シックスが傍にあった椅子を引いて座るよう促してくるので、エリエルは素直に従う。視線は公園に釘付けにされたままだ。彼女は口を開こうとしてはまた閉じてを繰り返す。
パニックを起こしている彼女にシックスが声をかける。
「驚いているみたいだな。常識が侵食される気分だろう? いや、私には推測するしかないんだが……」
エリエルは壊れたメトロノームのように勢いよく何度も頷く。少しだけ落ち着いたのか、たどたどしく話す。
「すごい、ですね、ここ。ここ、普通の街中ですよね? あの……すいません、ちょっと」
「気にするな。そのまま話してもいいし、落ち着いてから話してもいいさ」
「はい……はい、ちょっと落ち着きました。すいません。あの人たちは……障害者の人たちですか?」
「障害者の定義次第だが、一応そうだ、と答えておこう。あと障害がないものもここでは自由に振る舞うことが多いな。特に芸術家とかな。あの叫び声をあげている奴は公園の外で会うと、紳士的なおじさんだぞ」
「はあ~……」
エリエルは、これは敵わないといった様子でため息を吐く。話をする前と比べると落ち着いたようだが、視線は変わらず公園に釘付けにされている。何を言うこともなくじっと眺めていると、店員がやってくる。
「ハァイ。ちょっと刺激的すぎるんじゃないかと思ったけど、お気に召したみたいねお嬢さん」
テーブルに2人分のコーヒーとごく小さなケーキが置かれる。礼を言う2人に笑みを返して彼女も椅子に座る。シックスはコーヒーを一口飲んでから話しかける。
「こないだここで開いたパーティはとても良かったな。あれはお前が主催だったか?」
「ええ。みんなに助けてもらってばかりだったけどね。私の考えたことほとんど実現させてもらったもの」
「それは君の人徳とコーヒーの価値があったからだな。……あのチーズの店って普段はどこでやっているんだ?」
「あなたね……教えてあげないわよ。どうせ女の子目当てなんでしょう?」
「それもあるが、カクテルちゃんがワインに合うチーズを研究中でな。あそこが出していたチーズケーキはとても美味しかったし、相談するにはいいかと思ったんだが……」
シックスは横目に店員のほうを見る。店員は冷ややかに返答する。
「私からカクテルちゃんに教えておくわ」
「そうか。残念だ」
素っ気ない答えにもシックスは愉快そうに笑う。そのさまを見て頬を膨らませる店員は、彼女からエリエルに絡む相手を変えようとする。
「ねえ、あなたはどこから来た、の……」
しかし彼女は執拗なまでにコーヒーに息をふきかけるのに夢中になっており、とても会話ができる様子ではなかった。傍目に見てもやりすぎなくらい冷ましているのに、更に恐る恐るコーヒーを啜る姿に、店員は苦笑を、シックスは心からの笑みを堪えることができなかった。