ロクでなし魔術講師と赤髪の天災魔術師 (リメイク) 作:クッペ
何が面白かったか具体的には書きませんが面白かったので皆さん是非見に行くことをお勧めします!
「貴様ら、何者だ!」
おっと、やっぱりここで王室親衛隊が妨害に入ろうとしてくるか。まぁ俺がここで全員黙らせてもいいんだが
「≪邪魔だ≫」
母さんが結界を張ってくれた。防音まで兼ねてくれるとは、流石だな。
「ここまで御膳立てをしてくれるとは、さっすがセリカ様。さて女王陛下、僭越ながらそこの王室親衛隊は女王陛下の名前を使い、民間人の処刑を執り行おうとしておりました。その件に関して、どうかご再考を」
兄さんが余裕そうに言い放つ。が、女王陛下が放った言葉は衝撃的なものだった。
「王室親衛隊隊長ゼ―ロス。そこの民間人、ルミア=ティンジェルを、討ち果たしなさい」
「は?」
俺と兄さんとルミアがそれぞれに驚きの表情を浮かべる。
どういうことだ?この命令は本当に愛想を尽かした故の命令だとでも?だとしたら三年前にルミアを助けるようにお願いしてきた女王陛下は、一体何だったんだ?
「女王陛下、それって一体――」
「さすがは女王陛下、素晴らしい判断です!さぁ逆賊ども、覚悟しろ!」
そう言って二本の細剣を抜くゼ―ロス。しかし兄さんはとある違和感に気付いたのか、女王陛下と話し始めた。
「女王陛下、そのペンダント、綺麗ですね」
その瞬間、女王陛下の顔が綻んだ。
なるほどな、つまりあれが呪殺具、あれを外せさえすれば
「えぇ、私の一番のお気に入りなんです」
「でもそれ、肩凝るでしょう?俺が取って差し上げましょうか?」
「いいえ、結構ですよ。私、これ外したくないので」
そう言いながらも女王陛下は笑顔だ。
「ルミア」
「・・・え?」
「大丈夫だ、安心しろ。女王陛下、お前のお母さんは、お前の事愛しているから」
俺はそう言って兄さんに合図を送る。兄さんは女王陛下の所へ向かうが、案の定ゼ―ロスの妨害が入る。
「させん!」
「いいや、お前の相手は俺だ」
そう言って兄さんとゼ―ロスの間に割って入る。
「学生風情が、私の邪魔をするな!」
「だったら試してみるか?どこからでもかかって来いよ」
「貴様・・・!いいだろう、自分の言ったことを後悔するんだな!」
そう言ってゼ―ロスは細剣を突き出してくる。このまま何もしなければ、細剣は俺の腹部を貫通するだろうが、俺はあえてその場から動かず、その細剣を食らう。
「うぐっ・・・!」
「貴様、何を!?」
何もせず無抵抗で喰らったことに驚いたのだろう。ゼ―ロスは剣を刺したまま何もできずに呆然と立ち尽くす。
「カイン君!」
「大丈夫だ、安心しろルミア。言ったろ?俺を傷つけられる奴は存在しないって」
今はゼ―ロスの足止めさえできれば良い。つまりこれで俺のミッションは完了だ。
後ろではたった今、女王陛下がペンダントを投げ捨てているところだ。
「陛下!?」
しかしいつまでたっても呪いが発動しない。
「お疲れカイン、それにしても無茶するよなお前」
「これが一番確実だったんだ。無抵抗に食らったことに動揺しないやつはいないからな」
そう言って腹に刺さった細剣を乱暴に抜いて、ゼ―ロスの方へ投げ捨てる。剣が刺さっていた場所には、血はおろか、傷の痕跡すら消えていた。
「貴様ら、一体何をしたというんだ?」
兄さんはポケットから一枚のタロットカードを取り出す。兄さん自作の、兄さんの固有魔術発動用の魔道具だ。
そして俺は、剣を刺された場所をゼ―ロスへ見せつける。傷の後は全く残っていない。
「これは俺の固有魔術、『愚者の世界』。一定範囲の魔術起動を完全封殺する、俺の固有魔術」
「固有魔術『自己再成』、戦闘に支障をきたす外傷を、一瞬で直す、傷を受ける前の状態へ巻き戻す固有魔術だ」
「・・・そういえば聞いたことがある。帝国宮廷魔導士団特務分室の魔術師殺しと不死身の魔術師。貴様らは・・・」
