ラブライブ! LOSTCOLORS   作:isizu8

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「読者諸君……私は帰ってきた!」
……ごめんなさい、調子乗りました。


改めまして……
このssを読んでくださっていた皆さん……
長らくお待たせしてしまい、大変申し訳ありませんでした!


STAGE15 アイドル ギブアップ

矢澤にこ……

彼女のアイドルに対する情熱は、この間、μ’sに参加した花陽と同じくらいのものだった。

そんな先輩はアイドル研究部の唯一の部員にして部長。

しかし、彼女以外に部員が存在しない理由については、まだ分からない。

東條副会長は事情を知っているようだが、それを話すことはしなかった。

『知りたければ直接聞け』という事らしいが……

しかし他人の事情に、ただの好奇心で首を突っ込むべきではないだろう。

 

 

それはそうと……

僕は現在、矢澤先輩を『師匠』と呼びスクールアイドルについて教えを請う立場になってしまった。

僕はただ、スクールアイドルについて少しだけ話を聞ければ良かったのだが……

しかし、師匠は少し話すだけでは満足はしなかったらしく、師匠と遭遇する度に『アイドル研究部』の部室まで連れ込まれてしまう。

 

 

なんだかここ最近、ずっと振り回されている気がする……

だが、不思議と悪くはない……むしろ良い方だ。

記憶を探している時よりも、充実した毎日を送れているのかもしれない。

それは、穂乃果たちを手伝っていた時にも薄々と感じていた。

 

 

中々戻る気配のない記憶を求め、無駄に時を過ごすくらいなら……

いっそのこと記憶のことなど忘れ、この学院で毎日を楽しく過ごす方が良いのかもしれない……

そんな風に感じてしまうということは、もしかすると……僕は、記憶を思い出したくないのかもしれない。

 

 

それでも、僕は……

 

 

 

 

 

 

 

 

さて……

今日も師匠の「アイドル講座」があるのだが、まだ時間がある。

僕は、時間潰しも兼ねて中庭を適当に散歩しようとした。

すると、矢澤先輩……師匠が中庭を慌てて走っていた。

 

「師匠、どうかしましたか?」

 

師匠の、その異常に慌てている姿が気になり、僕は思わず声をかけた。

師匠は僕の姿を確認すると、こちらに向かって来た。。

 

「ら、ライ……ちょうどいい所に来たわね……今から私を助けなさい!」

 

助ける? 一体何から……

周囲を見渡しても、特に怪しい人物はいないのだが……

 

「お、追われてるのよ……だから助けなさい!」

 

一体誰に追われているというのだろう?

再度周囲を見渡すが、やはり不審者は見当たらない。

しかし、師匠の慌てている様子から嘘を言っている訳では無いようだ。

 

「何ぼーっとしてるのよ! いいから助けなさいよ!」

 

いまいち納得はいかないが、一度師匠を落ち着かせるためにも、ここは言う通りにしてみよう。

 

「分かりました……では、行きますよ」

 

僕は師匠を抱えて走り出そうとした。

すると、師匠が何故か不満そうな声を上げた。

 

「って、アンタいきなりなにしてるのよ!?」

 

「追われているのでしょう? 事情は分かりませんが、取り敢えず逃げますから……しっかり掴まっていてください。それじゃあ、行きますよ……!」

 

「ちょっと待ちなさ……わっ、きゃあぁ!!!」

 

僕はそのまま一気に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけたにゃ〜……って、ライ先輩!?」

 

師匠を連れて走っている最中、星空さんとすれ違った。

彼女が師匠を追いかけていたのだろうか?

……よく分からないが、取り敢えず逃げ切り様子を見よう。

 

 

「あっ! 見つけた〜!」

 

「ら、ライ君!?」

 

「ど、どうして先輩を抱えて走っているのです?」

 

「さあ……? と、とにかく! ライ君たちを追いかけよう!!」

 

今度は穂乃果、ことり、海未の3人とすれ違った。

おそらく彼女たちも師匠を追いかけていたのだろう。

何かの遊びなのだろうか? ますます訳が分からない……

僕は近くの壁を足場にして、そのまま一気に駆け出した。

 

「ライ! あ、アンタ……何当然のように壁を走ってるのよー!」

 

「しっかり掴まっていてください。もう少しで振り切れます」

 

「ちょ、ちょっと待ちなさ……きゃあぁ!!」

 

心なしか師匠の顔色が良くない。

ここは早く決着を付けないと……

そして師匠を抱えたまま壁を駆け出し、おそらく師匠を追いかけていると思われる人物……穂乃果たちの追跡を逃れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまで来れば……師匠、逃げ切りましたよ……師匠?」

 

僕は師匠に声を掛けるが、彼女の反応が少しおかしい。

 

「も、もういいから……お、降ろして……」

 

「分かりました」

 

僕は師匠を地面に下ろすと、師匠はそのまま地面に座り込んでしまった。

余程、疲れているようだ。

流石に、無茶をさせすぎただろうか?

