黒兎と灰の鬼神   作:こげ茶

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本日3話目。というわけでリィン君サイドです。
アルティナ側からだけ見たい場合には飛ばしても支障はないという構成の予定なのですが、ぶっちゃけるとこれで死蔵されてた分は終わりです。ここまで読んでくださった奇特な方は読んじゃっていいのではないでしょうか。



裏の1:その流れは大河のように

 

 

 

 

――――――いつから、闘い続けたのだろう。

 

 

 幾度か、自分を止めようとする仲間と刃を交え。

 幾度となく、何かを守ろうとする英雄を刃で下した。

 

 

 

『――――そうか。リィンよ、お主がそれを望むのもまた一つの世界の流れ……“理”だったのじゃろう』

 

 

 

 真意を問われ、師とも刃を交えた。

 結局のところ足元が見えたような気がした程度までしか迫れなかったものの、俺の真意を知ったユン老師はそれを止めはせず、信じてくれた。

 

 

 

 

―――――あの日。

 

 

 アルティナが死に、世界の終わりのための闘いが始まった日から。

 密かにクロチルダさんと手を組み、ただ過ちを正すための<力>を求めた。

 

 他の騎神を全て下し、復活した<鋼>の至宝。

 それをヴァリマールの意思を宿した<焔>の至宝で打ち砕き、それを対価として<結社>の<盟主>と交渉し―――――<時>の至宝を使う権利を。

 

 

 

 

『―――――時という大河において、流された小石が戻ることはありません。それは河を遡ったとしても同じことです』

 

『なら、その大河に飛び込んででも――――流されたものを掴んでみせます』

 

 

 

 そして、俺は戻ることを決めた。

 ………全てをやり直すために。

 

 アルティナが死ぬことなく“物語”を終えるために。

 幻焔計画を奪い取られたあの内戦を、<彼女>の計画していた通りに再び塗り替える。

 

 

 

『――――“戻って”しまえば、積み重ねた全てを失う。その覚悟はおありですか?』

『それでも――――泣いていたんです。ようやく感情を手に入れたばかりのアルティナが泣いていて、俺はパートナーとしても教官としても守ってやれなかった』

 

 

 

 

―――――もう、守られる必要のない強さを手に入れた。

 

 

 “父”であるギリアス・オズボーンに対しても屈しないだけの“力”を。

 全ての終わりとやらのために生まれたのなら、その終わりが生まれる前に叩き潰そう。

 

 

 

 

『――――それは、その少女が貴方のことを覚えていなかったとしても?』

『だとしても、答えは変わりません。嫌われようと、憎まれようと、俺が考えられる限り幸せになってもらう』

 

 

 

 

――――女神よ、どうかこの子だけは。

 

 

 

 

 それは、奇しくもギリアス・オズボーンが抱いた結論と同じもので。

 リィンはそれを嫌悪しつつも、有効性だけは認めていた。全てをねじ伏せて、アルティナを明るい場所に置いておけば幸せになってくれるという歪んだ信頼のようなもの。

 

 

 

 

『良いでしょう――――その意思の輝きを認めます。では、よい旅を。また会いましょう、リィン・シュバルツァー』

『ええ――――ではまた』

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、気がつけばアイゼンガルド連峰で。

 いつかのように、セリーヌとヴァリマールだけの、内戦開始から1ヶ月の頃。アルティナと初めて出会う、あの頃。

 

 魔獣は出会い頭に全て切り捨て、軽く引いているセリーヌに構わず魔煌兵も……できるだけ前回の流れから外れすぎないよう、一瞬だけ<鬼の力>を使い、崖の下に叩き落とした。

 

 

 

 そしてユミルに戻れば、“前回”と同様時間を置いて魔煌兵の再度の襲撃。

 前回の通りに山道を登り―――――あらかじめ“彼”を呼ぶ。

 

 

 

 

「―――――来い、<灰の騎神>ヴァリマール!」

『うむ。任せるがいい、リィンよ』

 

 

 

 別に魔煌兵程度なら全く必要はなかったのだが、こうしておけばエリゼやトヴァルさんに「凄いのは騎神」だと思わせておくこともできる。おまけに『思わぬ贈り物』というべきか、ヴァリマールまで時間を遡っていたことにも気付かされたのだが。

 

 

 

「……ヴァリマール、武器(アルティナ)は?」

『残念だが、時間を遡った際に消滅してしまったようだ』

 

 

 

「………そうか」

 

 

 

 根源たる虚無の剣――――“彼女”が消えてしまったことに胸が痛むが、本人がこの後来るのだから問題はないと自身に言い聞かせる。

 

 

 

 

『……って、何時の間にそんな話せるようになってるのよ!?』

 

 

 

 頼まれずとも乗り込んできた、なんだかんだとお人好し……お猫好し?なセリーヌに苦笑を返しつつ、そのまま魔煌兵をヴァリマールの手刀で一刀両断する。

 

 

 

「いや、最初からこんな感じじゃなかったか?」

『そんなわけないでしょう!?』

 

 

『いや、最初(獅子戦役)からこのような感じではないか』

「ほら、ヴァリマールもそう言ってるだろ?」

 

 

『な、なんでよっ!? って、なんかもう終わってるんですけど!?』

「見たか、八葉が一刀……」

 

