黒兎と灰の鬼神   作:こげ茶

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その4:ガレリア要塞へ

 

 

 

 

 

 

 

「――――久しぶりだな、マキアス」

「……よく来てくれた、リィン! ……って、そっちの方たちは…?」

 

 

「情報局所属、リィンさんの捕虜のアルティナ・オライオンです」

「改めまして、アルフィン・ライゼ・アルノールです」

「お久しぶりです、マキアスさん」

「遊撃士のトヴァル・ランドナーだ。よろしくな」

 

 

 

 風車小屋にぞろぞろと押し寄せるメンバーに目を白黒させていた<Ⅶ組>のマキアス・レーグニッツさんですが、どうやらいつかあった時のままのようで。なかなかに大きなリアクションでした。

 

 

「――――皇女殿下!? あ、ああどうもエリゼさん。リィンにはいつも世話になって――――って、捕虜ってなんだリィン!?」

 

「あーいや。なんというか……」

 

 

 

 ふむ。素直に言ったのはまずかったでしょうか。

 リィンさんの冷たい視線を感じつつ、改めて説明する。

 

 

 

「貴族連合に貸与されていたのですが、皇女殿下の“保護”任務に失敗。捕らえられての交渉の結果、現在リィンさんに協力しています」

「そ、そうなのか……いや、“保護”ってそれは大丈夫なのか?」

 

 

 

 つまりは誘拐なので、大丈夫ではないですね。

 そう言おうと思ったところ、それより前に皇女殿下が口を挟んだ。

 

 

「――――まあ、何か起こる前にリィンさんに止めて頂きましたし。交渉の結果穏便に諦めていただいたということです」

「……殿下」

 

 

 

 なんだか目をつむってもらえてしまったらしい。

 と、なんとなくしんみりした空気になっていると、風車小屋に置いてあった通信機に定時連絡があった。それはやはり<Ⅶ組>所属であるエリオットさんからの連絡で、双龍橋方面への偵察から戻ってくるという。

 

 

 

「というわけで、それまでにオットー元締めからの依頼をやりたいんだが」

 

 

 

 どうにも、マキアスさんが言うには潜伏を手伝ってもらう代わりに依頼を引き受けていたのだとか。薬草採集と手配魔獣―――リィンさんは頷くと、何やら袋をマキアスさんに渡した。

 

 

 

「――――ちょうど大市で多めに仕入れたのと、自然公園で採取した分があるからこれを渡してきてくれ。俺は、アルティナと手配魔獣を倒してくる」

 

「――――準備が良すぎるだろう!? って、二人だけでか!? た、確かに皇女殿下たちの守りも必要だとは思うが……」

 

 

 

 いつだかクルトさんやユウナさんにも向けられた「こんな小さい子が」という目。……もともと戦闘を想定して造られているので心配は無用なのですが。

 

 

 

「これでも情報局所属ですし」

「……そ、そういえば情報局でオライオンってことは。もしや君もミリアム君と同じで<戦術殻>を―――って、なんだこの空気」

 

 

「……えっと、その……」

「………兄様、やはり」

 

 

 

 ちらり、と気遣うような目を向けてくる皇女殿下。どこかリィンさんを責めるようなエリゼ嬢。黙って目を瞑るトヴァルさん。重くなった空気に困惑げに視線を彷徨わせるマキアスさん。

 

 それらの視線を受けて、リィンさんはわたしを一瞥だけして言った。

 

 

 

「あれがあると、脱走どころか殿下の誘拐まで可能になるからな。リンクを切断して隠してある。……余計な真似をせずに内戦が終わったら返す予定だ」

 

「そういうお話ですね。合理的な判断かと」

 

 

「で、ですが兄様。アルティナさんなら大丈夫なのでは……」

 

 

 

 

 わたしなら大丈夫? それは、わたしならリィンさんを裏切らないという…?

