ふわふわふわわ   作:蕎麦饂飩

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楔の役目は達せられず、人々と神々は別たれる――――
余所のFate世界ではサービス残業に次ぐサービス残業で疲れ果てて、
実家に帰って来たしりあすくんが、
おふとんでゆっくり寝て元気になったようです。快復おめでとう。


あっ、もちろんいつもどおりの優しい世界なのでご安心ください。


すやすやえいぷりるふーる

「本来、フワワという生き物はとても恐ろしいものなんだ」

 

天命の書版を読んだことのあるエルキドゥに良く似た容姿のキングゥは、ギルガメッシュにそう告げた。

 

「アレが、恐ろしいだと? ははは、お前は我が友に似ているが、

たいそう臆病なのか、たいそう冗談が好きなのだな」

 

ギルガメッシュはそう笑った。

 

「友よ、お前はこの発言をどう見る?」

 

そして、エルキドゥにスルーパスを出した。

ギルガメッシュとエルキドゥは例えるなら翼くんと岬くんである。

パスの取りこぼしなどそうそうあるはずも無かった。

まあ偶にはあるが、その時には笑って許してあげるのも大切だ。

 

 

「…ギル、残念だけど彼の言っている事は間違ってはいないんだ」

 

だが、エルキドゥはキングゥの意見をそのまま肯定した。

ギルガメッシュはそれを受けて、

 

「何だと? …二人して(オレ)を謀ろうとしているな?

嘘が許される祝日は、恐らく四千年後位にしか作られないぞ?」

 

ギルガメッシュは双子のような容姿の二人が自分をからかっているのだと認識していた。

 

 

だが、エルキドゥも天命の書版を読んだことがあり、決して嘘のつもりは無かった。

だから真剣な表情のまま告げる。

 

「神々の森を護る、神々に人々に恐れられる事を定められた完全な人間。

完全を自認して、不完全な人々の守護者たる君の怨敵だ。

そして――――いや、やめておこう」

 

本来は、ギルガメッシュはフワワにビビりまくって、エルキドゥのがんばれ、がんばれ、という応援でようやく立ち向かえた事など、

敢えて言う必要も無かった。そこまでKYになったつもりは無かった。流石は結びつける楔として生まれただけはある。

 

もう一つ言わなかった事がある。本来はフワワに止めを刺す様にギルガメッシュに告げたのもエルキドゥだった。

そして、雛鳥はさえずりを失い、木々は伐採され、土砂崩れと洪水がウルクを襲うのだった。

 

だが、その可能性を知らず、今のふわわしか知らないギルガメッシュからすれば、

ふわわこそ、『全ての人々に恐れられる事の無い者』である。

 

(オレ)とふわわが殺し合う?

寧ろあの(・・)ふわわとどうやったらそうなるのか、説明が出来るのならして貰おうではないか?」

 

エルキドゥとキングゥはその問いの答えを探す事が出来なくて黙り込んだ。そして見合わせて笑う事にした。

「からかってごめんね」と。

ギルガメッシュにはそもそも探す必要が無かった。

知らぬゆえに、なり得なかった可能性に気が付かない。

だが、それで良いのである。

今現在、ふわわはふわふわしている。だから、ふわふわしていないフワワの事を考えるだけ無駄なのである。

 

知り得ぬ無知は時として、知り得る叡智を超える賢者となる。

無論、『全てを見た人』という原題を持つ『ギルガメッシュ叙事詩』の主人公たる彼は無知とはかけ離れているのだろうが、

起こり得なかった可能性に怯えるような無様な賢者よりは、知らぬ事で前を向ける賢者に近かった。

 

寧ろ、別の可能性の中の自分に罪悪感を覚えるエルキドゥが、繊細過ぎるだけなのだ。

記された物語の登場人物である操り人形で無く、

自らの意志で歩く真の人間であるために神々と決別したギルガメッシュを友とした事を喜んだことを、

エルキドゥは一連の会話の中で改めて思い出した。

 

 

 

エルキドゥは、人と神を結ぶギルガメッシュを、神と結ぶ役割を与えられて生を受けた。

結局その任務は失敗したと言っていい。

今、――――人々は神々と別たれて行っている。

 

 

 

だが、別れると言っても様々な形がある。

喧嘩別れもあれば、仲良く別れてまた明日という事もある。

親殺しと言う決別の形もあれば、親から独立の門出を祝われる形もある。

 

人間だから劣っている。神々だから古臭い。

その様に別れるなら、神話の親殺しの様な、冷たく激しい別れもあるだろう。

新たな支配者となる為に、人間は旧き支配者を殺さなければならない。

 

だが、みんな違ってみんな良いと認め合えるからこその他者としての別れであるのなら、

そこにどんないざこざが起きようか?

親元を離れて、いずれ誰かの親になる為に、家庭を出て新たに作った家庭に入る事に如何なる悪があると言おうか?

 

 

人間は一人立ちできるまでに成長した。ならば神に対等な大人として語り合い盃をかわし合う事もできるだろう。

成人になった子と親が祝いの酒を飲むように。

時折、親が子ども扱いしても、子どもが背伸びをしても、そこには優しさがあるのだ。

 

優しさから生まれた行動は優しさに還る。

ここはそんな優しい世界だ。

 

 

エルキドゥはその優しい世界の中で、かつて受けた定めとは良く似ていて、どうにも違う決意を改めて誓ったのである。

 

僕はただのエルキドゥで、ただのギルガメッシュや、ただのふわわたちの友達だと。

鎖で無く、握手で結び合おう――と。

 

 

 

今日もメソポタミアの空は気持ちいい。

僅かにひんやりと冷える感覚からして、今日降りて来ている雲は親友(ギル)も大好きなソフトクリームだろう。

しかも僅かに黒い雲からして、あんみつの混ぜ合わせだ。

空を見上げたエルキドゥは、なんとなくそう思った。




此処は優しい世界。黄砂が飛ぶなんて事は無く、
ソフトクリームの雲に、きな粉が被さってやってくる。

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