究極召喚 『シン』を倒しうる唯一の力 究極召喚
その力を身につけるのがわたしたち召喚士の旅の目的なの
私は悪魔でも、ましてや神でもありません。
たった一人の女の子さえ救えない。そんなちっぽけなただの人間です。
生きのびる可能性があるのに、あえて死ぬ方を選ぶなんてバカのする事です。
叩かれてもへこたれても道をはずれても、倒れそうになっても、綺麗事だとわかってても、何度でも立ち向かう。周りが立ちあがらせてくれる。それが人間です。そして、そんな運命に立ち向かうのがキミたちなんです。
勇者とは、最後まで決してあきらめない者のことです。
究極召喚。いにしえの竜を倒しうる唯一の方法。究極召喚。
禁忌を犯しなさい。
以下の通行料を差し出しなさい。
水35リットル、炭素20キログラム、アンモニア4リットル、石灰1.5キログラム、リン800グラム、塩分250グラム、硝石100グラム、イオウ80グラム、フッ素7.5グラム、鉄5グラム、ケイ素3グラム……。
◆ ◆
「さすれば真理の扉は開かれん、か」
読める。読めてしまう。
意味不明な文章の意味が理解できてしまう。
友達にだけわかる合図を駆使して組み上げたような文章。
暗号化されていて、彗星の民もこの文章は解読できないだろう。意味不明な文章に映るはずだ。
俺しか解読できないようにつくられている。
「祈り子の……分……か」
これで最難関の問題はクリアされた。クリアしたのは俺じゃないけれど……。あとは祈り子の在り処を突き止めれば……。
俊樹を説得することはどんな言葉も、どんな演出を駆使したとしても、不可能。それがあのときの俺の結論だった。それは今も変わらない。
でも、矛盾するようだが、これで宮水俊樹を説得することも可能となる!
そもそも、俊樹を説得したくらいで、糸守の住民を全員避難させることなんて不可能なんだ。俊樹を完全に俺のコントロール下に置くくらいじゃないと。避難し切れない人が必ず出てくる。
この方法なら、それすら回避できる。これは糸守の住民100%の避難を可能とするたった一つの冴えたやり方。目的のためなら手段を選ばない。悪魔の頭脳。
もしも避難してくれたら、どんな願いも、ひとつだけきいてあげる、か。当然、悪魔のように、人間の根源的な欲望を利用するんだろうな。
これを書いたその悪魔は俺の趣味をよく理解している。しかも、この趣味は高校に入ってからのもの。この時間の俺ではない。どうやって、俺の趣味について知った?
どうやら、真の勇者は俺ではなかったらしい。
これを書いた人物こそが真の勇者だ。
「……エルキラ」
司、高木以外に、俺の趣味を知っている人物がいる。
パソコンにはパスワードがあるから、開けないだろうけれど、ケータイは指紋認証だから、自由にみれる。実際、三葉とはケータイでやり取りしていたし。
そう。
俺が三葉の部屋を知っているように、三葉も俺の部屋を知っているはずなんだ。
この欲望に耐えられる高校生なんて、そうそういない。
俺もそうだった。
つまり、エルキラの正体は……ありえない……ありえないが……認めるしかない。
すべてはエルキラの手のひらの上か。
まさか、ここまでとは……。
世界にはこんなヤツがいるのか……。
彗星災害を知って……謎の組織の襲撃にあって……官邸からのプレッシャーを受けて……そして、今、この世界そのものにふれたような気がする。
この世界の大きさ、この世界の深さをみたような気がする。
俺はちっぽけな人間だ。ほんとうにちっぽけな人間だ。
この世界の小さな小さな歯車にすぎない。
でも、だからこそできることがあるんだと思う。
俺の小さな歯車じゃなきゃ、俺のとなりの小さな歯車はまわせない。
エルキラ。アンタじゃ、三葉の歯車はまわせなかった。
俺の代わりはいくらでもいると思う。でも、今、この瞬間、ここにいるのはこの俺なんだ。
三葉の歯車をまわせるのは俺だけなんだ。俺しかいないんだ。
――禁忌を犯しなさい。
「禁忌の技……究極召喚……完全なファンタジーの発想だ」
俺に究極召喚を扱うことができるだろうか? どうにも確信が持てない。おそらく無理だろう。ツジツマが合わなくなる。
でも、三葉なら、究極召喚を扱える。そういう確信がある。ツジツマも合う。三葉に究極召喚が使えなかったら、誰も使えない。三葉じゃなきゃダメなんだ。
エルキラから、直接、三葉に究極召喚を使わせるのはリスクがあったのか? だから、俺を間に入れた?
