そんなふわふわふわわ正史ルート
イシュタルは森の北側の所に来ていた。
ウーパールーパーのおばさんが教えてくれた『ればのんゆめぐりまっぷ』に載っている、
『お肌スベスベ』と書いてある、レバノン13個目の温泉に来ていた。
見事な泥湯だった。温度は普通だが、泥湯の密封性を考えれば寧ろ高いとさえ言えるだろう。
それに泥が水分を多く含んでいる事の証左に湯気が物凄かった。
だが最近できた温泉らしく、まだそんなにお客さんは来ていない様子だった。
湯煙の向こうにも数匹しかいないのが見て取れた。
一人ではいるのも寂しいので、イシュタルは湯煙に映る影の方に近づいていく事にした。
其処では、コウノトリの若奥様と、アライグマのおばあちゃんと、とてもよく知った女性が其処に居た。
「イシュタルちゃん?」
「えっ、何で此処にいるの!? 母さんっ!!」
驚くイシュタルとは対照的に、「いちゃ、ダメだったかしら…」と残念そうなティアマト。
思わず、嘗ては傍若無神を地で行っていたイシュタルも罪悪感を感じてしまった。
「いや、そうじゃないけど…」
そう答えたイシュタルに、ティアマトの表情はころりと笑みに代わった。
「母さんうれしい」
折角だから洗ってあげる。そう母親に言われて照れながらも身体を洗って貰うイシュタルだったが、
此処の湯は泥湯。具体的には人畜無害のケイオスタイドだ。頭にかけられると落とす時が大変だ。
イシュタルの時に視野が狭くなるが、普段は幅広く物事を見通すだけの頭脳は、
この場において最も考えなければいけない事に思考を回転させた。
「おゆ、あるよ?」
そんなイシュタルの後ろから最近できたお友達の声が後ろから聞こえてきた。
言わずもがなふわわである。
一糸纏わぬふわわが指さす方向には滝があった。
勿論、この森の滝なのでそんなに冷たい訳でもない。水量はそこそこあるものの勢いもそこまでは強くなかった。
つまりどういう事かというと、滝もゆるゆるでふわふわだった。
母の圧倒的な女性らしい身体に負けを認めながらも、まだ成長期だからと自分を鼓舞するイシュタルと、
全ての生命の母として、子である娘と仲良く身体を洗うイシュタルにゆるやかで楽しい時間が流れていた。
だが、そんなのんびりした優しい空気は突如崩された。
「何時まで反抗期でいるつもりだ」
「いや、親父、俺達は親父を信仰的に封印したんだぞ?」
「ああ、そうだ。合わせる顔が無い」
「うるさい。とっとと風呂に入るぞ」
何故か、アプスーとエアとエンリルが其処にやって来た。
恐らくワザとでは無く男湯と女湯を間違えたのだろう。まあ、そもそも男湯とか女湯とか無いけれども。
アライグマのおばあさんが、「きゃーえっち」と叫んだことで、
女性陣は男達が泥湯に浸かりに来たことに気が付いた。
イシュタルはこうなったらこの男どもを社会的に封印してやろうかと、
具体的には地底の底の水に封じてやろうかと思ったが、湯煙&泥湯フィルターがあるのでやめた。あと面倒になったのもある。
エンリルは泥に鼻の下ギリギリまでつけて、寝ているふわわを見て、何処かで見覚えがあるような気がした。
イシュタルにはふわわを眺めるエンリルが厭らしいおじさんにしか見えなかった。
「おじさんサイテー。私の友達のふわわを厭らしい目で見ないでよ」
「いや、これは違うっ!! …ん? フワワ……マジか」
そういう温泉回特有のイベントがあったりなかったりして、天の神々と古き神々は和解した。
ついでに森の獣たちとも仲良くなった。
丁度この時、アプスーの復活の余波で、ウルクの井戸水が美味しくなったりした事は、割と余談である。
信仰する女神がアイドルを止めてどうすればいいのかわからなくなったイシュタルの巫女たちが、
その井戸水でうどんを作り始めた事はもう完全に余談で良いのかも知れない。
ほぼ全てのイシュタルの神殿はうどん屋となった。
因みにそれを奨めたのは、あのぐがらんなである。
「おいしいね、ギル」
「ああ友よ、このうどんはコシが違う」
勿論、あの二人にも好評であった。
あったかいおうどんいかがですか?