黒髪の少年はたくさんのデータを処理していた。
その少年はとある組織を率いていた。
その組織は現在では優秀な幹部も揃ってきて結成当初よりも、手間は掛からなくなっていた。
しかし、それでも彼が判断しなくてはならない事が多過ぎた。
そして、そんな彼はとある学園の生徒会副会長も担当している。
そのため、生徒会関連で処理する書類が溜まっておりそれもまた、彼でなければ処理できない物ばかりであった。
元々、人より体力が少ない彼は、疲れがピークに達していた。
「全く……処理する問題が多すぎる。少しは人手が欲しいところだ。お前もそう思うだろ?」
彼は振り返り、誰もいない場所に声を掛ける。
「またか……」
彼はここ数日、誰もいない場所に話しかけることが多々あった。
彼が声をかけた先に誰かが存在することを全く疑わず、思わず声をかけてしまうのだ。
「少し疲れたのかもしれない。いい加減休まないと危険だな……さて、次の書類は」
彼が次の書類に手をかける。
しかし、既にその書類の処理は終わっていた。
「なんだ、終わっていたのか。それじゃあ次を……え?」
彼は次々と書類の山を確認する。その書類の山は3割ほどは処理されていた。
「書式は完璧。ミスも全く無い……一体誰が?」
少年は心当たりのある人物を絞り込むが、答えには辿りつけなかった。
「そう言えば前に、会長が言っていたな。俺たちが知らない間に書類を片付けてくれる『妖精さん』がいるって……」
そんな不思議な体験をするのは、彼やその学園の生徒会長だけではない。
黒髪の少年の妹の場合、部屋に飾っている、誰が折ったのか全くわからない折り紙を手に取る。
すると、少女は不思議と暖かい気持ちになったそうだ。しかしその理由が思い出せず、その少女は、訳のわからない悲しさを感じて静かに涙を流した。
また、栗色の髪のどこか人懐っこい少年の場合は、物事の正しい手段・方法を考える時、ふと問いかける。
『君はどう思うかな?』と……
その少年もまた、誰もいない場所に話しかけては帰ってこない声に、言いようのない悲しみを感じていた。
彼らだけではなく、その学園にいたほとんどの人間が不思議な体験をしていた。
「さて、そろそろ仕上げないと会長が戻ってきてしまうな。全く、会長は人使いが……」
彼はまた、誰もいない場所に声をかける。
いい加減疲れたことを察したのか、少年は一旦、作業の手を止めて近くの書類に目を通す。
「いい仕事をするじゃないか妖精君?だが、ここまでミスのない書類なら俺が処理したのかもしれないな」
彼はそんな冗談を言いつつも、考える……
(真面目で、堅実な処理だ。こういう人間は嫌いじゃない。いや、妖精だったか?どちらにせよ、野に放しておくには惜しい人材だな。出来れば生徒会に……いや、騎士団にも欲しい人材だ)
そして少年はふと、思う。
もしもその妖精が自分の前に現れたのなら、何故か仲良くできそうな気がして、自分と同じ道を共に歩んでくれそうな気がして、自分のいる部屋を見渡した。
その部屋は広く静まり返っている……
普段より1人分だけ部屋が広くなったような、静かになったような、誰かが欠けてしまったような……そんな気がしてならなかったのだ。
その少年は無意識に、自分自身が忘れている『誰か』を探していた……
・・・・・・
僕は現在、音ノ木坂学院の生徒会室で入学手続きをしていた。
1年生は1クラスしかなく、席の空きが無いそうだ。
一方3年生の方は3クラスあり、空きはあるそうなのだが、いきなり3年生から始めるのも厳しいだろうと理事長が判断し、僕はその中間の2年生として入学をすることになった。
現在、そのための手続きを済ませている。
「これでこの手続きは終わりよ。お疲れ様。ここまで時間を取らせてごめんなさいね」
「いえ、必要なことですから。こちらこそ、会長さんと副会長さんの貴重なお時間を頂いてすみません」
それにしても、不思議なこともあるものだ。本来なら男の僕が女子校に入学などできるはずもないのだが……神楽耶さんも随分と強引なことをするものだ。
「失礼します!」
入学手続きを済ませている途中、生徒会室に3人の生徒が入室してきた。
その生徒の1人は、橙色の髪の先日出会った少女……高坂さんであった。
そして彼女を挟む形で並んでいる長く伸びた青色の髪の少女と、灰色で独特な結び方のサイドテールの髪が印象に残る少女が真剣な表情で入室してきた。
そして高坂さんが生徒会長に1枚の用紙を提出した。
その用紙には『講堂使用許可申請書』と書かれていた。
「……一体これは何かしら?」
会長がその用紙に目を通すと、先ほどの優しい態度から一変して不機嫌そうな表情で3人の生徒にそう問いかけた・・・・・そして高坂さんが話し始めた。
「講堂の使用許可を頂きたいんです。お願いします!」
高坂さんが頭を下げると、続けて2人の少女も頭を下げた。
「何に使用するの?」
「ライブです!3人でスクールアイドルを結成したので、その初ライブを講堂でやることにしたんです」
高坂さんは顔を上げ堂々と答えるが、彼女の隣にいた2人が高坂さんに話しかける。
「まだ出来るかどうかはわからないよ?」
「えぇ?やるよぅ……」
「待ってください!ステージに立つことについてはまだ……」
そんな様子をどこか呆れた表情で見つめた会長は、3人に話しかける。
「出来るの?そんな状態で……」
会長の態度に気圧されたのか、高坂さんは少し緊張した様子で答える。
「だ、大丈夫ですっ!やれます」
「……新入生歓迎会は遊びでは無いのよ」
だが、そんな彼女に対して会長はどこか冷たく言葉を返す。
しかし、そんな会長に対して副会長は……
「3人は講堂の使用許可を取りに来たんやろ?……部活でも無いのに、生徒会が内容までとやかく言うことはないはずやん?皇くんもそう思わん?」
そう言って、高坂さん達を擁護する。そして何故か僕にその話を振った……
とりあえず僕は自分に支給された生徒手帳を確認しつつ答えた。
「確かに、生徒手帳には『生徒は、校長・副校長・生活指導担当の許可を得れば、自由に講堂を使用することができる』と書いてはありますが……」
僕はそう答えつつ会長の方を見ると、彼女はすっと目を細めていた。
そんな会長の様子を全く気にせずに副会長は話を続けた。
「せやから、校長先生たちの許可を取ることができれば、ウチらからは特に口出しはせぇへんよ」
「あ、ありがとうございます!失礼しました!!」
そして3人の生徒は退室した。会長がそれを確認すると、副会長に問いかける。
「何故、あの子たちの味方をするの?それに皇くんまで巻き込んで……」
副会長は室内の窓を開け、答えた。
「何度やってもそうしろって言うんや」
「誰が?」
「カードが」
「え?」
「カードがウチにそう告げるんや!」
僕は今ひとつ、副会長の言っている言葉の意味が分からなかった。
思わず机の方に視線を写すと、机に束になって置いてあるタロットカードらしき物を見つけた。
すると開けた窓から風が入る。
束になったカードが散らばり、風と一緒に入ってきた桜の花びらと共に宙を舞う。
そして風の勢いで飛ばされた、1枚の『THE SUN』と書かれたカードが正位置で壁に張り付いていた……
海未ちゃんの髪の色の表現に少し困っています。設定では黒髪だそうですが、映像などを見て見ると青色にしか見えません。ことりちゃんの場合も、灰色の髪という表現で本当に良いのか迷うことがあります。
そして希ちゃんの独特な関西弁の法則は難しいですね・・・・・・