 

僕たちが休憩している最中、しばらくして、星空さんを筆頭にμ'sのメンバーがこちらに追い付いてきた。

 

「やっと追い付いたにゃ~・・・・・・」

 

「ライ、どうして先輩を抱えて走っていたのですか?」

 

「いや、師匠に頼まれたから……」

 

「師匠?」

 

「矢澤先輩のことだ。みんなはどうして師匠を追いかけていたんだ?」

 

「えっと、それは……」

 

彼女たちが師匠を追いかけていた理由、それは……

 

 

 

 

 

 

 

 

穂乃果たちμ'sは練習場所を探していたが、正式な部活でない限り、許可は下りないということらしい。

穂乃果たちμ'sの現在の部員は6名……

定員が5名以上揃っていれば、部活申請して部として認められる。

彼女たちの問題はそれで解決する筈だった。

 

しかし、生徒数が限られている中、いたずらに部活を増やすことはしたくない……という絢瀬会長の主張により、その申請は却下されようとした。

だが、東條副会長はそれに対し、アイドル研究部の部長と話を付けて部活を一つにまとめることが出来るのなら、部として認めると主張した。

 

そのため穂乃果たちは部活申請をする為、『アイドル研究部』の部長……矢澤にこ先輩と交渉のため部室に向かったが……

部室前で穂乃果たちと師匠は鉢合わせして、その瞬間に師匠は逃げ出した。

どうやら僕が鉢合わせたのは追いかけっこをしている最中だったようだ……

 

以前から、師匠がμ'sのことを良く思っていないことは少ないながらも師匠と接してきたことで、何となく分かっていたが、これ程とは思わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして僕たちは現在『アイドル研究部』の部室にいる。

師匠は、穂乃果たちが部室に入ることに不満はあったみたいだが、それ以上に疲れていたらしく、それを止める元気も無いようだった。

 

部室に入るなりアイドルグッズの、そのあまり多さに皆は驚いていた。

一部室にこれだけの資料が収集されているのだから驚くのも無理はないだろう。

僕も初めてこの部室に入った時は、グッズの多さに圧倒されたぐらいだ。

 

それから……

ことりが部室内に大切そうに飾ってあるサイン色紙を気にしたり、花陽がとあるグッズを見つけては、やや興奮ぎみに語りだしたりと……部室に訪れた本来の目的とは徐々に逸れつつあった。

 

「それで、結局アンタたちは何しに来たのよ?」

 

そして師匠のその問いから、ようやく穂乃果たちμ'sと師匠の交渉が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「にこ先輩……実は私たち、スクールアイドルをやっておりまして……」

 

「知ってるわよ。どうせ希に、『部にしたいなら話つけてこい』とか言われたんでしょ?」

 

「おお、話が早い! 流石、にこ先輩!」

 

事前に話の内容を把握していた師匠の様子を、部室の件は了承してくれるのだと判断し、穂乃果は輝くような眼差しで師匠を見つめるが……

 

「まあ、いずれそうなるんじゃないかって思ってたけどね……だけど、お断りよ」

 

その希望は早くも打ち砕かれてしまう。

 

「あ、あの……私たちはμ'sとして活動出来る場所が必要なだけです。なので、ここを廃部にしてほしいとかではなくて……」

 

「お断りって言ってるの!」

 

海未が交渉を続けようとするが、そんな彼女の言葉を師匠は拒絶した。

 

「前にも言ったけど、アンタたちはアイドルを汚しているの」

 

『汚している』などと評価した師匠に対し、穂乃果は反論する。

 

「私たち、ずっと練習してきたんです。歌も、ダンスも……」

 

「そういうことじゃなくて……アンタたち、ちゃんと『キャラ作り』してるの?」

 

その言葉に穂乃果たちが首を傾げる。

師匠はそう問いかけた直後、席を立って一言……

 

「お客さんがアイドルに求めているのは、夢のような楽しい時間でしょ? だったら、それに相応しいキャラってものがあるの」

 

「仕方ないわね。そこで見てなさい」

 

師匠はそこまで言うと、一度僕たちに背を向けた。

そして……

 

「にっこにっこにー♪ あなたのハートににこにこにー♪ 笑顔届ける矢澤にこにこー♪ にこにーって覚えてラブにこっ♪」

 

振り向いたと同時にキレの良い動きと共に、その台詞を発した。

彼女の講座を聞いている時、僕も同じセリフを聞いたことがある。

 

 

ちなみに……

何故か毎回講座が終わる度、僕も先ほどと同じセリフを何度も言わされたことがある。

流石に、師匠が今言ったセリフ全てでは無いが……

男が言うセリフとしては、どう考えても恥ずかしいので、出来ればこのことは誰にも知られたくはなかった。

しかし……東條副会長はどうやらその音声を録音していたらしく、僕は口止めの意味合いも兼ねて、今後予定している副会長の活動を手伝うことを約束してしまった。

 

 

それはさておき……

そのセリフを聞いたみんなの反応はというと……

 

「うっ……」

 

「これは……」

 

「キャラというか……」

 

穂乃果は絶句し、海未は驚愕していた。

そして、ことりは何かを言いたそうにしていたが、師匠の勢いに押されたのか、上手く言葉が出ない様子だった。

そして他の3人は……

 

「私には無理……」

 

