「私はカクテルちゃん!」
「聞いてない聞いてな~い」
女は2人のやりとりを無視して言う。
「名前……? ああ、そういえば言ってなかったわね。……そうね、泊まらせてもらうのだし、名乗っておいたほうがいいわね」
「私はカクテルちゃん!」
「……なんでこいつ連れてきちゃったかな、俺」
ぼやきながら幼女のほうを見る。彼女は愉快そうに笑いながらバニーガールの手を握り、ソリのほうへと連れて行く。
ソリは外から見るとみすぼらしいものだったが、中はしっかりとした作りをしているし、布かれているクッションも上等なものだ。
幼女はそれを確認してからバニーガールを寝かせる。
「さあ、もう寝ようカクテルちゃん。遅くまで起きていると綺麗な肌が荒れてしまう」
「え~……? じゃあ一緒に寝てくれなきゃやです~……」
「勿論、一緒にいるよ」
幼女はバニーガールの傍に腰掛け、頭を撫でてやる。艶やかな髪の上に柔らかな肌を滑らせる。時々髪を弄られるのを嫌がらずに、寧ろ無邪気に笑う彼女はさっきまでのハイテンションが嘘のようにあっさりと寝入る。安らかな寝顔に吸い込まれるように、頬に口付ける。
完全に2人だけの世界に入っている幼女たちを前にした女は、またしても眠気に負けそうになりながら言う。
「ねぇ、私も寝ていいかしら」
「あー、もうちょっと待ってねー」
サンタにも無言で咎められ、幼女は笑いながら言う。
「すまなかった。さあ、名前を聞かせてくれ」
「……ええ。私の名前はアゼットよ。この辺りには初めて来たわ。よろしく頼むわね」
「俺の名前はアップルだぞ!」
「そう。あなたの名前は?」
サンタの名前にはまるで興味がない様子でアゼットは幼女に問う。
幼女が口を開こうとしたそのとき、爆音が響いた。
「な……!?」
「おっと……これは予想外だな」
ソリの周りを6体の天使が囲んでいる。しかもさっきと異なり、猫背にも関わらず背がビルの2階を超える巨大な天使が2体いる。残る4体は弓を構えており、援護役だろうと推測できる。経験したことのない数、圧倒的な迫力が、アゼットに再び天使への恐怖を刻み付ける。怯える彼女は縋るように幼女へと目を向ける。
「シックスだ」
しかし彼女の声は予想外の方向から聞こえてきた。自身の正気を疑いながらそちらを向くと、彼女は大天使の肩に座っていた。
それに気付いた大天使は逆の手で肩を叩く。一瞬は焦りを覚えるものの、アゼットはもう学んでいる。
「昔流行っていた宗教の中では、6は悪魔の数字だったそうだ。それをかつて使われていた言語に置き換えて……」
大天使の四肢が切断される。埃と光の粒子が舞い上がる。煙る視界の中で天使たちだけが困惑を浮かべる。サンタは、アゼットは、光が収束していく一点を見つめる。
「……シックス。それが私の名前だ」