「どうする……どうするって?」
「こんな騒ぎを起こして、泊まる場所もないだろう。あれはお前のだろう?」
幼女が指差した方を見ると、好き勝手に荒らされたキャリーバッグが捨てられていた。女は大したリアクションを取ることもなく、小さくため息をついて言う。
「ごめんなさい。この子預かってもらえる?」
「ん、分かった。……いや、ちょっと待て」
幼女が何か、もやみたいなものを飛ばし、バッグとその他の散らばったものを包んで引っ張ってくる。
「ほら」
「……ありがとう」
幼女はしゃがんで少女を預かる。女は立ち上がり、覚束ない足取りで荷物に近づき、覚束ない手つきでそれらを纏める。無事な荷物を確かめようとして、それが片手で数えられる程度だったことに落胆する。服は悉くが駄目にされてしまっている。化粧品の類いは泥まみれだが、洗えば使えないこともなさそうだ。もっとも彼女がそれを使う気になるかは別問題である。財布は見当たらない。スマートフォンも同様だ。金目のものは盗まれてしまったのだろう。下着がない理由に関しては想像するのも躊躇われる。ため息をつきつつ、荷物を纏め終える。支度を終えた女がしゃがみこんで話しかける。
「さあ、支度も終わったし……えー、っと、待って。そう、そうよね……いや、あの、何の話してたかしら?」
幼女は俯いて顔を隠し、何やら肩を震わせながら言う。
「くくっ、いや、お前、ぷっ……これからどうするかって、ぷふっ……話をだな……ふふふっ」
幼女はもう辛抱堪らないという風に、おもむろに顔を近づけると、そのまま額に口づけをした。女は何が起こったのか一瞬理解できなかったが、段々と険しい顔つきになってくる。にこにこと笑う幼女に向かってできるだけ真剣な調子で言い放つ。
「……何するのよ」
「お前が可愛すぎるのが悪い」
間髪入れずに誘い文句が返ってくる。加えて、この短時間でも常に笑っているという印象を幼女から受けていたが、中でもとびっきりの笑顔を見せられ、女は反論を引っ込めてため息をついた。
「全く、クレイジーな日だわ……」
「ふふふ、大分参っているようだな。……うちに来るか?」
幼女はへたり込む女に向かって言う。女は何の反応も示さない。にやつきながらそれを眺めていると、ついに女が力なく両手を挙げる。
「それ以外に選択肢ないっていうか……もう考えるのがめんどくさいわよ」
「いいのか? 名前も知らない者についていって」
「……もう、いいわよ」
投げやりな返事だが、女の表情には安らかな雰囲気が見える。幼女は満面の笑みで応えた。