黒兎と灰の鬼神   作:こげ茶

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4ヶ月も放置してしまってすみませぬ……。
閃Ⅳの情報も出てきましたし、4月1日という新たな年度の始まりですし、開き直ってサクサクと更新したいと思います。

なお誤字報告で誤字以外を報告されますのはメンタルに刺さるので勘弁して下さい。変更すべき点などのご意見は感想にてお送り頂いた場合のみ対応させていただきます。普通の誤字報告はいつも本当にありがとうございます。




その11:本当のコト

 

 

 

 

 

「………(じとー)」

「あのな、アルティナ」

 

 

 にこり、と笑顔を浮かべるリィンだが、どこか(エリゼ)に関する話題の時のように妙な迫力のある笑みだった。対するアルティナもどこか不機嫌そうであり、一触即発とでも言うべきギスギスした雰囲気がユミルの屋敷にあるリィンの部屋に漂っていた。

 

 

 

「―――何か言うことがあるなら聞きますが」

「―――何か言うことがあるなら聞くぞ?」

 

 

 

 同じような内容に、「これは言うつもりがないな」とお互いに微妙な顔になった二人だった。アルティナとしては、言ってしまっていいような気はしていたのだが。

 

 

 

 

 思い出すのはリィンの火焔魔人と同様の、黒く“変わった”姿。鬼人とでも言うべきその姿と力で、あの最強の執行者とリィンは互角に戦ってみせた。内戦後に来るはずだった教官時代を知っているアルティナからしてもあまりにも強すぎる。ひょっとして自分と同じような立場なのでは、と疑うのも無理はないくらいには。

 

 そしてアルティナを疑うリィンの態度がより『リィンも未来から来た』という可能性を肯定していた。それはそれで、悪くない……と、思うけれど。

 

 

 

 

 

(とはいえ、なんとなく言い出しづらいのも確かですね)

 

 

 

 

 「実はわたしはリィンさんを庇って死んだ記憶があります」と言ったところで別にどうなるものでもないと思うのだが、もし、“この”リィンさんが“あの”リィン教官本人だったとして。最早感動の対面とかそういうタイミングは過ぎ去って久しい。

 

 前回と同じ流れにしようと二度目の皇女と妹の誘拐を企てた身としては、前回よりも今回の方が初犯でないだけ問題がある気がしてならなかった。そしてリィンは言わずと知れたシスコンである。

 そして、庇って死んだ身というのはあんまり自慢できないのも確かであるし。……なんとなく、怒られそうなので言いたくないという気持ちが芽生えていた。

 

 

 

(―――――…リィンさんの状況を確かめてからにしましょう)

 

 

 

  特に“今回”ユミルで叩きのめされて脅されたことを思い出すと隠しておいたほうがいいような気がした。

 

 

 

 

 一方でリィンからすれば、任務以外の行動を取ってみたり命懸けで庇ってみたりと明らかにアルティナの行動は不審である。考えれば考える程怪しい。が、露骨に目を逸らしてみたりと言う気がなさそうなアルティナに溜息を一つ。

 

 

 

「……まあいい、なら知っていることをイエスかノーで答えてもらうぞ」

「………秘匿事項については答えできませんが」

 

 

 

「それでいいさ。クラウ=ソラスは基本的にはミリアムのアガートラムと同じものだな?」

「? そうですね。クラウ=ソラスが最新鋭バージョンではありますが」

 

 

 

 なんで今更そんなことを、とでも言いたげなアルティナだが、リィンは淡々と質問していく。

 

 

 

「で、貴族連合に協力している」

「はい。どちらかというと貸与ですが」

 

 

「元々は黒の工房にいた」

「はい」

 

 

「アルフィン殿下とエリゼを誘拐する任務だった」

「はい」

 

 

 

「クラウ=ソラスで空を飛んで移動できる」

「はい」

 

 

 

「ステルスモードは使える」

「はい」

 

 

「40アージュ泳げる」

「はい……あ」

 

 

 

