この鎮守府、駆逐艦しかいねえ!   作:ジャスSS

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始動編
四月の君は嘘①


――突然だが私の事を話そう。

 

私の名は”海城星斗(うなしろせいと)”。

 

皆からは下の名前で呼ばれてるが――この名前はキラキラしてるからあまり好みではなくてな。

 

だから皆には”海城”と気安く呼んでもらいたい。

 

――そこの君! 勝手にウナと呼ぶな! 星屑も駄目だ!

 

 

 

――コホン、話の続きをしよう。

 

そもそも何故こんなことを話そうとしたのか、それは私にも分からない。

 

ただ思ったのはこのことは全国民に伝えねばならぬこと、だということだ。

 

まあ、別に地獄とかではないのだが――なんとなく、これは色々とヤバいのだなと思ったまでだ。

 

とにかく、見て――そして感じてほしい。

 

私がどういう道を歩んでいったのか――

 

 

 

 

 

あれ、どこから思い出せばいいんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【この鎮守府、駆逐艦しかいねえ!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――デカい鎮守府と言えば、戦艦や空母が沢山、装備も最新鋭というのが世の中のイメージでしょう。

 

そしてこの鎮守府も一応デカい部類に入ります。

 

なのですが、この鎮守府にはある特徴がありまして――

 

「わーい! なのです!」

 

「あ、暁が次の鬼だね」

 

「暁には絶対負けないんだから!」

 

「むぅー、絶対に雷を捕まえてみせるんだから!」

 

あ、この子達は第六駆逐隊という部隊の四人です。

 

凄く小学校三年生っぽい外見で、中身もそっくりそのまま三年生な子達です。

 

いやいや、この子達じゃ鎮守府の特異性を伝えるには不十分すぎる――

 

「ねえねえぼのたん! 買い物行こ!」

 

「ちょ、いきなり乗っかってこないでよ漣! 重いじゃない!」

 

「二人共、そこで争っちゃダメだって……」

 

「……辞めなさい」

 

あの子達は第七駆逐隊の面々。

 

あの子達もそこそこうるさいけど、朧というストッパーがいるから実はそこまで問題ないらしい。

 

――まだ足りないか。

 

というか、このままじゃ永遠に伝えられないのではないか。

 

「そうだ、集会……」

 

一斉に集まるようにすれば絶対に伝えられるはず。

 

まあ少し強引ではあるが、このくらい秘書艦として許される最低限の権利だと――思う。

 

そうと決まれば行動する。

 

何事にも行動することが大事って、司令が言ってくれたんだから。

 

あ、もう提督じゃなくて”前司令”か。

 

そういえば、明日新しい司令が着任するんだっけ。

 

秘書艦として、最高級の歓迎をしなくては。

 

 

 

 

 

そんなこんなで、この鎮守府に集まる全艦娘が一同に会した。

 

集まった場所は鎮守府敷地の東部に位置する大講堂。

 

今回の集会だけでなく、作戦前のブリーフィングや作戦開始の号令、果てには展示会や地元市民の催し事にも使用される立派な講堂。

 

座席数はおよそ400席越え――

 

正直、持て余してる。

 

「えー、今日皆さんにお集まりいただいたのは明日に迎えた新司令の着任についてです」

 

100人近い艦娘の視線――実はこの鎮守府の特徴はこの”100人近いの艦娘”にあります。

 

というのもこの艦娘達、実は全員――

 

 

 

【駆逐艦、なのだ】

 

 

 

そう、駆逐艦。

 

主戦力でもなく、副戦力でもない、補助戦力の駆逐艦。

 

とにかく脆く、とにかく貧弱だが燃費は素晴らしい駆逐艦。

 

数が多いおかげで少し個性が埋もれてしまう駆逐艦。

 

 

 

兎にも角にも、この鎮守府は駆逐艦しかいないのです。

 

ちなみに、今駄弁ってる私も駆逐艦ですよ。

 

誰なのか、というのは推測してもらって。

 

「新司令の着任を歓迎するべく、明日は歓迎会in2017を催そうと考えています。 今日はそれに備えた集会となっております」

 