 

『刀使ってないじゃない!』

『ふむ。手刀は刀では無いのか? どう区分する?』

 

 

『知るわけないでしょ!?』

 

 

 

 

 そうこうしているうちに、ヴァリマールが“気配”を捉えた。

 間違いなくアルティナの気配であり、猟兵団のものと思われるものもあるという。

 

 

 

『ユミル方向に侵入者のようだ』

「――――すまない、エリゼ。先行する! セリーヌとトヴァルさんはエリゼを頼む!」

 

『ちょっ!?』

 

 

 

 

 有無を言わさずセリーヌを脱出させ、これから父さんが銃撃される前に猟兵団を制圧し、隠れているアルティナも叩き出して拘束する。

 クラウ=ソラスとのリンクを<無の太刀>で切断し、取り上げて脅せばアルティナなら逆らえないはずである。……間違いなく嫌われるだろうけれど。

 

 

 

 

 

「――――内戦が終われば。ヴィータの言っていた通りに幻焔計画を完遂できれば、後は消化試合だ。俺の居場所は無くなるだろうが――――それでいい」

 

『ふむ。ではそれよりも良い結果になるよう微力を尽くそう』

 

 

 

「………比喩抜きで百人力は間違いないな」

『千人力を目指させてもらおう』

 

 

 

 

 そうこうしている間にユミルに到着し、今まさに父さんが銃撃されようとしているところだった。……なんとか間に合いそうなことに内心で安堵しつつ、ヴァリマールから空中で脱出。そのまま斬撃を飛ばそうとし―――――。

 

 

 

(―――――なっ!?)

 

 

 

 “気配”から、姿を消したアルティナが銃撃を防ごうとしているのを感じ取った。

 予想外すぎる動きに僅かに動揺するも、大きな問題ではない。

 

 しかし動揺のせいかアルティナと目が会い、わずかに驚いたような顔をされる。

 

 

 

 

「秘技――――裏疾風」

 

 

 

 それでも問題はない。

 とりあえず流れ弾の危険もあることから邪魔な猟兵団を先に片付けてしまうことにして、峰打ちながら一切の容赦なく猟兵を吹き飛ばす。生きていれば十分優しいだろう。

 

 そして、思いの外良い反応をしたアルティナはクラウ=ソラスを吹き飛ばされつつも自らは裏疾風の範囲から逃れていた――――まあ、本気を出せばあと2回追撃が入るのだが。無駄に痛い思いをさせる必要もないだろう。

 

 

 

「――――無念無想、我が一刀は<無>」

 

 

 

 想いは、力を鈍らせる――――故に、膨大なる<力>を、完全なる<無>にて制御する。

 刀は力、力は刀、<あの剣>からのフィードバックから得た、剣身一体の境地。無の境地故に一切の殺気も、気配もなく。ただ斬るべきと感じるものを斬る。

 

 

 

「――――七葉の太刀、<暁>」

 

 

 

 アルティナが動けないように“軽く”斬る。

 クラウ=ソラスは念のため余計なことができないようにいくらか念入りに斬る。

 

 

 

 ……リンクを断ち切られ、呆然とこちらを見るアルティナに心が痛む。

 いつだかアガートラムのリンクを切ったらミリアムに本気で怒られたことも思い出す。

 

 

 とはいえ、無いとは思うが自殺なんてされたら戻ってきた意味がないどころか悪化している。早々にアルティナを縛り上げ、舌を噛まれないように猿ぐつわを噛ませ、とやっていたら完全に不埒な人になっていることに気づいた。

 

 

 

(―――――よくよく考えれば、これって完全にアウトじゃないか?)

 

 

 

 

 しかもその後も、アルティナが下手な行動をしないように脅さないといけないわけで。

 ユミルに預けっぱなしというのはとても安全ではないので手元において守るのは決定事項だ。つまり帝国各地を連れ回さないといけないので、「逆らえない」と思わせる必要があるというかそうするのが望ましかった。

 

 

 

 

 

――――――怯えるアルティナに、苦悶の顔で脅すリィンというのは傍から見ていれば大変滑稽だったのだろうが、幸いというべきか誰にも見られることはなく。

 

 

 

 

 

(…………ごめんな、アルティナ)

 

(…………でもやっぱりどう見てもリィンさんのような)

 

 

 

 

 

 

 互いが互いに気づかないまま、話は巡る。

 

 リィンはアルティナが抱いている想いを知らず。

 アルティナはリィンが抱えている願いを知らず。

 

 そして、全てが脚本に記された<舞台>が始まる。

 その行き着く先など、誰も知らないままに。

 

 

 

 

 

 

 




続き書いて無いよ!

ふぅ……満足。片方から見るとアレなのに、片方から見るとギャグ。
勘違いものを書く人って凄いなーと思いました(小並感)
というか<剣>を持って過去に戻れたらそりゃあアルティナも覚えてるでしょうよ……ないだろうか。

 勝手にはぐはぐオズボンこと鉄血さんが良い人扱いになったり盟主?っぽいのを出したり、「なんでもするから!」をしたり地雷を設置しまくった日々(1日)でした。騎神を全部倒したらヴァリマールが<焔の至宝>になるとか<無>の太刀が斬りたいものを斬る太刀だとかハハハそんなわけ。




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