《魔導剣士》の日常譚。   作:ありぺい

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《王国剣士》になるんです

 

 

「あっははは!!いやいや、見事だったよ!」

 

馬乗りのおっちゃんが笑いながら、拍手代わりに馬をムチで打つ。

 

「まさか子供2人であの数のゴブリンを対処するなんて……流石にあのパストさんが認めただけはあるな!!」

 

おっちゃんはまだヒイヒイ笑いながら、ベチベチと馬を叩いている。

馬が可哀想だからそろそろやめてあげて欲しい。

 

俺達はゴブリンの群れを討伐した後、順調に歩みを進めていた。

歩いてるのは馬だけど。

エナは疲れたのか、目の前の座席に横になって寝ている。

 

「兄ちゃんの身のこなし、ありゃあとんでもないね、うん。並の人間が訓練したからといって、普通はあんな風には動けないよ」

「生まれてからずっと修行してきたんで、あれくらいはまぁ余裕ですよ」

「剣士目指してる人が聞いたら泣くだろうねぇ、その言葉。兄ちゃんは間違いなく強いよ、将来は剣士を目指してるのかな?」

「目指してるというか、これから《王国剣士》になる予定です」

 

「《王国剣士》……?」

 

おっちゃんの言葉から一瞬冷たい空気を感じた。

おっちゃんの飛び出んばかりの目玉が、馬車の窓からギョロリとこちらを見つめている。

驚く事に、俺は無意識でダガーに手をかけていた。

 

「そうかぁ、王国剣士になるのかぁ…」

 

おっちゃんは前に向き直ると、「うーむ」とか、「王国剣士かぁ」とか言いながらブツブツ何か喋っていたが、数秒で嘘のようにコロリと笑顔になり

「兄ちゃん、これから頑張れよ!」

と、再びケラケラ笑い出した。

 

何だったんだろう。

一瞬…たった一瞬だが、背中に蛇が這うようなおぞましい感覚に襲われた気がした。

でも今はなんともないし、目の前のおっちゃんは明るく笑っている。

まぁ、気のせいか。

ゴブリンと戦って疲れてるんだろう。

俺はこれ以上考えないことにした。

 

そうだ、ゴブリンと言えば気になる事があったのを忘れていた。

 

「一つ聞きたいんですけど、ゴブリンってそんなに強いモンスターなんですか?」

「強いもなにも、モンスターの中じゃ最強クラスだよ?」

 

意外だった。

言い方は悪いが、あんな薄汚いモンスターが最強クラスだなんて。

正直なところ信じられない。

 

「ゴブリンは人間や魔物、モンスター含め全種族の中で唯一、制限なしに魔法を発動させれる種族なんだ」

「制限なし?」

「そう、無制限。そこで寝てる姉ちゃんが使ってたのは、『術式魔道』って言って、魔法陣と杖がなきゃ発動できないタイプの魔法なんだ。大気中の魔力を消費するから、自分の魔力量に左右されないが、魔法陣に杖を当てて使わないといけない。

にもかかわらず、ゴブリンは無条件、且つ本能でバシバシ魔法が打てる。

兄ちゃんは知らなかったかもしれないが、ゴブリンってのは大の大人が1 on 1で戦っても負けるくらい強いんだぜ?」

 

おっちゃんが丁寧に説明してくれたが、ゴブリンは強いモンスター…って事しか分からなかった。

ド田舎暮らしをしていた俺に魔道だなんだと言われても、正直ちんぷんかんぷんだ。

 

でも、魔道なんて学ぶ機会も理由もないし、別に気にしないでもいいな。

それより大事なのは、もっと常識的な事を知ることだ。

今回の事ではっきりしたが、俺は自分で思っていた以上に一般的な知識が足りてない。

田舎育ちだからしょうがないだろ! と、言いたいが、王都に行く以上仕方ないでは済まない。

 

知識は貪欲に集めていこう、俺はそう肝に銘じた。

 

「そうだ、兄ちゃん。一応聞いておくが、魔物とモンスターの違いって知ってるか?」

「魔物とモンスターって同じなんじゃないですか?」

「バカ言っちゃいけねぇ。魔物とモンスターなんて比べるのもアホらしいぜ」

 

