背中に目玉を背負うことが戦いにどう影響するのか、頭の片隅で考えながら、しぶとく攻めてくる蔦をさばき続ける。且つそれだけで頭がいっぱいにならないよう、周りに注意を払う。
悪魔との戦いでは常に、あらゆることに注意をはらわなければいけない。一瞬とはいえ窮地に追いやられたことによって、この教訓を彼女は胸に刻み付けていた。
しかし他に注意を向ける分だけ、目の前の蔦への対処は疎かになってしまう。安全に対処しようと思うと悪魔との距離はかなり余裕を持つ必要があり、こちらが攻めることも難しくなってくる。蔦を切ることによるダメージは無いとは言い切れないが、微々たるものだ。銃を撃ってもいるのだが、そちらもあまり効果は無い。
更に悪魔は、シックスが動きを封じる以上のことはやってこないと理解したようだった。目玉はやはりアゼットのほうを向いているし、鋏も尻尾も彼女のほうに向けられている。この状況では彼女はますます攻めに出ることはできない。事態はどんどん膠着していく。そこで彼女は更に距離をとった。
蔦が届くか届かないかの距離。悪魔は距離を詰めようとする。
「おいおい、私のことを無視する気か? つれないな……」
しかしシックスが頭を掴んで離さない。拘束を解く為に悪魔はシックスに攻撃を集中させる。おかげで彼女は自らの思考に集中力を使える。この事態を打開するにはシックスの助言を理解するのが一番の近道だと考え、なんとか知恵を振り絞る。
『いいか、人間だったときの感覚に捕らわれるな。言葉を捨てろ。身体に意思を明け渡せ。神経を今、この一瞬に集中させろ……そうすればお前は時間だって止められる』
意味が分からない。しかし時間をかけることで、彼女に理解できる部分もあった。人間だったときの感覚に捕らわれるな、これは魔人になったことで違った感覚を得られるはずが、人間の感覚が染みついているせいで得られていないということだろう。時間だって止められるというのは魔人の感覚がそれだけ鋭敏ということなのか。
さて、残る言葉は今までの感覚を忘れるための処方箋といったところだろう。ここの意味が分からなければ事態を打開することはできない。言葉を捨てろ。全く分からない。身体に意思を明け渡せ。考えるな、感じろということなのか、よく分からない。神経を一瞬に集中させる。これは分かるが、できるかどうかとは話が別だ。
考え続けても一向に答えはでない。しかしいつまでも考え続けているわけにはいかない。シックスが殺される心配など一切ないが、道路やビルが壊されていくのは見過ごせなかった。
解決策は出ていない。それでもアゼットは覚悟を決めて悪魔との第3ラウンドに臨む。