STAGE01 橙 の 少女 と 銀 の 少年
「そうか、未練はないのだな」
「未練はある。だから、未練はない」
「意味が分からないぞ」
「簡単な話だ」
その少年は一旦言葉を切った。
「未練はありすぎる。この学園や騎士団ですごす日々を、僕は失いたくはない。だから、この日々を失わせる僕は、ここにいるべきじゃない。それが分かったから、僕はここを自分の意思で出ていける。……ここに残ることに、未練はない」
「……それを未練と言う気もするがな」
・・・・・・
「そこのサークルに立って、君の願いを言うんだ。そうすれば、君の願いは叶う」
少年はサークルに立ち、両目に宿る赤い鳥に願いを込めて言葉を発した。
「みんなが僕を忘れますように」
――そう。全ては泡沫の夢のように――
・・・・・・
「また、あの夢か」
最近、いつも同じ夢を見る。
その夢では僕と見た目が殆ど似ている少年と緑色の髪の女性が写っていた。
どうやらその少年は自分がその場所にいることで周りの人に危険を及ぼすかも知れないと考え、その人達の日常を失わせないため、自分がその場所からいなくなると決意した。
少年は『未練はない』と言うのに対し、少女は『それもまた、未練と言う気がする』と話す。
そして、場面は切り替わり、少年は自分を忘れて欲しいと願いを込めた。
……それにしても、よくハッキリと覚えているものだ。
普通寝ている間に見ていた夢は、目が覚めれば曖昧になるか、忘れているかのどちらかだろう……
もしかすると僕が失った記憶と何か関係しているのだろうか?
まさかな……
「とりあえず、今日も記憶を探しに出かけてみるか……」
僕は支度をして、街に出かけた。
・・・・・・
僕は記憶の手がかりを探しに街まで出かけていた。
すると道中でなにやら人だかりが出来ていた。
何事かと近づいてみたら、そこに集まっている人達は皆、中央の大モニターに夢中なようだ。しばらくするとそのモニターに3人の女性が映った。
「「「UTX高校へようこそ!みなさーん、お元気ですかー!」」」
彼女達の声を聞いた、その場にいた人達のほとんどが歓声を上げた。
周りの人達の反応から察するに彼女達は有名人か何かなのだろうか?
「はあ!? アンタそんなことも知らないの?」
「……!?」
まるで僕の思考を読んだかのように声が上がる。
しかし、その言葉は僕に向けたものではなかった。
僕はその声の正体に近づいてみると、そこには学生服を身にまとった橙色の髪の少女と怪しい格好をしている黒髪の少女が話をしていた。
「AーRISE(アライズ)よA-RISE……」
「AーRISE?」
「スクールアイドル。学校で形成されたアイドルのことよ。知らないの?」
スクールアイドル?
A-RISE?
……どれも聞いたことがない。
さも常識のように語るその少女と、モニターに集まっている人達の反応……
それに対し、スクールアイドルやAーRISEといった存在を知らないのは、この場では僕とその場にいた橙色の髪の少女だけのようだ。
その状況からして、スクールアイドルという存在は世間では常識になっているのだろう。
もしかすると記憶を失う前は、僕も彼女達の存在を知っていたのだろうか?
僕が考え事をしていると、やがてそのモニターの映像が切り替わり、AーRISEのパフォーマンス映像が映っていた。
完成された動き……
そしてどこか挑発するようなその瞳が、モニター越しでも他を圧倒する存在感を感じさせる。
なるほど。これがスクールアイドル。
そしてAーRISEか……
僕が彼女達のパフォーマンスに感心していると、その映像を見ていた少女の1人がよろけた様子で近くの手すりにもたれ掛かった……
「大丈夫かい?」
僕は彼女が心配になり、声をかけるが……
「見つけた!!」
「え?」
「閃いたんです! 最っ高のアイデアが!!」
彼女は輝いた表情で僕を見てそう言った。そしてすぐに走り出した……
「何だったんだ? 一体……ん?」
ふと自分の足元を見てみると、そこには生徒手帳と思しきものが落ちていた……
音ノ木坂学院と書かれた生徒手帳がそこにはあった。
おそらく先ほど走り出した少女の物だろう……
僕がこのままこの手帳を持っている訳にもいかないだろうし、彼女も生徒手帳がないと困るだろう。
僕はこの手帳を届けに音ノ木坂学院という学校まで行くことにした……
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