 思わぬ考えを口にされ、思わず考え込んでしまう。

 

 どうなんだろう。“役目”のことを考えれば、結局はわたしは“終わりの始まり”までの命でしかない。リィンさんを守るために必要なら異存はないけれど、できればもう少し皆さんと楽しく過ごしたいというのも間違いなくて。

 

 

 

 

(………結局、“感情”のこともよく分からないままでしたし)

 

 

 

 リィン教官は「ここまで成長したのを嬉しく思う」と言ってくださいましたが。

 結局分かったのは“嬉しい”ことと“悲しい”こと。あとは“羨ましい”と“悔しい”くらいですし。………どうしてリィン教官がいると感情が激しくなるのか、リィン教官と接触していると心があたたかくなるのも理由は分からず仕舞いでしたし。

 

 ……どうしてか、相談するつもりにもなれないですし。

 多分リィン教官が不埒だからだとは思うのですが…。

 

 

 

「………コイツが裏切らない保証はないし、そのために仲間を危険に晒すわけにはいかない。話は終わりだ、行くぞアルティナ」

 

「はい、リィンさん」

 

 

 

 一足先に風車小屋の外に出たリィンさんを追う。「リィンらしくない」という、背後から聞こえた声に、何か言い知れない不安を感じながら。

 

 

 

 

 

 

(――――でも、わたしはこのリィンさんを知っている……?)

 

 

 

 

 遅れないように付いて歩きながら、わずかに歩調を緩めてくれるのを感じて確信は強まる。どんなに変わってしまっても、それでもこの人はきっと――――。

 

 

 

「――――見つけた、手配魔獣だ。一体だけでいい、仕留めてみせろ」

「……っ、はい!」

 

 

 

 見れば、高台に陣取るように巨大な“大畑荒らし”とその周囲に“畑荒らし”。

 もこもこした二足歩行の獣という見た目であるが、かなりの害獣である。

 

 リィンさんは戦術リンクも使わずに、いっそ無防備とも言える自然な歩きで畑荒らしに近づいていく。止める暇も、アーツを放つ暇もなく、畑荒らしの突進がリィンさんに直撃する――――その直前で、僅かに、しかし完全に回避して見せたリィンさんのカウンターの一撃が畑荒らしを真っ二つに絶命させる。

 

 

 

 

「――――伍の型、<残月>」

 

 

 月のように自在に満ち欠けし、しかして常に弧を描く。

 水面に映った月の如く、単調な攻撃では捉えられはしない。

 

 思わず見とれてしまいそうになるのを堪え、ARCUSを起動。使い慣れた<ディーヴァ>のマスタークォーツにより発動するのはカルバリーエッジ。数体の畑荒らしが漆黒の槍に生命を吸い取られて絶命し、残った“大畑荒らし”は焦ったように後退するものの、その程度で逃げられるほどに甘いはずもなく。

 

 

 

「――――七の型<無想覇斬>」

 

 

 

 まるで無数の斬撃を浴びせたかのような、それでいてただ一度の太刀。

 一撃で致命傷を負った“大畑荒らし”は断末魔の叫びと共に崩れ落ち。特に何を言うでもなく、わたしとリィンさんは風車小屋に戻ることになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後。

 リィンさんが不埒にも<妖精>に飛びかかられて馬乗りになられたりと言った事件こそあったものの、無事に双龍橋にまで到着。

 

 怪しげなフードの男に声を掛けられたりもしたのですが――――。

 

 

 

「やあ、お困りかな<Ⅶ組>の諸君――――」

「……何か御用ですか、トマス教官」

 

 

「あれれー、なんでバレちゃいましたか? ちょっといい感じにお助け人物みたいな雰囲気にしてたと思ったんですけど……」

「いや、普通に声と気配で分かりますから。教官はけっこう個性的な(・・・)気配ですし」

 

(……ああ、<匣使い>ライサンダー卿でしたね)

 

 

 

 フードを取ってもなお、瓶底眼鏡を付けた怪しげな雰囲気の男性―――。

 教会の騎士ともなれば色々と秘匿事項もあるのでしょう。リィンさん以外の<Ⅶ組>の生徒からどこか白い視線を向けられながらも、ダクトから線路に出る道を教えられ、わたしたちは双龍橋を潜り抜けて第四機甲師団がいるというガレリア演習場へ向かうべく、一路ガレリア要塞へ。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――皆、止まってくれ」

 

 

 

 アイスクリームのように、綺麗にくり抜かれたガレリア要塞。

 そこに差し掛かったところで、リィンさんが全員を止める。すると、何かに気づいたのかシルフィード――――フィーさんが言った。

 

 

 

「……まさか、導力地雷…!?」

「みたいだな」

 

 

「――――ほぅ。まさか気づかれるとはな」

「しかもフィーかと思うたらそこの(ぼん)やと? ははっ、お遊びとはいえ予想外っちゅうか、こんなん予想できへんやろ」

 

