リスの男の子「たぬきくんとあそんでからべんきょうするからいいでしょー?」
レバノンの森には七大罪の一つ『怠惰』の悪魔が眠っていると後世の人々は恐れたと言う。
尚、この場合の眠るという表現は封印されている、もしくは居を構えているという意味であり、
決して睡眠的な意味で寝てばかりいるという意味では無い。
この時代の人々も、多かれ少なかれその様な怖れを抱いていた。
だが確かに、レバノンの森の守護獣は寝る事に関してはそうそう右を譲る事は無いだろう。
ある意味恐ろしいと言っても良い。…主に饅頭怖いと同じような意味で。
『眠い』と心の中で思ったならッ!
その時スデに行動は終わっているんだッ!
ふわわという生き物を言い表す言葉の一つとしてそのような言葉がある。
因みにふわわ自体はそのような事を言った事は無く、
ふわわならこんな感じじゃないのかと、周囲が勝手に考えた言葉である。
とはいえ、ふわわだって年がら年中寝ているわけでは無い。
それは流石に失礼である。眠りたい時に寝ているだけだ。
ただ、眠たい時間が一日の殆どを占めるだけである。
そんなふわわは大体どこででも眠る事が出来るが、お気に入りなのは白のワンピースのポケットの中に入っているおふとんである。
ただ、おふとんをひく前に眠ってしまう為に、おともだちのイシュタルがわざわざふわわのポケットから取り出してあげている。
実に美しい友情である。
そのふわわとイシュタルの友情のエピソードは幾つもあるが、その中の一つを紹介しよう。
『エビフ山の復讐』である。
恐ろしげなエピソード名だが、結末は何時もの通りなので安心して欲しい。
イシュタルがかつて女神であった頃、彼女は驕り高ぶっていた。
その驕りの始まりには、昔好きになった男が引っ込み思案で、別の自己アピールが激しすぎる男が外堀を埋めて迫ってきた事とか、
父親の無条件な甘やかしなどがあるのだが、今回はそこは置いておく。
イシュタルが驕り高ぶっていたころ、同じように「オレ様さいきょー」と同じように調子に乗っている山があった。
それがエビフ山である。幾多の凶暴な魔獣を擁し、それによって神にさえ恐れられていた。
だが、エビフ山に舐められたままで我慢出来る筈が無いイシュタルは、七又の神剣を振るいエビフ山をやっつけて勝鬨を上げた。
彼等はイシュタルに何時か復讐してやらんと、その恨みを忘れない為に薪を枕にして眠った。
因みにその薪はレバノン産の薪でとてもふわふわしていて安眠効果は高い。
まあ、そんなエビフ山の面々はイシュタルが普通の女の子になったと聞いて、今こそ好機だとレバノンの森に押し掛けた。
その有志の数108体。いずれも劣らぬ猛獣であった。
そしてその中には擬人化したエビフ山、エビフヤマもいたという。
彼は張り手とはたき落としが得意な重量級ファイターだった。今までイシュタル以外に負けた事の無いつわものだった。
エビフヤマとその仲間達はレバノンの森にいたイシュタルを瞬く間に包囲した。
「我等の恨み、今こそ晴らさせてもらう」
その低く響く声にイシュタルは心のどこかで、女神であった頃には攻めてくる気配も無かったくせに、
私が人間になった途端に強気になるなんてホントだっさい。
そう思っていたが、空気が読める様になってきた彼女はあえてそうは言わず、
「ええ、憎かったでしょう。あなた達には憎む理由があるのだから」
そう答えた。だが、結局の所殺される予想だけはしていた。
だからこそ、イシュタルを殺した後無駄な暴れ方をさせない様にそのような言葉を選んだのだ。
――何を言った所で自業自得に過ぎないんだから。
そんな悲壮な覚悟をしていたイシュタル。その彼女のすそを引っ張るものがいた。
一緒におふとんに入っていたイシュタルがいなくなったので探しに来たのだろう。
もしかしたら、神々や人々の一般的なフワワ像を、フワワの名前を出さずに恐ろしい怪物の話として紹介したので、
恐くなってトイレについて来て欲しいのかも知れない。
どちらにせよ、大切なお友達に愛されてるなぁ。イシュタルはその事がとてもうれしく、少しさびしく思った。
とにかくこの場ではふわわを遠ざけなくてはならない。
これはエビフ山とイシュタルだけの問題だった。
「いしゅたる、ねよう?」
ゆるふわ美少女の添い寝の誘惑に耐えながら、イシュタルは決着を付けないといけないからふわわに一人で眠る様に伝えた。
これは自分が蒔いた種である。だからこそ決闘に応じなければならない、と。
ふわわも守護の獣である。イシュタルが勝てない戦いに挑むことを否定する気は無い。
だが、イシュタルを護らない理由もふわわには無かった。
「てつだうよ」
どうみても戦いには不向きそうなふわふわしたお嬢様が戦いの土俵に上がった。
エビフヤマはその無知さを嗤った。
だからこそ驚かして追い払ってやろう。イシュタルには親友に見捨てられたという絶望を与えられるし、
別にその美少女には何の恨みも無いという紳士的な理由もあった。
エビフヤマはその呪詛を以って、森の中に直系4.55メートルの魔方陣『オォ・ズ・モー』を召喚した。
この魔法陣の中で土に手を付けたり、円陣から追い出された場合敗者となり勝者に命運を握られる事となる。
それをふわわにエビフヤマと仲間達はかみしばいを使ってわかりやすく説明した。
そして逃げるなら今の内だ。
そう言ったのだが、ふわわは逃げなかった。
そして――――――――決闘が始まった。
ふわふわした美少女が眠そうな目でずっとエビフヤマを見つめている。
エビフヤマはふわわに得意の突進からの掌底を繰り出そうとして、やっぱり罪悪感から自分から魔方陣から出た。
うん、何の罪も無い無垢な美少女に張り手をかますような最低な事は出来ない。
エビフヤマにも譲れないものはあった。
エビフヤマたちは約束通りふわわとイシュタルに負けを認めた。
以来、エビフヤマたちはエビフ山特産品の、特殊な泉からとれるスープ、ちゃんこなべを持ってレバノンの森に遊びに来たり、
リスの男の子やキリンさんの甥っ子に遊びを教えたり、
レバノンの森の住民たちから睡眠競争を挑まれたりする仲になった。
因みに睡眠競争は一番早く眠りに付いた者が勝ちであり、審判が存在しないバトルロイヤルなので、
皆が寝てしまって結局勝敗の判定ができないという、中々寝ない子供を寝かしつける為にリスのお母さんが考えた尊い遊びである。
リスのお母さん「勉強頑張ったから、今日はハチミツ味のホットケーキよ?」
リスの男の子「やったー」
よかったね