「おはようございます! 気持ちの良い朝ですね!」
「おはようございま~す」
昨日のバニーガール、今はバーテンダーの制服に身を包んでいる女と、昨日助けた少女が笑顔で出迎えてくれる。2人はできた料理を運んでいるところのようだ。アップルは既に自分の分を食べきっており、シックスはコーヒーだけ飲んでいるらしい。
促されるまま食卓につき、部屋を見回す。複数並べられたテーブル、設けられたカウンター、その奥に並べられている酒の数々。どうやらバーテンダーの恰好はコスプレではなく、本当にここはバーのようだ。室内は見たことのない装飾で溢れかえっており、つい視線を迷わせてしまう。
キョロキョロするアゼットにバーテンダーが話しかける。
「外から来た人には珍しいものばかりでしょう? 街の様子もきっと独特に感じられると思いますよ」
牛乳に浸したシリアル、オムレツ、やけにトマトが多いサラダが並べられる。それを見たアゼットは申し訳なさそうに言う。
「あー、ありがとう。ただ、申し訳ないのだけれど……」
「あっ、嫌いなものとかありました? トマトが嫌いなら私もらっちゃいますけど」
「いえ、トマトは問題なくて……牛乳を飲むとお腹がゴロゴロしちゃうのよ」
そう言われたバーテンダーは鳩が豆鉄砲食らったような顔で見つめてくる。そういう人はこの辺りでは珍しいのだろうか。そう考えるアゼットに対し、返ってきた答えは予想外のものだった。
「いえ、食べられるようになってるはずですよ。そうですよね、アップル?」
アップルはタブレットをいじりながら答える。
「その子周辺街に行かずにランダムホールからこっちに来ちゃったみたいなんだよねー。だから体の変化については知らないわけ」
「へー、そんなことあるんですね。私は周辺街どころか門にホールインワンしちゃいましたけど」
「言っとくけどそっちのほうが珍しいからね……ま、とにかくお腹壊しちゃうとかそういうのはないから安心していいよ。好き嫌いはどうしようもないけど」
和やかに話す2人の横で唖然とするアゼット。知らない単語ばかり出る会話についていけず、理由も分からないのにただ大丈夫とだけ言われても不安は拭い切れなかった。
そうは言っても出されたものは食べるようにしたい。アゼットは恐る恐るシリアルに口をつける。一口付けると半ば自棄になって食べ進めるようになる。
黙々と食べているとバーテンダーが話しかけてくる。
「大丈夫ですか? 大分辛そうですけど」
「いえ……味は好きだから大丈夫よ。ありがとう、えっと、たしか……カクテルさん、だったかしら?」
「ノー!」
唐突に勢いよく言われ、アゼットの心拍数が跳ね上がる。バーテンダーは謝りながらもやや強い語調で言う。
「すいません。でも、私の名前はカクテルちゃんですからね! よしんばさん付けするとしても、カクテルちゃんさんと呼んでください!」
またしてもアゼットは唖然とする。今、彼女の頭の中では昨夜のハイテンションバニーガールの姿がリフレインしていた。
面食らってしまったアゼットにシックスが言う。
「すまないな。カクテルちゃんは変わり者なんだ」
「うーん、お前には言われたくないんじゃないかなあ」
すかさずアップルがつっこみを入れる。シックスは愉快そうに笑いながら返す。
「まあ、そんなことより、彼女たちに説明したほうがいいんじゃないか? 天使のことと、魔人のこと、それに悪魔のことをな」