中々大人数を前にして発言するってのは、体験できないこと。

 

それを経験の糧にして――そうすればもっと強い艦娘になれるから。

 

「まずは、この映像をご覧下さい」

 

予め用意しておいた映像――地元の方に頼んでもらって――を白く澄んだ壁に投射してもらう。

 

私達が可愛がられているのか、良く地元の方は協力してくれる。

 

喜ばしいことではあるけど、わざわざ多忙の中協力してくれるなんて正直申し訳なく感じてしまいます。

 

それがダメだって、やってくれるなら喜んでそれを受けるようにと前司令に言われてたけど、私の性格を考慮してるのかな――

 

 

 

映像が流れ終わると、次は私が喋る番だ。

 

「ということで、今回の歓迎会はビンゴ大会等のレクリエーションを行って楽しもうという方針で問題ないでしょうか?」

 

私がこうして聞くと必ず拍手で迎えてくれる皆。

 

初めて見た時は感動して泣いちゃったんだっけ――

 

今回も当たり前のように拍手で迎えてくれた。

 

「では、これを明日の歓迎会プランといたします。 それでは、ここからはそれぞれの分担を決めたいと思います。 各駆逐隊で集合して、それぞれの分担を決めてください。 夜の20時、各駆逐隊旗艦を集めた会議を行いますのでそれまでには分担を決めておいてください。 それでは今日はこれまで。 各自やる事に集中してください」

 

閉式の挨拶とともに各自がばっと散らばっていく。

 

100人近い数が一斉に動くとなるととても壮観で――なんか気持ちいい。

 

これを感じ始めたのは昨年の秋頃。

 

今は春だから――ざっと半年ぐらいかな。

 

さあ、明日は新しい司令が着任する。

 

準備準備。

 

 

 

 

 

――「君に指令が下された。 明日から呉第七鎮守府に着任してくれ」

 

呉第七鎮守府――とはいったいなんだろう。

 

呉鎮守府と言えば、国内No.2の鎮守府で日本の西を守る横綱的存在。

 

”東の横須賀、西の呉”とは誰が言ったものか。

 

そんな西の番人呉鎮守府に新人の私が着任するのは嬉しいが――

 

(第七ってなんだよ)

 

第七ということは上に第一から第六まであるということだ。

 

国内No.2の中のNo.7ってどういうことなんだろうか――

 

いや、そんなことを気にする必要はない。

 

まずまず”提督”という職業を得られたことだけでも人生の勝ち組なのだ。

 

提督となるには妖精が見えなくてはならないのだが、私はどうやら見えたようで。

 

まあ、運が良かったんだなぁと思うが。

 

 

 

さて、そんな私は今電車に揺られている。

 

まず広島駅まで新幹線を伝って行き、そこからJR山陽本線を利用して呉駅へと行く。

 

まあ、こんな所初めて来たので迷ってしまったにはしまったが。

 

にしても、初めて見る景色というものは良いものだ。

 

何も分からない――だからこそ冒険感がある、それが良いのだ。

 

 

 

広島駅から呉駅まで、ざっと1時間。

 

外ばっかり見てたためか、意外と短く感じた。

 

これからは呉第七鎮守府へ徒歩で行くのだが、それが中々遠い。

 

大体の方が想像している呉鎮守府までは10分ほど。

 

そして私が行く呉第七鎮守府へは50分ほど。

 

その差40分――遠すぎではないか。

 

しかも最寄りの呉駅からであるので、大本営に招集される度に50分を往復するという悲しきことになってしまうのだ。

 

だからこそ第七鎮守府、なのだろうが――

 

(前任者はかなり根気ある方だな……)

 

私が来る前に、第七鎮守府で勤めていた方がいたらしくその方は現在横須賀第二鎮守府にて指揮を執っているらしい。

 

まあ、どうにも大出世だなと思うが、大事なのはそれじゃなくてこんな遠い所で指揮振ってたことだ。

 

大分不便だっただろうに――

 

唯一幸いと言えるのは呉の街がデカすぎて物資には困らないということだろう。

 