 つい流れで普通に答えているが、“この時点”のアルティナがさほど泳げないはずなのは知っての通りである。

 ついでに思い切り目が泳いだその反応で、リィンはアルティナが隠そうとしていることを確信した。

 

 

 

「……それで、実は“こっち”に来た時にヴァリマールが持っていた『剣』が行方不明になったんだが――――どこに行ったか知らないか、アルティナ?」

 

 

 

 

 ちなみに“根源たる虚無の剣”なんていうんだが、と言いながらにっこり微笑むリィンに追い詰められたアルティナは、観念してこれまでの経緯を洗いざらい話させられたのだった。

 

 まさか、持ち込んだ”剣”が原因だとは二人とも思っていなかったのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――あのな、そういうことは素直に最初から言ってくれ」

「………言う前にリィンさんに不埒な行為を強要された気がしますが」

 

 

「いや、だから言い方……まあ、今回は俺が悪かった」

「今回“も”の間違いでは?」

 

 

 

 “この頃”のアルティナならクラウ=ソラスを人質にしての脅迫くらいしか効かなそうだった、という理由を説明され、確かに納得したもののどこか不満げなアルティナであった。「またリィンさんの相棒になろうとしたわたしの苦労はいったい」と遠い目をしているが……そうまでして引き留めようとした、ということに何故か若干頬が熱かったりするがそれはそれ。やはりリィンさんは不埒ですねと思っておく。

 

 

 

「俺からするとこの頃のアルティナは任務以外に興味がなかったからな」

「わたしからするとリィンさんは常に不埒ですが」

 

 

「いや、だから誤解だって……まあいいか」

「ところでリィンさん。クラウ=ソラスを返して頂きたいのですが」

 

 

 

 

 

 もういいだろう、ということで提案したアルティナだが、返答はまたしてもエリゼ関係でしか見たことのなかったリィンの目が笑っていない笑顔だった。なんだか気に障るようなことでもしただろうか、と考えてみるアルティナだが今ひとつ心当たりはない。

 

 

 

 

「―――――むしろ、“剣”のことを考えるとクラウ=ソラスは居ないほうがいいと思わないか?」

「………むしろ自衛手段が無いほうが問題では?」

 

 

 

 捕まったら<黒の工房>の謎技術で新しい戦術殻とリンクさせられてそのまま殺されるくらいは普通にありそうである。

 

 

 

「俺はもう誰にも遅れを取るつもりはない」

「…………リィンさん?」

 

 

 

 ジワリ、と滲み出るのは“鬼”のような気配。

 何か地雷を踏みつけたような不吉な気配を感じたアルティナは何故リィンが怒っているのかさっぱり分からないなりに“意思”を示しておこうと考えた。

 

 

 

「いずれにせよ、リィンさんのパートナーとしてはサポートができないのは困ります。………その、パートナー失格ということでしたら別の方策を考えますが」

 

 

 

 自分が死んだ後に色々あったのかもしれない。とは思うもののなんとなく聞きにくい。

 結果的に<黒の工房>の製造目的を果たして“剣”になって死んだアルティナとしては、もう任務を出して“くれる”相手がいないようなものである。

 

 第Ⅱ分校もない以上、もうリィンくらいしか頼る相手もいない。

 結果的に脅迫されている間は何も考えずに従っていれば良かったのである意味楽だったのだが。

 

 

 

「…………」

「リィンさん?」

 

 

「……………いや、そうだな。やっぱり教官失格か……」

「もう教官ではないですから教え子扱いは止めて下さい。実際のところ子ども扱いの次にもやもやすることが多かったですし」

 

 

 

 生徒なんだから『私用』に付き合わせるわけにはいかないとか、生徒だから別行動とか、子ども扱いの延長線上でしかないような気がするのはきっと気の所為ではない。

 

 

 

 

 

「切り替え早いな」

「そういう仕様ですので」

 

 

 

 そう言ってようやく苦笑したリィンに、柔らかく微笑むアルティナ。

 ぼんやりと自分の顔を見つめて優しげな顔をするリィンに、流石のアルティナもおかしいと思ったのか、小首をかしげた。

 

 

 

 

