《魔導剣士》の日常譚。   作:ありぺい

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おっちゃんと道中

「兄ちゃん、姉ちゃん。アンタら戦えるかい?」

 

それは王都へ向かう途中、馬車乗りのおっちゃんから唐突に出てきた言葉だった。

馬車は寝泊まりができるように、個室の様な造りになっているが、前方の窓からおっちゃんと会話をする事が出来る。

ニコニコと気さくな雰囲気で話しかけてくるので、一瞬、物騒な事を言っていると気づかなかった程だ。

 

「戦う?何と?」

 

俺が問うと、おっちゃんは不思議そうな顔をした。

 

「兄ちゃん、知らないのかい?この付近は魔物やモンスターが出るんだよ」

「すいません、田舎育ちなもんで」

 

俺が謝ると、おっちゃんは「あぁ〜、なるほどなぁ」と納得していた。

 

「じゃあ兄ちゃん。町や村、王国などに張られている結界は知ってるかい?」

 

町や村の結界…恐らく村の人達が言ってた魔物よけの事だろう。

戦えない一般市民を守るために村の中心に術式が組まれていると聞いたことがある。

 

「知ってます…多分」

「知ってるなら説明が楽だな。結界と言っても、村全体を覆えるほどの大きさがある訳じゃない。村からある程度離れると、その効力は消え、魔物やモンスターと出会う事があるんだ。本当だったら傭兵や騎士を雇うんだが…」

 

窓越しに、おっちゃんが頭をポリポリ掻く姿が見えた。

 

「パストさんが

『こいつらなら別に心配は要らない。護衛を雇うなど金の無駄だ』

なーんて言い出すからよぉ。あの人が言うからには大丈夫だとは思うけど、やっぱし少し心配で聞いてみたんだよ、戦えるのか?って」

 

金の無駄…か。いかにも親父が言いそうな事だ。

魔物とモンスターが出る道を、おっちゃんと俺達2人だけでって事は…

 

「つまり倒して進めって事だよな?俺はいいけど、エナは平気なのか?」

「私は余裕よ。少なくともロガーより強い自身はあるわ。あんたこそ熊に襲われて死にそうになってたじゃない。うっかり死なれても困るから、怖かったら馬車で待っててもいいわよ?」

「はぁ?俺は素早い立ち回りが売りなんだよ。あんな不安定な足場じゃなかったらお前よりよっぽど俺の方が強いっての」

 

俺とエナが言い争いをしてると、おっちゃんが「熊と戦おうとしてる時点で相当人間離れしてると思うけどねぇ」と、ケラケラ笑っていた。

 

それから暫く草原を走った。

初めのうちは、魔物やモンスターが出るかもしれないと気を張り詰めていたのだが、待っても待っても出てこないので、いっそ仮眠でも取ってしまいたい気分だ。

それでも何かあっては大変だろうと、窓から外の様子をうかがう。

 

今まで俺は森しかない、なんとなくどこか薄暗い村で過ごしていた。

だから、草原や高原、巨大な湖や山脈などを見ただけで素直に興奮してしまう。

村の外に、こんなにも清々しい景色があるとは知らなかった。

 

俺が初めて見る景色を堪能していると、馬車が突然急停止した。

 

「や、やべぇぞ…こりゃあ」

 

おっちゃんがあまりにも悲惨な声を出すので、慌てて馬車を降りて前方を確認すると、そこには緑色のモンスターらしき生物がいた。

身長は低く、関節は歪な形をしており、顔は醜悪。

村の書物で見た事があるが、きっとこれがゴブリンという奴なのだろう。

 

「兄ちゃん、なんで降りてるんだ!逃げるぞ!早く馬車に乗れ!」

「いや、あれくらいなら倒せばいいじゃないですか。見るからに弱そうだし」

「何馬鹿なこと言ってんだよぉ!あぁ…囲まれちまった!」

 

俺とおっちゃんが喋ってる間に回り込んだのか、馬車を囲う様にゴブリンが並んでいた。

ゴブリン達は両手を俺達に向け、キャッキャと喚いでいる。

その直後、ゴブリン達の手から青白い球体が俺達目掛けて放たれた。

 

「『【反射】結界術式』っ!」

 

そう叫んだのはエナだ。

エナはいつの間にか馬車の上に乗っており、そこから何かを発動させている。

右手にはいつもエナが持ち歩いている、術式用のロッドが握られていた。

 

エナの結界のお陰か、まっすぐ飛んできた青白い球体が、俺に当たる前にゴブリン達に向かって軌道を変える。

そのうちの何個かが、ゴブリンへと命中した。

 

「ロガー!ゴブリンが出たのに何をぼーっとしてるの。早く片付けるわよ」

 

エナに急かされ、俺は馬車の中から大慌てで武器を取り出した。

 

今日使う獲物は『両手剣』。

といっても、1m以上ある一般的な両手剣ではなく、ダガーをただ二本持っただけのものなのだが、それでも、俺の最も得意とする武器だ。

 

「ロガー!青白い球体は多分、魔力で出来た高エネルギー弾だから当たったら死ぬわよ、ちゃんと避けなさいね!」

「任せろ!」

 

右手のダガーは普通に持ち、左手のダガーは逆手に持つ。

後ろからの奇襲を警戒しての構えだ。

 

ゴブリン達は先程からエネルギー弾を数秒間隔で打ってくるが、エナの術式によって跳ね返っているようだ。

俺は目測で術式の効果範囲を見定めながら、正面の奴がエネルギー弾を放った直後にその境界を飛び出した。

 

「はあぁぁっ!」

 

ダガーでゴブリンの首元をかっさらう。

人間の血とはまた違う、緑がかった血を吹き出した。

ゴブリンは確か亜人族のモンスターだ。基本的な構造は人間とほぼ同じはずなので、頸動脈を切り裂いたら倒す事が出来る。

 

仲間を殺されて怒っているのか、悲しんでいるのか、ゴブリン達の攻撃先が馬車から俺に変わった。

 

エネルギー弾が再び俺を襲う。

 

「兄ちゃん、危ない!」

 

おっちゃんが叫ぶ。

エネルギー弾の事を言ってるのだろうが、俺はそれをひょいひょいと躱し、一体…また一体と倒していく。

やはりダガーは使いやすい。

斬撃を繰り出せる範囲が狭いとはいえ、無駄な攻撃を減らし、致命傷に至るものに攻撃を絞れば、小型の敵なら大剣などより討伐数は上がる。

そしてなんといっても軽い。

俊敏な動きで戦うのがメインの俺にとって、これほど重要なメリットはない。

 

エネルギー弾の大きさは、人の頭くらいの大きさなので、避けようと思えば一発も当たらないように動く事なども容易い。

 

口を開けたまま驚くおっちゃんを横目に、俺はあっという間にゴブリンを半数近く蹴散らした。

 

「ロガー、援護するわ!

ーーーーーー跳ねろ体、大地を駆けろ『【付与】強化術式』っ!」

 

俺の体の周りに光輪が現れ、体に吸い込まれるようにして消えた。

それと同時に、体が急に軽なったような気がした。

よく分からないが、おそらくエナの術式だろう。

ありがたい事に移動速度も斬撃の重さも桁違いに上がっていたので、ゴブリンなんて止まって見える。

 

数分後には、大量のゴブリンが全て死体となって草原に横たわっていた。




はいっ!戦闘回でございますっ!

次回は区切りの都合上、量が減る事が予想されますがご了承ください。


何だかんだで毎日更新できている事に我ながら驚いております(今のところは)

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