黒兎と灰の鬼神 作:こげ茶
最後のところを少し修正しました(4/3 23:12)
リィンさんが未来から来たことを明かした翌日。
今日はカレイジャスがユミルに来るということで、それまでは訓練をして過ごすことになったのですが――――。
「そこだ!」
「うわぁ!?」
リィンさんが飛ばした斬撃がエリオットさんに命中。一撃でダウンするが、戦術リンクによってその穴をフィーさんが埋める。
「隙あり―――なんと!?」
「甘い!」
そしてその隙をラウラさんが突こうとするものの、いつかの皆伝の時よりも明らかに鋭さの足りない剣では命中しないどころかカウンターを受けて吹き飛ばされる。
「そこっ! ――――って嘘っ!?」
「それは“分け身”だ――――<無影功>」
アリサさんの矢が命中したかに見えたかと思うと、そのリィンさんがあっさりと消滅する。本物のリィンさんは気配を消していたらしく、カウンター気味に背後に現れたリィンさんによってアリサさんもダウンする。
と、そのリィンさんの更に背後から気配を消していたフィーさんが現れ――――振り向きざまの居合斬りで逆に得物を吹き飛ばされた。
「……リィン、強すぎ」
「まあこんなところか。大体の実力が分かったところで、これから組み手をしようと思うんだが―――――戦術リンクを繋いだ状態でやってもらう」
「? 戦術リンクを繋いだ状態では組み手の意義が無くなるのでは?」
なんと言っても互いにどう動くか分かってしまうのである。つまり八百長、あるいは互いの手札が全て見えた状態でカードゲームをしているようなものとも言えるかもしれない。
「よし、じゃあやってみるか。アルティナ、準備してくれ」
「…………そういうことですか」
笑顔で言われた瞬間に猛烈に嫌な予感がした。具体的には、手が見えていても対処できなければ何の意味もないという予感が。
クラウ=ソラスを呼び出し、リィンさんと戦術リンクをつなぐ。
そして戦術リンクを通して“伝わって”くるのは、<裏疾風>で攻撃してくるイメージ。
「――――…っ、クラウ=ソラス!」
「秘技、<裏疾風>」
即座に障壁を展開して一撃目を防ぎ、クラウ=ソラスの腕で背後からの追撃を防ぐ。が、その瞬間には次の<螺旋撃>のイメージが伝わってきている。
「起動――――<フラガラッハ>」
「おぉォォォオオオッ! <螺旋撃>!」
一撃、二撃、三撃。
焔の斬撃が螺旋を描いて吹き荒れ、それをクラウ=ソラスの腕が真っ二つに両断する。が、向こうもそのイメージを読んでいたのだろう。クラウ=ソラスの腕を足場に駆け上がるリィンさんがジャンプしつつ剣を振り上げ――――。
「燃え上がれ―――――滅!」
「<ノワールクレスト>」
ギリギリで間に合った障壁が<龍炎撃>を受け止めるが、衝撃で吹き飛ばされたところに左手を空けたリィンさんが飛び込んでくる。
「<破甲拳>!」
「<ブリューナク>、照射!」
その一撃を食らえば障壁ごと“抜かれる”と察し、熱線を進行方向に放つことでなんとか時間を稼いで体勢を立て直す。
技と技、互いに手が見えているからこそ、どう動くべきかという判断力が勝負を分ける。
………手加減されていなかったらとうの昔に叩きのめされているところなのだが、それはそれでギリギリ捌ける攻撃を延々と凌ぎ続ける必要があるということだった。
「っ、クラウ=ソラス!」
いつでもトドメを刺せる――――戦術リンクが無情にも伝えてくるそれに抗うべく、クラウ=ソラスの右手でリィンさんを牽制しつつ左手で自分の身体を思い切り空中に投げ飛ばす。
「――――ほう。……心頭滅却、我が太刀は<無>――――」
「シンクロ完了――――<アルカディス=ギア>!」
空中ならば合体を邪魔される心配もない――――なんとか強化形態を発動するものの、下では既に闘気を十分に溜めたリィンさんの姿。しかも恐るべきことに斬撃で嵐を生み出して空中を含めた全体攻撃をしようとしていることが分かってしまう。
最早、即座に勝負を決める以外に勝機は無かった。
「ブリューナク、照射! 斬っ…!」
「――――見えた!」
合体状態で強化されたブリューナクがあっさりと切り裂かれ、本来はそのエネルギーを利用して相手に大打撃を当たる斬撃も受け止められる。そしてそのまま首筋に刀を突きつけられて、わたしは合体を解除して両手を上げた。
「……参りました」
「と、まあこんな感じだ。……見ていても分かりにくいとは思うが、判断力を磨く他にも魔獣よりずっといい鍛錬になるし――――既に自分のスタイルを確立している皆なら、“一つ上”が目指せると思う」
俺たちも“Ⅶ組”でフィーやラウラに引っ張られて戦えるようになった気もするしな、と感慨深そうに呟くリィンさんではあるものの、これは相当大変なのでは。つまりは戦術リンクで手取り足取りとサンドバッグを同時に行うようなものと言える。……わたしの戦闘スタイルのメインがクラウ=ソラスでなければボコボコにされていたかもしれない。
