黒兎と灰の鬼神   作:こげ茶

27 / 33

すみません、ちょっと想定外の事態で遅くなりました。
完全に真っ白に燃え尽きてました。




その24:答えは傍に

 

 

 

 

 

「―――――へぇ、思ったより早かったじゃねぇか」

 

 

 

 煌魔城の最上層の手前に位置する大広間―――かつて<光の剣匠>と<火焔魔人>が死闘を繰り広げたまさにその場所で、マクバーンは待っていた。

 ここを越えれば、クロウが待っている煌魔城の最奥だろう。しかし、普段の気怠げな様子からは想像もできない鋭い気迫を纏ったマクバーンを前にたやすく突破できるとは思えず、むしろ全力であっても突破できないのではとさえ思えてくる。

 

 

 

 

「<火焔魔人>…っ!」

 

 

 

 何かを決意したように前に出ようとするアルティナをリィンは腕で制し、自らが前に出つつ言った。

 

 

 

「できれば、アンタとは闘いたくはないんだが――――やはりそうも言っていられないみたいだな」

「ま、そういうことだ。“場”を整えるとかなんとか、<深淵>の思惑も知ったことじゃねぇが―――――要するに、アツくなればいいんだろう(・・・・・・・・・・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 噴き上がるのは、焔。

 かつての内戦時のような漠然と脅威を感じていた時とは違う――――仮にも剣聖に至り、幾つもの闘いを乗り越えた今のリィンが感じるのは、そこに込められた“次元が違う”チカラだ。

 遥かな雲の向こう側を斬り裂くことができないのと同じように、マトモな剣ではマクバーンには届かないと確信させられる、“人間では勝てないことが決まっている”かのような焔。これを貫くには、それこそ聖獣と同様に<虚無の剣>が必要なのではないかとさえ思わされる。

 

 

 

「<火焔魔人>――――…よく言ったものだな。だが、“場”を整える必要があるのはこちらも承知している」

「リィンさん…?」

 

 

 

 

 前回の闘いで既に通用しなかった、黒ゼムリアストーンの刀は“まだ”抜かない。

 そのかわりに、リィンは自らの胸に、心臓に手をあてて目を閉じた。

 

 

 

 

「――――俺は、今度こそ守り通すと決めた。恐れるのではなく、身を任せるのでもなく。“力”も、“剣”も、己の続きにあるのなら―――――」

 

『へぇ……?』

 

 

 

 湧き上がるのは、黒。

 マクバーンのそれが“この世ならざる焔”だとするのなら、リィンが身にまとうのは“この帝国そのものの如き焔”。

 

 

 

 

【―――――帝国の歴史は、血と焔に塗れている】

 

 

 

 とある、全てを見続けた調停者の末裔は言った。

 ハーメルに端を発する百日戦役、皇子たちが血みどろの争いを繰り広げた獅子戦役、暗黒竜による帝都陥落、そして1200年前の大崩壊――――。

 そうしたまさに血と焔でできあがったようなエレボニア帝国。そこに端を発するリィンの力は、マトモな人間に扱いきれるものではない。

 

 

 

 

【リィン、願わくばこの子だけは―――――】

 

 

 

 

 だが、自分は既に知っている。

 闇に包まれたこの帝国でも、礎たらんとした獅子がいたことを。

 

 

 

 

【―――――永い、とても永い旅でした】

 

 

 

 

 己が信じる道を進み、それを示し続けた聖女がいたことを。

 

 

 

 

【まもらなきゃ―――――リィン教官を―――みなさんを――――】

 

 

 

 光も差さない闇の底から生まれ、それでも大切なものを手に入れた少女がいたことを。

 

 

 

 

 

「血と焔、そこから生まれるのが命を奪う“鋼”だとしても――――それでも、俺はそれを振るって一筋の“(ヒカリ)”を示そう」

 

 

 

 

 

 例えそれが、師の望んだものではなかったとしても――――。

 

 

 

 

 

『――――――“神鬼合一(・・・・)”――――――ッ!』

 

 

 

 

 

 

 

『ッ―――――うおおおおぉぉォォォオオオオオッッ!』

 

 

 

 

 

