ラブライブ! LOSTCOLORS   作:isizu8

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投稿がだいぶ長引いてしまい、申し訳ありません。


STAGE12 花 の 迷い

本日の授業は終了し、やがて下校時間になった。

生徒たちの多くは帰宅し、先ほどまで賑わっていた学院内は人寂しい風景に変わる……

 

僕はこの風景は嫌いじゃない。

この学院内では良くも悪くも目立つ僕が、人目のない学院内を歩くのは一種の開放感がある。

以前もこんな風にどこかの学校の中でも散歩していたのだろうか……

まるで、それが当たり前であるかのような足取りで僕は学院内をを歩いていた。

 

中庭にたどり着くとベンチに1人で座り、なにやら悩んでいる様子の小泉さんを見かけた。考え事でもしているのだろうか?

近づいてみると、彼女のその様子はどこか落ち込んでいるようにも見えた。

 

「小泉さん」

 

声をかけると、小泉さんは俯いていた顔を上げ僕がいる方向を向いた。

少しだけ驚いたような表情をしていたが、やがて落ち着きを取り戻したようだ。

 

「皇先輩……? どうかしたんですか?」

 

「いや、ちょっと散歩してたら見かけたので声を掛けたんだが……邪魔をしてしまったかな?」

 

「い、いえ! とんでもないです!」

 

「それなら良かった。それにしても何かあったのか? なんだか悩んでるみたいだけど」

 

「えっと、その……」

 

僕がそう聞くと彼女はまた、落ち込むような表情を見せた。

聞いてはいけない内容だったのだろうか……

 

「詮索してすまなかった。言いたくないことなら別に……」

 

僕がそう言いかけた時、小泉さんが慌てて答え始めた。

 

「ち、違うんです! えっと、その……」

 

彼女が何かを言いかけたので、僕はその言葉の続きを待つ。

 

「聞いてくれますか? 私の話……」

 

「ああ。僕で良ければ」

 

こうして彼女は自身の悩みを打ち明けてくれた……

 

 

 

 

 

 

小泉さんは迷っていた……

 

彼女は昔からアイドルが好きで、それは幼い頃から振り付けを完璧に覚えるくらいだった。

 

僕が先日、小泉さんと話をした時……

最初こそはぎこちなく会話をするだけであったが、アイドルの話題になると、まるで人が変わったように熱く語っていた。

その溢れる情報量や情熱から、彼女のアイドルにかけるものは本物なのだろう。

 

そんな小泉さんはある時μ'sの初ライブを見てそして憧れた。

μ'sのメンバーの1人の穂乃果もまた、彼女を勧誘した。

しかし彼女は自分に自信が持てず、その申し出を保留にしていた……

 

そんなある日、彼女は幼馴染の星空さんと、とある一件で知り合った西木野さんの2人からもアイドルをやるべきだと勧められたそうだ。

 

そして現在、そのことについて悩み続けているということだった。

 

「私、ダメですよね……みんなに励ましてもらっているのにずっと迷ってばかりで……」

 

小泉さんが悲痛な表情を浮かべ、そう言った。

 

「そんなことはないと思うよ。誰にだって不安や迷いなんてものはあるだろう?」

 

「それって、先輩もですか?」

 

「そうだな。今の僕の不安と言えば、やはり記憶のことかな」

 

「記憶喪失、ですよね? この間言っていた……」

 

小泉さんには先日、飼育小屋で話をしている時に記憶喪失のことは話した。

その時のことを思い出すかのように彼女は考え始める。

そして考えが纏まったのか、彼女は話し始める。

 

「もしも私が記憶を失くしちゃったら、たぶん今以上に自信が無くなってたかもしれないです……先輩は大丈夫なんですか?」

 

「そうだな……記憶が無いのは確かに辛かった。けど今はそれほどでもないかな」

 

「そう、なんですか?」

 

小泉さんが不思議そうに首を傾げる。

僕は彼女が感じている疑問に答えた。

 

「僕は自分がひとりぼっちだと思っていたんだ。だけどそんな僕を助けてくれた人たちがいた」

 

