煙の中に赤い輝きが垣間見える。もやによって煙が押しのけられ、サンタの茶化すような口笛と共にシックスが現れる。彼女は一体何処から取り出したのか、身の丈に合わない長大な剣を担いでいる。大天使の姿は跡形もない。狼狽える天使たちを背にしてサンタに話しかける。
「あいつらには感情がないんじゃなかったのか?」
「俺が操作してたころはそうだったんだけどなぁ。今はそうじゃないみたいだ。それよりもどうする? さっさと片づけるなら待っててやるし、遊んでくなら先に帰るぜ」
鹿によりかかりながら問うてくる彼に対してシックスは何も答えず、微笑みと剣を見せつける。サンタも髭の下で同じような笑みを浮かべる。彼女から目を離してアゼットに向けて言う。
「よっしゃ行こか! アゼットちゃん!」
「ええ、そうするわ」
彼女はもはやシックスの心配など微塵もしていない様子である。のろのろとソリに乗り込み、バニーガールと、いつの間にか寝かせられていた少女の傍で横になり、寝る態勢に入っている。再びサンタが茶化すように口笛を吹く。シックスは微笑み、というよりもドヤ顔で応える。
隙だらけの空間に矢の雨が降り注ぐ。またしても煙で視界が遮られるが、それでも攻撃は止まらない。1秒、2秒、5秒、10秒。たった10秒間の内に1000を超える矢が撃ち込まれた。
そして大天使の踵が繰り出される。雷にも迫る速さで打ち下ろされた足は、確かにシックスを捉える。
それは一切傷付いていないシックスに捉えられるのと同じことだった。
大天使の体が冗談のような軽やかさで吹き飛ぶ。そこの映像だけを切り取れば誰もが彼が綿を詰めたように軽いのだと錯覚するだろう。しかし落下したときに走った衝撃がそれの確かな重さを伝える。
埃の中からはやはり無傷のシックスが現れる。それだけではない。1人と1匹が真の姿を現していた。
燃え盛る炎のような、或いは吹き出した瞬間の血の色を取り出したかのような鮮烈な赤の獣皮、トナカイなど目ではない巨大さ、鎌など目ではない残忍な形をした角、それは確かにさっきまで鹿だったはずのものだった。
闇で染色したような黒髪、何にも似つかない赤い光を放つ両目、あどけない顔立ち、華奢な体、それは確かにさっきまでサンタだったはずのものだった。
元サンタは元鹿にまたがり、付け髭を振り回しながら忘れ去られた軍歌を熱唱する。シックスは彼を見上げて言う。
「ん、コスプレは止めたのか? アップル」
「まあね。ちょっとサンタは俺には早かったよ……じゃ、俺たちはもう行くからな」
「ああ……眠り姫を起こしてくれるなよ」
ソリで眠る3人を指差す。アップルは力強く頷きながら鹿だったもののケツを蹴り飛ばす。元鹿は全速力でその場を離れる。
シックスは心底愉快そうに笑いながら彼らを見送った。