究極召喚。これを使うのは俺じゃない。三葉だ。
とにかく三葉をこっちに戻さなきゃならない。それも究極召喚のあやつり方を教えて。
でも、究極召喚……これを使ったら……俺と三葉は……。
出会えなくなる。
新しい未来を手に入れるということは手に入れた未来を失うということ。
失ったことさえ、俺たちは忘れてしまうだろう。
最初から、俺はすべてを手に入れていた。
これはそれを失う物語。
本当にこれは、悪魔の出題だよ。
俺は……。
三葉は……。
初めからやることは何も変わってない。変わらない。
三葉の英雄に俺はなる。
これはたった一人の少女を救うための物語。
最後まで決してあきらめない物語。
それが俺の物語だ。
一人でそれができないのなら……。
テッシー、サヤちん……司……高木……。
悪魔でも、神でもなく、俺は友達にすがるよ。それが俺の、人の力だ。
英雄っていうのはきっと……一人でなるものじゃない。
今の問題は二つ。祈り子の在り処、そして、どうやって三葉と再び入れ替わるか?
夏と秋の風がそよいだ。
これは三葉の気配……?
今、俺はどこにいる? ここは糸守だ。俺の身体はここにある。三葉の意識はここにある。
「三葉……そこにいるのか……?」
祈り子の在り処は判明していないが確信がある。今、すべての条件が整った。あとは俺がホコラに行けばいい。そうすれば三葉に出会える。そういう確信がある。
三葉の気配が移動しはじめている。
当たり前だ。あんな場所に長時間いる必要なんてない。目覚めれば町に降りるはずだ。もう昼もすぎている。
急ごう。今ならギリギリで間に合う。自転車がほしいな。
俺は三葉に向かって、駆け出そうとした。
そのときだった。
ケータイが鳴った。
「よう」
ユキちゃん先生ッ!? なんてタイミングで登場しやがるんだ。この忙しい時に。
三葉の気配が薄れていく。
「何かやってるようだね。だけど、ダメだよ。おまえにはもう何もさせない」
「あとにしろ」
「何もさせないって言っただろ? 四葉をあずかった!」
「おまえ!」
「さぁ、どうする? どっちを選ぶ? 妹か? 世界か? 二つのうち、どちらか一方しか選べない」
くそぉ。
「おまえたちがつくったカフェのところで待っている」
あとすこしのところまで来たのに……あと一歩のところまで来たのに……。
この二つを同時にやり切ることは不可能だ。
いったい、俺はどうすればいいんだ?
俺は……。
――勇者とは、最後まで決してあきらめない者のことです。
あきらめちゃダメだ。あきらめちゃダメだ。あきらめちゃダメなんだ。
俺は勇者じゃない。でも、あきらめないのが勇者だというなら、俺はあきらめない。
最後の最後の……最後まで。
まだ何か手があるはずなんだ。何か……何かないのか?
役場のほうからクルマがやってくる。
あのクルマは……自称郵便局員の……。
クルマが停まって、自称郵便局員が降りてくる。
「え~っと、瀧君、通りすがりの郵便局員の私に、何かできることはあるかね?」
「…………」
「どんなことでもしよう!」
エルキラなら、これだけの条件がそろえばどうにかできそうな気がするんだ。
エルキラなら……。
俺にすこしでもエルキラのような力があれば……。
「私はキミの力になりたいんだ」
手紙はのちに全文公開します。
瀧は三葉が瀧として目覚めればそこにとどまらず町に降りるはずと考えましたが、実際は原作同様、茫然と立ちつくしていたはずです。ここではなぜか三葉は動き出しますが。