 

 

 リィンさんの視線を追い、上へ――――いつの間にか壁の上に立っていたいかにも不審げなサングラスの二人組が、何の躊躇もなく飛び降りて目の前に着地する。…それなりの高さだと思うのですが。

 

 

 

「ほいっと。……久しぶりやな、フィー。ちょっとは背も伸びたみたいやな」

「………うむ、見違えたようだ」

 

 

「ゼノに、レオ…!? 団長が、皆がいなくなってから足取りすらつかめなかったのに、どうして此処に…?」

 

 

 

 団長――――<西風の旅団>の団長、猟兵王ルドガー・クラウゼル。

 わたしはこの二人と直接矛を交えたことこそ無かったものの、それでも実力は折り紙付き。こちらは人数こそ多いものの、実力者はリィンさんとトヴァルさんだけ。多少の苦戦は免れないかと、油断なく魔導杖を構え。

 

 

 

 

「そりゃもちろん、“仕事”に決まっとるやろ。ちょいと貴族連合軍で働いとってな。世間話でもしたかったところやけど、思った以上に“デキる”みたいやし」

「……悪いが、ここを通すわけにはいかない」

 

「…っ。ここは“戦場”、そして私たちは“敵”同士――――そういうこと」

 

 

 

 和やかな雰囲気から一転、油断なくブレードライフルを構えるフィーさんに釣られてエリオットさん、マキアスさんも慌てて武器を取り出し。

 

 初めから油断なく構えていたトヴァルさんの視線を受けて、リィンさんは静かに一步前に出た。

 

 

 

「――――悪いが、ここで足止めされるわけにはいかない。<Ⅶ組>総員、戦闘準備! 俺が切り抜ける、援護は頼んだ! トヴァルさんは二人を頼みます!」

 

了解(ヤー)

「くっ、やるしかないのか…!」

「わかったよ…!」

「了解です。……あ」

 

 

 

 そういえばわたしはまだ<Ⅶ組>じゃないんでした。

 

 とはいえ戦闘前だからか誰も気にした様子はなく。ブレードライフルとマシンガントレットを構えた<西風>の二人に向けて、リィンさんは刀の柄に手を置いたかと思うと、ちょうど手配魔獣相手にしたようにごく自然に歩み寄る。

 

 

 

 

「―――っ!? おいおいおい、嘘やろ!?」

「………この気配、まさか」

 

「……? ゼノ、レオ…?」

 

 

 

 わたしにも、フィーさんにも分からない“何か”を感じ取ったのか、大きく後退する二人にリィンさんの“気”が徐々に高まっていくのを感じる。

 

 

 

「―――――行くぞ」

「ちっ――――大人しく食らうと思わんといてや!」

 

 

 

 ゼノと呼ばれた男が、槍のようなものをばら撒く。

 とてもリィンさんに当たる軌道ではなく、むしろその行き先に設置するような――――そこまで考えたところでARCUSに待機させていたアーツを起動。

 

 

 

「――――<ソウルブラー>!」

「チィ―――!」

 

 

 

 最も邪魔になるだろう中央の槍を破壊すれば、それで十分。ブレードライフルから放たれた銃弾が次々とその槍を起爆させていくも、滑らかに、滑るようにそれらを潜り抜けるリィンさんの速度は些かも衰えていないことを確認して、次に放つべきアーツを選び取る。

 

 

「ARCUS、駆動――――」

 

「八葉一刀流、七の型―――――」

「させん…! ディザスター――――」

 

 

「――――<無想、覇斬>ッ!」

「――――アームッ!」

 

 

 

 マシンガントレットに組み込まれた、パイルバンカー。

 <破壊獣>とまで呼ばれる<西風>の実力者の豪腕と組み合わされ、爆発的な威力を秘めたそれがリィンさんの刀と真正面から衝突する。

 

 

 

「――――リィン!?」

 

 

 

 フィーさんが悲鳴のような声を上げるのは、その一撃の恐ろしさをよく知っているからこそ。しかし、交錯した二人の様子は対照的で。

 

 

 

「――――……むぅ」

 

 

 

 真っ二つに切断されたマシンガントレットの片割れが大きな音を立てて地面を転がり。地面に蹲ったのは<西風>の連隊長である<破壊獣>。しかし、その彼の表情は決して驚いているだけのものではなく。