 髪が白く、瞳は赤に。見慣れた変化から纏わりつくような闇がリィンの髪を黒く染めていく。呪詛の黒焔を纏った黒髪に、燃えたぎる鋼の如き灼眼――――さながら火焔魔人の如き紋様を顔に浮かび上がらせながら、リィンは刀に手をかけた。

 

 

 

 

 

『八葉一刀流、皆伝―――――リィン・シュバルツァー、参る…ッ!』

『いいぜ、見せてもらおうじゃねぇか<灰の小僧>―――……いや、<灰の鬼神>かァ!』

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 一歩、踏みしめた煌魔城の床が薄氷の如く罅割れる。

 心臓が燃えている。頭も燃えている。怒りが、憎しみが、怨嗟が、全てを(ミナゴロシ)にしろと訴えかけてくる。

 

 さも秘策でもあるかのように格好つけた事を言ったからか、アルティナは泣きそうな顔をしながらもまだ手は出してこない。

 

 

 

 “前”も少しは耐えられたのだからこのくらいは問題にならないと、バラバラになりそうな心の欠片を掻き集めて刀を振るう。

 実際のところこれほどの“力”を開放したのは久々であり、気を抜けばその瞬間にでも理性を手放してしまいそうな危うい開放である。しかし、それだけの価値はある。

 

 火焔魔人の放つ焔が煌魔城を崩壊させる勢いで放たれるが、帝国の怨嗟を掻き集めたかのような黒い焔を放ってそれを押し止める。押し止めることができる。接近して、ありったけの“鬼の力”を叩き込むことでダウンさせる――――焔を封じずにマクバーンを突破するにはそれしかない。

 

 

 

 

(守ってみせる――――)

 

 

 

 

 

 歯が砕けるほどに噛みしめる。

 教え子を守りきれずに、教え子であるはずのパートナーに庇われた。

 

 それはきっと、クラスメイト(ミリアム)の犠牲とはまた違う意味があったから。

 

 

 圧倒的な火力の焔、そしてその焔が噴出するマクバーンは攻防一体の要塞と言ってもいい。攻撃こそが最大の防御であり、その焔には通常の武器では歯が立たない。<光の剣匠>にマクバーンが『その剣では絶対に勝てない』と言ったのは嘘でも誇張でも何でもない。

 

 

 

『秘技――――裏疾風ッ!』

 

 

 

 

 目にも留まらぬ疾さでマクバーンの弾幕を潜り抜けて斬りつけて背後から追撃の一撃を放つが、マクバーンの肌を斬りつけても血ではなく焔が噴き出す。瞬く間に黒ゼムリアストーンの太刀が赤熱し、数回空振ることで多少なりとも熱を逃がす。

 

 

 

 

『往け―――――アングバールゥッ!』

 

 

 

 

 対抗するように振るわれるのは外の理の産物たる魔剣。

 剣先から伸びる焔がリィンを串刺しにせんと稲妻の如き軌道を描いて猛追する。

 

 

 

 

 

(今度こそは―――――)

 

 

 

 

 ミリアムは、Ⅶ組の仲間だ。

 守り、守られ、共に歩んだ。仮にミリアムが命を落としたとして、リィンは自責の念と後悔に苛まれて鬼と化しただろう。

 

 ただ、アルティナはリィンにとって“まだ”純粋に守るべき存在だった。

 ミリアムにとってのアルティナがそうだったように。

 

 

 

 

『秘技――――桜花斬月』

 

 

 

 

 魔剣の焔を斬り裂き、前へ。

 刀を握る右手があまりの高熱に痛みを感じるが、顧みずにただひたすらに前へ。

 

 

 

 

 

(――――例え、この命が尽きても構わない)

 

 

 

 

 それは、いつかの日―――――…一発の銃弾で全てが変わってしまったあの日にも願ったこと。士官学院を強襲しようとするシュピーゲルに叶わなかった時にも感じた、全力で“力”を開放すれば命はないだろうという確信。

 

 

 

 ただ、それでも守りたい。

 

 

 望まぬ政府の要請に応え続けた時に、それでも前に進もうと思えたのは。教え、導く存在になりたいと思えたのは、きっと少しずつでも前に進んでいたアルティナがいたからだと思うから。

 

 

 

 

『――――情報局より派遣されました。<黒兎>、アルティナ・オライオンです。……よろしくお願いします』

『リィンさん、そろそろ“本気”を出すべきかと』

『………わたしは、貴方を不快にさせていると思っていたのですが』

 

