って言いたいところだけれど、急いで城に向かわなきゃ行けないのにこれはキツいかも…ッ!」
何処を見ても大蛇。大蛇。大蛇。辺り一面の大蛇の群れにはいかな宮本武蔵、風魔小太郎、千子村正、加藤段蔵といえども対応仕切れず危機に陥ってしまい、マスターである藤丸立香は彼らの危機に対し、心配し声を上げる。
「小太郎! 武蔵ちゃん! 」
そこに一人、近づいて来る鎧武者が居た。
「──ふむ、お困りのようだ」
彼の声を聞き、藤丸立香が振り返るとそこには柳生但馬守宗矩の部下で左近と呼ばれていた男が居た。この絶望的な激戦の場所に、侍衆がまだ生き残っていたことに立香はつい驚きの声を上げてしまう。
「左近さん!?」
立香の驚愕の声に振り返った村正も左近に気づく。そして、苦い顔をして叱るように左近に話しかけた。
「島原の乱で武功を挙げたと言われる左近某か、何故此処に来た? お前じゃこいつらには敵わなぇ、むしろ足手まといだ」
村正に足手まとい呼ばわりされた左近は符を何処からか取り出し、振るう。すると、周りを囲んでいた大蛇達が一瞬で引き裂かれていたのだ。そして左近は村正にニヤリと笑いかける。
「なっ……!」
「ふ。足手まといと来たか。これでも?」
「今の、陰陽の術だな。お前、何もんだ? 左近某が陰陽術を嗜んでいるなんて、儂は聞いたことねぇぞ」
村正の疑問に左近は答えるわけでもなく、一人頷き、呟く。
「そうだな、そろそろ頃合いか」
そして、左近の周りに風が起こり始め──。
「──我が名は左近某に非ず。そも、侍衆に非ず。我が名は智楽院天海。徳川の陰陽を司る者なり」
そこには、法衣に身を包んだ老爺が一人居た。
南光坊天海。初代将軍にして、戦国三英傑が一人、徳川家康の側近。そして、江戸幕府の宗教、朝廷外交などを一手に受けた持った天台宗の僧侶。そのような重要人物がこの事件に出向いてることに驚く武蔵。しかも、後数年で南光坊天海は死去する年代になる為、最晩年の時期なのだ。それ故に100歳を超える高齢である天海が良く出張って来たものだな、と感心もあっただろうが、驚愕が優った。
「な、南光坊天海!? 金地院崇伝、林羅山と並んで初期江戸幕府の重鎮中の重鎮じゃない! 何故此処に!?」
「何故、何故など分かりきったこと。柳生但馬守では妖術に対応するのは手に余ると判断したまでのことよ。 奴は剣術無双ではあるが、それはあくまで剣に限るが故に。相模国などの被害状況から鑑みるに、ワシ自身が赴くことが正解であると判断した」
そう、柳生宗矩はあくまで剣豪。魔術や呪術に出会う機会も無く、仮に出会ったとしてもその様な外法と切って捨てるだろう。柳生宗矩を派遣した三代将軍徳川家光は、普段柳但と呼んで親しくしている家臣が少しばかり心配になった。何故なら徳川家光自身も呪術には詳しくない。だからこそ、念には念を入れ徳川の呪術のエキスパートである天海が派遣される事になったのだ。
「さあ、さあ。此処の魔性どもはワシが全て引き受けようぞ。行くが良い、星見の者達よ」
左近として、天海は彼らカルデアのマスターと宮本武蔵を名乗る女性の英霊剣豪との死合を見ていて"明神切村正"の方が倒し易いと判断していたのだ。その為、天海は本来ならば天海が妖術師に対するところを藤丸立香達に任せ、此処で大量に湧き出る魔の者共を足止め、殲滅し彼らをサポートすることにした。
「ありがとう……! でも南光坊さんも無理しないで!」
心配そうに一人残る天海を見ながら厭離穢土城へと向かっていく藤丸らを傍目に、天海は久々の戦いに口角を釣り上げる。
「ふ、世界を救ったとはいえ若僧に心配されるとは……久方ぶりだが、ワシもまだまだいけるということを証明してみせよう……!」