 それこそが勝機を掴むための連携だったのだろう。僅かに動きが止まったリィンさんに対して、ゼノが動く。

 

 

 

「ほな、行くで――――!」

 

 

 

 

 冗談のように、雨のように大量にリィンさん目掛けて降り注ぐ大量の槍。間違いなく先程と同じく爆発物であるそれらに向けて、起爆させるべく更に無数の弾丸が放たれる―――ところに、アーツが間に合う。

 

 

 

 

「――――これならどや! ジェノサイドレイン!」

「<アマダスシールド>…っ!」

 

 

「甘い――――<裏疾風・飛燕>!」

「なんやと―――!?」

 

 

 

 

 

 あらゆる物理攻撃を一度だけ遮断するアーツ。

 それを受けて安全を確保したリィンさんは――――跳んだ。

 

 護りはある。ならすべきことは―――攻撃。

 爆風に構わず一直線に飛翔してゼノに斬りつけ、そのまま追撃の振り下ろしによって地面に叩き落とす。そしてそのまま回転し―――。

 

 

 

「――――はぁああああッ!」

「うおっと!?」

 

「……ぉおおおおオオオッ!」

 

 

 

 

 横殴りの衝撃波が木の葉のようにゼノを吹き飛ばし、納刀。それを隙と見たのか飛び込んできたレオニダスの攻撃を紙一重で躱すと、カウンターの<残月>がレオニダスの胸元を斬り裂く。

 

 

「……ぐっ、これほどとは…!」

 

 

 

「な、なんだかリィン凄くない…?」

「………正直、こっちもビックリかも」

 

 

 

 エリオットさんとフィーさんが驚きつつも、割り込むのは邪魔になると判断したのか支援アーツが乱れ飛ぶ。マキアスさんは流れ弾を防ぐために散弾銃を振るい、わたしもかつての<戦術リンク>の経験からリィンさんの動きを予測してアーツを組み立てていく。その単純ながらも効果的すぎる戦術に一気に押し込まれた二人は、大きく距離を取って叫ぶ。

 

 

 

「――――ええぃ、やるでレオ! フィーの前でこれ以上はエエ格好させへん!」

「……いいだろう」

 

「ゼノ、レオ……」

 

 

 

 どこか呆れ顔のフィーに構わず、二人の猟兵の気が一気に膨れ上がる。

 

 

 

「「オオォォォォォォ――――ッ!」」

 

 

「……戦場の叫び(ウォークライ)、ですか」

 

 

 

 リィンさんの<鬼の力>ほどではないにせよ、禍々しい気配が放たれる。

 というか、この流れは――――まさか、リィンさんも<鬼の力>を…?

 

 いつかの、力を制御できずに苦しむリィンさんの姿が脳裏を過る。―――が。構うこと無く刀を収めたリィンさんに安堵する。

 

 

 

 

「……いや、どうやらここまでみたいだな」

「――――なんやと!? フィーの前で勝ち逃げなんぞ許さへんで――――」

 

 

 

 と、怒り心頭に見えたゼノだったが、急激に声が小さくなり、わたしたちが来た間道方面に視線を向けて急激に嫌そうな顔になる。それを証明するかのように、聞こえてくるのは紛れもない機甲兵の移動音で。

 

 

 

 

『――――貴様ら、何をしておるか!』

 

 

 

 隊長機であるシュピーゲルが一体に、ドラッケンが三体。

 ………それなりの数ではありますが。それよりも―――。

 

 

「き、機甲兵!?」

「トリスタを襲った機体――――なぜ間道方面から!?」

「そっか。横断鉄道方面は陽動……最初から側面からの奇襲が目的だったみたい」

 

 

『なぜ民間人が!?』

『それに傭兵まで』

『……部隊にも加わらず何処にいるのかと思えば! 作戦の邪魔だ、猟兵どもは下がっているがいい!』

 

 

 

「ぐぬぬ。こっから良いところを見せるつもりやったのに…!」

「……仕方あるまい。まあ、次の機会に取っておけ」

 

 

 

 なんと慢心が過ぎる敵の隊長機のお陰で西風の二人が素早く壁の上に退避し――――。しかし、フィーさんたちが何故か不安そうに機甲兵を見る。

 

 

 