 

 

 始めは、エリゼと皇女殿下を攫った“敵”として。

 次は<虚構の英雄>の監視役として。

 

 

 

『やはり不埒ですね』

『………それより要請(オーダー)を遂行するべきでは?』

『理解不能です』

 

 

 

 ただ、命じられたことを実行するだけだったアルティナにも好悪はあって。要請に関係のないことをすると不機嫌になって、なんだかんだ言いながらも甘い物には釣られて機嫌が良くなったりして。

 

 

 

『……悪くは無いですね』

『そういう仕様ですので』

『リィンさん――――!』

 

 

 

 幾つもの任務と、北方戦役を乗り越えて。

 アルティナという、明確に守るべき対象がいたことは何の救いもない<灰色の騎士>としての闘いの中では、一つの指針になっていた。

 

 戦わなければ守れない。全てを守ることなんてできない。

 けれど、自分がいることでこの(アルティナ)だけは守ることができる――――。

 

 

 

 

『状況に応じて、自ら判断するのが特務活動だそうですから―――――』

『――――どうしても、放っておけないんです』

『描きたいもの、と聞かれて一番に思いつきました。………駄目、でしょうか』

 

 

 

 危険から遠ざけていた少女は、いつの間にか自分で前に踏み出せるようになった。

 それはどこか寂しくも、誇らしく――――。

 

 

 

 

 

――――――だから、この手に取り戻すと誓った。

 

 

 

 

 

 それがきっと、未来(かつて)に砕け散った、最後の心の欠片だから。

 

 

 荒れ狂う黒い焔を斬り裂き、アングバールを構えるマクバーンの眼前に飛び込む。

 渦巻く“力”は強大で、呼吸をすれば肺が焼かれ、目を開けていれば視力を失いかねない。黒ゼムリアストーンの太刀は赤熱し、もう一太刀振るえばそれだけで折れかねない。

 

 

 今使える、いかなる武器も通用しない。

 実質、得物を失ったに等しい状況―――――。

 

 

 脳裏に過るのは、かつての師の教え。

 

 

 

 

『―――――リィンよ、八の型は《無手》の型。いわば“最後の手段”じゃ』

『……? 老師、つまりは刀を失った時に用いるということでしょうか』

 

 

『ま、そうとも言うかのぅ。……お主には必要になるじゃろう。徹底的に叩き込む故、覚悟せよ』

『………太刀を用いない剣術ですか』

 

 

 

『“太刀”はないが、“刀”はある―――――…これもまた八葉のうちの一葉じゃ。ゆめゆめ忘れるでないぞ……』

 

 

 

 

 かつて手紙の中ではあったが八葉一刀流を完成させるのは七の型と、老師は言った。

 では、最後の八の型は?

 

 なぜ、無手での技がどこかの型の<初伝>の技などではなく一つの型になるのか。

 八の型を極めても<剣聖>に到れるのか――――答えは“八葉一刀流”という名前がそのまま表している。

 

 八つの()を極め、一つの刀と成す。

 

 

 

 八葉一刀流を極めし者こそが、究極の一刀。無手とは、刀を失ったものを指すに非ず。己自身を含めて刀と成す、最後にして極意というべき型。

 

 未だにその領域には至っていないが――――かつて神気合一を用いて裏疾風を使えるようになったように、“鬼の力”の開放は技の段階を強引に一段引き上げる。

 

 

 

 だから―――――。

 

 

 

 

『“鬼ノ太刀”――――覇煌剣』

 

 

 

 

 

 

 刀を握る、振り下ろされたリィンの腕から放たれた黒い極光が、マクバーンごと視界の全てを飲み込み――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が、切り裂かれる。

 あるいは飲み込まれる。

 

 

 

 

 

 

 

『―――――ァア、いいな。最高だぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 それは、焔だった。

 最早マクバーンではなく、マクバーンのカタチをした焔。

 

 それが、胴体に風穴を開けられた状態でもなお、リィンに向かって手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 空気は燃えているかのように熱く、呼吸をすることすら苦しい。上位三属性が荒れ狂い、煌魔城は悲鳴をあげるかのように、霊力が高まって不気味な鳴動を始めつつあった。