「……どうかしましたか?」

「いや、分かった。普通に屋敷の隣の倉庫に入れてあるから取りに行こう」

 

 

 

「………まさか、そんな場所にあるとは」

 

 

 

 

 

 普通に灯台下暗しであった。なんだか地面に埋めたとか嘘を言われた気もする。やはりリィンさんは不埒。

 そんなこんなでクラウ=ソラスとリンクを繋ぎ直し、ようやく人心地付いたアルティナは部屋に戻ってきたところでリィンに言った。

 

 

 

 

 

 

「ところで――――旧Ⅶ組の皆さんにも話しておいた方がよいのでは?」

「………いや、なんて言うつもりだ?」

 

 

「リィンさんでしたら“実は未来から来たから内戦は二度目なんだ”とかでいいと思いますが」

「…………………いや、それはどうなんだ」

 

 

 

 どうも何も、リィンならなんとかなりそうな気がする。日頃の行いのせいで。

 

 話す理由がないのでは、と自分のことになると妙に後回しなリィンだったが、アルティナからすると自分は偉そうに言っておいて、というヤツである。何しろ有り得ない戦闘能力を披露しているわけで。正直色々といっぱいいっぱいだったアルティナにも分かるくらい不審だった。

 

 

 

「では、わたしは皆さんに『不埒なリィン教官の教え子です』と改めて自己紹介を」

「――――やめなさい。今は俺もトールズの生徒だからな!? というか誤解を招くような言い方は止めてくれ!」

 

 

「事実ですし、そうでもしないとこちら側にいる説明ができません。……では、『逆らえない秘密を握られているのでリィンさんに従います』ということで――――」

「わかった。ちゃんと話すからしばらく大人しくしていてくれ」

 

 

 

 リィンが“自分の知っているリィン”だったとわかった途端のアルティナの悪ノリに項垂れるリィンだが、どこか楽しげなアルティナに思わず苦笑した。

 

 

 

 

「――――って、楽しんでないかアルティナ」

「楽しいというのはよく分かりませんが、気分は高揚しています。……そういえばユミルを案内していただけるというお話だったような」

 

 

 

 もしかすると帝都の夏至祭……祝賀会のときの話だろうか。

 アルティナからするとつい先日の、リィンからするともう何年も前の話に、リィンはどこか懐かしみつつ頷いた。

 

 

 

「わかった。明日あたりからしばらくユミルを離れると思うから、この後にでも一通り回ろう」

「……? ああ、パンタグリュエルの襲撃がそろそろですね」

 

 

「そうだ。――――まあ、知っていて大人しく待っているつもりもないけどな」

「? リィンさん?」

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 と、いうわけでシュバルツァー男爵家の客間に主だったメンバーが集められた。

 妙に深刻そうな顔をしたリィンに、どこか緩い雰囲気のアルティナを見て、大体のメンバーは「やっとなんとかなったか」と安心していたりするのだが。

 

 

 

 

「――――実は、俺は<時の至宝>の力で大体四年くらい未来からきたんだ」

「実はリィンさんのパートナーで教え子のアルティナ・オライオンです。今後ともよろしくお願いします(ぺこり)」

 

 

 

「「「………はあ」」」

 

 

 

 Ⅶ組全員に、クレア少佐……じゃなく大尉、トヴァルさん、そしてシュバルツァー夫妻。

 さして驚きもなく、「やっぱりか」みたいな顔をしている面々に、流石に想定外だったのかリィンが微妙な顔で言った。

 

 

 

「いや、その……信じられない、か?」

 

「いえ、どちらかというと納得したわ。リィンならやりそうだし――――で、やっぱり未来の私たちに何も言わずに過去に来たのね」

「ん。一人で勝手にやるのもいい加減にするべき」

 

 

 

 不審がったりするかと思いきや、何故かジト目で非難していくるアリサとフィー。

 

 

 

「私も未熟なれど剣の道を歩んでいるのだ――――リィンが明らかに“変わった”のは気づいていた」

「リィン、全然隠してなかったしね」

 

 

 

 納得顔のラウラにエリオット。

 

 

 