「それってμ'sの先輩方ですか?」

 

「ああ」

 

もっとも、僕がこの学院に来てからお世話になった人たちは、μ'sの3人だけではないのだが……

 

穂乃果に巻き込まれる形でμ'sの手伝いをしたことがあった。

まあ、僕が不用意に発した言葉が原因ではあるのだが……

 

本来なら僕は、自分の失くした記憶のことを優先するべきなのだ。

だが、それでも彼女たちの手伝いを優先してしまうのは、きっと穂乃果たちに何か人を惹きつけるものがあるから。

記憶が無くて不安だった僕は、彼女たちと接することで知らず知らずに救われたのかもしれない。

 

小泉さんも、もしかしたら穂乃果たちと接することで自分を変える切っ掛けになるのかもしれない。

それだけ考えると、僕は小泉さんにある提案をしてみた。

 

「小泉さん」

 

「はい。何でしょうか?」

 

「スクールアイドルを本気でやってみないか?」

 

「でも……私には向いてないですから」

 

「そうかな? 小泉さんの場合は素質は十分だと思う。可愛いし、アイドルの知識も豊富だ。後は自分に自信をもつことさえ出来れば……」

 

「そう、ですか?」

 

「その自信が持てるまで僕も何か手伝うから、一度やってみないか?」

 

「えっ?」

 

「と言っても、アイドル知識の乏しい僕に手伝えることなんてあまり無いのかもしれないけど」

 

「ど、どうして先輩は、そこまで言ってくれるんですか?」

 

「そうだな……」

 

彼女にそう言われ、改めて考え始める。

穂乃果たちμ'sに協力したいという気持ちもある。彼女たちからは、もしいい人が見つかったら勧誘してほしいと頼まれたこともあった。

アイドルについての情報に熟知している小泉さんがμ'sに加われば、きっと心強い存在になるだろう。

 

それに小泉さんの落ち込んでいる姿はあまり見たくはなかった。何故、そう思うのかは分からなかった。

 

すると、眠っている記憶の中から、とある少女のイメージが僅かに浮かぶ……

そのイメージは所々霞んでいてハッキリとは見えなかったが、こちらに向かって微笑んでいるようにも見えた。

僕はその少女を見ていると、何かを悔いるような気持ちになっていた。

 

もしかしたら小泉さんに、その少女の面影を重ねているのかもしれない。

相変わらず、その少女が何者かは分からないのだが……

 

「先輩?」

 

しばらくそのまま、立ち尽くしていたからだろう。

小泉さんが心配そうに声をかけてくる。

 

「すまない。少し考え事を……それで理由なんだけど、見てみたいんだ」

 

「えっ?」

 

「君がアイドルとして輝く姿……君の笑顔を」

 

僕がそう言うと彼女は動揺した様子で何かを伝えようとした。

 

「え、えっと……せ、先輩。その……」

 

「ん? どうした?」

 

「そ、そう言う風に言ってくれるのは嬉しいんですけど……その……」

 

どうしたんだろう? 僕が言ったことに何か気になったことでもあるのだろうか?

しばらく沈黙が続くと、後ろから誰かが近づいて来た。

 

「お取り込み中悪いんだけど……」

 

近づいてきた人物は西木野さんだった。

 

「一体どういう状況なんですか?」

 

「それは……」

 

僕たちは今の状況を西木野さんに説明した……

 

 

 

 

 

 

「そういうことなんですね。それにしても……」

 

あれから西木野さんに事情を説明した。

彼女は納得してくれたようだが、何か言いたいことがあるようだ。

 

「貴方、よくそんな恥ずかしい台詞言えるわね……」

 

「僕の言葉、どこかおかしかったかな?」

 

西木野さんが何やら呆れている表情で僕を見てそう言った。

僕はただ、思ったことを口にしただけなのだが……

 

「先輩は、只でさえ目立つんだから、もう少し発言には気をつけた方がいいわよ?」

 

「分かった。いや、正確にはよくわからないが……とにかく気をつけるよ」

 