 

 そんな中で、決死の思いでリィンの元へ向かおうとするアルティナを通さないとばかりに黒い傀儡――――半身であるはずのクラウ=ソラスが立ちはだかっていた。

 

 

 

 

 

「クラウ=ソラス…っ? どうして――――っ!」

 

 

 

 

 今でも、リィンはマクバーンと戦っている。

 尋常ではない素早さ――――それこそ<神速>すらも上回る速度でマクバーンを翻弄してはいるものの、それで勝てるのならデュバリィでもマクバーンに勝機があることになる。しかし違う。<鋼の聖女>とは違う到達点であり、対抗できる異能を持たない者を須らく燃やし尽くすからこそ彼は<魔人>なのだ。

 

 それに対抗するには、それこそ<虚無の剣>しかない――――。

 ここで使ってしまえば、後で使うほどの余裕はなくなるだろう。それでもマクバーンを倒すにはこれしかないはず。

 

 

 

 やむを得ず、無理やりクラウ=ソラスを突破しようとしたアルティナは――――『その必要はありません』――――脳裏に響く、“自分自身の声”に足を止めた。

 

 

 

 

「………ぇ」

 

 

 

 聞き間違いかと思うが、そうではない。

 今、明らかにクラウ=ソラスが――――“クラウ=ソラスから自分の声がした”。

 

 呆然と見返すアルティナに、クラウ=ソラスは普段と変わりない様子のまま、念話を用いて声を発する。

 

 

 

『時間がありませんので簡潔に説明しますが―――――未来から来たリィンさんは、あくまでもリィンさんなので今のリィンさんと一体になりました。では、未来でクラウ=ソラスと一体化して<虚無の剣>になったアルティナ・オライオンが過去に戻った場合どうなると思いますか?』

 

「……それは、わたしと――――いえ、違う…? まさか」

 

 

 

 虚無の剣は、Ozの魂で“戦術殻を”錬成して完成する。なら、虚無の剣を持ち帰ればクラウ=ソラスに戻るのが道理。

 

 そしてアルティナとクラウ=ソラスは霊的なラインで繋がっている。

 それこそ、エマとセリーヌと同じ――――“互いの見たものを共有できる”ほどに。

 

 

 

 

 では、感情が希薄だったころのアルティナがリンクしていたクラウ=ソラスに、未来のアルティナからの膨大な情報が叩き込まれたらどうなるか―――――“フィードバックが起こる”のだ。

 

 だから、アルティナも未来の記憶を手に入れた。

 実は一部中途半端だったりしたが、人間というのは思い出せないことは指摘されなければ意外と思い出せないものだ。

 

 しかも、さっさとリィンがそのクラウ=ソラスとのリンクを切断したために中途半端にフィードバックを受けたアルティナは精神的に不安定になったり、特に色濃かった感情―――――リィンへの感情に突き動かされたりしたわけなのだが。

 

 

 

 

 

 結果として、此処にアルティナ・オライオンは二人いた。

 一人は中途半端に記憶を宿したアルティナとして。もうひとりは<虚無の剣>に宿った、もうヒトではない中途半端な存在として。

 

 ただ、それでも――――未来から来たのは、間違いなくクラウ=ソラスに宿ったアルティナだった。

 

 

 

 

 

『―――――だから、ここからはわたしに任せて下さい。虚無の剣は一振りで十分―――…いえ、こんな犠牲はわたしだけで十分です』

 

 

 

 

 クラウ=ソラスの身体が、淡い光に包まれる。

 それこそはアルティナの魂の煌きとでも言うべきもので。アルティナの魂とクラウ=ソラスがそこにある以上、錬成はきっと成功する。でもそれは、きっと致命的なものだとアルティナは悟った。変則的なこの錬成はきっと、跡形もなく未来のアルティナを消し去る。

 

 でも、この気持ちはただコピーされた、クラウ=ソラスから流れてきただけのもので。リィンさんを助けたいと思ったのは、彼女(未来のわたし)が抱いた感情で――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――でも、きっとリィンさんは悲しむから。

 

 

 

 

 

「―――――…そんなこと、関係ありません!」

 

『………え?』

 

 

 

 