やる気になっていたⅦ組メンバーが、鬼教官リィンに恐怖するまであと数分。
――――――――――――――――――――――――――
「――――お兄様!」
「やあ、アルフィン。無事で良かった……っと、何事だい?」
カレイジャスがユミルにやってきて、アルフィンの出迎えに嬉しそうにするオリヴァルト殿下だったものの、すぐに疲労困憊なⅦ組に心配そうな顔になる。
一応、元A級遊撃士監修の下で各地の問題を解決してきた特科クラスなので下手な猟兵崩れより強いのは理事長であるオリヴァルト殿下もよく知っている。
そんな彼らが何故―――ということなのだが、アルフィン殿下は苦笑し、エリゼさんはどこか申し訳なさそうである。
「リィンさんの特訓だそうです。……なんでも、戦術リンクを活用した修行だとか」
「……修行とは言い得て妙ですね」
精神的に痛めつけられるという点では間違いなく話に聞く修行にも劣らないだろう。絶妙な手加減でダメージを与えてくる点もなかなかエゲツない。何かに目覚めそうである。いつかの暴れまわる“暗黒竜”よりもこちらの手の内を全て理解して徹底的に追い込んでくるリィンさんの方が不埒で大変なのは明らかだった。
「どちらかというと“修業”なんですが」
これはあくまで修練のようなものだからと、苦笑するのはリィンさんというかリィン教官。
容赦なく絞られた“旧Ⅶ組”の面々は、それなりに下地のあった数名を除いて死屍累々。ほとんど目に生気がないあたり、多分パートナーとして、“新Ⅶ組”として戦っていたわたしはまだマシだった。
「あははは………皆、だいじょうぶ?」
「トワ会長……リィンが、鬼です……」「会長……」「手加減ぷりーず」「会長ならきっと……」
「その、リィン君……ほどほどにね?」
「正直ある程度戦えないと内戦に少しでも関わって欲しくないので」
トワ会長の慈悲ある言葉も、最早リィン鬼教官には届かない。
むしろ置いていきたい、と言わんばかりのリィンさんに、死屍累々だったⅦ組の面々が幽鬼のように一人、また一人と起き上がる。
「………くっ、いつまでも言わせておけるものか…!」
「また一人で抱え込ませていられないのよ……!」
「置いていかれたのなら、追いつかねばなるまい……」
「――――…やはり、“Ⅶ組”ですね」
もちろん、わたしもリィンさんに置いていかれるつもりはありませんが。
と、それを眺めながら嬉しそうに語るのはオリヴァルト殿下とリィンさんである。
「いいクラスになってくれたものだ。理事長……もとい、発案者冥利に尽きるね」
「ええ、最高のクラスです」
「まあもちろん、僕からすればリィン君を含めて最高のクラスなんだけれどね」
「いえ、自分は………」
と、そんな空気に割って入ったのはオリヴァルト殿下と同じく“見守る側”であるサラ教官で。
「未来だろうが過去だろうが、単位が足りないと卒業できないわよー。……どっかの単位足りないバカもちゃんと連れ戻すんでしょ?」
「……そうですね」
そんなこんなで温かい空気に包まれながら決意を改めつつ、カレイジャスはアルフィン殿下および“トールズ士官学院”によって運営されることになるのだった。
最初のターゲットはノルド高原に現れた謎の魔獣、もとい魔煌兵――――特訓の成果を見せるため、“旧Ⅶ組”メンバーだけで戦うことになったものの、無事に撃破し。
レグラムやガレリア演習場で士官学院の生徒をカレイジャスに乗せて、戦いの舞台はガレリア演習場より西、ケルディックとの間に位置する双龍橋へと移ることになった。
『クロイツェンの兵たちよ、恥を知りなさい! 罪もない敵将の家族を人質にとり、戦に利用しようなどという愚行――――アルノールの名において、断じて許すわけには参りません!』
「―――……既に救助されていますが」
「まあ一応、ナイトハルト教官が来るまで此処を抑えるぞ」
おまけ
<無影功>
未来のリィンがなんやかんやでルドガー・クラウゼルと戦った(鍛えられた)時に身につけたという設定の戦技(クラフト)。ステルス状態を自身に付与。ぶっちゃけフィーのエリアルハイドの類似品である。気配を消したり、実力を隠すために使うが、そんな気配の読めない人物がいたらある程度強いのはバレる。Ⅲでルドガーが一般人を装ってたりしたので誕生。あんな声の一般人はいない。
<分け身>
例のアレ。<銀>とか<レーヴェ>とかが使うアレ。ボスが増える分身攻撃。閃の軌跡では多分出ていないような気がする。
ある程度攻撃すると消えるが、実体があるので攻撃はしっかりしてくる。<刻葉>で出てくる増えるリィンは分け身なのだろうか。
八葉の<理>
「七の型を授けられた」「剣を無くした時に使う第八の型……ユン老師に徹底的に叩き込まれて」
結局何個の型を叩き込まれたのですかリィンさん。
二とか四とか伍の型も使うあたりどこまで教わったのだろうか。リィンがたまに妙に鋭いのはこの剣術の<理>と関係あるという噂もある。