僕は、他人が聞いたら恥ずかしいような台詞を知らず知らずに言っているそうだ。

いまいち納得はいかなかったが、西木野さんの言葉にも一理ある。

僕が何か不用意な発言をして、自身の評判を悪くするわけにもいかない。

 

一応気をつけてはみるが、なにがおかしいのかは……やはりよく分からなかった。

今度、誰かに相談してみるか……

 

「だけど先輩の言うことにも一理あるわね。小泉さん。貴女、声は良いんだから後は大きな声を出す練習をすれば良いだけでしょ?」

 

「でも……」

 

「きっとそれを続けていけば、自身を持つことにも繋がるはずよ」

 

「西木野さん……」

 

西木野さんの励ましに、小泉さんが感嘆する。

彼女もまた、小泉さんのことが気になるようだ。

 

「試しに今から練習でもしてみない? 声の練習……私も一緒にやるから」

 

「うん……やってみる」

 

そうして2人は発声練習を始めた。

すると、西木野さんが僕の方を見た。

 

「ほら、皇先輩も」

 

「僕もやるのかい?」

 

「こういうのは、人数が多い方が良いんです」

 

そういうものなのか……

まあ、先ほど小泉さんに手伝うと言ったばかりなのだから、ここは一緒にやってみるべきか。

 

人数が多い方が良いと言うことなので、僕は先ほどから木の影に隠れて『こちらを見ていた』1人の少女にも声をかけてみた。

 

「折角だから、『そこの君』も一緒にやってみないか?」

 

「にゃ!?」

 

小泉さん、西木野さんの2人ではない別の少女から声が上がる。

そして、その少女は木陰から姿を表す。

 

「凜ちゃん?」

 

小泉さんが不思議そうに星空さんを見る。

 

「な、なんで分かったにゃ?」

 

「いや、気配がしたから……」

 

「なにそれ、意味わかんない」

 

僕がそう答えると呆れたのか、西木野さんが少し不満そうにそう答えた。

 

 

 

 

 

 

それから新たに星空さんも加えて4人で発声練習をすることとなった。

 

西木野さんの歌声は音楽室でも聴いたことのある透き通った美しい声。

 

次に、元気さが伝わる星空さんの無邪気な声。

 

そして舌足らずではあるが、一生懸命で綺麗な声の小泉さん。

 

それぞれが、特徴的な声をしていた。

しばらくして僕たちは発声練習を終えた。

 

「かよちん凄いにゃ!」

 

「そうね。ここまでやれるなら大丈夫だと思うわ」

 

2人が小泉さんをそう評価した。

後はこの練習を続けていけば、彼女がスクールアイドルとして活躍出来ることは間違いないだろう。

 

「それじゃあ早速、μ'sのところに行くにゃ」

 

星空さんは今すぐ穂乃果たちのところへ向かうべきだと判断した。

 

「待って、まだ早いわ。ちゃんと準備してからじゃないと」

 

一方、西木野さんはもう少し練習をしてからμ'sに入るべきだと考えている。

 

「かよちんはいつも迷っているばっかりだから、パッと決めてあげた方がいいの!」

 

「そうかしら? この前話した感じだと、そうは思わなかったけど?」

 

西木野さんの意見の通り、ここは一度準備をするべきだろう。

しかし、星空さんの発言にも一理あるとは思う。

押しの弱い小泉さんには、多少の勢いはあったほうが良いかもしれない。

 

やがて、小泉さんを励ましていた2人は途端に言い争いを始めた。

僕は仲裁に入ろうとしたが……

 

「2人とも、喧嘩はそのくらいに……」

 

「貴方からもなんとか言って!」

 

「今から先輩達のところに行くべき! って、先輩もそう思いますよね!?」

 

「お、おい……」

 

2人の口論に巻き込まれてしまった……

 

「あ、あの……!!」

 

やがてそんな様子を見かねたのか、小泉さんが声を上げた。

 

「わ、私……行きます」

 

小泉さんは先ほどのおどおどしている様子とは打って変わり、そして決意したようにその言葉を口にした。


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