「――――“わたしが”…っ! わたしが、リィンさんを助けたいんです! 例え、この気持ちが未来のわたしからの貰い物でも―――――それでも、この内戦を戦ったのはわたしです…! この気持ちは譲ったりなんてしません…っ!」

 

『………』

 

 

 

 

「だから、だから―――――お願い、クラウ=ソラス。わたしに、リィンさんを助けさせて」

 

 

 

 

 未来の自分を犠牲にしてなんかじゃなく、リィンさんが笑顔でいられるように。

 

 

 答えはいらなかった。

 元々は一つだったアルティナとクラウ=ソラス。過去(アルティナ)未来(アルティナ)。目的も、人格も、感情も。全てが重なっている以上、時間なんて些細な問題で。

 

 

 

 

「『ディヴィジョン、アンド――――トランスフォーム…!』」

 

 

 

「『シンクロ完了――――リミット開放(ブレイク)! “エリュシオン=ギア”!』」

 

 

 

 

 

 より鋭く、より滑らかに――――刀のような細身のフォルムとなったクラウ=ソラスが、“銀の騎神”を思い起こさせる翼を形成する。手足を覆う装甲も最低限に、疾さを追求したような姿に合わせたように、幾分か小さくなった剣をそれぞれの手で一本ずつ握る。

 

 

 

「『ブレイブモード―――――行きます!』」

 

 

 

 

 まさにリィンがマクバーンに<鬼の太刀>を浴びせたその瞬間――――マクバーンのカタチが崩れ、中からヒトのカタチをした焔が出てきたその瞬間に。

 

 アルティナは何も考えず、全てを剣に注ぎ込む。

 想いを、願いを、技術を。ありったけを注ぎ込んだ剣は蒼い光芒を宿し。

 

 

 

 

 

『――――わたしがサポートします! ミラージュモード、起動……!』

 

 

 

 

 戦術殻には、<黒の工房>にある多様な武器データが全て注ぎ込まれている。そして、それを再現して戦闘することもできる。

 そしてリィンの<虚無の剣>として戦ったアルティナには、<剣聖>としてのリィンの戦いの軌跡、その剣技すらも宿っている――――!

 

 

 

 

 

『鏡ノ太刀―――――無想覇斬…っ!』

「――――――ズバっと!」

 

 

 

 

 

 虚無の剣――――その一撃が、気の抜けた声とは裏腹に“魂”という外の理にすら通用する“剣”と、“無”を斬り裂く八葉の絶技を以て魔人の焔を斬り裂く。

 

 

 

 

「―――――リィンさん!」

 

 

 

 

 しかし、模倣(コピー)は所詮模倣(コピー)

 さほど痛痒すら感じているようにも見えない火焔魔人だが、その手が止まる一瞬さえあればリィンの手にもう一本の剣が手渡されるまでには十分すぎた。

 

 

 

 

 

 

『鬼の太刀―――――哭葉(こくよう)

 

 

 

 

 

 

 最早人間の規格に収まらない神速は目で捉えられず。迸る無数の斬撃が斬り裂いた焔と、駆け巡る灼眼の残光によってその軌跡を指し示す。

 

 

 収める鞘がない故に、虚無の剣を眼前に掲げたリィンの背後で、ようやく斬られたことに気づいたかのように大気が渦巻く。斬り裂かれた空間が今更のように捻れる。光さえも斬り裂かれたそれは、どこまでも深い闇の嵐になって吹き荒れ―――――。

 

 

 

 

 どんな生き物であっても死を免れないだろうその嵐の中から、声がした。

 

 

 

 

 

『――――――そうか。そういうことか―――――悪かったな、今日のところは感謝しとくぜ、<灰の小僧>』

 

 

「なっ、まだ―――――」

 

 

 

 

 驚くアルティナに被せるように、未来のアルティナの声が脳裏に響く。

 

 

 

『いえ。彼がこの程度では倒れないのはリィンさんも分かっているはずです』

 

 

 

 

 それに、無理に倒す必要もない――――。

 それを肯定するかのように、リィンはマクバーンを放置して最奥に通じるエレベーターに向けて歩き出し。

 

 

 

 

「……リィン、さん…?」

 

 

『取り戻すんだ………総てを………今度こそは――――…っ』

 

 

 

 

 

 

 その無理を示すかのように、身体に纏うオーラが揺らめいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。