天海は大量の大蛇を相手に再び何処からか符を、先程とは違って大量に取り出して──陰陽術を発動させる。
「では、我が最大の術式、江戸を、徳川を守る為の術を使うとしよう。この乱の首謀者は徳川に仇なす者であるが為に。──四神守護起動、急急如律令!」
すると、天地が揺れた。そして江戸の民のみ気づかないまま、厭離穢土城から遠く離れた江戸が眩く光り輝き出す。そしてその輝きは天に昇り、頂点に至ったかという程で数多に分かれて。
此処に、天海がいる付近に降って、敵を消滅させてゆく。その光の砲撃により、少し、ほんの少しばかりではあるが怯んだ亡霊達に対し天海は不敵に笑いながら宣戦布告をする。
「──さて、さて、さて。では、殺ろうか。魔性畜生供!」
ここに、一方的な殲滅戦が始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「カルデアの現出は失敗しましたが、サンプルとしては良いデータを残せたのでは? 何しろ失われた歴史をようやく見出すことに成功したのですからね!!」
崩れた城のある城下町のすぐ近くの山で、肉食獣染みた男が誰かと会話していた。側から見たら奇妙な会話だ。その男は相手が何処にも見えないのに一人でぶつぶつと喋っているのだから。男は続けて言う。
「この下総は元より歪んでいます。滅ぼされた世界、選定事象に非ず。並行世界? これは近いですが違うでしょう。では何か? そう、この下総は人類史であって人類史では無いのです。異なる星の神がその異なる目で観測した世界──特異点とは異なる異界なのですから! 如何です? 如何です! 興味深い事例でしょう、サタン様! ……ああ、いえ。サタン様というのは余りにも滑稽過ぎますね。仮初めの名ではありましたが、妖術師殿がお気に入りになられた様子だったのでそのまま用いていたわけですが。とはいえ、拙僧も些かおふざけがすぎました。失礼しました。我が愛おしきお方、◼️◼️◼️◼️◼️◼️様」
芦屋道満が一人嗤っていると、突然そこの場に道満を切り裂かんとする風が吹いた。道満は辛うじて避け、吹いてきた方向を見る。そこには江戸を守る者、天海が居た。
「■■■■■■様とは何者だ? そこな陰陽師──いや、芦屋道満」
道満がこぼした言葉に対する天海の疑問に対して、道満は大袈裟に驚いた表情をして天海に近づいていく。
「おや、おやおやおや! 徳川の重鎮、天海様ではないですか! 何故此処にィ? 」
「何故。何故に? それは貴様もわかっているはずよ、元凶。負け犬の癖に、死人の影法師のような者の癖にちょこまかと動きおって……面倒な」
負け犬。そう、芦屋道満は日本最強の陰陽師安倍晴明のライバルとは言われてはいるが、所詮はいつまでも安倍晴明に勝てない負け犬。絶望的なまでに晴明と道満との実力差は開いているのだ。そのことを天海という、自分よりも新しい時代の格下と侮っている陰陽師に指摘された道満は憤怒に顔を歪ませる。
「負け犬ゥ?負け犬ですか……! 成る程成る程! 晴明に拙僧が負けたと言いたいのですね?フゥ……フフ。何を馬鹿げたことを! 彼奴に、晴明に、私は負けてなどいない!晴明如きに負ける私ではない! ハハハハハハハハハ!! あの憎らしい男に私が負けるなどと……あり得ない!! 有り得るはずがない!さて。さてさてさて! 御理解頂けたようなので……私を侮辱した罪、その命で償ってもらいましょう……!」
「貴様如きに負けるワシではないわ、負け犬。──では、参ろうかッ!」
二人の陰陽師は──激突する。
柳但欲しい……欲しくない?
りゅーたんに聖杯捧げます(決心)