知識を集めようとした矢先、都合の良いタイミングでおっちゃんは教えてくれた。

 

「結論から言っちゃうと、魔物とモンスターだったら圧倒的に魔物の方が強い。理由は簡単で、大気中の魔力が集まって出来ているからだ。個々の戦闘能力もめちゃくちゃ高い。程度の差で言うと、ゴブリンを倒せる奴が100人中5人いたら、魔物を倒せる奴は100人中1人いるかいないかだ。一般市民も含めて言えば、100万人に1人いるかいないかってとこだろ」

 

今まで聞いたり見たりした敵を強さ順に並べるとしたら

魔物>モンスター(ゴブリン)>モンスター(その他)

といった感じだろうか。

 

「魔物はやばい。モンスターなら走って逃げれば何とかなるが、魔物相手じゃそうはいかない、なんせ足は馬より早いからな。兄ちゃんも魔物を見つけたら逃げるんだぜ?」

「魔物ってどんな姿なんですか?」

 

逃げろと言われても、逃げる相手の特徴がわからなければ逃げようがない。

 

「どんな姿…えぇ?」

 

なんだその反応。

 

「…うーん、見れば一発でわかると思うよ。『THE・魔物』みたいな見た目だから」

 

どんな見た目だよ。

 

このおっちゃんの語彙力が足りてないせいで説明できてないだけかもしれないので、魔物に関しては王都で誰かに聞くとしよう。

 

実物を見るのがいちばん手っ取り早いので、道中で魔物と出会ってくれたりしないかとも思ったが、ゴブリンの一件以降魔物はおろか、モンスターと出会う事すらなく数日間の短い旅路を経て、王都の門を抜けた。

 

王都の中心部に馬を入れるのは手続きが必要らしく、一般人が馬車で都心を移動することは出来ない。

なので、郊外で馬車から降り、おっちゃんに別れを告げる。

 

「「ありがとうございました」」

 

俺とエナがぺこりと頭を下げると、

 

「よせやい。頭なんか下げられちゃ居心地が悪いったらありゃしない。ゴブリンの件といい、礼を言いたいのはむしろこっちさ。ありがとな、兄ちゃん、姉ちゃん」

 

おっちゃんはいつものように笑顔で言った。

 

「王都で過ごすとなると、色々厄介事も多いと思う。だから今回助けられた分は借りとくから、いつか助けが必要になったらこのおっちゃんを頼ってくれ。貸し1だと思って貰って構わない。それじゃ、二人とも達者でな」

 

そう言うと、おっちゃんは馬に馬車を引かせ、どこかへ消えた。

 

馬車もないので、俺とエナは歩きながら王都を目指す。

降りた場所は、畑と民家がポツポツあるような場所で、遠くに巨大な塔の様なものが見える場所だった。

 

「んんー!あぁ、腰痛いっ!たまには馬車でのんびり長旅もいいけど、何日も乗ってると大変ね」

「そうだな。ところで、あの巨大な塔がこれから行く場所なのか?」

「そうよ〜」

 

エナは天突きの形で思い切り伸びをした。

俺もつられて両手を天に向ける。

 

「王都に着いたらどうするんだ?」

「宮殿に行けばいいのよ。パストさんが話を通してくれてるから、そこで国王直々に話があるって聞いたわ」

「そうか、楽しみだな」

 

王都に行く。

モンスターと戦う。

剣士になる。

王と会う。

 

村を出てから今まであった事、そしてこれからある事のどれもが新鮮で、期待が胸に広がる。

俺は馬乗りのおっちゃんに負けないくらいの笑顔で、エナの隣を歩いて進んだ。





題名詐欺じゃないかっ!
《魔導剣士》なんて全然出てこないじゃないかっ!

そう思うでしょ?
私もそう思ってるんですよ(おい)

予定では、10話までには《魔導剣士》の下りに入れるんですが…
そもそもこの小説書くこと自体が予定外なんでどうなるかは分かりませんね、はい。


さてさて今回は説明回となりましたが、次回は新キャラを出します!
お楽しみに!

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