《魔導剣士》の日常譚。   作:ありぺい

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トラブルはいつも突然に

 

 

セーラという人に連れられて宮殿の中に入ると、外側とは一風変わった色調になった。

外装は質素だったが、内装はさすが宮殿と言わざるを得ない。

豪華絢爛な装飾に、きらびやかな雰囲気。

村では高価な貨幣として扱われていた金や銀がいたるところに壁紙のようなノリで使われているのにはさすがに身分の違いを感じた。

 

宮殿は広かったが迷子になる程でもなく、部屋も少なく作りも複雑ではなかった。

どの扉も豪華なのだが、その中でも一際豪華な扉の前でセーラさんは立ち止まった。

王の個室だろうか。

3メートル…4メートル程の高さの扉を開くと、きちっとした服装で椅子にかける人影が見えた。

 

「いらっしゃい!いや、よく来てくれた。君達2人がエナさんとロガーくんだね」

 

爽やかな笑顔で出迎えてくれたその人こそが、恐らくルーマント王だろう。

 

「えっと…あなたがルーマント王ですか?」

「うん、一応サンドレス王国のをやってるんだ。だけど僕が国政に関わることなんてほとんどないから、王なんて肩書きだけだけどね」

 

初めて会った王は、あまりに物腰が低く、とてもじゃないが一国の主といった風には見えない。

エナの言っていた通り、年齢はおそらく俺たちとほぼ同じだろう。

少し話しただけで人の良さが伝わってくるが、その雰囲気は身分の高い人たちによく見られるそれとはどこか違う。

俺たちみたいな相手にも同じ目線まで降りてきて話してくれてる。

 

「侍女に何か飲み物でも用意させようか。あ、食事の方がいいかな?馬車旅じゃたらふく食べるというわけにはいかなかっただろうしね。セーラ、この2人の食事を用意を…」

「!?」

 

ルーマント王に言葉を向けられたセーラは驚きと期待が混ざったような顔をしたが、次の王の一言でその笑顔はどこかに消えた。

 

「させるように他の侍女に伝えて」

「うぅっ。今日こそ私に作るよう命じていただけると思ったのですが…。分かりましたよ、伝えてきますよっと」

 

頬を膨らませ、セーラは侍女を呼びに言った。

 

「どうしてセーラさんに頼まなかったんですか?国王補佐って聞いたんですけど」

「護衛兼、補佐…ね。セーラの補佐は自称みたいなものだから基本的な業務は護衛だけなんだ。腕はたつけど、頭のネジが数本抜けてるから雑務を任せると大変なことになるんだ」

「大変なこと?」

「国宝級の皿をかたっぱしから割ったり、火力が弱いって理由で『炎熱術式』を料理に使って厨房を爆破したり…」

 

思い出せば出会い頭も何もないところで転んだりしていた。

 

「やることなすこと裏目に出てるから、護衛以外の事はしないで欲しいって言ってるんだけど、なかなか聞いてもらえなくて。そもそも国王補佐って政治とかの話で、侍女の仕事を奪うのとは違うと思うんだけど…」

 

ルーマント王がそこまで言ったところで、セーラさんが部屋に入ってきた。

 

「どうもすいませんでした。料理の一つもまともにできない私のせいでご迷惑をおかけしてしまって!」

 

セーラさんは持ってきた料理を、力を入れてテーブルに叩きつけた。綺麗に整っていた料理が少し崩れる。

ルーマント王は顔を真っ青にして弁明しようとするが、セーラさんは話を聞く前にさっさとどこかへ行ってしまった。

 

「聞かれちゃいましたね」

「…」

 

ルーマント王は残念そうな顔を見せたが、一つ咳払いをして、話を変えた。

 

「では、そろそろ呼び出した目的を話そう。食事を続けながら聞いてくれて構わない。《王国剣士》《王国魔導師》の件はどこまで聞いているかい?」

「私が《王国魔導師》、ロガーが《王国剣士》になって国に仕えるって事までは聞きました」

 

肉を頬張っている俺の代わりにエナが答えた。

 

「その通り。今日はそれをもう少し詳しく話そうと思ってね。先に聞いとくけど、聖剣・聖杖の能力とか使い方については知ってる?」

 

俺がそんな事を知る訳がない。

エナに目線を投げると、エナはこっちを向いて小さく首を振った。

こいつも知らないのか。

俺達が王の方を向き直ると、説明を続けてくれた。

 

「能力って言っても、聖杖はそこまで特殊じゃない。能力の効果が強化されるだけだからね。例えば、五秒継続する効果が五分になるとかかな」

 

今とんでもない事言わなかったか?

