無限の可能性にでも期待すっか!
ああァっはっはっはっはァ……
そして……なにも変わらなかった
オレたちが変えてやる
あぁ、どうしたらいいかなんてわかんないよ
でも 10年前のアーロンが言ってたこと……
オレも信じるッス
無限の可能性?
「あなたは誰やの?」
「もうわかってるんだろう?」
少年はこれまでのことを思い返しているようだった。あの入れ替わりの日々を。
「まさか……そんな……じゃあ……あなたは……?」
「俺に人生預けたほうがいいっていったのに……悪い」
――瀧君! なんで女子から告白されてんのよ?
――おまえ、俺に人生あずけたほうがモテんじゃね?
少年の右の瞳から涙がこぼれた。
「そっか……そうやったんだ……」
「アイツはあの日に……隕石が落ちたあの日に戻って、たったひとりで、今、戦っているよ。運命と戦っている。ここからでは助けに行くことはできない」
「でも……」
何が「でも……」なのか?
奥寺らしい言葉ではあるけれど。すぐに感情で語ろうとする。それじゃ何も解決しないのに……。
「隕石から糸守のみんなを守るためにはみんなを避難させるしかない。それには町長である俊樹の説得が必要だ。だが、彼を説得するのは無理だろう。どんな言葉も、どんな演出も効果はない。それでも、アイツはあきらめずにさがしている。奇跡のような方程式を。俺もさがしていた。でも、みつからなかった。どうしても、みつからなかったんだ。さがして……さがして……さがして……」
三葉はじっときいている。
「そして、何も変わらなかった」
「私たちが変えてみせる」
どうせ根拠なんてない。確信なんてない。
「うん。どうしたらいいかなんてわからないよ」
ほ~ら。
「でも、私はまだ生きているんよ。この糸はまだ途切れてない。可能性は残っているんよ。私もあきらめない。あの人が私のために戦っているのに、私があきらめるわけにはいかない。だから、私も信じるよ」
「何を……?」
「さっき、あなたが言ったこと……」
「…………」
「きっとあるよ……」
「…………」
「奇跡ような方程式」
そういえば俊樹が言ってたっけ。
――おまえが言うと本当に彗星が落ちてくるような気がしてくるよ
あのときの三葉は俺だったけど、三葉にはそういう力があるのかもしれない。宮水の血なのか……? いや、そうじゃない。ただ、俺が勝手にそう思っているだけだ。
三葉はただの少女だ。
なのに、そんなふうに思ってしまうのは……。
「あなたにも辛い思いさせちゃったんよね?」
こんな気持ちをなんて言ったっけ?
「なんで、こんな状況で俺の心配なんかできるんだよ?」
「あなたの心配をしているつもりはないよ。気になるだけ」
俺は頭をかく。長い髪でいつもと勝手がちがうことに気づく。
あのときの俺が、今の三葉と出会っていたら、どうなっていただろう?
……………………。
俺は何を考えているんだ。
結局、結果は何も変わらない。なるようにしかならない。そういうものだ。
少年は笑った。
「500人の町民を移動させる。町の、組織の力を使わなきゃ不可能なのに、それが封じられている。そもそも、俊樹がそんな命令を出したところで、みんながそれに従うかどうかもあやしいし。過去に連絡する方法もない。なんで、こんな絶望的状況で、おまえは笑えるんだよ?」
「ん? なんでやろね? こわいよ。すごく……でも、次から次にふしぎな勇気がわいてくるんよ。あなたがいてくれるなら、私は負ける気がしない」
「……………………」
どこかで俺はひとりで戦おうとしていた。ひとりじゃ勝てないのに……。
ホント……こいつは……。
自分が一番きついはずなのに……。
奥寺はそういうやつだった。どんなときも、変わらないやさしさを持っている。たぶん、それはやさしさじゃなく、強さというものなのかもしれない。
「私、思うんよ。あなたの奥寺先輩はきっと救われてるよ。あなたが救わなきゃいけないのはあなた自身よ」
俺……? おまえが俺を救う……?
俺はそんなにひどい顔をしているんだろうか?
手を差し伸べてあげなきゃいけないと思うほどに。
そうかもしれない。高山ラーメンの店主は俺の顔をみて、俺をここまで連れてきてくれたんだから。今の俺もあのときの俺とそんなに変わらないのかもしれない。もしかしたら、もっとひどい顔をしているかもしれない。
今の俺は罪を背負っている。
「奥寺先輩じゃ、あなたを救えないなら、あなたは私が救う」
「俺は糸守から逃げた」
それが俺の罪だ。
「でも、だから、奥寺先輩は生きてるんよ。私は生きてるんよ」
少年は俺の頬にふれる。
まだ出会ってさえもいないのに……俺たちの間には歴史がある……。
「私は知ってるよ。あなたの夢も、あなたが大切にしているものも……」
「見透かしたようなこというなよ。俺のことなんて何も知らないくせに……」
「まだ出会ってもいないもんね。でも、私は知ってるよ。あなたが友達ために戦える優しさと強さを持ってること……だから、私は信じてるんよ」
少年は俺をみつめた。
「信じてるんよ」
◆ ◆
いつから、俺はこんなに弱くなっていたんだろう。
手が届くだけの人を救おうと思っていた。
でも、それじゃダメなんだ。
欲張るんだ。
リスク(痛み)を恐れて、自分を守ってちゃ何も変えられない。無茶って言われるかもしれない。無謀って言われるかもしれない。無鉄砲って言われるかもしれない。
それでも、やるんだ。
三葉……おまえが思い出させてくれたんだ。
この青さを。
大人ぶるのはもうやめだ。
戻ると、自称郵便局員がクルマの前で待っていた。
「俺にわたしたいものがあるんろう?」
「さすがだな」
「何かをわたすとしたら、このタイミングがもっともリスクが小さいからな。これ以前だと歴史の修正力が働く可能性がある」
「キミもそう言っていたよ」
「ふん」
「わはは!」
自称郵便局員は俺に大きな手紙をわたしてきた。
「キミからキミへの手紙だ」
この手紙がここに存在しているということはこれもまた暗号化されているってことだろう。そうでなければこの手紙の存在はデリートされていたはずだ。
神の手によって……歴史の修正力によって……。
それをかいくぐったんだ。この手紙は。
「悪魔のような頭脳で、この世界を支配しているヤツがいる」
自称郵便局員の彼は空を見上げた。
そうか。アイツはそれにふれたんだ。
「我々は彼を……エルキラと呼んでいる」