最寄りのスーパーには徒歩で行ける距離だし、色んな飲食店が街を埋めているからな。

 

艦娘との交流には困らなさそうだ。

 

 

 

――社会人として初めての職場に近づくにすれドキドキと想像が広がっていく。

 

いったいどんな提督人生を歩むのだろうか。

 

どのような提督となるのか。

 

艦娘には慕わられるか。

 

期待と不安が半々に入り交じる今。

 

この頃社会人となった人々の多くはこの気持ちを体験しているのだろうな――

 

歩いていくと、やがて着いてしまう。

 

呉駅から50分、ようやく鎮守府の姿が見えた。

 

ここが自分の職場――

 

「……気合い入れなきゃ」

 

気合いを入れるべく、両手で頬をパンっと叩いた。

 

緊張を解すためによくやってる人が多いように見受けられるが――本当に効果があるのだろうか。

 

まあ、気持ちを入れ直すという暗示的な意味があるのだろうけど――とにかく、人間の心理は未だに分からぬことだらけだ。

 

さあ入ろうか、私の鎮守府へ。

 

 

 

 

 

「あ! 新しい司令官だわ!」

 

入って靴を脱いで下駄箱に入れて真っ直ぐ進むと早速艦娘と出会った。

 

見るからに駆逐艦のようだが――

 

「あの、秘書艦は……」

 

「秘書艦? あぁ今執務室にいるわよ!」

 

やけに元気な艦娘だ――益々駆逐艦としか思えなくなる。

 

「そうか、ありがとう。 あ、君の名前は……」

 

待て、こちらが名乗ってないのに女の子に名前を聞くとか男としてどうなんだ。

 

というか彼女からしてみればまだ司令官という確証がないのだ。

 

そんな状況で名前聞くとか誘拐犯かよ俺。

 

いや、もっと冷静に考えればここからずかずかと執務室に行っても良いのか。

 

この子は自然と迎えてくれたが他の艦娘が絶対そうとは限らないのだ。

 

まずまず、秘書艦が誰なのかということすら知らないのだ。

 

何より非常識だ!

 

「私の名前? 私の名前は――」

 

「いや、答えなくていい。 それより少し頼み事があるんだが」

 

「頼み事? 私に頼み事なのね! なんでも頼んでいいのよ!」

 

「そうかありがとう。 では、秘書艦をここに呼んできてくれるか?」

 

「了解了解! それじゃここで待っててねー!」

 

元気だなぁ。

 

 

 

しばらく待ってたら奥から秘書艦とおぼしき人物が歩いてきた。

 

さっきの子ではないのだからな。

 

「……あなたが司令ですか」

 

「あぁ、そうだが……」

 

「では私の答える質問に答えてください。 誕生日は?」

 

「10月12日」

 

「血液型は?」

 

「AB型」

 

「親の名前は?」

 

「母は海城睦、父は海城蓮二」

 

「好きなマンガのタイトルは?」

 

「ガイアのA」

 

「最近買った1万円以上の買い物は?」

 

「ジンテンドースイッチ?」

 

「ほう……では最後に、スマホに入ってるゲームアプリは?」

 

「モンスコとツミツミ」

 

「……全問正解です」

 

うわぁ、いきなりなんだと思ったら質問ラッシュかよ――

 

しかもかなり踏み込んだ質問もあるし。

 

好きなマンガはともかく、最近の1万円以上の買い物とか、スマホに入ってるゲームアプリとかおかしすぎるだろ。

 

「その……その情報は誰から?」

 

「言えません。 機密事項です」

 

言えよ、怖いな。

 

 

 

 

 

「……さて、全問正解したということはつまりあなたが新しい司令であると確認された、ということです」

 

――そう、元々この質問は海城が偽物ではないか、ということを確認するための質問であったのだ。

 

そしてそれが承認された――それはつまり、彼がこの呉第七鎮守府の提督として正式に迎えられたということである。

 

それを教えられた海城は、相手の子――すなわち秘書艦に顔を向ける。

 

その子はとてもはにかんだ――ように見える様子でこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

「これから……よろしくお願いいたしますね、司令」


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