「なるほど……」

 

西木野さんは少し恥ずかしそうな様子、対して花陽は熱心にメモを取っていた。

それぞれの様子に、師匠は少し得意げに胸を張る。

どうやら師匠の機嫌を取ることには成功しそうだ。

 

「ちょっと寒くないかにゃー」

 

星空さんの、この一言が無ければ……

 

「ちょっと、アンタ今『寒い』って……」

 

師匠はすぐさま、その言葉に反応した。

 

「じょ、冗談です……さっきのすっごい可愛いです! 最高です!」

 

星空さんが慌てて先ほどの発言を撤回する。

 

「え、えっと……こ、こういうのも良いかも」

 

「そ、そうですね! お客様を楽しませることは大事です!」

 

「素晴らしい! 流石にこ先輩!!」

 

星空さんに続く形で、みんなが慌ててフォローを入れ始めるが、既に遅かったようだ……

まあ、花陽だけは本気で感心しているみたいだが。

 

「とにかく話は終わりよ……出て行って!」

 

結局、師匠の機嫌が戻ることは無かった。

そして師匠が穂乃果たちを部室から追い出し、μ'sの部室交渉は失敗に終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

師匠が穂乃果たちを部室から追い出した後、彼女は部室の窓から外を見ながら、どこか沈んだ表情をしている。

外は彼女の気持ちを表すかのような曇り空だった。

 

 

これまで強気で堂々としていた彼女からは想像できないほど、一変して落ち込んでいたのだ。

出来ることなら、師匠にそんな顔はさせたくない。

なので僕は少し強引な手段で彼女を立ち直らせることにした。

 

「師匠。今日も『アイドル講座』お願いします」

 

「えっ?」

 

「お願いします。今日は師匠に聞きたいことが色々あるので……」

 

「そ、そうね……分かったわ!! それじゃあ、本日のアイドル講座を始めるわよ!」

 

「イエス、マイ・ロード……!」

 

少し無理やり過ぎただろうか? しかし、取り敢えずは成功したようだ。

ひとまず僕は、昨日復習したところをいくつか師匠に質問するところから始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライ」

 

講座も終わり、しばらくして師匠が僕に声をかけてきた。

 

「何でしょう?」

 

「ありがと……」

 

「え?」

 

「さっきのことよ。私が落ち込んでるのを見て、励ましてくれたんでしょ?」

 

「はい……迷惑でしたらすみません」

 

流石に気づかれていたようだ……

 

「別に迷惑だなんて思ってないわよ」

 

師匠はどこかつまらなそうにそう答えた。

やがて、彼女の口元が僅かにに動いた。

 

「私、1年の頃はスクールアイドルやってたの……」

 

やはり、そうだったか……

師匠のアイドルに対する豊富な知識、そして理想の高さは並大抵の努力では身に付かない筈だ。

おそらくそれは、何かアイドル関係の活動をしているからこそ、得られるものなのだろう。

そして師匠は、自身の過去を静かに語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

師匠がまだ1年生の頃、『アイドル研究部』という名でスクールアイドルを結成していた。

しかし、彼女の理想の高さや過酷な練習などにより、それに耐えられなくなった部員たちが次々と辞めていき、最終的に残っている部員は、師匠ただ1人となってしまった。

師匠はそれで諦めることはせず、2年生の頃は1人でもアイドル活動を続けていたらしい。

しかし、やがて3年生へ進級し部員も一方に集まらないことから、アイドルの活動を殆ど諦めていたそうだ。

 

 

そんな状況で、彼女はμ’sの存在を知った。

師匠がμ’sに対し、気に入らない素振りを見せるのは、かつての自分を重ねたある種の「憧れ」の一面の表れなのだろう。

 

 

師匠は自身の過去を打ち明けた。

なるほど……副会長が話すのを渋る訳だ。

 

「やっぱり私のやり方じゃ、ダメなのかな……」

 

師匠が独りでにそう呟いた。

その声の小ささから、僕や他の誰かに対する問いかけでは無かった、単なる独り言なのだろう。

 

「そんなことは、無いと思いますよ」

 

しかし、僕はその独り言に対し、あえて口を挟んだ。

 

「師匠のアイドルに駆ける想いは、決して間違ってなどいません」

 

「ライ……?」

 

聞かれているとは、いや、たとえ聞かれていたとしても返答されるとは思わなかったのだろう。

師匠は、迷いのある眼差しを僕に向けた。

僕のような素人がそんな発言をしたところで、慰めにもならないのかもしれない。

しかし……

 

「そのことは、これまで師匠の講座を受けてきた僕が知っています……それとも、弟子である僕の判断は信用できませんか?」

 

些か偉そうな発言をしたことに内心、後悔はあるものの、この発言を撤回するつもりは無かった。

師匠は暫しの間僕を見つめ、そして一息ついた後……

 

「全く……弟子に励まされるなんて、私もまだまだね」

 

そう呟いた彼女の表情には、先ほどまでの曇りは無かった。

 




私としては文字数平均4,000から5,000くらいを目標にして投稿を心掛けているのですが、皆さんはどのくらいの文字数が読みやすいでしょうか?

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