The number of devils 1
「またナンパしに行くの~? 幼女が出歩いていい時間じゃないって」
「ああ、だが女の子を口説くには丁度良い時間だ」
高層ビルの谷間にできた人だかりを車のライトが照らしている。異様な熱気を纏った彼らが作る円の中ではまた小さな円が出来ている。そしてその小さな円の中で女は少女を抱え、銃を構えて威嚇している。人間たちは彼女らに向かって好き勝手なことを言う。
「身の程知らずを惹き肉にしろ!」
「おいおい体は残しといてくれよ! あとで俺が使ってやるからよお!」
「雌豚をしばき倒してやれ!」
「死んじまえ!」
浴びせかけられる罵倒と、けたたましいクラクションにうんざりした女は人混みに向けてついに発砲する。しかし飛び出した弾は小さな円を超えず、彼らに届くことはなかった。弾丸を受け止めたそれには傷一つ付いていない。女は忌々しげに毒を吐く。
「天使どもが……!」
人間の彫刻そっくりのそれは槍を構え直す。感情のない瞳が女を見据える。
天使。天からやってくる異形を人はそう呼んだ。
女は歯を食いしばり引き金を何度も何度も引く。小さめの銃とはいえ細腕で連射するこの女も人間離れしているが、天使は襲い来る銃弾を難なく弾き落とす。彼らの目は音速を超える銃弾の動きを正確に捉えていた。
しかし天使の体を何発もの弾丸が貫く。銃口から放たれたものではない。地面に散らばる潰れた弾丸が天使を射抜いていた。死角からの攻撃で姿勢を崩された天使は真正面からの猛攻に晒され、体を蜂の巣にされてしまう。その体からは血の代わりに光の粒子が垂れ流され、拡散していく。それでも天使たちが焦ることはない。残る3体はじっくりと彼女との距離を詰めていく。天使はいつも標的を嬲り殺す。感情を見せない彼らも弱者をいたぶる快感を求めるのか、それとも見せしめのつもりなのか。
事態が急転したのは女が傷付いた天使に手を向けた瞬間だった。動きを止める天使たちの前で宙に漂う光が、掌に吸収されていく。それを見た瞬間、天使たちが弾丸を超える速さで女に迫り、その槍を突き刺した。
女は顔を歪める。痛みは少ない。その代わりに違和感が強い。体の中から何かが失われるのがはっきりと感じられる。意識が混濁する。入ってくる情報が上手く処理できない。それでも目の前の石膏像じみた怪物をぶち壊さねばならないことは分かっている。
「こんのああああああ!」
一層勢いを増して光は彼女の中に取り込まれる。入れた端から出ていってしまっているが気にしない。無我夢中で彼女は光を吸収し続ける。やがて天使の体にはヒビが入りはじめた。他の天使たちの攻撃が激しくなる。2体は突き刺さる槍を引き抜いては突き刺し、また引き抜いては突き刺す。そして最後の1体が彼女から溢れ出る光を取り込む。傷付いた天使は穴だらけにされているだけ光の流出も激しいのだが、その差ももはや分からなくなってくる。女も自棄だ。自分の傷のことなど考えない。薄れゆく意識の中で。思い浮かぶ過去の景色に囲まれながら。ただ手を伸ばす。
「マリ……イ……」
恐怖も消え行き、ただ郷愁の中で、光に包まれて女は意識を手放した。
1270字。このサイトの仕様が分からなかったので前日と今日とで1270字です。できれば1日でこれ以上書きたいですねぇ。