「さぁてなんの事やら、俺にはわからんな」
「さて、ルミア。これで全部解決だぞ?」
「う、うん・・・」
そう言って女王陛下の方を見るルミア。女王陛下の方もルミアの方を見ており、だんだんと二人が近付いていき、やがて抱き着く。
こうして女王陛下とルミア、二人の親子は久しぶりに親子として触れ合うことができたのだった。
* * * * * * * * * *
「カイン、今回はよくやってくれました。でもあなたは今回、特務分室としての任務は受けていなかったはずでしたが・・・?」
「いえ、たまたま居合わせただけですよ。それに今の任務に全く関係ないわけではありませんし」
「ふふっ、そういうことにしておきます。ただこの度の任務の報酬は出すことはできないのですが・・・」
「それも大丈夫ですよ。兄さんの方に報酬を出してあげてください。一応、今の兄さんは民間人ですから」
「えぇ、あなたがそう言うのならば、そうさせていただきます。エルミアナとまた話せるようにしてくれて、本当に感謝しています」
そう言って女王陛下は頭を下げる。
「顔を上げて下さいよ、陛下が一軍人に簡単に頭を下げてはいけませんよ」
「ふふっ、そうですね。そうです!カイン、エルミアナを貰ってあげてくれませんか?あの子もあなたの事、気に入ってるようですし!」
「はい?いきなり何を・・・」
「本気ですよ?その気になったら、私はいつでも許可は出しますから。ではまた」
「え、ええ。ご武運を」
なんだかいきなりの発言に頓珍漢なことを言ってしまってる。まぁ女王陛下とルミアがまた仲良くなったなら、今回はそれが十分な報酬ってことにしておきますか・・・
* * * * * * * * * *
俺は現在打ち上げ会場に向かっている。兄さんが調子に乗って『優勝したら俺が奢ってやる!』みたいなことを言っていたので、今日の魔術競技祭の打ち上げだ。俺としては今日は疲れたので帰りたいのだが・・・
女王陛下と話していたので、俺だけ後程合流する旨は、兄さんには伝えてある。そうしていると道中、店に到着している筈のルミアがいた。
「打ち上げ、行かないのか?」
「・・・いや、少し、話したいことがあるんだけど」
なんかちょっと怒ってる?俺怒らせるようなことしたか?
「ねぇ、今日の、あの剣に貫かれたの、あれってわざとなの?」
「あぁ、そうだけど。何度も言ってるけど俺を傷つけられる奴は――」
「そういう問題じゃない!」
「え?」
「あのまま死んじゃうんじゃないかって、私すっごく心配したんだから!いくら死なないからって、もうあんな無茶は、自分を犠牲にするようなことはしないでよ・・・」
そう言って涙を流しながら今日の事を叱責してくる。俺としてはいつもの事なので、特に問題だとは思わなかったのだが・・・
しかし心配をかけてしまったようだ・・・そこに関しては申し訳ないと思う。俺は泣いているルミアの頭に手を乗せる。
「えっと・・・なんか、悪かったな、心配かけて・・・俺は自分の身を顧みながら戦うってことはあんまりしてこなかったから、何も問題は無いと思ってたんだ。悪かった、今後はあんまりそんなことしない様に――」
「あんまり?」
「う・・・今後はしない。本当に悪かったな・・・」
「うん、許す!」
そう言って満面の笑みを浮かべる。
「それにしてもお前が怒るなんて、珍しいんじゃないか?」
「それは、好きな人が無茶したら・・・ううん、なんでもない!」
「?そうか」
話し終わったころには打ち上げ会場に到着していた。打ち上げではシスティーナが高い酒をがばがば飲んだようで、特別褒賞と賭けで手に入れた三か月分の給料が全て吹き飛ばされていた。
流石に可哀想になったので、打ち上げの会費の半分は俺が出した。
二巻これで終了
三巻と四巻はセットにします。