ロクでなし魔術講師と赤髪の天災魔術師 (リメイク) 作:クッペ
「・・・昨日は、すまんかった」
「え?」
グレンが珍しく予鈴が鳴る前に教室に来たと思ったら、開口一番に放った一言がこの言葉である。全く予想していなかったシスティーナは硬直して、次の言葉を紡ぎだせずにいた。
「いや・・・まぁ、その、あれだ・・・大切なものは人それぞれっていうか、人の価値観は人それぞれっていうか・・・確かに俺は魔術が嫌いだが、それをお前にまで押し付けるのは筋違いっていうか・・・とにかく、すまなかった・・・」
「・・・・・・はぁ?」
グレンの真意を読み取れないシスティーナは怪訝な表情を浮かべていた。
クラスの人間はグレンが誤ったことに対して、狼狽えてざわついていたが、システィーナのなりに座っているルミアは、ただ一人微笑んでいた。
「それじゃ、授業を始める。これが魔術理論Ⅱの教科書か・・・」
そう言ってパラパラと教科書をめくり教室の窓を開けて、教科書を外に投げ捨てた。
その様子を見てクラスの連中は自習に入ろうとするが、今日のグレンは違った。
「一週間、お前らの自習見てたけど、お前らってホント馬鹿だな!」
・・・いや、いつも通りかもしれない。
「ショック・ボルト程度の略式詠唱も出来ない三流に言われたくないね」
「それを言われると耳が痛いんだが、今ショック・ボルト”程度”とか言ったやつ。やっぱお前馬鹿だわ。はっ!自分で自分が馬鹿だって証明してやがんの!じゃあ今日はその【ショック・ボルト】について、お前らに授業をしてやるよ」
「ショック・ボルトなんてとっくに極めてるさ」
そのことあを無視しつつ、グレンは黒板に何かを書き始めた
「はーい、注目。『雷精よ・紫電の衝撃もって・打ち倒せ』。これが黒魔【ショック・ボルト】の呪文だ」
そう言ってグレンはショック・ボルトを三節で発動させる。その光景に教室の所々から笑いが漏れる。しかし当の当のグレンは全く意に介さずに続ける。
「このように呪文を詠唱すると魔術が発動するよな?じゃあこのショック・ボルトの呪文を≪雷精よ・紫電の・衝撃もって・打ち倒せ≫。こう区切って詠唱するとどうなる?あぁ、カインは答えなくていいぞ」
クラスの皆は首をかしげる。この問いの答えが分からないというよりも、なぜこんなことを聞いてくるかが分からないためだ。
「ふん、決まっている。何らかの形で失敗するさ」
「んなことわかってるんだよ。完成されてる呪文をいじくってるんだからな。俺が聞いてるのは、どのような失敗をするかだ」
クラスの皆は答えられない。そんなこと考えたことないからだ。
「そんなの、ランダムに決まってますわ!」
「ラ・ン・ダ・ム?!どひゃひゃひゃ!腹痛え!!俺を笑い死にさせる気かよ!え?何?お前ら全滅!?とっくに極めたんじゃなかったんですかねぇ!?」
悔し気にみんなが唸る。三流と見下していた教師からここまで馬鹿みたいに煽られているのだから仕方がない事ではあるが。
「もういい、答えは、『右に曲がる』だ」
そう言ってショック・ボルトを四節で詠唱する。するとグレンが言ったとおりに右に曲がって消滅する。
「他には≪雷・精よ・紫電の・衝撃もって・打ち倒せ≫とかやると射程が三分の一程度に、≪雷精よ・紫電のもって・打ち倒せ≫とかだと出力が大幅に落ちたりする。ま、極めたとかほざくんだったらこれくらいはできねえとな」
チョークを指の先で回しながら言い放つ。
「お前らなんてどうせ『決められた呪文を口にすれば世界の法則に干渉して魔術式が起動するんです』なんて考えてんだろ? どうして言葉で世界の法則なんぞに介入できるのか。どうして魔術式が起動するのか。考えたことねえのか?今までのお前らのお勉強ってやつは呪文や術式をわかりやすく翻訳して覚えること。頼りの教科書様も大雑把なことしか記されてねえ。教えるつもりあんのかって疑いたくなるくらいだわ。魔術式ってのは人が世界に影響を与えるんじゃない。世界が人に影響を与えるものだ。根本として考え方が違うわけだ」
「つまりどういうことですか?」
流石にわからなくなってきたのか、一人の女子生徒が挙手して訊ねた。
