ギルガメッシュ。その名は人類最古の総合英雄譚の主人公の名前であった。
神の血によって生まれながら、人間らしく生きて人間らしくその生涯を全うした王である。
彼はその強き意志ゆえに、
その意志ゆえに、イシュタルを初めとする神々を拒絶し、フワワを初めとする自然を破壊した。
…もしかしたらそんな歴史もあったのかも知れない。
エルキドゥは、知らない人が見たら双子に見えるほどそっくりな、キングゥから『天命の書版』と呼ばれる、
遥か未来にまでおける歴史と、万能の叡智を記した絵日記を借りてその事を知った。
その絵日記の中では、森の守護者フワワをエルキドゥとギルガメッシュが排し、
レバノンの森は伐採され、豊富な地下水を抑えきれなくなり自崩れを起こし、
動物は狩られ、天の牡牛は解体されて、その欠片を飼い主のイシュタルの顔に投げつけ、
人間が万物の支配者となる始まりを記していた。
今のゆるやかな幸せを知るエルキドゥには、その絵日記がとても恐ろしく見えた。
そうして震えている手に力が入っていなかったのが悪かったのだろうか、
前方不注意で歩いていたふわわが悪かったのだろうか、
ふわわがぶつかった衝撃(たいしたことない)で、エルキドゥは天命の書版を落とした。
天命の書版はころころと転がって、浅いみずうみに落ちた。
ふわわはごめんなさいをした。
エルキドゥはいいよって言った。
とはいえ、これはキングゥからの借り物である。
みずうみに落ちましたで終わりにするわけには行かない。
ふわわは木の棒でみずうみのふちから天命の書版を取ろうとしたが、届かなかった。
エルキドゥが木の棒でとろうとしても微妙に届かなかった。
仕方ないので、エルキドゥは身体を変形させて伸ばそうとしたが、
その前に、ふわわがワンピースのすそを縛っていた。
ふわわは、勢いよくみずうみに飛び込んだ。
だが、みずうみはふわわが思った以上に深かったようだ。具体的にはリンゴ1つ分くらい。
そのせいで、ふわわは転んでずぶぬれになってしまったが、起き上がったふわわは天命の書版を手に持っていた。
防水加工処理をしているけど、微妙に濡れてしまった天命の書版だったが、
エルキドゥは僅かな違和感に気が付いた。
ふわわにケガが無いことを確認した後、天命の書版を受け取ってその内容を読み始めた。
エルキドゥが天命の書版を読んでいる間、ふわわはカエルさんと遊んでいた。
さて、天命の書版の中身は、大きく書き換わっていた。
とりあえず思いっきり表紙から違っていた。王様も、民たちも、自然も動物たちも仲良く手を繋いで踊っている絵だった。
なんだか大きさも変わったし、材質も心なしかやわらかくなった気がする。
その中身を開くと、中身はすっからかんになっていた。
「…未来は自分達で作るということだね」
エルキドゥは人の驕りでは無く、神の自惚れでもなく、ふつうにいきているものとして、そうひとりごちた。
一方ふわわは、みずうみで泳いでいた。というか浮いていた。
「えるきどぅもおいでよ。きもちいいよ」
そう告げるふわわにエルキドゥは「いいとも」と快く頷くと、本を木陰において、勢いよくみずうみに飛び込んだ。
みずあそびはたのしいねっ!!
(おんどもあんまりつめたくないよ)