「どうする? ゼノたちは離脱したけど、ちょっとマズいね」

「……あ、あの時は、なんとか一体倒せたけど」

「この人数であの数は……」

 

「……?」

 

 

 ……もしかして、まだヴァリマールのことを知らないのでしょうか。

 どう考えてもヴァリマールなら負けるとは思えず、わたしはリィンさんを見て言った。

 

 

 

「リィンさん、お願いします」

「……。ああ――――行くぞ、ヴァリマール!」

 

 

 

 すると、いつの間に近くまで来ていたのか――――馴染み深い推進音と共にヴァリマールが現れ。即座にセリーヌとリィンさんが乗り込む。

 

 

 

 

 

『ええい、武器も持たぬ木偶など一斉攻撃で仕留めてしまえ――――!』

 

 

 

 

 その、ヴァリマールの威容に押されたのだろうか。

 何故か自分では近づこうとしないシュピーゲルの指示で、2体のドラッケンがさして俊敏でもない動きでヴァリマールに近づき、剣を振り下ろす――――。

 

 

 

『―――――甘い』

 

 

 残月。

 2つの剣の隙間を縫うように躱して見せたヴァリマールの拳がしたたかにドラッケンの腹部を打ち据え―――。

 

 

 

『ォオオオオッ!――――破甲拳ッ!』

 

 

 

 コクピットを強打され、恐らくはパイロットが気絶したのだろう。剣がカチ上げられるのと同時にドラッケンが動かなくなる。

 そして、落下する剣は吸い込まれるようにリィンさんの、ヴァリマールの手に収まり。

 

 

 

『――――螺旋撃!』

 

 

 

 焔を纏った螺旋の太刀が再び斬りかかろうとしたもう一体のドラッケンを吹き飛ばす。そこを狙うかのように、銃を持ったドラッケンの最後の一体が銃撃を浴びせるものの――――それすらも衝撃波で吹き飛ばす。

 

 

 

 

 そして、その闘いを見上げながら――――わたしは膝をついた、リィンさんが剣を奪ったドラッケンのコクピットによじ登り。コクピットの緊急開放パスワードを打ち込んで、コクピットハッチを開け。気絶している兵士を風のアーツで地面に放り出す。

 

 

 

「って、おいおい何やって――――」

「――――アルティナさん!?」

 

 

「恐らく操縦できると思いますので、問題ありません」

 

 

 

 旧式と言っていいドラッケンではあるものの、基本の操縦系統は変わっていない。

 そう、これさえあれば―――これさえあれば、クラウ=ソラスがいなくてもリィンさんの力になることができる。リィンさんだけに無茶をさせなくて済む。

 

 

 

 

 このままARCUSの戦術リンクを繋ごうと―――――とりあえず機甲兵を立ち上がらせた私が見たのは、ちょうど<無想覇斬>によって片付けられたシュピーゲルと、既に完全にダウンした二機のドラッケンの姿で。

 

 敵がいなくなり、声に怒りを滲ませてリィンさんは言った。

 

 

 

『―――――で、どういうつもりだ。アルティナ』

「………いえ、支援に使えないかと思ったのですが――――」

 

 

 

 ヴァリマールに剣を向けられ、思わず声がこわばる。

 

 

 

 

『そんなものはいい、すぐに降りろ―――――!』

 

 

 

 と、その瞬間に聞こえてきたのは沢山の戦車の移動音。

 そして野太い男性の叫び声だった。

 

 

 

「―――――エェエリオットォオオオオオッ!」

 

 

 

 

 不意に、状況に気づく。

 ヴァリマールに剣を向けられているドラッケンに乗っている私。そして周囲には第四機甲師団の戦車が。

 

 

 

 

(………もしかしなくとも、ピンチでしょうか)

 

 

 

 

 そういえばこの時点では、機甲兵は貴族連合しか扱えない秘密兵器だった―――。

 やっとリィンさんが怒った理由に見当がついた私ですが、時既に遅く。完全に包囲されてしまうのでした。

 

 

 

 

 

 




話が進まないと思ったら物凄い長さになっていた……。
通常の倍です。なので多分明日の分も込みです。ほのぼのかギスギスかどっちかしたい……。ユミルで温泉にでも入りたい…。



赤毛のクレイグ「貴様は完全に包囲されているぞー!」
アルティナ  「………どうしましょうか」
リィン    「何をやってるんだ……」


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