君の名は。再演す   作:マネ

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ブラスカ様! ジェクト!

まだなんかあんのかぁ!?

この流れを変えないと何も変わらない

ま アーロンの言うことももっともだ

よし オレがなんとかしてやる

なにか 策があるというのか?

無限の可能性にでも期待すっか!

ああァっはっはっはっはァ……



そして……なにも変わらなかった





目覚めし五つの種族③

 千年の洞窟――

 

 口噛み酒の洞窟――

 

 いにしえの竜の壁画の洞窟――

 

 

 

 ◆  ◆

 

 

 

 俺は、この瞬間を、三年間、待った。

 

 物語の再開が、早朝で、本当によかったよ。

 

 走っても走っても届かないところにいたおまえに追いつくことができたから。

 

「奥寺先輩……?」

 

 少年はふしぎそうに、俺をみつめる。

 

 あの頃の俺はもういないけれど……もう……あの頃の俺じゃないけれど……それでも思うよ。

 

 このタイミングで思うことじゃないのはわかっている。長い時間をかけてたどり着く気持ちだということもわかる。

 

 今、出会ったばかりだけど……

 

「あの……ここはどこやの?」

 

 

 三葉に出会えてよかった。

 

 

「訛りは禁止だって言っただろ?」

 

「えっ!?」

 

「まぁ、そんなことはどうでもいい」

 

 俺は少年に手を差し出す。俺は少年を立ち上がらせる。今の俺はヒールを履いていない。その分、少年のほうが俺よりずっと背が高いことに気づく。

 

 少年は自分の身体の状態を確かめている。

 

 四葉の口噛み酒が目に入る。

 

「なぁ、少年」

「少年って……」

 

「どうして、四葉の口噛み酒までつくったんだ?」

 

「それはお祖母ちゃんが必要やからって……えっ!? ちょっ……なんでわた……俺にそんなこと訊くんですか? ううん。そうやない。どうして、四葉の口噛み酒を知ってるんですか?」

 

 俺は両の手のひらを絡めるように合わせる。

 

 だが、四葉の口噛み酒を誰に飲ませればいい? わからない。さすがにこの情報だけで推理するのはムリがあるか……。

 

「奥寺先輩?」

 

 結局、自称郵便局員は俺に何も話してくれなかった。今の俺は何も持っていない。何の策もない。何の策もなしに、三葉に告白するのはさすがにきつい。

 

 でも……。

 

「ついてこい。おまえに、この世界の現実をみせてやる」

 

 俺は洞窟の出口へと石の階段をのぼっていく。

 

「どこへ行くんですか?」

 

 振り返ると、少年は俺の心にそっと寄り添うようについてくる。

 

 奥寺の身体じゃ、やっぱりこの坂道はきついな。足元もぬかるんでるし……。少年が俺の前に出る。後ろを振り返り、笑顔で手を差し出してくる。

 

「いらない」

 

 なんのプライドだよ?

 

 俺は足を前に出す。少年は頭をかく。俺は立ち止まる。

 

「宮水俊樹と話した後、俺は町役場を出て、川を見下ろせる坂道を力なく歩いた……俺の完全な敗北だったよ。そして、俺は電車に乗り込んだ。逃げるように……逃げるようにじゃないな。あぁ、俺は逃げたんだ」

 

 少年はふしぎそうな表情をしている。

 

 俺は再び、坂を登りはじめる。

 

「おまえなら、俊樹を説得できただろうか? 何度も考えたよ。おまえでも無理だったろう。あの堅物を説得することは誰にもできやしない。だから、べつなアプローチが必要になる。説得ではなく、命令のような……強制力を持つ……だけど、そんなものは存在しなかった」

 

 そんな奇跡のような方法なんて存在しない。

 

「結局、俺はおまえに背負わせてしまうんだな」

 

 俺たちはようやく坂を登り切る。

 

「……これを……」

 

 少年は茫然と立ちつくす。

 

「町がない」

 

 俺は少年から視線を外す。

 

「思い出した……あの日……町は……隕石で……」

 

 少年は片手で顔を覆う。

 

「あの日、町のみんなを避難させようと説得してまわったが、できなかった……」

 

 少年はへたり込んだ。

 

 

 

「…………すまない…………」

 

 

 

 俺は絞り出すように言った。

 

 少年は茫然としている。自失している。

 

 これはしばらくダメなパターンだ。

 

 俺はしゃがみ込んで、少年の頭を抱き寄せて抱えた。

 

 これは俺の罪だ。

 

 人が立ち上がるために必要なものは強さじゃない。

 

 それはきっと……希望だ。

 

 希望っていうのは光ってなんかいない。だから、みえなくて人は迷ってしまう。立ち止まってしまう。それは人の心そのものだ。みえなくても、そこにある。ふれられなくても、そこにある。きっと。

 

 きっと……という不確実性のもとに……。

 

 求めた未来があるかないかなんて、やってみなければわからない。立ち上がらなければわからない。必要なことは立ち上がること.何度でも。何十度でも。何百度でも。何千度でも……。

 

「あの人はどこやの?」

 

 三葉が口を開いた。

 

「私がここにいるってことは……あの人は……?」

 

 少年が発したそれは論理的な思考による発想と言葉だった。どうやら、すこしは落ち着いたらしい。会話が成り立ちそうだ。

 

「あなたは誰やの?」

 

「もうわかっているんだろう?」

 

 少年はこれまでのことを思い返しているようだった。

 

 入れ替わりの日々を。

 

「まさか……そんな……じゃあ……」

 

「俺に人生預けたほうがいいっていったのに……悪いな」

 

 少年の右の瞳から涙がこぼれた。

 

「そっか……そうやったんだ……」

 

「アイツはあの日に……隕石が落ちたあの日に戻って、ひとりで戦っているよ。運命と戦っている。ここからでは助けに行くことはできない」

 

「でも……」

 

 何が「でも……」なのか?

 

 奥寺らしい言葉ではあるけれど。すぐに感情で語ろうとする。それじゃ何も解決しないのに……。

 

「隕石から糸守のみんなを守るためにはみんなを避難させるしかない。それには町長である俊樹の説得が必要だ。だが、彼を説得するのは無理だろう。どんな言葉も、どんな演出も効果はない。それでも、アイツはあきらめずにさがしている。奇跡のような方程式を。俺もさがしていた。でも、みつからなかった。どうしても、みつからなかったんだ。さがして……さがして……さがして……」

 

 三葉はじっときいている。

 

 

「そして、何も変わらなかった」

 

 




13話でまとめる予定だったので、まさか完結まで1年以上もかかるとは思ってもいませんでした。今、6話目と7話目。あと6話……。

7話目が終わればカタワレ時だ。

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