「要はだな、魔術ってのは超高度な自己暗示なんだよ。自分の深層意識を改変するためのな。確かに世界の法則には介入するさ。だがそれは深層意識が改変されたことによる結果だ。つまり、魔術式自体が世界の法則に介入するわけじゃないのさ。これさえちゃんと理解できてれば、そうだな」
グレンは少し考えるそぶりを見せた後に
「≪まぁ・とにかく・痺れろ≫」
意味の分からないことを言い放つと、ショック・ボルトが発動した。
「あれ、思ったより威力低いな。まぁいいや。こういった改変くらいならできるようになる。言っておくけどマナの使用量はいつもよりも多く使うし、たいていは威力や精度が落ちたりするから、あんまりお薦めはしねえからな。」
今まで呪文を唱えなければ発動しないと思っていた魔術が、こんな言葉で発動するという事実に、生徒たちの常識は崩れ去っていってしまう。
「さて、今から話すのはショック・ボルトの呪文を題材にした術式構造と魔術文法、魔術公式…そのド基礎教えやる。興味がないやつは寝てな」
* * * * * * * * * *
ダメ講師、グレン覚醒
その噂はクラスだけにとどまらず、学校中に震撼し、今では違うクラスの人間が立ち見をしてまでグレンの授業を聞きに来ていた。
しかし・・・
「遅い!」
システィーナは唸りながらそう叫んでいる。
「あいつ、まさか今日が休校日だと勘違いしてるんじゃないでしょうね?」
「いや、昨日セリカっていう全自動目覚まし時計が帝都行っちゃったから、普通に寝坊してると思うけど」
「なんであんたは起こしてこないのよ!?」
「俺は朝少し用事があるから起きる時間がそもそも兄さんとは違うんだよ。それに一応声はかけたし」
すると、この学校の結界に細工がされたことにカインだけが気が付いた。
何事かと思って近くを学院全体に広げて、状況を探る。
(侵入者!?いったい何者だ・・・?人数は、三人か)
どういう状況になるか分からないのでカインはいったん教室を出ていくことにする。もしも先頭になった際に、一人一人の戦闘力が分からない中、三人をいっぺんに敵に回すことは愚策である。
「すまん、少し出る。しばらくしたら戻る」
そうシスティーナとルミアに言ってカインは教室を出て光学迷彩の魔術を自分に施し、外から教室の様子を窺う。
しばらくすると先ほどの侵入者三人が2-2の教室に入る。
(いったい何なんだ?)
そう思っていると黒いコートを着た謎の男性三人が、教室に現れていた。
すると何かもめている様にシスティーナが口論していたが、
「≪ズドン≫」
チンピラ風の男がとなえたふざけた呪文が発動し、システィーナを掠めて背後の壁に何かをうがったような音が響いた。
(今のは【ライトにニング・ピアス】!?何者なんだあいつら!?)
カインが驚愕しているとチンピラ風の男がルミアを探していると言い出した。
(なぜルミアなんだ・・・?)
そう思っているのはカインだけではなくクラスの人間がも同じ疑問を感じていた。
そしてルミアが名乗ってチンピラ風の男と、黙っていた男がルミアとシスティーナを連行していき、もう一人の陰険そうな男が、クラスの人間を縛り上げていた。
(兄さんは、どうやら無事みたいだな。一人で三人相手にするのは少々厳しいか・・・?そうすると兄さんの到着を待った方がいいか・・・)
教室にはボーンゴーレムと、陰険そうな男が見張りとして残っている。
グレンが学院に到着したことを知ったカインは行動を起こす。まずは教室の開放からだ。
どうやら魔術によってカギを駆けられてるらしいが、CADを使って魔術を分解する。そうして光学迷彩を解除して教室へと入る。
「よおおっさん、あんた一体何もんなんだ?なぜルミアをとシスティーナを連れて行った?」
突然入ってきたカインにクラスメイトと男は驚いていたが、男の方はその様子を億尾にも出さないように振る舞っていた。
「答えると思うか?だが、我らの正体を教えるくらいは良いだろう。我らは天の智慧研究会。テロリストじゃよ!」
「へぇ、天の智慧研究会か・・・つまりお前らは、殺しても問題は無いんだな・・・?」
カインの表情が冷ややかになり、身に纏う雰囲気が変わった。懐からCADを抜いて臨戦態勢に入る。
「天の智慧研究会、今からお前を、消してやるよ!」
今回は軍人であることも明かしません
その方が後の展開とか楽なんで