「強くなろうと、時が過ぎようと本質は変わらない。風も仲間も、そういうものだろう――――リィン」

「えっと、その……リィンさんも私の“術”に何も言わないでくれたじゃないですか」

『まあ、明らかにおかしかったわよね。<至宝>なら納得だわ……なんでまたそんな大事に巻き込まれてるのかはさておき』

 

 

 

 そういうこともある、と笑顔で受け流すガイウスとエマ。そして呆れ顔?のセリーヌ。

 

 

 

「いや、まあ正直未だに信じられないが――――リィンだしな。君もいい加減僕らを頼ったらどうなんだ?」

「リィンならやりかねん。というかアレで隠しているつもりだったのか?」

 

 

 

 マキアスとユーシスからの妙な信頼が微妙に辛い。

 

 

 

「というか、アーちゃんズルい! ボクもリィンの教え子になりたいー!」

「………貴女はクラスメイトでは? あと過度な接触はやめて下さい」

 

 

 

 そもそも気にしてなさそうなミリアムはアルティナにじゃれつき、なんだかんだと“以前”より満更でもなさそうなアルティナがジト目を向ける。

 

 

 

「いやー、妙にリィンに渋みが出たと思ったのよねー。ま、私たちからすればまだまだひよっこだけど」

 

 

 

 

 大して気にした様子のないサラ。

 

 

 

「―――って、教官いつの間に!?」

「あら、せっかく来てあげたのに薄情な生徒を持って悲しいわね……。にしても割って入るタイミング逃して、精霊の道っていうの? アレに危うく乗り遅れるところだったわ」

 

 

「そんな列車みたいに……」

 

 

 

 ヒラヒラと手を振りながら、気づかれなかったことの方がむしろ微妙に根に持っているのか笑顔が怖いサラ教官であった。信頼しているからこそ、気配が飛び込んできてもついスルーしてしまったのだろうが、まあ女性陣をスルーしたらそうなる。

 

 

 

 

 

 

「まあ正直、俺は出会ったばかりで良くわからないが――――いい仲間を持ったじゃねぇか」

「ははは……その、本当に自分にはもったいないくらいの仲間たちです」

 

 

 

 トヴァルがリィンの肩を叩き、過去も未来も変わらず暖かな仲間たちにリィンは久方ぶりに穏やかな笑みを浮かべ―――――。

 

 

 

 

 

「――――それで、兄様。つまり兄様は別に敵ではない教え子のアルティナさんを部屋に閉じ込めていたということでよろしいですね?」

 

 

 

 笑顔のエリゼに、穏やかだった空気が凍りついた。

 

 

 

「どちらかというと軟禁ですが。……ですが、温泉には入れていただきましたね。混浴で」

「ちょっ!? それは勝手に――――」

 

 

 

 ピキリ、と何かにヒビが入るような音が聞こえた気がした。

 慌てて活路を探すリィンに、どこか優しげな顔でアルティナが言った。

 

 

 

「ですが、お互いに未来から来たとは気づいていませんでしたので仕方がないかと。拘束されて脅迫されたくらいですので、リィンさんの不埒さからすれば挨拶程度ですし」

 

「アルティナ!?」

 

 

 

 しかし助け舟かと思ったら追い打ちだった。

 

 

 

「挨拶程度……?」

「つまり、割と日常茶飯事?」

「拘束……」

「脅迫……」

「リィンさんって、不埒な方だったんですね……」

 

 

 

 おかしい。さっきまで味方しかいなかった空間に敵しかいなくなっている。

 唯一なんとかできそうな希望のあるアルティナに必死で目線を送るリィンだが、アルティナは澄まし顔である。

 

 

 

「いや……その、アルティナ君? 謝るので誤解を解いてもらえないでしょうか……?」

「全て事実ですが、何か?」

 

「「「「リ・ィ・ン?」」」」

 

 

 

 

 その後、アルティナが悪ノリを認めてくれるまで色々と質問攻めに遭ったリィンだったが、そのお陰で皆との間にわずかにあった遠慮が完全に無くなったのは余談である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




4月2日修正:サラ教官の合流について追記

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