ロクでなし魔術講師と赤髪の天災魔術師 (リメイク) 作:クッペ
プロローグ
とある夜の出来事である。
「いやぁ、俺つくづく思うんだよ。働いたら負けだなって。お前がいてくれて本当によかったよ。お前のおかげで俺は生きていられるからな」
「はぁ、死ねよ穀潰し・・・」
ため息交じりにその女性は言った。
「あっはっは!セリカは厳しいなぁ!・・・あ、おかわり。でも今日はちょっと塩味がきついな。」
「清々しい上にダメ出しとは恐れ入るよ」
女性――セリカは不気味に微笑みながらそう言い、
「《まぁ・とにかく・爆ぜろ》」
不意にルーン語の三節で奇妙な呪文を唱えると、容赦ない爆風がグレンを吹き飛ばし、豪華な食卓は半壊した。
「ば、馬鹿野郎!お前、俺を殺す気か!?」
「殺す?違うな。ゴミを片す行為は掃除というんだぞ?グレン」
「今のはグレンくんが悪いよ・・・ちゃんと謝ったほうがいいんじゃない?」
ここまで静観を保ってきた銀髪の少女、セラがそう言うと
「うるせぇよ、お前だって、セリカから養ってもらってるじゃねえか」
「違いますぅ~、私はちゃんと働いて、家賃支払って下宿させてもらってるんです~。それよりセリカさん、いいんですかこんなにしちゃって。また彼から小言貰いますよ?」
「なんだかんだで、あいつはいつも直てくれるからあとでちゃんと謝るとして、なぁ、グレン。・・・お前いい加減仕事探さないか?」
グレンがよろよろと起き上がりながら一瞬動きを止め、
「お前が私の家に居候し始めてから早一年。毎日食って寝てぼんやりしているだけ。本当にそれでいいのか?お前の弟は、今でもお前の分まで働いているというのに・・・」
「大丈夫。今の俺は昔の自分より大好きだ!」
「弟分に働かせといてこの言い草とは、いや、お前もう死ねよ、頼むから」
セリカは呆れながら言い放ち
「お前というやつは、昔のよしみで面倒見てる私や、お前の弟には申し訳ないと思わないのか?」
「まぁ、確かにあいつには申し訳ないとは思っちゃいるが、俺とお前の仲だろう?そのくらいは見逃して・・・」
「《其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を・・・》」
流石に切れたセリカは呪文を唱えはじめ、セラはこの場から退避しつつ、
「おい!?それ、【イクスティンクション・レイ】の呪文じゃねえか!?待って!?それだけはやめて!俺が灰になっちゃうからー!?」
グレンが悲鳴を上げながら高速で後退りした。
セリカはため息をつきながら魔術を解除し、
「まぁいい、とにかくお前もそろそろ前に進むべきだと私は思う。お前自身も本当は分かっているだろ?」
「つっても、働くっていったい何すりゃあいいんだよ・・・」
「そういうと思って、すでに私が契約してきてやったぞ。実は今アルザーノ魔術学院の講師枠が一枠空いてしまってな・・・急な人事のため、代えの講師が用意できなくってな。そこで、お前には一ヶ月の間、非常勤講師をやってもらおうと思っている。」
「おい!?すでに契約されてる時点で、俺に選択しなんて無えじゃねえか!?しかもなんで俺なんだよ?あの学院には暇な教授共がたむろしてるんだろ?そいつらにやらせりゃあいいじゃねえか?」
「グレンくん魔術学院で働くの!?いいじゃん!グレンくん魔術にすっごく詳しいし、教えるのもうまいからきっといい先生になれるよ!」
いつの間にか戻ってきていたセラがグレンの雇用に関する話を聞いていたようで、目を輝かせながらグレンにそう言うが・・・
「いやいや白犬よ。勝手に俺の退路奪わないでもらえますかね?それに無理だよ・・・俺にはだれかを教える資格なんて無い・・・それに俺は魔術が大っ嫌いだからな!」
「グレンくん・・・グレンくんが魔術を嫌ってるのってやっぱり二年前の・・・」
「勘違いするなよ白犬。別にあの事があったから魔術が嫌いになったわけじゃねえ。」
「グレンくん・・・」
「とにかく!俺は金輪際!魔術なんかには関わらないからな!魔術に関わるくらいなら道端で命乞いでも――」
「≪其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を紡ぐ縁は乖離せよ≫」
セリカが呪文を早口でまくしたてた刹那、グレンの傍らを光の波動が駆け抜けていった。
グレンが波動の駆け抜けたほうへ目を向けると、そこには物理的な破壊が不可能であろう大穴がごっそりと空いていた。
「・・・狙いが甘かったか。」
セリカは舌打ちをしながらそう呟き硬直するグレンに向かって
「次は外さん・・・≪其は摂理の円環へと帰還せよ・五素は五素に・象と理を・・・≫」
「ママぁあああああああああああ―――――ッ!?」
グレンが絶叫していると、セリカが発動しようとしている魔術は発動直前で吹き飛ばされ、
「母さん、ただいまー。・・・うわ、また凄いことになってるし・・・」
帝国宮廷魔導士団の制服に身を包んだ赤髪の少年が、拳銃形態の魔導器を向けながら、帰ってきた。
「母さん、今度は兄さんが何をしたんだよ・・・毎回毎回こんなにぶっ壊して、直すのもタダじゃないんだよ?」
そうため息をつきながらセリカが破壊した食卓、壁に拳銃形態の魔導器を向けながら呟き、引き金を引いた。すると壊されたところがまるで壊されたという現実が無かったかのように直されていた。
「お帰り、いつもすまんな、カイン。だが今回は完全にグレンが悪い」
「いや、基本的に悪いのは兄さんっていうことは分かってるんだけど、今回は一体何があったのさ?」
セリカがここまでに経緯をカインに説明すると、
「え!?兄さん魔術学院で講師やるの!?応援してるよ!頑張ってね!」
目を輝かせながらそう言ったカイン。それにしてもいつもよりも目を輝かせている。
何か言いたいことでもある様子であったので、セリカはカインに尋ねた。
「なんだカイン、何か気になるようなことでもあったのか?」
「いや、まぁ学校っていいなぁって思ってさ・・・俺って学校って行ったところが無いから一体どんなところなんだろうなって思って・・・」
カインが帝国宮廷魔導士団に入隊したのは10歳になったころ。本来なら学院に通っている年齢のカインだったが、軍の最高戦力として学院に通うこともできないのである。
「カイン、学院通ってみたいか?」
「通ってみたいけど軍の方があるだろ?だからきっと無理だよ・・・」
「なら軍の方には私の方から言っておいてやろう。なぁに、元執行官No.21『世界』のセリカ=アルフォネアだぞ?室長位黙らせてやれるさ」
「本当!?じゃあ俺も学院に通ってみたい!兄さんも非常勤講師になるんだろ?」
「え!?・・・お、おう・・・」
「じゃあ一緒に通えるな!これからよろしくな、グレン先生?」
こうしてグレンはアルザーノ魔術学院の非常勤講師となったのであった
変更点
・最初からカインを学院に通わせます
・それに伴い最後の文章の変更
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