単純計算にして60倍だ。

聞き直したいが、王の言葉を遮る訳にもいかない。

 

「問題は聖剣で、聖剣は使い方が非常に難しい。剣は本来物理攻撃の為にあるものだけど、聖剣は言ってしまえば魔剣なんだ。魔法とセットで使わなければ普通の剣と変わらない。でも変な話だよね、物理攻撃の為の武器で魔法が必要なんて」

 

そう言ってルーマント王は小さく笑った。

笑い事じゃない。

だって俺はーーーーーー

 

「俺は魔法なんて一切使えないんですが?」

 

自分の周りで魔法を使えるの人間なんてエナしかいなかったし、エナだって王都暮らしで殆ど村にはいなかった。

魔法なんて使える訳がないのだ。

 

「えっ…使えないのかい?」

 

ルーマント王は不思議そうな顔をした。

何処で認識の差異が生まれたのかは知らないが、使えるのが前提で話をしていたのだとしたら、面倒な事になるかもしれない。

 

「使えないと…まずいですか?」

「うーん。結構まずいなぁ…民衆にロガーくんが《王国剣士》になるのは知れ渡ってるから任命式は済ませなきゃいけないけど、《王国剣士》が実は聖剣を使いこなせないなんて噂が広まったら『帝国』が調子付いて攻めてくるかもしれない。それを防ぐ為に、ロガーくんにはこれからの一生を地下室で過ごしてもらわないとね」

 

面倒どころの話じゃなかった。

自分でも血の気が引くのが分かる。

一生地下暮らしなんて真っ平御免だ。

 

パシィィィン!!

 

逃げ出すか、嘘をついて使えるフリをするかの二択で悩んでいると、セーラさんの掌とルーマント王の後頭部が綺麗な破裂音を奏でた。

何処から現れたのか、気づいたらセーラさんはルーマント王の背後に立っていた。

 

「国王、流石にご冗談が過ぎますよ?久々に同年代の方と話せたからって調子に乗りすぎです」

「いったた……だからってこんな勢い良く叩かなくても…」

 

俺とエナがポカーンとしてると、セーラさんが頭を下げながら

「ごめんなさい、国王って普段私以外の人とあまり話さないんですよ。常識不足で世間知らずな空気読めないコミュ障イキリ男ですが、大目に見てあげて下さい」

と、目の前で机に頭を伏せている王の代わりに謝った。

 

「セーラ…怒ってる?」

「怒ってません。真剣な雰囲気で馬鹿な事言い始めるような頭の悪い相手にいちいち怒ってたらきりがないので」

「ねぇ、やっぱり怒ってるでしょ!」

 

セーラさんは呆れたような顔で話を元に戻した。

「ロガーさんが魔法を使えないのは、こちらでもちゃんと把握しています。それも考慮して、対策も取ってあります」

「対策?」

「えぇ、エナさんとロガーさんには暫くの間、王国図書館付属騎士育成学校に通っていただきます。」

「え、なんて?」

「王国図書館付属騎士育成学校です。長いので『図書学』って呼び方が浸透してますが」

「図書学ねぇ…それって何する場所なんですか?」

「国に仕える魔導師や剣士を育成する機関です。生徒の枠は相当多いんですが、倍率も負けない位高くて……確か今年は20倍とかだったはずです。王国屈指の超名門校ですよ」

 

よく分からないが、相当凄い場所なのだろう。

何しろさっきからエナが目をキラッキラさせている。楽しみでしょうがないって顔だ。

 

「そしてこれは最後の話になるんだけど…」

 

後頭部の痛みが引いたのか、ルーマント王が話し出す。

にしても、どこか申し訳なさそうな顔をしている。まぁ、あんな洒落にならない冗談言ったんだから反省の一つくらいはして欲しいところだ。

 

「ロガーくんに……お客さん? が来てるんだよ」

 

なんだその不安を煽るような言い方は。なんで疑問形なんだよ。

ルーマント王のその言葉に反応するように、エナは少しため息をつき、セーラさんは天井を見上げ、扉の横に張り付いてる侍女は気まずそうな態度で目をそらした。

 

何なんだよお前ら。

俺が問い詰めようとしたその時だった。

 

「ロガー・スラッシュってのはどいつだ!」

 

けたたましい叫び声と共に現れたのは、己の背ほどの大太刀を担ぐ一人の少女だった。

ドアを思い切り蹴飛ばして開けるという豪快な登場に、その場にいた全員が気圧された。

同年代には見えないので、少し年上だろう。少女と言うよりかは、お姉さんと言った方が近いように思える。

 

「えっと……ロガー・スラッシュは俺ですが」

「お前がロガーか、ちょっと表出ろ」

「えっ」

 

トラブルというのは、常に突然やってくるものである。

俺はそう実感した。





はいっ!王様回(?)ですっ!

後書きで書くことが思いつかなかったので短く次回予告します。

ーーーーーー次回、ロガー殴られる。

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