段々と通りすがる人が少なくなっていく。不思議そうに観察するエリエルにシックスが教えてやる。
「ラッシュアワーが過ぎたんだな。後はまばらに出社したり登校したり、買い物に出かけたり遊びに出かけたり……コーヒーは好きか?」
「えっ?」
話を興味深く聞いていたのに、唐突に尋ねられてエリエルは面食らってしまう。しかし言われてみると、コーヒーの匂いが微かに漂っていることに気付く。全く唐突というわけではなかったのだなと納得し、改めて答えを返す。
「うーんと……まあまあ、ですかね?」
「そうか。なら、うんと好きになるぞ」
2人は流れでコーヒーショップに入る。入店する前から漂っていたコーヒーの匂いがより濃厚に感じられる。中には誰もいない。不安になってきたエリエルの前に、カウンターの奥から三角巾を頭に巻いた女が現れる。
彼女はシックスを見るとほころんだような笑みで迎えた。
「いらっしゃい、シックス。いつもは閉店してから来るのに、珍しいわね」
「ふふふ、お前に会いたい気持ちを抑えきれなくてな」
「あら、ありがとう。で、そっちの子は? また新しい彼女?」
「ふむ。私としては願ってもないところだが、どうなんだ?」
「えっ!?」
想定外の質問にエリエルは混乱させられる。あたふたする彼女を見て2人は笑みを交わし、さっさと助け舟を出す。
「ふふ、ごめんなさいね。ダメな大人だから可愛い子を見るとからかいたくなっちゃって」
「ふふ、そうそう。エリエルは可愛いからな」
「う……」
褒められているはずだが、彼女は恥じらいつつ、少し影を覗かせる。首を傾げる店員にシックスは微笑みで応える。彼女は呆れたような声色で注文をとる。
「ほんとしょうがない人ね。注文は?」
「私はいつものでいい。こいつには……甘いのと苦いのどっちがいい?」
「えと……甘いので、お願いします」
「はい、承りました。テラスに持っていけばいい?」
「頼む」
店員がカウンターの奥に引っ込む。シックスが入ってきた扉とは反対方向に歩いていくので、エリエルもついていく。そちら側にあった扉を抜けると、シックスが言っていたであろう公園が広がっていた。エリエルはその光景を見て言葉を失う。
「これは……」
「言っただろう? ここは自由だとな」
さまよいながら唐突に叫ぶ者、音程のとれていない歌を歌う者、芝生に転がってあやとりをする者、肘と膝を地に擦り付けながらサッカーボールを追いかける者。実に様々な者がそこにはいた。